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ミステリの祭典

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ブラック・マネー
リュウ・アーチャーシリーズ

作家 ロス・マクドナルド
出版日1968年01月
平均点6.17点
書評数6人

No.6 6点
(2021/11/04 20:07登録)
文庫版の作品紹介ではロス・マクの異色作としているのも、なるほどと思える作品でした。依頼内容自体がある男の身元調査というのは、本来なら私立探偵の仕事らしいのですが、ハードボイルド系ミステリではあまりないでしょう。調査対象の男は最初からうさんくさく、何かあるという感じがします。リュウが他の作品と同じく、ていねいで自然な流れに沿った調査をしていくと、事件はその男の正体とは直接関係ない方向に進んでいきます。半分近くになってから殺される人物がまた意外です。その人物が何かを隠しているらしいことは少し前から明らかなのですが。
早い段階からある人物の態度には不自然さを感じていたのですが、最後には、その態度の意味が納得できます。タイトルの黒い金(隠し所得)の動機との関係など、さすがにきっちりできていますが、真相解明部分がこの作家にしてはあまり鮮やかでないのが不満でした。

No.5 6点
(2021/10/15 02:36登録)
 港町のパシフィック・ポイントに隣接して、共存共栄をはかっている住宅地モンテヴィスタ。ロサンゼルスの郡境から南へ数マイルいった入江のまわりに並ぶこの町の社交場、〈テニス・クラブ〉へ招かれた私立探偵リュウ・アーチャーは、銀行理事の息子ピーターから元婚約者ヴァージニア(ジニー)・ファブロンをつれもどしてくれと依頼される。ドゴール政権から追放されたフランス名家の御曹子だと名乗る怪しげな男、フランシス・マーテルに誘惑され、一方的に婚約を解消されたのだ。アーチャーは調査に乗り出すが、はたしてマーテルの周囲には腑に落ちない点がいくつも現れ・・・。
 ジニーを連れて駆け落ちした謎めく男の逃亡後、続けざまに起こる射殺事件。淡々とした描写のうちに人間心理の奥底を抉り出す、巨匠の異色作。
 1965年度ゴールド・ダガー受賞作『ドルの向こう側』(次点はディック・フランシス『興奮』)に続いて発表された、シリーズ第14長篇。さすがの文章力ではあるが、相変わらず辛気臭いのはいつもの通り。ポイントが掴めないまま中盤付近までゆっくり進んでいき、意外な人物が射殺されてからは物語の焦点は徐々に、七年まえのジニーの父親ロイ・ファブロンの水死に移ってゆく。ほぼマーテルの正体を掴んだアーチャーが州立大学を訪問し、ジニーとの結びつきを知る第19章がストーリーの分岐だろうか。他の方の評にもあるが、あまりスッキリした後味の作品ではない。
 とはいえ全盛期という事もあって重みの方はそれなり。石川喬司氏は〈純文学とミステリ、二つの要素を共存させようとして失敗したケース〉と切り捨てているが、五項目の質問表の扱いなどは伏線として面白い。どちらかと言うと苦手な作家でもありこれが全作のどの辺に位置するのかは分からないが、『眠れる美女』よりは読めたので評価としては5.5点~6点作品。

No.4 6点 クリスティ再読
(2018/09/15 20:50登録)
「運命」から「一瞬の敵」までのロスマクって、本当にハズレのない絶頂期なんだけど、しいて言えば本作が一番人気が薄いように思う。この人気のない理由が評者なんていろいろ考察したくなるあたりである...たとえば本作のちょうど中間あたりで読むのをやめて、プロットをまとめたのを、最後まで読んで改めて真ん中までのプロットを読み返すと、全然違う作品なのでは?と思うくらいに「どういう話なのを追い求める」そういう話のようだ。どうも日本の読者はこういうの、苦手なように評者は感じる。
それでも話の骨格はたぶん「人の死に行く道」を再利用したもので、あっちはヘロインというガジェットの争奪戦なのだけど、こっちはタイトルの「ブラックマネー=脱税した裏資金」を奪い合う話(だけでもないが)と、妙にリアルにしたあたりは、工夫のわりに効果が上がってないようにも思う。ガジェットだって、いいじゃないか。何か迷ってるのかしらん。
依頼人も金持ちだけど非モテなボンボン。「こんなにすさまじい食いっぷりをみせる男に出会ったのははじめてである」とアーチャーが呆れる過食症っぷりを見せる(ストレスはあるんだけどね)。この依頼人が他人に奪われた婚約者を取り戻してほしい、という筋ワルな依頼で、アーチャーも当初気ノリしない感がありあり。途中傷ついた坊っちゃん、アーチャーを解雇するとかあるし、およそ本作、かっこいいとかハードとか、そういう印象がないんだよね。しかし評者、本作嫌いじゃないんだ。ワルモノみたいに見える謎の婚約者の過去が結構共感できるようなものだし、ブラックマネーを奪われたギャングは卒中で廃人化しているし....と生真面目なロスマクにしては、あれ?となるくらいのオフビートさがある。
まあこれを失敗と見る人を責めるのは難しいと思うけど、こういう不揃いなゴツゴツ感が評者は逆に好きだ。家族悲劇が大好きな日本の読者には向かない、ロスマクじゃ一番読者を選ぶ作品だろう。

No.3 6点 E-BANKER
(2018/01/27 11:31登録)
私立探偵リュウ・アーチャーシリーズ十四作目の長編。
「ウィチャリー家の女」「さむけ」などに続く、作者円熟期の作品(らしい)。
1966年発表。

~フランス人らしいが素性の知れぬ男のもとへ走った婚約者を連れ戻し、男の身辺も洗って欲しい・・・。銀行理事の息子から依頼を受けたリュウ・アーチャーはそこに駆け落ち以上の何かがあると思い、調査に乗り出した。身辺を洗うにつれていかにも腑に落ちない点がいくつも現れてきた。どうやらその男は、ラスベガスに悪い仲間を持っているらしいのだ。なぜ、育ちもいい美貌の娘がそんな男に走ったのか? アーチャーは次第に不気味な犯罪のからくりへと足を踏み入れていった!~

これもまた、実にロス・マクらしい、ロスマク風味の作品、という感じだ。
とにかく金・金・金、そして女・女・女、である。
いつでも、どこでも犯罪の影には、結局「金」と「女」が付き物ということなのだが、それにしても本作ではそのことを嫌がうえでも意識させられてしまう。

とは言っても、そこはロス・マク。いわゆる暴力的ハードボイルドという匂いはいっさいない。
とにかく切なく、哀しく、そしてホロ苦いのである。
本作に登場する美貌の女性ジニー・ファブロン。
彼女の存在は結果的に多くの男、そして女の人生までも狂わせることになる。
婚約者の死により、概ねカタがついたのかと思われた刹那。十数年前まで遡る過去の犯罪までもが姿を現してくる・・・

まぁ仕方ないのだろう。
太古の昔から、人は(特に男は)美しい女性を巡って争ってきたのだ。
「金」というのも、結局は美しい女性を手に入れるための手段なのだから・・・
悲しき男の性(さが)ってもんだな。

ということで、リュウ・アーチャーシリーズとしては中位の出来という評価。
真犯人はやや意外だけど、そこまで捻らなくても・・・っていう気はした。
読み応えは十分。
(美しい女ほど実は寂しい・・・のだろうか?)

No.2 6点 あびびび
(2015/03/12 15:28登録)
テニスクラブを背景に、次から次へと出てくる複雑な人間関係。リュウ・アーチャーは例によって、地道な調査から奥に潜む真相に近づくが、結局は金と女に絡む悪しき陰謀だった。ただ、少し回りくどい結末で、切れ味と言うか、さっぱりするエンディングではなかった。

No.1 7点 Tetchy
(2009/05/12 22:21登録)
相変わらずの複雑な人間関係が眼の前で繰り広げられる。
しかし、カタルシスは得られなかった。
この小説の最大のポイントはジニー・ファブロンなる一見無垢な美人を巡って周辺の男女―その父母までもが!―が運命に翻弄され、やがて無垢だと思われていたジニーが実は…という所にあるのにタイトルが腑に落ちない。「脱税した金」という意味を持つタイトルは相応しくないのだ。
この話にそっくりな御伽噺を私は知っている。しかし、それが何だったのか思い出せない。

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