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ミステリの祭典

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その可能性はすでに考えた

作家 井上真偽
出版日2015年09月
平均点6.44点
書評数16人

No.16 7点 斎藤警部
(2024/01/28 19:09登録)
“端から「偶然にしてはでき過ぎ」という反論は封じられているのだ。何と傍若無人なルールであることか。”

事象の合理的解決が不可能である事を証明せんと命を削る、なんとも革命的な逆行型の探偵役。これを主軸とし、キャラ立ちの良過ぎる脇役たちが荒唐無稽に暴れ回る。 ラノベから派生した深夜アニメから派生したRPGのようなフレイヴァを放つ設定と展開。 ラストシーンは熱かったな。。。

「だから◯◯、◯◯も約束して、これからの毎日を楽しく生きるんだ。一人になったからって寂しがってちゃだめだ。」

偉大なる逆説の泡立ちが眩しい魅惑の推理ファンタジーに宿るは、命と資産と知力の脈打つ遣り取り。 箱庭めいた埓内の前提があれよあれよと拡大されて行く面白さ。 プロージビリティがスッ飛んでいるからこそ却って佳きとなってしまう画期的なゲーム構造。 ご都合に蹂躙された机上の幻も、ここまで執拗に積み上げられたら最早マテリアライズド・・・

「――そして実際、その行為で◯◯は救われた。もしこれが真相なら、その事実自体はとても尊いものだ」

しかしですな、可能性潰しの着眼がもっともっと徹底して広角だったら、天下の奇書になっていたかもですな。 本作では、相当に深そうなポテンシャルの8分の1も発揮出来ていないでしょう、この作家さん。

「探偵さん」
つうっと、頬を涙が伝った。
「この私を止めて頂き、どうもありがとうございました」

伏線の、隠し方と見付けさせ方のバランスがちょっと取れてないかと感じる案件は幾つか見受けた。が、まあ目くじらは立てぬ。
多重解決の詰将棋ドリルブックみたいな一冊でもあった。 所々、論理の遊戯が高踏過ぎて眩暈を誘う熱砂特別区もあった、それもまた尊し。

「無自覚に叙述トリックを使ってしまったか・・・・・・」  なんと。

No.15 6点 パメル
(2022/04/04 08:21登録)
人里離れた山奥に村を作って数十人で暮らしていた宗教団体が、首を切り落とす集団自殺を遂げた。唯一生き残った少女は十数年後、事件の謎を解くために上苙丞のもとを訪れる。上苙丞は、不可能状況を「奇蹟」と認定するために、全ての可能性を否定しようとする。
推理対決をテーマとした多重解決もので、全編にわたり真相を推理するシーンが繰り広げられる。それぞれの仮説は、発想が大胆で奇抜。このバカトリックを上苙丞は、それを論理的に否定してみせ、両極端ともいえる推理バトルが楽しむことが出来る。
キャラクター的にはラノベ風で苦手だが、エンタメ要素の強い捻くれた、そして企みに満ちた本格ミステリとして良く出来ているのではないか。ただ、最後に明かされる真相は無難すぎると感じてしまった。仮説が、あまりにもぶっ飛んでいたので、期待しすぎたのかもしれないが。

No.14 5点 じきる
(2021/10/09 16:35登録)
着想とプロットは面白いですが、イマイチ乗り切れなかった作品。キャラクターにあまり魅力を感じられなかったのと、机上の空論を捏ねくり回すのに飽きが来てしまったからかも。

No.13 6点 ボナンザ
(2021/03/01 20:59登録)
毒入りチョコレート事件をラノベ風にして考え得る可能性をうんとバカミス方向に広げた意欲作。

No.12 6点 ミステリ初心者
(2020/05/18 22:15登録)
ネタバレをしています。

 なんとなく難しく読みづらい作品なのかなと思っていましたが、非常に本格度が高く、またキャラクターも適度に漫画チックで読みやすかったです。主要キャラクターが全部でた感じがあり、続編もあるみたいなんで今から楽しみですね(笑)。
 本全体を見ても無駄なページがあまりない印象です。相談者である渡良瀬が過去に体験した事件について語るのですが、それほどページ数がなく、それでいて多くのトリックを考えられる伏線とそれを否定する論理の伏線が同時に張られています。
 多くの登場人物が出るのですが、それぞれのトリックを披露するさいに同時進行でキャラクターの説明もされている感じで、読者に対して変に流れを切らずにテンポよく進行しています。

 物語は、探偵は奇跡を証明したい…なので、それ以外の可能性を全て否定する、といった話の流れです。続々現れる敵のトリックと、それを否定する流れが、どこか毒入りチョコレート事件を思わせます(?)。敵一人一人の語る可能性はそのままアリバイトリックものとして楽しめる上に、それを探偵が否定するところは非常に論理的であり、端正なフーダニットの消去法を読んでいる感覚で楽しめます。1冊で二度おいしい。

 以下、好みではなかった部分。
・トリック部分がやや馬鹿ミス的。さらに、可能性があった程度。これは、本の中では、奇跡を否定するだけのためのトリックでいいことになっているためですが、本格ファンとしてはもうちょっと必然性があるトリックが見たいところ。また、物語終盤に明かされる、探偵による事件の解決は、最も無理の無くかつ読後感がよい結末ですが、これも本格ファンとしては悪意のある殺人事件がみたかったところ(笑)。
・探偵によるトリックを否定する論理の難易度が高すぎる。これは私の頭がパープリンのためかもしれません(笑)。
・5章の、探偵の反証が互いに矛盾している問題は、矛盾しているから奇跡なのでは?と思ってしまいました(笑)。なんで奇跡を証明したい側が現実世界の論理性を保たないといけないのか(笑)。頭の悪い私には理解できません(涙)。

 なかなか気に入ったので、続編も楽しみです。

No.11 7点 いいちこ
(2019/04/02 08:46登録)
ライトノベルの仮面を被ったゴリゴリの本格ミステリというプロフィールは、古野まほろの再来を思わせる。
毀誉褒貶が激しい作品であろうが、非常に斬新なアイデア、着地姿勢が乱れたものの、それでも1個のミステリとして着地させ切ったプロットの構想力、論理性の高さを高く評価したい

No.10 7点 E-BANKER
(2019/01/06 20:08登録)
2019年、新年明けましておめでとうございます。
毎年、新年一発目に何を読もうかと書店を徘徊するわけですが、今年は本作をセレクト。っていうか、実はちょっと前からコレにしようと決めてたわけですが・・・
2015年に発表された新進気鋭のミステリー作家の出世作(?)と言っていいのか?

~山村で起きたカルト宗教団体の斬首による集団自殺事件。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首なし聖人伝説のごとき事件の真相とは? 探偵・上苙丞は、その謎が奇蹟であることを証明しようとする。論理(ロジック)の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリー界激賞の話題作~

確かに「斬新」なプロット。
さすが、日本の最高学府を卒業されてるだけあって、行間や作品の奥底から隠せない知性や高いIQが垣間見える。
毎年、数多のミステリー作品が上梓されるなか、目新しいプロットを捻り出すだけでも、まずは賞賛に値すると思う。

これは・・・いわゆる「多重解決」ものに分類されるんだろうか?
別に分類することに拘っているわけではないのだけど、読み進めながら、どうしてもそういう気にはさせられた。
「多重解決」というと、所詮ミステリーなんて「作者の匙加減次第」というややアンチ・ミステリー寄りのプロットかと思わせるんだけど、本作はそういうことでもないようだ。
『相手による仮説の提示』⇒『探偵(上苙)による仮説の否定』を繰り返しながらも、徐々に一定の到達点に向かう盛り上げ方。
ラスボス(?)的なキャラとの対決終了でエンディングかと思いきや、なかなかに洗練されたオチが決まるラスト。
こんなところは、まだ数作しか発表していない新人作家らしからぬ腕前だと感じた。

でも、これはコアなミステリーファン以外には敷居が高いのでは?
提示されるトリックも相当デフォルメされてるというか、リアリティはほぼゼロだし、何より複雑すぎて腹に落ちるまで結構時間がかかったのが事実。
「首斬り」についても、雰囲気作り以外、トリックとの融合性は薄いように感じた。
ということで、手放しに褒められるというわけでもないけど、次作以降も期待できるということは間違いない。
(三作一度にアップしようとすると時間がかかりそうなんで、まずは新年一発目のみのアップということで・・・)

No.9 8点 青い車
(2018/12/09 14:31登録)
 犯行を「証明する」のでなく「否定する」探偵という特殊な着想が活きた快作。連発されるトリックとそれを打ち消すロジックだけでなく、終盤に探偵の推理が矛盾を来してしまう展開など、飽きさせない面白さがあります。ただ、こういう特殊すぎる作品が生まれてしまう事は、ストレートなパズラーを書く道が遂に袋小路にぶつかってしまっている証拠のような気がして、危機感も覚えます。

No.8 6点 名探偵ジャパン
(2018/10/25 22:37登録)
文章の端々から高尚な感じが滲み出てきていまして、プロフィールを見たらやはり、作者は東大卒だったのですね。

キャラクターのアクの強さ、装飾過多な文章、後半にいくに従っての内容の複雑さと、作品としての癖が凄いです。特にキャラクターの造形と、一視点三人称で必要以上に迂遠な言い回しを多用した文体は、内容の複雑さを緩和させるために、ラノベ的柔らかさを出そうとしたのかもしれませんが、完全に逆効果です。カルピスの原液をハチミツで割った飲料を飲まされている感じでした。
ただ、内容についてはさすがの一言で、頭良くなければ書けない系、プラス、一周回って「バカミス」の領域にまで片脚突っ込むサービス精神の旺盛さ。これはこれで十分楽しめました。

それにしても、我が国の最高学府を卒業した英才に「バカミス」を書かせてしまうとは。改めて本格ミステリというジャンルの底知れぬ魅力に気付かされました。

No.7 7点 makomako
(2018/02/24 21:08登録)
このお話は結構好きです。
作者は今までの推理小説にはない切り口で、でも本格物であることは間違いないといった、極めて新鮮な方法でのお話です。
とても答えが無理と思われるような状況を作り出し、とんでもないような発想で回答を導き出し、さらにそれを否定してしまう。
くだらない理屈がばかばかしいほど述べられたお話と思われる方もあるでしょうが、それを感じさせないような登場人物のキャラクターが立っており、私は面白く読みました。
続編も出ているようなので、読んでみることとします。

No.6 7点 まさむね
(2016/04/16 11:48登録)
 「全てのトリックが不成立であることを立証しようとする探偵」という発想自体がまずは面白いし、各々の刺客との論理合戦もなかなか楽しいですね。とはいえ、一番の読みどころは3刺客登場後の展開でして、全体のプロットは極めて秀逸だと思います。作品の中核部分は、バリバリの本格指向です。(ただし、最終的に肩透かし感を抱く可能性もなくはないかな)
 一方、多分にラノベ的雰囲気を漂わせており、好き嫌いはあるような気がします。私も読み始めはちょっと辛かった…。無論、読み進めていくうちに、謎の不可解さを含めたプロットの巧さに包まれてしまいましたが。
 ちなみに読中、私もHORNETさん同様、円居挽「ルヴォワールシリーズ」が頭をよぎりましたね。

No.5 6点 HORNET
(2015/12/31 18:40登録)
 「その他の可能性をすべて排除する」という逆説的な方法で「奇跡」を証明しようとする探偵の前に、考え得る現実的な(正確にはあまり現実的ではないので…「どんなに不自然でもロジック上可能な)解明を次々と突き付ける挑戦者(?)という体のお話し。探偵への各刺客をかわした後に、その反撃がもとになってつきつけられる課題、という全体を通す仕組みはうまいなぁと思った。
 作品の雰囲気として、円居挽の「ルヴォワールシリーズ」に近いものを感じたのは私だけ?絶世の美男美女が探偵や刺客を務める枠組みは、ラノベテイストな感じもなくはないが、仕組まれたロジックが決して「ライト」などとはいえないレヴェルにある。登場人物の格式の高さを描こうとしたためか、修辞がうるさすぎるきらいはあるが、深く考えられたプロットに舌を巻く面白さがあるのは間違いない。

No.4 6点 虫暮部
(2015/11/17 12:34登録)
 ひとつ違和感があるのは、ギロチンや閂について、少女は体力的に動かすのは無理、と断定していること。ちょっと基準がファジィではないか。もっと物理的な根拠を用意して欲しかった。

No.3 6点 メルカトル
(2015/10/30 19:34登録)
冒頭、新興宗教団体が居住する広義での密室内での集団自殺、更にはその信者の首を切り落とすという、奇妙な連続首切り事件が発生する。そのシチュエーションの異様さに引き込まれるものの、面白いのはそこまで。後は奇蹟を現実のものにしたい探偵と、その事件の解決策を引っ提げて登場する刺客との対決が繰り返されるが、その構成はまるで劇画そのもの。本当に漫画化を意識したのかと思うほど、タッチは劇画風である。
多重解決のトリックはほとんどが機械トリックで、正直こじつけめいており、説得力に欠ける。アンチミステリと評する人も中にはいるようだが、決してそんなことはなく完全に本格の範疇内だろう。
もう少し期待していたのだが、やや裏切られた感は否定できない。謎が魅力的なだけに残念としか言いようがない。

No.2 7点 505
(2015/10/19 19:22登録)
作中で『悪魔の証明』に臨んだように作者の苦悩が分かるプロットに脱帽。とある趣向に物語が導かれ、着地するところまでが鮮烈的であった。このオリジナルティは本作の試みならではの大業であり、強みでもある。この部分を評価するために本作が書かれたといっても過言ではないだろう。不可能状況に対するバカアホトリックのバーゲンセールも個人的に好みで、そこに人間の心理と行動が符合するように描かれている所もあるために、それなりの『可能性』を感じざるを得ない説得力がある。本格ミステリの話題作に〝なるべくしてなった〟と思わさせる秀作。
欠点を挙げるならば、作中で『すべての可能性を網羅』していると断言するものの、その部分の弱さは否めず。あと、もう一つほどの『可能性』の提示があれば、ページは嵩張るが多重解決モノとしての重厚さはより得られたかと思ったり。

No.1 6点 abc1
(2015/10/18 14:39登録)
奇跡を証明するために、探偵が全てのトリックが不可能であることを立証するというプロットは面白い。だが正直風呂敷を広げすぎで、あらゆる可能性を網羅して否定はできていない。せいぜい幾つかの突飛な推理を否定しているだけという印象。
探偵の否定の論理を聞いて、刺客たちがあっさりと負けを認めてしまうのも不満。たとえば最初の刺客は、信者の中に豚足が嫌いて食べない人間がいたかも知れないなど、まだまだいくらでも「可能性」を持ち出せるハズである。
多重解決モノとして一定の評価はできるのだが、ほぼ同時期(数カ月違い)に、「ミステリーアリーナ」という超弩級の傑作が刊行されているのが不運と言えば不運。あれと比べると、解決の量も質もちょっと見劣りがしてしまった。

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