臣さんの登録情報 | |
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平均点:5.90点 | 書評数:660件 |
No.660 | 8点 | サン・フォリアン寺院の首吊人 ジョルジュ・シムノン |
(2024/11/05 10:55登録) メグレはフランスから離れた地の駅の待合室で不審な男を見かけ尾行し、その男の鞄をすり替え、さらに同じホテルの隣室を取り、男を見張ることになる。ところが男は、鞄がすり替えられたことに気づくと拳銃自殺してしまう。 こんなメグレの大失敗から始まる、衝撃的な冒頭を読めば、読書を中断することはできません。 しかも、タイトルの「首吊り」は、冒頭では話のかけらもありません。 *** 以下、ネタバレ *** 上記冒頭は強烈ではあったが、その後はイマイチ話がよくわからない方向へ・・・ (私に変な先入観があって、そのためわけがわからなかっただけかも) まず、自殺した男、ジュネの関係者と思われる、わけのわからない男たちのグループが登場する。メグレは彼らの一人から襲われそうにもなり、不審に思いながら捜査を続ける。 (旅先の地でよくやるな、という感じですね) あっ、そうか、彼らの中から犯人当てすればいいのか、なんて安易に考えるが、冒頭で死んだのは自殺だったはず。しかもメグレ物には典型的な本格推理モノはないはずだし。 さらにその後の中盤前、グループの一人が描いた、教会での首吊り男の絵が登場する。 ここでやっとタイトルが出てきた。でも話はよくわからん。 いったいどう考えればいいのか。と、もう一度、振り返って考えようとしたら、中盤でメグレからリュカへの情報開示文が登場する。これでいちおう復習することができた。 その後、種々の流れがあって後半はメグレが上記グループから真相を聞き出すことになる。メンバーたちは独白のように過去を話し出す。 なるほど、犯人当てではなかったが、ミステリーの背景、真相としては比較的ありそうな話だった。 タイトルはずるい気がする。そんなはずはないと思いながらも、横溝的なおどろおどろしさしか想像しなかった。しかも、このタイトルがストーリーの根幹をなすかといえば、そんなこともなかった。 でも、冒頭の自殺から真相開示までを200ページほどに収めたことは、なによりも素晴らしい。コンパクトすぎてちょっとわかりにくい面もあるが、先に読み進むしかないという状況が作り出してある。さすがシムノンです。 *** ネタバレ解除 *** 空さんの書評や、恐ろしいタイトルや、容易に入手できない当時の状況もあって、本サイトでメグレ物を読み始めたころからずっと気になっていました。昨年、新訳が出て今年、念願がかなってようやく読了した次第です。 想定外のストーリーでしたが、上等の満足度です。 瀬名秀明氏の解説も読み応えがありました。 |
No.659 | 7点 | 灰色の嵐 ロバート・B・パーカー |
(2024/10/18 11:16登録) スペンサーは金持ちの婦人からの依頼を受け、孤島で婦人の娘の結婚式に立ち会うことになる。しかしすぐに武装集団の襲来を受け、娘が連れ去られる。その集団の頭目はスペンサーと因縁深いライバル、ルーガーだった。 冒頭では銃がぶっ放され、多人数が殺されるのでアクションものかと思う一方、場所が孤島なので、本格推理モノなのかも、と想像を膨らます。 もちろん本格推理モノとは考えにくいが、冒頭以降の中盤の主たる流れがスペンサーの聞き込みなので、なんとなく刑事物風の様相を呈していき、さらに惹きこまれてゆく。 *** 以下、ややネタバレ風 *** 本シリーズはときどきつまみ食いする程度なので、ルーガーがどういった人物かをまったく知らない。終盤、ルーガーが突如として再登場し、真相をあきらかにするのには違和感を覚えるが、かつて登場していたシリーズ作品では、こんな真相をみずから明かすような(やわな)キャラクターだったのだろうか。読み始めで想像していた人物像とはかなり異なるので、そこにビックリ。ルーガーのかつての登場作品を読んでいなかったことを、ちょっと残念に思った。 とはいえ、ラストの真相はいちおうサプライズ。まずまずの出来栄えなのでは。 あれだけ殺しまくって、スペンサーによる結びがあれだけ、というのにもかなり違和感を覚えたが・・・ *** ネタバレ解除 *** 解説の堂場瞬一さんによれば、本シリーズで本書のような派手なアクションがあるのは珍しいようです。 本シリーズについてよく耳にするのは、スペンサー、スーザン、ホークの今風の洒落た会話を楽しむことができる軽ハードボイルドであるということらしいが、その辺りについては評者にとってそれほど興味はない。もっとも魅かれるのは、軽く読めるということです。 本書の場合、派手なアクションと、軽い謎解きとが加わったことで、いつも以上に楽しめたのかもしれません。映画を観ているような感じではありましたが。 |
No.658 | 5点 | スペードの女王 横溝正史 |
(2024/09/29 19:19登録) 首のない死体モノ。 被害者の内股にはスペードのクイーンの刺青がある。そのため首がなくてもわかりやすいだろうとも考えられるが、もちろん犯人当てはそれほど容易ではない。被害者の対象者は二人いて、しかも彫物師は冒頭の時点で死亡している。さらに他の殺人事件も発生する。 登場人物が、短い長編のわりに多いのも、金田一や読者を手こずらせる要因となっている。 場面があまり変わらず、金田一が警部たちと推理していても、盛り上がりには欠けるように思う。 最後に場面が変わり一波乱があるが、こういった締めくくりは予想外だった。個人的にはきらいではないが、金田一モノとしてはいただけない。 とはいうものの、金田一モノとしては現代的(1960年作。元となった短編が1958年発表)な感もあって、新鮮さを感じた。その点では魅かれた。 おそらく短編の長編化において少し失敗したのだろう。だからストーリーがイマイチなのは仕方なしと、ちょっと贔屓目にみてギリギリ及第点というところだろうか。 およそ15年ぶりに、自宅にいちばん近い図書館に行ったところ、とってもきれいな角川の横溝文庫本を見つけて、驚いた。新しさにつられて借りてしまった。 今後、横溝の第n次ブームが来れば文庫か電子本の購入ということもあるだろうが、汚れも日焼けもない本を近くで手にとることができるかぎりは、未読の横溝は図書館で済ませたい。 |
No.657 | 4点 | 青春抒情死抄 小峰元 |
(2024/08/28 16:30登録) ジャンルは、「ばかげた青春ミステリー」。 大阪とその近辺が主たる舞台。 大学卒の新人が新聞社で殺人絡みの事件で大活躍する、といった内容で、期待できるだろうと思っていたのだが・・・ ユーモアはたっぷりなのだが、いまではとても許容されないような表現、言い回しが出てくるし、時代錯誤な感じはあるし、ということでかなりがっかりした。タイムリーに読んでおけば少しはマシだったのか? 作者にはユーモアのセンスがあるのか、ないのか、かなり微妙である。 作者は新聞社出身ということもあって、乗りに乗って、筆が進んだのだろうなあと想像できるが、筆者にとってはデビュー作の「アルキメデス」のほうがはるかによかった。 内容的には、事件が多いだけでまとまりはなく、変なユーモアに引っ張られ、頭の中で整理できないまま終わってしまったw 身近な土地が登場することに楽しめただけだった。 |
No.656 | 6点 | エヌ氏の遊園地 星新一 |
(2024/08/28 16:15登録) いつものショートショート集。 「ノックの音が」みたいに、全作が「エヌ氏」だと記憶していたが、エヌ氏の登場は半分ぐらいだろうか。エス氏やエム博士、二郎や三郎も登場する。 ひねりもあれば、恐怖もユーモアもある。でも「ボッコちゃん」よりは少し落ちるかな。 |
No.655 | 6点 | 天国は遠すぎる 土屋隆夫 |
(2024/04/21 11:07登録) 昭和的警察ミステリー小作品という感じだろうか。 冒頭の女性の死は自殺なのか、その後に発生する県庁の課長の他殺にどう関係するのか、などの謎が提起されるが、本作の主たる謎解きはアリバイ崩し、ただそれだけといってもいい。 疑獄事件絡みとはいうものの社会派モノらしい話の大きさはなく、すべてにわたり意外に小ぶりな内容なのが特徴といえる。少しアンバランスな感もする。 被害者を含む当事者は4,5人、刑事たちも2,3人しか登場しない。登場人物の数も個性も控えめだった。 大作や、仰天の真相付き謎解き豪華作品を期待するとがっくりくるだろうが、一点のみを楽しめればいい、という覚悟で臨めば上等な部類のミステリーだろう。むしろ、読後じわじわとこみあげてくるものがあるぐらい。 刑事たちの会話や日常もよい。メグレ物に倣ったのだろうか。 |
No.654 | 5点 | 死体消失 草野唯雄 |
(2024/04/03 10:05登録) 1995年文庫書下ろし作品。 本格風味、トラベルミステリー風味付きサスペンス。 主婦・小林房子は中盤まで、東京、山形、蔵王で謎の人物に襲われ続ける。狙いは何か? この中盤までのサスペンスはスムーズすぎる流れで、じつに読みやすい。いや、読み応えなしといったほうがいいかも。 捜査するのは、鑑識官・洋子をはじめとする刑事たち。彼女たちの捜査は、つまずきはあるも総じてスムーズだった。 ただのサスペンスということはないだろうと思って、乗せられて一気に読んだが… 読み始めの自身の推理は外れてはいなかった。でも、外れていたほうがよかったような気もする。 最後にもう一発何かあったほうがいいのだろうが、かといってそれも俗っぽさの上塗りになるしなぁ。最後をどんなに工夫しても、この作品には重みなし、感動なしなのだろうなぁ。 とはいえ久しぶりに草野作品を読めたのはよかった。 文庫の表紙はド派手で、今なら電車の中で人前に晒して読むのが恥ずかしくなるような装丁だった。1990年代(平成初期)でもこの種の表紙があったんだ、とちょっと懐かしめたのも、よかった。 |
No.653 | 6点 | 夜の光 坂木司 |
(2024/03/30 11:25登録) 主たる登場人物はジョー、ゲージ、ギィ、ブッチの天文部の男女4人。 スパイ風・日常の謎風・青春ミステリー連作短編全5編(どこがスパイ風やねん)。 4編は天文部メンバー各自の視点。最後の1編も個人の視点だが、後日譚的な内容。 暇つぶしに軽く読むつもりだったが、2編目から面白さに目覚めた。 4人の天文部活動における日常の謎と、視点人物のプライベート(どちらかというと家庭的な悩み)とが、各編で語られる。 前者は大好きな分野で、むちゃな推理満載だが、これがおもしろい。 後者はサブストーリーっぽいが、けっこう密度が濃く、これもまたおもしろい。 5編目だけが、なんでミステリーではないのか。きれいにまとめたかったのだろうか。残念な気もするが、青春連作小説としては、こんな感じの最終編がいいのかも。 もっと今風なのかと想像していたが、昭和生まれのおじさんでも無理なく読める青春モノだった。郷愁を覚えるほどではなかったですが。 |
No.652 | 6点 | 13の秘密 ジョルジュ・シムノン |
(2024/02/03 12:18登録) 「13の秘密」は、2分間あるいは5分間ミステリーみたいなもの。こんなのも書いていたのかとびっくり。センスはあるが、解決はイマイチ。 「第1号水門」は立派なメグレ長編だった。 中年のジャン・ギャバンみたいなおやじ、デュクローが中心人物。謎はいくつかあり、デュクロー対メグレが見ものなのだが、デュクローが押し気味。それほど個性が強い。 ミステリー性はともかくとして、雰囲気は好みである。 最近、半世紀以上も前のモノクロの仏映画をよく観ているが、本書を読むと、その映像が浮かんでくる。今のものはどうか知らないが、活字も映画も、古いフランスものは気取らないところ、庶民派なところに好感が持てる。 |
No.651 | 7点 | 焦茶色のパステル 岡嶋二人 |
(2023/08/23 16:09登録) 江戸川乱歩賞受賞作。 気合を入れて書いたのだろうな、と思われる。 おそらく伏線でもなく、おそらくミスディレクションでもないと思われる描写が多くあるのが気になった。これも気合を入れすぎた結果か? そんな調子だから、ミステリー的にはイマイチかと想像していたが、最後は勢いがあったし、ラストに開示された真相も良好だった。 競馬に絡めた背景、真相、トリックはほんとうに素晴らしい。 後半のヒロインたちの行動はサスペンスたっぷりで、ここも見せ場だろう。ただ、後半を読んでいたときはスリラー物かなとも思った。 最後まで読んで話が決着したときには、伏線でもミスディレクションでもない、つまらないと感じた描写が、じつは新人らしい初心さなのだと感じることができた。 最後がよくて、何でもよく見えてしまったのかな? |
No.650 | 5点 | 殺意の森 釣りミステリー傑作選 アンソロジー(出版社編) |
(2023/08/01 17:44登録) 釣りをテーマとした短編ミステリー集。山前譲編。 タイトルには「海」とあるが、それには限らず川や釣り堀もある。 7作家による7作品が収めてある。 幻の魚(西村京太郎):最初の作品。まずまずの出だし。 溯死水系(森村誠一):これも平均的。流れはよい。追悼読書ができたのはよかった。 海の修羅王(西村寿行):久々に寿行氏の作品を読んだ。重厚で読み応えあり。ミステリーとは言いがたいが・・・ 鎌いたち(久生十蘭):初めての顎十郎モノ。まずまずか。 寒バヤ釣りと消えた女(太田蘭三):鯉四郎シリーズの1つ。軽いがストーリー性があってよい。推理物とは言えない。 谷空木(平野肇):7編の中では十分なミステリー性。伏線も色々あり。 眼の気流(松本清張):真打登場。かなり無理がある。らしさはある。 釣りはやらないので積読状態を続けようかと思っていた本。 本棚で目にとまり、義務感から読んでみた。 読んでみれば釣りらしさが、十分にあり、少しあり、ほとんどなしに分かれる。らしさのあるものは読みにくいかと思えばそうでもない。専門性がほとんどないということなのか? それに渓流モノだと山岳モノにも近く、いい感じに読むことができた。 |
No.649 | 6点 | ゼロ時間へ アガサ・クリスティー |
(2023/07/11 15:54登録) さすがクリスティー、いろいろとアイデアが出てくるのですね。 プロットはすばらしいし、登場人物どうしの情感もいろいろあって楽しめるし、それに犯人の設定もいい。しかもスイスイと読める。 ただ好き嫌いが多いというのはよくわかる。 ミステリーを決定づける何かが足らないからでしょう。というか、こういったアイデア勝負では喜べないっていう人が多いのでしょう。もっと手荒な反則技のほうがいいのかもしれません。ポアロでは役不足だからバトル警視が探偵役になったのでは、と思ってしまいます。ポアロが陰ながら応援しているように読めたのは、グッドです。 それと、人並由真さんのマクワーターに対する言及は、まさにそのとおり。別の手段を採用できなかったのかな? とにかくボロの出やすい、突っ込まれやすい作品なのですよね。 以上、どちらかというと長所より欠点が気になった作品ですが、全体として酷い出来ということもないし、まあまあ楽しめたので評点はごく普通です。なんともいえぬ奇妙なロマンス要素が効いていたのかもしれません。 |
No.648 | 6点 | 感染遊戯 誉田哲也 |
(2023/05/31 11:29登録) なるほど、こういう背景だったのか。 「シリーズ最大の問題作」という惹句は、こういう意味だったのですね。 姫川玲子シリーズのスピンオフ作品で、主人公はシリーズ最大のくせ者、勝俣健作、通称ガンテツと、倉田と、葉山。いずれも警察関係者です。 上記各主人公が各話で活躍する短編集のように見せかけて、じつは最後の4章目で話がつながる大長編作品です。 最後の最後に背景や真相は明かされますが、想像もつきませんでした。社会派ミステリーファンなら、解説だけで感づくのでしょうか。 いや、勘で背景を見抜けたとしても、真相にはたどり着けないでしょう。 この社会背景にもとづけば、ミステリー作家なら推理小説は作れそうですね。ただ面白いかどうかは作者の腕次第。本作はうまくまとめてあります。が、今までに読んだシリーズ作品とは毛色が異なるので、戸惑いました。 |
No.647 | 7点 | 99%の誘拐 岡嶋二人 |
(2023/05/16 13:57登録) 誘拐モノといえば、彼らお二人さんが超有名。 ITを駆使した誘拐ミステリーです。 30年前のITといえば、今読んで耐えられるかなと心配でしたが、そんな古さは感じられず、むしろその時代のIT技術って意外にすごいと感心しました。 ラップトップとかパソコン通信とかの用語は死語というよりは、郷愁を感じさせてくれ、心地よくもありました。 しかも、最初の手記で読者をじんわりと惹きつけておき、その後は緊迫の倒叙スタイルというミステリーとしての流れも申し分ありません。読みどころはたっぷりあります。 ただし、最後にもう一つ何かあればという感じがしないでもありません。 |
No.646 | 4点 | 人間動物園 連城三紀彦 |
(2023/05/16 13:54登録) 著者お得意の誘拐ミステリー。 連城らしいといえます。第1部での現場の違和感はなんとも奇妙です。 でも、誘拐モノならサスペンスでもっと読者を惹きつける手法を採ったほうがよかったのではと思います。 多視点というのも、物語に入り込めない要因になるのでしょう。私にとって、ということなのかもしれませんが。 総じて期待に反して、という感じの作品でした。 |
No.645 | 7点 | 悪魔はすぐそこに D・M・ディヴァイン |
(2023/02/14 10:53登録) 舞台は大学。 登場人物は教授、講師、学部長、学長、事務局長、事務局員、学生など、大勢。 そんな派手な舞台設定で、事件もほどほどに派手だが、謎解き物としての派手さはまったくない。人物描写の一本勝負で、巧妙なミスディレクションを用いて読者を混乱、誘導させる、いたって地味なスタイルである。 三人称多視点で語られるが、もちろん計算づくで、いわゆる神視点ではなく、章ごとに変わっていくやり方である。そこまでしなくても、という感じがしないでもないが、読みやすいので、それによる混乱はなかった。いやあったかも(笑) タイトルにも引っ掛かった。「悪魔」という字句で、横溝のおどろおどろしさを連想してしまう。多少のどろどろ感はあれど、読みやすさも手伝ってあかるささえ感じてしまう。これは一部の登場人物たちによるものだろう。道化役とまではいわないが、なんとなく場を和ませる。 もう少し本格ミステリとしての派手さがあったほうがいいとは思うが、過去の事件の絡め方はすばらしいと思う。いたってシンプルなんだけどね。 このシンプルさは、いつも伏線も気にせず直感勝負で犯人当てに挑んでいる筆者には都合がいいはずだが、まったくダメだった。 |
No.644 | 7点 | 名探偵に薔薇を 城平京 |
(2022/12/21 17:42登録) 瀬川みゆきを素人探偵とした2編の連作中編集。といっても、2編目で完結する1長編といってもいいでしょう。 いずれも、「小人地獄」という毒薬が絡みますが、全く趣向は異なり、本格要素がたっぷりで、かなり楽しめました。さすが鮎川賞最終候補作。 2編目の「毒杯パズル」はホワイダニット物でかなり凝っています。そこまでしなくても、といった感もありますが、だからこそ評価されたのだともいえます。1編目の「メルヘン小人地獄」も決して悪くはなく、謎解きおまけ付きの、2編目真相の伏線部、と捉えてもいいでしょう。 1編目の視点が三橋荘一郎(2編通してのもう一人の主人公か)であるのに対し、2編目の視点を瀬川に変えているところは謎解きに役に立つかも。いやぁ、読者が完全に謎解きするのは無理でしょう。 イヤミスっぽさがあるのと、瀬川のキャラが嫌われそうなタイプであることとが、万人には受け入れがたいところかもしれません。 瀬川のキャラが最終的に変わってしまったような気もしますが、その点は意に介しません。 |
No.643 | 5点 | 乾いた肌 佐野洋 |
(2022/11/16 16:08登録) 表題作他、「逃げる」「嘘」「宣告」等、計10短編の雑多な作品集。 それぞれ2,30ページぐらいか。 短いなりにうまくまとめてある。「宣告」や「娘の手」は意外な結末で、しかもちょいブラックな印象。流石である。 でも面白いものだけではなく、次作品を読むのをやめようか迷ってしまうようなものも多いのは残念。 若いころに短編集を何冊か読み、好みの作家さんではないと決めつけていたが、短編も長編も読んだのはわずかなので、これからは少しは読んでみたい。本格ミステリのご意見番のような位置付けでもあったので、どれだけの腕前だったのだろうか、ほんの少しだけ期待している。 |
No.642 | 7点 | 扉は閉ざされたまま 石持浅海 |
(2022/10/24 19:10登録) CC&密室&倒叙モノ 大学時代の軽音楽部の同窓会で7人が集まり、そのうちの一人、新山が殺される。犯人は他の一人である伏見。密室で殺される点も冒頭であきらかにされている。 動機当てなのだろうなあと予想はしたが、中途の犯人の心情描写から、いったい何を隠しているのか、それが動機とどうつながるのか、それとも動機なんて全く関係ないのか、わからなくなってしまう。とにかくサスペンスで引っ張ってくれる。 最後に明かされる動機自体は好みではなかった。でも中途の犯人の心情(心配ごと)には納得した。 読み終えてわかる多くの伏線や、素人探偵・優佳の謎解きには感嘆した。 どこに伏線が潜んでいたのか、あまりにも些細すぎてわからないような小説もあるが、本書はわかりやすい。きわめてユーザーフレンドリーで、読み直しするほどではなかった。 そしていちばん気に入ったのは、ラストの優佳の犯人への対峙の仕方。この締め方がこの小説にはピタリとはまっている。 ところで本書は碓氷優佳シリーズの第1作ですね。このあと、どういうふうに続いていくのでしょうか。興味がふくらみます。 |
No.641 | 5点 | 興奮 ディック・フランシス |
(2022/10/07 16:11登録) ディック・フランシスは人気もあり、評判もよく、いままで勧めてくれる人もいましたがそのまま放置し、今回やっと手にとった次第です。 基本的にはスパイ・潜入捜査物なので、その字句を思い浮かべただけでわくわくしてきます。 競馬界の薬物疑惑というのも個人的には新鮮だった。しかも程よい謎解き部分があるのもよかった。 ただ、主人公がもっと変なやつでもよかったような気がします。スパイだからストイックなのはいいとしても、読者に対してはもっと奇異な面を見せてほしい。 それに、スリルについても予想していたのとはちょっと違っていた。 初めてで不慣れなだけなのでしょうか。 とにかくあと数作は読んでみます。 |