◇・・さんの登録情報 | |
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平均点:6.02点 | 書評数:195件 |
No.195 | 5点 | 殺人をしてみますか? ハリイ・オルズカー |
(2025/05/05 20:23登録) テレビクイズの製作部を背景としたミステリで、その点では目新しい。落ち目になったクイズプロの人気を挽回しようと、やり手のプロデューサーが大奮闘するところは面白いが、ミステリとしては独創的ではない。 死体の捨て場所が意表をついているほかは、動機、殺人方法など、みな陳腐である。 |
No.194 | 4点 | ギデオンの一日 J・J・マリック |
(2025/05/05 20:19登録) ギデオンという鬼警視を中心に、数々の犯罪事件が並行して起こるのを描いた警察日記英国版で、その点に目新しさはあるものの、事件そのものが相も変らぬ強盗や殺人。それを描く作者の眼も通俗的なもので、主人公警視の性格にも魅力がない。 |
No.193 | 7点 | 悪魔のような女 ボアロー&ナルスジャック |
(2025/04/14 21:20登録) セールスマンと愛人の女医が共謀して妻に睡眠薬を飲ませ、浴槽で溺死させ死体を川に投棄するが、死体は発見されず妻からの手紙が舞い込んでセールスマンが脅かされる。 恐怖小説もどきの強烈なサスペンスと意外性のある結末が魅力的。 |
No.192 | 6点 | 影の顔 ボアロー&ナルスジャック |
(2025/04/14 21:18登録) 第二次大戦で盲目となった男が苦労して電気会社を設立するが、妻は共同経営者と密通しており、夫を謀殺しようと画策している。 夫はある日、亡き弟の墓に詣でるが、そこに自分の名前が刻まれているのを指先で確かめる。盲目の身に仕掛けられる様々な死の罠がサスペンスを醸し出し、残酷な結末が強烈な印象を与える。 |
No.191 | 7点 | 巣の絵 水上勉 |
(2025/03/22 20:34登録) 変人画家の毒殺に端を発して、大掛かりな犯罪にまで発展していく不気味な物語。 無残な第二の殺人が起こり、実に巧い状況描写、丹念に計算された効果、そして三分の二を過ぎたところに出てくる名刺の謎。異常にして独創的、かつ飛躍的な展開ぶりに惹きつけられる。 塀の内側を覗き込んで、ちぎった新聞紙を投げ込みながら、何かを覗いている男。このような因果から断絶した行動がある反響となって解決への伏線を作っているのがオリジナルティがあって素晴らしい。 |
No.190 | 8点 | わらの女 カトリーヌ・アルレー |
(2025/03/22 20:28登録) 人間の善意、特性、崇高さなどといったものを無視して、かえってそれ故に人間らしさを感じる。 一種のサスペンスであり、心理的スリラーの枠に入るのだろうが、むしろ読者を極度にワクワクさせながら、同時にサディスティックなまでに冷ややかにさせる。この矛盾した二つの感情が同時に起こる、かつて覚えのない不気味さを味わえる。 |
No.189 | 7点 | 暁の死線 ウィリアム・アイリッシュ |
(2025/03/04 20:39登録) 探偵として事件を追うのは踊り子のブッキー。知り合った同郷の青年クインの無罪を晴らすために、二人で真相を追いかける。ブッキーはクインが行った軽い犯罪のために、事件に巻き込まれてしまう。さらにクインに降りかかった殺人の容疑を晴らすべく奮闘する。 このブッキーの動機の説得力として、作者は当時の世相だったり、ブッキー自身の履歴を綿密に作っている。それゆえに故郷に帰る始発バスの時刻がタイムリミットとして必然性になっていて、サスペンス性を強調する効果を発揮している。 |
No.188 | 8点 | 殺しにいたるメモ ニコラス・ブレイク |
(2025/03/04 20:31登録) 連合軍の勝利に沸く一方で、奇妙な雰囲気が漂い始めた戦意昂揚省の広報宣伝局を舞台に、やり手の局長ジミー・レイクの愛人だったアシスタントのニタ・プリンスが衆人環境のパーティの席上で毒殺された事件を巡って、自らも犯行現場に居合わせたナイジェルが独自の捜査を展開する。事件は男女の複雑な四角関係に起因するものなのか。密室状態の犯行現場から消えた毒入りカプセルの行方は。そして、省内の同僚たちが示す不審な働きと毒殺事件の繋がりは。 容疑者たちの何気ない言動を細かく分析して、犯行の全容を少しずつ導き出していくナイジェルの推理は切れ味が鋭く、名脇役ブランド警視との気心の知れたディスカッションは、これぞ探偵小説の醍醐味という知的な興趣にあふれている。盲点を突いた毒殺トリックも、決して派手なものではないが、伏線の張り方やディテールの細かいところが良く考え抜かれていて感心させられた。 |
No.187 | 4点 | 石の眼 安部公房 |
(2025/02/10 20:46登録) ダムの工事に不正があり、満水時には決壊の恐れがある。もみ消し対策に狂奔する関係者のあがき。ある朝、そこへ殺し屋が登場する。彼は工事作業中の中に、むかし親分を密告した奴がいるのに嗅ぎ付けてやって来たのだ。 このようにお膳立てはそろっているが、構成人物が無個性で魅力に乏しく、スリラーとして緊迫感にかけている。 |
No.186 | 4点 | 証人脅迫 ナンシー・テイラー・ローゼンバーグ |
(2025/02/10 20:41登録) 保護観察官のアンは、刑事補で恋人のグレンと法制度の不備や限界について論議していた。麻薬漬けのしたたかな若者ソーヤが保護観察処分で、よりによってアンの管轄になったのだ。アンは駐車場で何者かに狙撃され、その後どうにか仕事に復帰した直後、自宅でレイプされかけた上、殺されかけた。しかも息子の命まで狙われているようだ。 作者自身、保護観察官の経験があるというだけあって、勾留中の犯罪者たちが主人公につけたあだ名「死の天使」のエピソードやビンゴシートなる書式の存在など、リアルで興味深い。だが巻き込まれ型のヒロインは、結局男だのみの甘やかされようだし、犯人像も途中で見当がつく上に性格描写が浅く、安易感は否めない。 |
No.185 | 5点 | 英国情報部員―秘密作戦 リチャード・ジェサップ |
(2025/01/20 20:50登録) 任務遂行のために主人公が集めたメンバーが、米陸軍不名誉除隊者、イタリア人犯罪者、元ナチ党員、粗暴なフランス人の大男と、いずれも一癖も二癖もあり魅力的。そんなはぐれ者を訓練して、目的の品を奪うために南仏に建つ館を襲撃するという設定が面白い。 メンバー内に潜む裏切り者探しは、この手のお約束だが結末は予想外だった。巻き込まれ型の冒険活劇小説としては及第点。 |
No.184 | 5点 | 秘密指令 M・E・チェイバー |
(2025/01/20 20:44登録) マイロが上官から与えられた任務は、東ベルリンに行ったきり姿を消してしまった西ドイツ諜報機関のトップとプレイボーイとして名を馳せていた主治医を探し出して、二人とも連れ戻すこと。 陽気で一匹狼邸な性格のマイロが、軍のお偉方の意向を無視して活動する痛快さも相まって、東西に分断されたベルリンという冷戦の最前線が舞台の割には後味が爽やか。 |
No.183 | 6点 | 苦い林檎酒 ピーター・ラヴゼイ |
(2024/12/27 21:13登録) イギリスで暮らしている主人公を、一人の娘が訪ねてくるところから物語は始まる。彼女は二十年前の殺人事件で主人公が証言したために死刑判決を受けた男の娘で、父の無実を証明するためアメリカからやってきた。 特に大きなトリックやどんでん返しはないが、情景の描写が緻密で、絵になる良い場面が続出するところに感心。最大の特徴は、人物描写が極めてリアルで魅力があるところでしょう。 |
No.182 | 6点 | 皇帝のいない八月 小林久三 |
(2024/12/27 21:07登録) 二重売りされた寝台券を持って特急「さくら」に乗った記者の石森は、そこで五年前に黙って姿を消した恋人、江見杏子に会う。杏子の父は元陸将補で、未遂に終わった自衛隊のクーデター計画を調査していた。 その列車には、新たなクーデター計画に基づいて上京する自衛隊の一団が乗っていた。彼らが射殺した人物を運び出す場面を目撃した石森と杏子は、列車内に監禁されてしまう。一方、青森から上京する途中で事故を起こした自衛隊のトラックから大量の兵器が発見された。内閣調査室長の利倉は、防衛長官に徹底調査を進言したのだが。 当時、実際あったクーデター未遂事件を背景に、政界の内幕をリアルに描いて緊迫感を盛り上げている。推理とサスペンスが見事に融合している。 |
No.181 | 5点 | 猫の心を持つ男 マイケル・アレン・ディモック |
(2024/11/17 20:54登録) 主人公は精神科医で、自分の患者が謎の死を遂げたことから、その背景を調査し始める。 ストーリーはダークだが、そこに流れている雰囲気は淡々として洒落ている。登場人物はナイーブな人間ばかりで、社会で真っ当に生活している成功者というのはあまり出てこない。倫理観や従来の枠組みが壊れた退廃的なところは、映画「ブレードランナー」のような世界観を感じさせる。 |
No.180 | 8点 | 証拠死体 パトリシア・コーンウェル |
(2024/11/17 20:47登録) ある女性作家が自宅で惨殺死体で発見される。彼女は脅迫を受けていて、それから逃れるために避難していたはずなのに、なぜか脅迫者の待つ自宅へ戻ってきて、その夜に殺されてしまった。どうしてなのか、というのが最初の謎。主人公のケイが捜査を進めるにつれて、複雑に錯綜した事件の全貌が浮かび上がる。 このシリーズは、検視官による科学捜査が丁寧に描かれているのが特徴だが、豊かな情報量で作品を肉付けして雰囲気を出すという技法で成功している。スカーペッタの人物描写もリアル。脇役陣にも個性ある人物が揃っていて凄い。 |
No.179 | 6点 | レッド・ドラゴン トマス・ハリス |
(2024/10/29 20:27登録) 満月の夜に連続して起こる殺人事件を描いたもので、サイコものの極めつけと言っても良い。動機探しのミッシングリンクの要素もある。 元FBI捜査官のグレアム探偵の推理方法が変わっていて、ひたすら犯人に同化して推理を進めていく。その意味では、FBIのプロファイリング捜査を扱った草分け的作品でしょう。 |
No.178 | 4点 | 修道士マウロの地図 ジェイムズ・カウアン |
(2024/10/29 20:18登録) 十六世紀のヴェネツィア。メキタル修道院の庵室で、修道士マウロはインドへ旅した旅行者の話に耳を傾ける。 実在した人物マウロを素材に虚実を織り込んで、風変わりな中世夢想譚を見出している。部屋から動かずに地図を作る設定は、アームチェア探偵の変種と言えるだろうし、内なるものを探る哲学的テーマにミステリの作意を感じさせはするが、どっちつかずの中途半端さが残る。 |
No.177 | 6点 | 首つり判事 ブルース・ハミルトン |
(2024/10/08 21:04登録) 痛烈な裁判批判を実にスマートな感覚の娯楽小説に仕立てている。 重苦しい救われない物語だが、社会正義をバックボーンとした筆力に惹きつけられる。巧妙なミスリードとどんでん返しが一層、興趣を盛り上げる。 |
No.176 | 6点 | 無実はさいなむ アガサ・クリスティー |
(2024/10/08 21:00登録) ある家に殺人が起こり、不良息子が逮捕され、アリバイの主張にも拘わらず確証のないまま有罪となり、ついに獄死する。ところが真相を知っている一人の男が悲劇の館を訪れるというところから物語の幕が切って落とされる。 巧妙な状況設定は、久しぶりに貫録を示したものと言えるが、展開の部分には誤算がある。無実にさいなまれる一群を描こうとしながら、実は最後まで犯人を明かさぬため、誰が無実なのか分からない。それでもこの辺が動きに富んでいればよかったが、劇的な場面もなく、後半は飛ばしながら読む以外にはなくなるほど退屈であった。 |