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ミステリの祭典

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◇・・さんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:206件

プロフィール| 書評

No.206 6点 理想的な容疑者
カトリーヌ・アルレー
(2025/08/16 21:52登録)
夫婦喧嘩の挙句に妻を自動車から放り出した男が、その後妻がひき逃げされたのではないかと案じられる立場に立たたされ、遂には妻殺しの容疑者として逮捕される。
いかにもフランス心理小説の伝統を踏まえた繊細で皮肉で哀しいミステリとなっており、男と女の間に横たわる永遠の暗黒が、くっきりと姿を現わしてくるのがいい。


No.205 7点 わが目の悪魔
ルース・レンデル
(2025/08/16 21:45登録)
ロンドン市西北の一画の独身下宿に住む同性の二人の男。同性ながら似ても似つかぬ二人。
この二人が同姓ゆえの郵便物の取り違えをきっかけとするトラブルに巻き込まれる過程を交互に描く着想がうまい。しかも、一方が相手に抱く疑心暗鬼を片方は知らず、その些細な日常生活の行き違いが恐ろしい破局へと徐々に発展する面白さ。これぞサスペンスの醍醐味。この原タイトルの邦訳は予告では「わが目には悪魔と見えて」だったらしいが、この方がいいのになぜ変更されたのかが疑問。


No.204 7点 死の泉
皆川博子
(2025/07/30 19:33登録)
ナチスの優生施設を舞台に、エリート医師クラウスの、なかば狂気ともいえる美への執着が引き起こした悲劇を中心に語られている。
ここには、プロットに始まり舞台設定、人物造形、心理描写にいたるまで、あらゆる点において、この二層構造の仕掛けが生きている。また単なる謎解きで終わらない人間ドラマとしての魅力も十分兼ね備えている。


No.203 4点 血ぬられた報酬
ニコラス・ブレイク
(2025/07/30 19:26登録)
犯罪計画そのものに緻密性を欠く上に、犯罪者の一人が超人的な底の浅い人物のため、心理描写が退屈になる個所が多いのが残念。


No.202 8点 九尾の猫
エラリイ・クイーン
(2025/07/11 21:14登録)
連続殺人鬼(猫)との戦いを描いた傑作。
メディア社会の中の名探偵の苦悩という問題をリアリズムに扱い、現在もなおその尖鋭性を失っていない衝撃作。


No.201 6点 時計の中の骸骨
カーター・ディクスン
(2025/07/11 21:12登録)
古い大時計を巡るオークションでのドタバタ騒ぎに始まるシリーズ中、最もスラップスティックな一作。
卿の暴れっぷりが楽しいながらも、どことなく不気味な作品。


No.200 7点 第二の銃声
アントニイ・バークリー
(2025/06/28 18:38登録)
余興で行われた「殺人ゲーム」の被害者役が本当に射殺されてしまう。容疑者だらけの状況下、シュリンガムは、7通りの解決に辿り着くのだが。
大胆かつ皮肉に満ちた構成はあまりにも印象的。


No.199 7点 シャドー81
ルシアン・ネイハム
(2025/06/28 18:35登録)
米空軍パイロットがベトナム戦争中に戦闘爆撃機を見事に窃取し、それを使ってジャンボ旅客機をハイジャック、乗客と引き替えに巨額の金塊を要求する。
アイデアやストーリーが斬新で、その奇想天外さを納得いくリアルさで描いている。


No.198 7点 殺す風
マーガレット・ミラー
(2025/06/13 20:43登録)
平凡な日常性の中に、どこか明確には指摘しにくいような異常性をとらえている。ありふれたメロドラマでありながら、その影にミラーという気味の悪い女性の眼が陰々と光っているのが分かる。
男の行方不明に至るまでの展開が、達者な会話で運ばれつつ、徐々に不安が広がっていく効果が巧い。


No.197 4点 海の牙
水上勉
(2025/06/13 20:39登録)
水俣病に材をとり、リアリスティックな描写で圧倒される。これがどこまで、実際の状況に則っているのかは分からないが、症状にはショックを与えられる。
ただ惜しむらくは、こういった社会悪の追求が、ありきたりのロマンチシズムに堕している。目を向けるべき対象をないがしろにしてセンチメンタルにすり替えてしまっているところが残念。このことは、犯行の動機にも言える。


No.196 6点 スイート・ホーム殺人事件
クレイグ・ライス
(2025/05/25 20:23登録)
女流ミステリ作家マリアン・カーステアズには長男アーチ―十歳、長女ダイアナ十四歳、次女エイプリル十二歳の三人の子供がいる。隣家で殺人が起こると、子供たちはその犯人を捜し出し、ママの手柄にして著書が売れるようにと、警察を出し抜きあれこれデータを集めてまわる。この子供たちの活躍が、作品を愉快でほのぼのとしたものにしている。


No.195 8点 黄色い部屋の謎
ガストン・ルルー
(2025/05/25 20:18登録)
密室や犯人消失など古典的なミステリの構成をとりながら、本格推理ものにありがちな、分析哲学めいた謎解きのための謎解きではない推理を楽しめる。
事件を通して登場人物たちの隠された過去、とりわけ新聞記者である主人公ルールタビーユの抑圧された過去が見えてくるところは、優れた精神分析のテクストを読むような興奮がある。


No.194 5点 殺人をしてみますか?
ハリイ・オルズカー
(2025/05/05 20:23登録)
テレビクイズの製作部を背景としたミステリで、その点では目新しい。落ち目になったクイズプロの人気を挽回しようと、やり手のプロデューサーが大奮闘するところは面白いが、ミステリとしては独創的ではない。
死体の捨て場所が意表をついているほかは、動機、殺人方法など、みな陳腐である。


No.193 4点 ギデオンの一日
J・J・マリック
(2025/05/05 20:19登録)
ギデオンという鬼警視を中心に、数々の犯罪事件が並行して起こるのを描いた警察日記英国版で、その点に目新しさはあるものの、事件そのものが相も変らぬ強盗や殺人。それを描く作者の眼も通俗的なもので、主人公警視の性格にも魅力がない。


No.192 7点 悪魔のような女
ボアロー&ナルスジャック
(2025/04/14 21:20登録)
セールスマンと愛人の女医が共謀して妻に睡眠薬を飲ませ、浴槽で溺死させ死体を川に投棄するが、死体は発見されず妻からの手紙が舞い込んでセールスマンが脅かされる。
恐怖小説もどきの強烈なサスペンスと意外性のある結末が魅力的。


No.191 6点 影の顔
ボアロー&ナルスジャック
(2025/04/14 21:18登録)
第二次大戦で盲目となった男が苦労して電気会社を設立するが、妻は共同経営者と密通しており、夫を謀殺しようと画策している。
夫はある日、亡き弟の墓に詣でるが、そこに自分の名前が刻まれているのを指先で確かめる。盲目の身に仕掛けられる様々な死の罠がサスペンスを醸し出し、残酷な結末が強烈な印象を与える。


No.190 7点 巣の絵
水上勉
(2025/03/22 20:34登録)
変人画家の毒殺に端を発して、大掛かりな犯罪にまで発展していく不気味な物語。
無残な第二の殺人が起こり、実に巧い状況描写、丹念に計算された効果、そして三分の二を過ぎたところに出てくる名刺の謎。異常にして独創的、かつ飛躍的な展開ぶりに惹きつけられる。
塀の内側を覗き込んで、ちぎった新聞紙を投げ込みながら、何かを覗いている男。このような因果から断絶した行動がある反響となって解決への伏線を作っているのがオリジナルティがあって素晴らしい。


No.189 8点 わらの女
カトリーヌ・アルレー
(2025/03/22 20:28登録)
人間の善意、特性、崇高さなどといったものを無視して、かえってそれ故に人間らしさを感じる。
一種のサスペンスであり、心理的スリラーの枠に入るのだろうが、むしろ読者を極度にワクワクさせながら、同時にサディスティックなまでに冷ややかにさせる。この矛盾した二つの感情が同時に起こる、かつて覚えのない不気味さを味わえる。


No.188 7点 暁の死線
ウィリアム・アイリッシュ
(2025/03/04 20:39登録)
探偵として事件を追うのは踊り子のブッキー。知り合った同郷の青年クインの無罪を晴らすために、二人で真相を追いかける。ブッキーはクインが行った軽い犯罪のために、事件に巻き込まれてしまう。さらにクインに降りかかった殺人の容疑を晴らすべく奮闘する。
このブッキーの動機の説得力として、作者は当時の世相だったり、ブッキー自身の履歴を綿密に作っている。それゆえに故郷に帰る始発バスの時刻がタイムリミットとして必然性になっていて、サスペンス性を強調する効果を発揮している。


No.187 8点 殺しにいたるメモ
ニコラス・ブレイク
(2025/03/04 20:31登録)
連合軍の勝利に沸く一方で、奇妙な雰囲気が漂い始めた戦意昂揚省の広報宣伝局を舞台に、やり手の局長ジミー・レイクの愛人だったアシスタントのニタ・プリンスが衆人環境のパーティの席上で毒殺された事件を巡って、自らも犯行現場に居合わせたナイジェルが独自の捜査を展開する。事件は男女の複雑な四角関係に起因するものなのか。密室状態の犯行現場から消えた毒入りカプセルの行方は。そして、省内の同僚たちが示す不審な働きと毒殺事件の繋がりは。
容疑者たちの何気ない言動を細かく分析して、犯行の全容を少しずつ導き出していくナイジェルの推理は切れ味が鋭く、名脇役ブランド警視との気心の知れたディスカッションは、これぞ探偵小説の醍醐味という知的な興趣にあふれている。盲点を突いた毒殺トリックも、決して派手なものではないが、伏線の張り方やディテールの細かいところが良く考え抜かれていて感心させられた。

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