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ミステリの祭典

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聖アンセルム923号室

作家 コーネル・ウールリッチ
出版日1959年01月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 7点 クリスティ再読
(2022/02/16 22:29登録)
ウールリッチというと「甘口」というパブリック・イメージがあるけども、本作は「辛口」。ロマンの陰にある「人生の辛い面」に視線が吸い寄せられてしまうのは、ウールリッチでも晩年の作品に本作がなるからだろうし、また評者もそろそろ歳なこともあるのかもしれない(苦笑)

第一次大戦の開始と終結を描いた第2話・第3話あたり、愛国熱に浮かされて衝動的に結婚した男女が聖アンセルムホテルに宿を取る陰に、敵国となったドイツ系の宿泊客が追い出される犠牲があったりする。終戦後に同じ部屋での再会を約して出征した若者は...そういう人生の興ざめな姿もウールリッチは余さずに描く。この連作にはそういう「カラさ」があるからこそ、不用意にミステリにできなかったんじゃないのかな。「オチ」によって物語が救済しきれない人生が、ホテルの一室に託されているわけだ。

最終話で第一話が回顧されるわけだけども、そこでかつての花嫁が自分を「幸福」と語るのが、いいようもなく読者を揺さぶる。これこそは「オチ」とか「真相」の対極にあるものなのだろう。ウールリッチ節はそのままなのだが、ミステリという「作為」では描けないところをやりたかったのだろうなあ。

No.4 6点 蟷螂の斧
(2022/01/27 15:38登録)
ホテル開業の日から廃業の日まで、最上階の923号室に泊まった客の7つの物語。非ミステリー系ですが、著者らしさは堪能できます。
①1896.6.20の夜 ホテルオープンの日、若い新婚夫婦が泊った。新婦が着替えるので新郎はドアの外で待つが・・・
②1917.4.6の夜 青年は軍服を着て意中の女の子を誘う。宣戦布告がされ・・・
③1918.11.11の夜 終戦の日、再会した二人は、どちらともぎこちない・・・
④1924.2.17の夜 ギャングのボスが仲間を連れ、敵から逃げてきた・・・
⑤1929.10.24 NY株価が大暴落。大損害を被った男は飛び降り自殺を考え・・・
⑥・・・・・・・・の夜 駆け落ちしてきた若い二人。彼女は彼のことを「ケン」と呼んだ・・・・「・・・の夜」と名前の意味がラストで
⑦1957.9.30 ホテル閉館の夜、老女がやってきた。彼女は第一話の登場の女性であった・・・切ない物語ですが、ある意味怖い

No.3 6点 斎藤警部
(2018/11/24 11:31登録)
枯葉のように軽くも、心に残る物語を秘めた一冊。巻末、都筑氏の「(作者も銘打つ通りミステリではない本作が何故ミステリ叢書に入っているのか、という質問は)すでに本文を読み終わって、この解説を読んでおられる読者からは、出ないはずで、なぜ出ないかは、本文をお読みになればすぐわかる」がエヴリスィングを物語っていよう。

20年代末(もうすぐまた20年代がやって来る!)の社会事象に搦めとられて今にも自殺せんとする実業家の淡々としたユーモアと勇気の物語がいちばん心に残ります。民族ネタできわどく落としたあのショート・ショートは何とも捩れた感慨をくれました(これぞミステリ型感動)。 若い二人の衝動結婚と詰まらない別れの話はどうでもいいが時の流れを見せてくれたからよろしかろ、戦争を契機とするバカみたいな民族対立エピソードも哀しきスパイス(アメリカの公用語は当初ドイツ語になるかも知れない流れだったんだぜ。だいたい国名からしてイタリア語じゃないのさ!)。 悪党没落心理劇は適度にスリルとミステリ性があって良し。 最終作を怒涛のクライマックスにしなかったのも素敵。

No.2 5点 こう
(2012/02/22 23:22登録)
独特のアイリッシュらしい雰囲気を味わえるストーリーで特に6話目の「・・・・・・・の夜」のその後が想像を掻き立てるのと最終話が1話目につながる所は味わいがありました。但し全体としてはミステリとは言えない作品でした。

No.1 6点 kanamori
(2010/09/11 23:00登録)
ウールリッチは長らく母親とともにホテル暮らしをしていて、そのホテルの一室に献辞をした作品もあったと記憶していますが、本書はホテルの一室自体が主人公のようなオムニバス短編集です。
19世紀末から20世紀半ば過ぎまでの60年間あまりの間、その部屋を利用した様々な人々の悲喜劇が綴られていて、ミステリ趣向はないものの、余韻が残る物語に溢れています。特に第1話と繋がる最終話のエピソードには参りました。さすが、ウールリッチです。

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