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ミステリの祭典

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闇に香る嘘

作家 下村敦史
出版日2014年08月
平均点7.10点
書評数21人

No.21 7点 take5
(2023/09/23 17:47登録)
江戸川乱歩賞受賞
一人称の文体が効果的な作品。

学習の一環として点字を打った事があり、
トリックは想像がついたのですが、
確かめるまではしないまま読み進めました。
主人公が兄の存在に不信感を抱いて、
母がそれを知った際の反応の叙述、
そこで真実が朧気ながら見えます。
苦難の歴史の中で母は慈愛を育てる、
1つ前に読んだ作品の母子愛とは
異なる深さですね。

中国残留孤児問題に触れる
社会的事象を学ぶ意味でも
意味のある読書でした。
1つ前に読んだ作品の三割り増しで
時間がかかりました。よい意味で。

No.20 7点 mozart
(2023/09/11 11:24登録)
主人公が全盲という設定で対峙する人たちへの不信感と不気味さがミステリー色を盛り立て緊張感をもって物語が描かれています。ラストも読後感の良いものとなっていて好感が持てました。

(ややネタバレ)
兄が偽者ではないかという主人公の疑念が物語の序盤で示されていたのでそのまま終わることはないだろうと鈍感な自分でも予想がつきましたがここまでしっかりと伏線を回収して反転させるとは…。

No.19 7点 よん
(2023/06/12 13:33登録)
全盲の村上和久は、腎不全の孫娘に腎臓を与えようとするが、検査では不適合。そこで兄に移植を頼むが検査すら拒否する。中国残留孤児の兄が永住帰国した時、村上はすでに失明していた。もしかしたら兄は偽者なのか。
目が見えないことをサスペンス醸成とどんでん返しの有効な戦略として生かしている。日中間の戦争の記憶を巧みに物語に入れ、捻りをきかすのもいいし、腎臓移植問題を家庭内での愛憎を湧き起こすテーマに据えていて、興趣を盛り立てている。
人物が役割の域を出ていなくて、物語の厚みに欠ける部分もあるが、伏線の回収とツイストとどんでん返しなどが計算され尽くしている。

No.18 8点
(2023/02/12 18:39登録)
盲目かつ記憶が曖昧な主人公の行動にもどかしさを感じながら読み進めましたが、後半の真相と伏線の回収に満足しました。

No.17 7点 ◇・・
(2023/01/13 20:30登録)
兄の正体と主人公の周りで、何が起きているのかという謎自体はいたって地味。ただし、終戦時の中国大陸で起きた悲劇が根底にあるだけに謎は長く尾を引いており、全盲で徒手空拳の主人公にとって真相究明はあまりに手強い。
疑惑の人物は本物か偽物か、シンプルな命題なのに意外性があってドラマチックで、伏線もきちんと張ってあるからフェアといえるし、目から鱗が落ちる瞬間の快感を味わうことが出来る。

No.16 7点 ミステリ初心者
(2021/04/27 19:47登録)
ネタバレをしています。
 
 中国残留孤児、盲目の人の苦労、腎臓移植など、社会派の色が濃いミステリです。それぞれが丁寧に書かれており、難しいテーマなのですが、全くの無知な私でも物語を理解することができました、
 また、途中、盲目の主人公が襲われるシーンはホラーやサスペンス感があり、ダレることがなく読むことができます。主人公による「誰が嘘つきなのか?」と疑う展開もよかったです。
 そして、驚きのどんでん返し。一つの要素が明らかになることで、これまでのすべての疑いや疑問が一気に氷解し、本格推理小説本来の快感を味わえます。
 大団円で終わるラストもいいですね。

No.15 7点 虫暮部
(2020/12/27 13:26登録)
 中心の謎に対する真相の設定や、学習内容を物語として立ち上げる力量は見事。

 しかし、ひねくれた事を言うと、この手の題材は感想の方向性を暗黙のうちに押し付けられていないか? ハードボイルドやサイコ・キラーもので悪役のファンになるのは個人の自由だし、少年法や安楽死には賛否両論あって良いが、本作について“その時は日本政府も仕方なかったんだよ”と擁護するのは許容範囲外、怒りと悲しみを必ず共有せよ! みたいな不文律がない? その意味で作者にとっては安全牌だな~と思ってしまう。

No.14 8点 sophia
(2020/11/01 21:45登録)
「中国残留孤児」「視覚障害者」「腎移植」という三つの社会的テーマを組み合わせていくつもの謎を作り出し、一つの壮大なミステリーに仕立て上げています。伏線を逐一記録して整理していかないと頭の中がハテナマークだらけになること必至の複雑な話です。読み返してみると成程、出自の部分の語りは完全に省いてあります。これは読者に対して公正を期すためだと考えられますが、本人はそう認識していたという体で語らせておいてもよかったのではないかと思いました。あとは満州で戦死した(?)父親のことにもっと触れてあげて欲しかったことと、夏帆が八歳には思えなかったので年齢設定を上げて欲しかったことを記しておきます。

No.13 7点 ぷちレコード
(2020/05/22 19:44登録)
伏線の回収や小道具の使い方も堂に入っており、謎の解明とともに当事者たちの人生が一瞬で反転する仕掛けも、シンプルであるがゆえに、いっそう鮮やかに映えている。

No.12 5点 雪の日
(2020/04/15 15:33登録)
やや長い。

No.11 8点 斎藤警部
(2019/11/20 23:14登録)
「盲人を装えば、●●●●●●●●●●ない●●」

精神安定剤をストレート焼酎で呷り呑むような荒んだ暮らしに沈む中途失明の主人公は、別れた家族の深刻なトラブルにより表へ引き出された或る事をきっかけに、自分の兄が悪質な”偽”中国残留孤児ではないかとの疑惑にかられ始める。。。中身詰まって思わせぶりの機微も忘れない最高級のプロローグ。自分は信用出来ん、かも知れん、と自覚のある、何とも頼り無いがミステリ的には最高に適材適所の、信用できない語り手さん、最後まで引っ張ってくれてミステリ的に本当に有難う!最後まで謎のみっちり詰まり具合は丁度いい腹九分八厘でしたよ。大きな反転で詰めてなお残った違和感を切っ先鋭い別の反転でバッサリ処理、クーッ、スィヴィレるねえ。序盤からず~っと強烈な社会派サスペンス押しで来たのが、終盤で幻のように本格銀河鉄道のレールに乗って爆走を始めるあたり、んもう胸をトキメかせ過ぎで〆の白子スープチャーハンは別腹です!

参考文献一覧こそが強烈無比な本当のエピローグ、かも。そのジャンル別の並べ順にも泣けた。アリスアリスの文庫解説も、やるでねえだが。 ”(前略)小説とはそういうものであるから、全盲の人物の<視点>を取った場合、読者と登場人物の間にいつもは存在しない回路が開ける”

これ言うとネタバレになるでしょうが、tider-tigerさんがプロフィール中で仰っている
> ありふれた設定をかつてないような形で提示しているもの。
> 例えば「記憶喪失」「双子」「夢オチ」などを斬新な手法で料理している作品なんかがあればいいですね。
いや、やっぱり何でもありません。。

これもネタバレかな。。 一部イヤミスばりの唐突な無理やりハッピーアップセットに、記憶障害〈疑惑)がいったん廻ってなんも無しよ、みたいな弄ばれはちょぃと鼻ムズムズもしたのだが、まあいいさ。 点字俳句の立ち位置があっさり流されるあたり、掴みの強烈さと締めの奥深さの間に闖入してしまう違和感のヌラヌラも少しあったが、すぐ消えたぜ。 そのへんの一瞬で蒸発しちまうアラを直視した上でミステリとしてはほぼほぼペキの勘太郎(完璧)だけど、人間ドラマとしたらアラだらけかも知らん、だが感動する。  

“母さん、◯○◯○○◯○◯○○○ありがとう”

No.10 6点 パメル
(2018/03/20 22:24登録)
全盲の主人公からの視点で描かれ、ほとんどの人の言動に疑心暗鬼になり、揺れ動く心理状態とスリリングな展開を楽しめる。また、細かく散りばめた伏線を回収していく過程も素晴らしい。(こんなことまで伏線だったのかというのもありました)
視覚障碍者の苦労や中国残留孤児の問題も考えさせられたし、感動的な場面もあった。
ただ、人物造形が今一つだし謎に記憶障害を絡めてくる点は不満が残る。

No.9 6点 E-BANKER
(2017/03/21 21:33登録)
記念すべき第六十回江戸川乱歩賞受賞作。
その年の各種ランキングでも上位を賑わした作品。2014年発表。

~孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼ることに。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱くようになる。目の前の男は実の兄なのか? 二十七年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作!~

なるほど。評判に違わぬ力作・・・という評価。
「参考文献」として挙げられている膨大な資料を見ても、作者が本作に賭けた熱意、エネルギーが分かろうというものだ。
すでに他の方々が的確な書評を残されているので、今さらという気がしないでもないが・・・
まぁ雑感として書きたい。

まず否定的な意見から。
良くも悪くも乱歩賞らしいというか、要は処女作品らしい「粗さ」、「こなれてなさ」が目に付いた。
もちろんデビュー作なのだから当たり前といえば当たり前だけど、「行ったり来たり」している箇所も多かったように思えた。
「盲目」というのがプロットの軸になっているのだから致し方ないのだけど、そこに記憶喪失モドキも加わってくるので、どうにも「曖昧」というか「掴みどころのなさ」というのも感じたなぁ。

でも、終盤、たったひとつの「ある事実」がすべてを反転させ、収束させていく手際はやはり見事だ。
言われてみれば、割と容易に気付く可能性のある「反転」なのだが、作者の周到な「煙幕」の前に、うまい具合に隠蔽されていた・・・という感じ。
この「大技」を最大限に活かせる舞台、テーマ。それこそが「中国残留孤児」であり「盲目」だったわけだ。
こういうプロットを捻り出せる力こそ、ミステリー作家としての資質に違いない。

正直、あまり好きなタイプのミステリーではないので評点はこんなものだが、次作以降も大いに期待できる。
(点字の暗号の使い方はもう少しやりようがあったような気が・・・)

No.8 7点 まさむね
(2017/02/07 21:17登録)
 第60回江戸川乱歩賞受賞作で、2014年末の各種ミステリランキングでも上位に位置付けられた作品。
 正直、中盤までの雰囲気は万人向けとは言い難く、個人的にも多少重苦しい心持ちの中で読み進めたところです。しかし、終盤における構図の転換はお見事で、社会派ミステリとしての流麗さに感服いたしました。トリック自体はいたってシンプル。だからこそ、真相が判明した後に見える各々の人生の深さが際立つ気がします。
 中国残留孤児や視覚障害の点でも、大変勉強になり、考えさせられました。そしてそれらの(語弊はあるかもしれませんが)活かし方も巧い。
 デビュー作としては出色で、各種ランキングで高評価であったことも頷けます。

No.7 7点 名探偵ジャパン
(2017/01/11 13:38登録)
テーマ性のある骨太の社会派。私が苦手としているジャンルという評判もあり、なかなか手が出なかったのですが、機会があって読んでみました。
上記の言に間違いはないのですが、そのテーマと取り扱った舞台が、後半の本格ミステリ的展開にぴたりと嵌り、このトリックを使うために必要なものだったのかと(もしかしたら、このテーマと舞台に見合うトリックをあとから考え出たと、順番が逆なのかもしれませんが)納得しました。
最初のとっつきは悪いのですが、一旦読み始めたらノンストップでした。真相が明かされたときの最後の反転(まさに反転!)にも唸らされ、考えさせられます。

No.6 6点 メルカトル
(2017/01/04 21:45登録)
なかなかの良作だと思います。ただ盲目の主人公の一人称で描かれているためもあり、終盤までやや冗長だしいささか退屈な感じは否めません。題材が中国残留孤児だからある程度やむを得ないかもしれませんが。
巻末の参考文献を見るまでもなく、作者は相当深く理解に及んでから書き始めたようですし、読者もいろんな意味で勉強になります。残留孤児に関して、視覚障碍者に関して。
終盤謎解きに至り、一気に覚醒したがごとく面白くなります。それまで社会派の印象が強かったですが、ここに来てようやく本格ミステリの本領を発揮しますね。まさかの展開が待っています。エピローグも一抹の救いがあっていいですね。
個人的に『占星術のマジック』が受賞を逃す以前から乱歩賞とは相性が悪いですが、これは合格ラインではないかと思います。

No.5 8点 Tetchy
(2016/12/20 23:23登録)
やはり本書の最たる特徴は盲目の主人公が私立探偵張りに兄の素性調査を行うところだ。主人公和久の一人称叙述で書かれているため、目が見えないことによる情報量の不足がそのまま読者にとっても情報量の不足に繋がり、いつも読んでいるミステリと比べて非常に居心地の悪さを感じた。これが本書における最大の売りであることは解るものの、どうにもまどろっこしさを感じた。
また物語の節目節目に挿入される、匿名の人物から送られる点字で書かれた俳句の内容も暗鬱なものばかり。しかも主人公の身に覚えのないことばかりと、終始落ち着かない気分で読み進めることになった。
そんな居心地の悪さや違和感は物語の最終局面に一気に開放される。

上に書いたように盲目の主人公による調査行は非常にまどろこっしく、また中国残留孤児が現在抱える問題もまた重い物ばかりで正直読んでいる間は辟易する部分もあった。しかし最後になってみると作者が実に上手くその設定を活かして、盲目であるがゆえに成り立つトリックを巧みに織り交ぜてあることに気付かされる。

本書の核となるミステリはずばり“家族”である。戦時中の日本政府の政策で満州に移住し、新天地で生きていく希望を与えられた日本人が敗戦によって逆に祖国に帰ることが困難になり、帰りうる者と帰られない者とが引き裂かされた悲劇が生じた家族に生まれた謎だ。いわば戦争秘話とも云うべき物語だったが、現在なお日中の間に横たわる中国残留孤児問題の中に実際に本書のような話が実在するのかもしれない。

戦後日本はまだ終わりぬ。そんな感慨を抱いた作品だった。

No.4 7点 パンやん
(2016/07/18 08:19登録)
視覚障害に中国残留孤児の悲劇を絡めて、実に練り込まれた力作で冒頭のナゾが巧い。中途失明者の苦労に感情移入も出来、見えない故の疑念の数々の怒涛の伏線回収、逆転の連続に唸る。が、兄を疑う動機の唐突感、余りに元気な老人たち、余りに綺麗に収まり過ぎる着地って。 

No.3 8点
(2015/01/13 10:51登録)
感動感涙の社会派本格ミステリー。

満州から無事に帰国できたがその後、全盲となった主人公と、満州で生き別れその後、中国残留孤児として帰国した兄。
この二人の関係が明かされる序盤だけで、戦争を背景とした壮大なミステリーを期待した。
中盤は盲人視点によるサスペンスがあるわりに退屈な感があったが、終盤で大逆転。

終盤の疾風怒濤の展開と、驚愕の真相開示には息を呑んだ。乱歩賞選者や評論家に大絶賛された意味がよくわかった。過去の受賞作とくらべてどうのこうのではなく、これほど強烈な作品なら当然のことだろう。
人間ドラマであるという評も聞かれるが、それにもちがいなし。いや大河小説といってもいいのではないか。

もちろんミステリーとしても申し分なし。選評にもあるが、数ある伏線とその回収はお見事。
盲人の視点だから、仕掛けは叙述トリックともいえる。前述したが、サスペンスにも大いに寄与している。
アイデア勝ちではあるが、決してそれだけではないと感じた。

難癖をつけるとすれば、私、村上和久が兄を疑う経緯が安直すぎるところだろうか。ドナー検査の拒絶を兄を疑うきっかけとすることはいいとしても、人間ドラマなら、そこを起点として、もうすこし葛藤が描かれていてもいいのではないか。
とはいえこれは前半での微細な疑問点。絶賛評価に影響はない。
謎が解けてしまえば、エピローグは予想し得るものかもしれない。でも、そんなことはどうでもよく、この後味のよいエピローグにも拍手を送りたい。

(以下の文章、もしかしたら真相を示唆しているといえるかも)
近時、日本人を元気づける意味で、「こんなところに日本人」みたいな番組が多くテレビ放映されているが、この小説も一役買えるのではないだろうか。しかも中国人にも喜ばれそう。

No.2 7点 kanamori
(2014/12/06 23:19登録)
人工透析を受けている孫娘のために、「私」村上和久は中国残留孤児だった兄・竜彦に腎臓移植のドナー検査を依頼するも、何故か拒絶される。和久は”兄”が血縁のない偽者ではないかと疑い、真相を突き止めようとするが---------。

第60回江戸川乱歩賞受賞作品。各選考委員絶賛で、今週の週刊文春ミステリーベスト10総括でも、千街晶之氏が「乱歩賞六十年の歴史に残るであろう傑作」と最上級の評価をしていたので期待して読んだ。
「私」は、戦時下満州の劣悪環境が原因で41歳のときに失明している。つまり、盲目の主人公による一人称視点という困難な設定に挑戦している点が素晴らしい。
当然ながら情景描写はなく、触覚、聴覚、臭覚で得た情報だけで謎解きが展開されるのだけど、この設定がミステリの仕掛けの部分に巧く活かされ、終盤の驚愕の反転図につながっています。中盤までは、戦時中の満洲でのエピソードや視覚障碍者の実情が事細かく語られ”じれったい”展開ですが、それらのなかに張られた伏線が最後にきれいに回収され、まさに人間ドラマと謎解きが見事に融合していると思います。
なおネットの感想などで、ロバート・ゴダードの「闇に浮かぶ絵」からのパクリ疑惑を見受けますが、”正統を名乗る二人”の真贋テーマは昔からある題材(=たとえば、カーの「曲がった蝶番」)ですし、プロットも作風も全く異なっていると思います。

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