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ミステリの祭典

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サン・フォリアン寺院の首吊人
メグレ警視/別題『サン・フォリアンの首吊りの男』『サン=フォリアン教会の首吊り男』

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1950年08月
平均点7.43点
書評数7人

No.7 8点
(2024/11/05 10:55登録)
メグレはフランスから離れた地の駅の待合室で不審な男を見かけ尾行し、その男の鞄をすり替え、さらに同じホテルの隣室を取り、男を見張ることになる。ところが男は、鞄がすり替えられたことに気づくと拳銃自殺してしまう。
こんなメグレの大失敗から始まる、衝撃的な冒頭を読めば、読書を中断することはできません。
しかも、タイトルの「首吊り」は、冒頭では話のかけらもありません。



*** 以下、ネタバレ ***

上記冒頭は強烈ではあったが、その後はイマイチ話がよくわからない方向へ・・・
(私に変な先入観があって、そのためわけがわからなかっただけかも)

まず、自殺した男、ジュネの関係者と思われる、わけのわからない男たちのグループが登場する。メグレは彼らの一人から襲われそうにもなり、不審に思いながら捜査を続ける。
(旅先の地でよくやるな、という感じですね)
あっ、そうか、彼らの中から犯人当てすればいいのか、なんて安易に考えるが、冒頭で死んだのは自殺だったはず。しかもメグレ物には典型的な本格推理モノはないはずだし。

さらにその後の中盤前、グループの一人が描いた、教会での首吊り男の絵が登場する。
ここでやっとタイトルが出てきた。でも話はよくわからん。
いったいどう考えればいいのか。と、もう一度、振り返って考えようとしたら、中盤でメグレからリュカへの情報開示文が登場する。これでいちおう復習することができた。

その後、種々の流れがあって後半はメグレが上記グループから真相を聞き出すことになる。メンバーたちは独白のように過去を話し出す。
なるほど、犯人当てではなかったが、ミステリーの背景、真相としては比較的ありそうな話だった。

タイトルはずるい気がする。そんなはずはないと思いながらも、横溝的なおどろおどろしさしか想像しなかった。しかも、このタイトルがストーリーの根幹をなすかといえば、そんなこともなかった。
でも、冒頭の自殺から真相開示までを200ページほどに収めたことは、なによりも素晴らしい。コンパクトすぎてちょっとわかりにくい面もあるが、先に読み進むしかないという状況が作り出してある。さすがシムノンです。

*** ネタバレ解除 ***

空さんの書評や、恐ろしいタイトルや、容易に入手できない当時の状況もあって、本サイトでメグレ物を読み始めたころからずっと気になっていました。昨年、新訳が出て今年、念願がかなってようやく読了した次第です。
想定外のストーリーでしたが、上等の満足度です。
瀬名秀明氏の解説も読み応えがありました。

No.6 8点 八二一
(2024/09/15 20:15登録)
駅の待合室で見かけた不審な男を追跡したメグレは、男の拳銃自殺を図る場面を目撃する。男が大事そうに抱えていた鞄に入っていたのは古着のみだった。
登場人物の心理を鋭く捉える筆致に酔いつつ、深い余韻を残す幕切れにため息が漏れる。

No.5 6点 レッドキング
(2023/11/20 22:10登録)
意味不明の自殺と大量の首吊り画。怪奇にして貧寒、神秘にして俗臭の謎を追うメーグレ(メグレでなく)警部。行き着いたのは、浪漫的ニヒリスト、ボヘミアン気どりだった嘗ての若者達。残酷な青春の支配から卒業できなかった彼らの、「超俗的行為」の明かされた真相は・・・「ところが、ただの子供だったのさ」 ※「幽鬼の塔」の方は、「青春」ではなく「カルト」だったな。でも、同じ様なもんか、「カルト」と「青春」。それを喝破した「夏と冬の奏鳴曲」は見事だった。

No.4 7点 虫暮部
(2023/07/20 12:41登録)
 主人公はメグレなる警察官。大金を普通小包で送る男を自殺に追い込む。その不可解さに金のニオイを嗅ぎ付けたか、上司に報告もせず非正規な捜査を進める。と案の定、近寄って来る謎の男達。
 そこで部下には手紙を送る。脅迫者の常套手段、こっちの身に万一のことがあれば然るべきスジに……と言う奴だね。
 秘密に迫るメグレに対して “五万フラン、十万、二十万でどうだ!” と交渉を試みる男。こういう物言いは悪手であって、もっとふんだくれると踏んだメグレは相手にしない。
 ところがいよいよ事の次第が語られるに当たって力関係は一変。あと一ヶ月で時効成立とあってはネタも期限切れ、しかも多勢に無勢。相手方は告白にかこつけて “きみには人を殺す勇気があるのか?” “あるにきまってるだろう” とメグレに脅しをかける。こうなっては、せいぜい友好的な顔で撤退するしかない。
 骨折り損のメグレ。最後のページで痛飲したのもむべなるかな。秘められた内心をわざわざ想像するのは野暮だが、“あの二十万で手を打っときゃ良かった” であろう。

 てな感じで、悪徳警官ものの佳作。
 読者に対してもメグレの真意が巧みに隠蔽されている為、漫然と読むと彼が使命感や好奇心で行動しているようにも思えてしまうところが面白い。
 自殺誘発の件は結局最後まで御咎め無しで腹立たしい。“鞄のすり替え” って、単なる窃盗じゃないか。

No.3 8点 クリスティ再読
(2017/01/29 22:09登録)
本作は特に日本人好みのせいか、いろいろと影響絶大な作品なんだけど、あれ、昔角川文庫で出てたっきりで、現在入手困難な本みたいだ...これ本当にもったいないよ。シムノンはファンは厚いから、数がハケて損しないと思うんだけどな(角川の水谷準の訳は格調も高く、読みやすいイイ訳だが、論創社から新訳で出るうわさがあるようだ)。
影響は、というと乱歩はこれを翻案して「幽鬼の塔」にしているし、本作の冒頭を角田喜久雄は複数作品でパクってるし...で近いところだと「マークスの山」が本作をイタダキしていて鼻白んだオボエがある。そのくらい日本人好みの、「無残な青春」の話である。
がまあ、今の若い人が読めば「黒歴史」な話でもある...昔っからこういうの、あるんだよ。まあ評者だとわが身を顧みてあまり他人様のこと言えない立場にあるから、まさに身の置き場もないな。本作の一番悲惨な自殺者のように、恐喝した金を一銭も使わずすべて燃やし尽くして、元の仲間を夢に強引に縛り付けようとする...そういう立場にはならずに済んだことを、感謝したいくらいのものである。
そんな無残な夢のかたみに。

No.2 7点 mini
(2015/02/05 09:56登録)
論創社からジョルジュ・シムノン「紺碧海岸のメグレ」が刊行された
戦前にアドア社から「自由酒場」の題名で抄訳で刊行されたまま、邦訳が過去に有ったものの中では初期作の中でも最も入手が難しいものの1つだっただけに今回の完訳はシムノンファンならずとも嬉しいところだ
シムノンは中後期作なら比較的に入手容易だが、初期作は創元の「男の首/黄色い犬」以外は入手し難いものが多いだけに初期の作の復刊など各出版社に御願いしたい

「紺碧海岸のメグレ」はメグレシリーズ第17作目で1932年の作である、メグレが初登場したのが「死んだギャレ氏」で1931年作、おぉ!という事は初期には僅か2年で17作以上もシリーズ長編を書いていた事になる、しかもその間にノンシリーズも2作ほど有る、シムノン恐るべし
「死んだギャレ氏」と同年発表のシリーズ第2作が初期の代表作の1つ「サン・フォリアン寺院の首吊人」である、多作だったシムノンの本当に初期中の初期作である
中後期ではゆったり感と言うかちょっと作風が明るめになるシムノンだが、「サン・フォリアン寺院」は初期の特徴である暗く緊迫した雰囲気で、これぞシムノンというようなイメージ通りな作だ

No.1 8点
(2008/12/24 21:46登録)
メグレ警視シリーズ中、最初に読んだ作品であり、今なお最も好きな作品でもあります。
シムノンは自分の作風を印象派になぞらえたことがあったはずですが、国境の小さな駅や夜の街角の情景は、まさにルノワールなどの絵のタッチを思わせる雰囲気があります。
メグレの執拗な捜査に追い詰められた男たちがついに過去の事件の告白を始めるところから、静かな感動がじわじわ広がっていきます。ラスト、立ち去って行くメグレの後姿も印象に残ります。

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