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ミステリの祭典

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叫びと祈り

作家 梓崎優
出版日2010年02月
平均点6.70点
書評数20人

No.20 6点 レッドキング
(2024/11/01 00:12登録)
砂漠・スペイン・ロシア・アマゾンを舞台にした四短編に一編プラスして連作集に纏めてある(か?)。
  「砂漠を走る船の道」 小キャラバン隊での斬殺事件のユニークなWhyに、ユニークな叙述トリック付き。8点
  「白い巨人」 数世紀を隔てた風車密室からの人間消失。(京極の「あれ」やね) 5点。
  「凍れるルーシー」 ロシア正教修道院での聖女不腐屍体を巡る「事件」・・・ん? 4点。
  「叫び」 死病による絶滅を前にした未開種族での連続刺殺事件。第一編の逆を行く「構造主義的」Whyが見事。7点
  「祈り」 上の四短編を纏めた、ハッピーエンディングなプチドグラマグラ。採点対象外

No.19 7点 makomako
(2019/11/10 08:08登録)
第1作の「砂漠を走る船の道」は久しぶりに「やられた」といった感じを受けた短編でした。
 これが抜群に良い出来と思います。本格物が好きならきっと楽しめます。好みが異なれば単にばかばかしいだけかもしれないので、推理ゲームを楽しむという方限定なのかもしれません。
 連作集ですがどの作品も主人公が同じというだけであって、お話自体はつながりがほとんどありません。最後の祈りだけが多少つながりを感じさせる程度なのである意味どこから読んでもよいといえそうです。
 いずれ劣らぬ変わったシチュエーションでの出来事で、そこでしか成立しえないお話です。よくこんなこと考えたなあ。作者の才能を感じます。
 ただ最後の「祈り」はちょっと落ちるような気がします。あまりに幻想的過ぎる印象でした。

No.18 7点 びーじぇー
(2019/08/06 16:52登録)
本書は雑誌記者の斉木が世界の各国で遭遇した奇怪な事件の数々を描いた連作短編集。
塩を求めて旅するキャラバンに同行していた斉木。無事、塩を手に入れた一行だが、帰路でキャラバンの長が不慮の死を遂げてしまった。そしてその死がきっかけとなり、ひとり、またひとりと殺されていく。見渡す限り一面の砂漠の中での連続殺人に何の意味があるのか。その連続殺人の真相を鮮やかに描き、謎解きを物語として見事に昇華させた「砂漠を走る船の道」は、選考委員の絶賛を受け、第5回ミステリーズ!新人賞を受賞。本書はその短篇に劣らぬミステリとしての瑞々しい知性を溢れさせた数々の作品が収められている。「白い巨人」の推理合戦の妙と微笑ましい結末、「凍れるルーシー」の合理精神と幻想的な終幕、「叫び」での異文化から導かれた終末的世界観の論理。
短編ごとに語りや雰囲気を変え、二度三度と読者を翻弄するその構成力は驚嘆に値する。そして昇華された物語たちをひとつに繋ぐ「祈り」は、ミステリとしての物語が持つ豊饒さをあらためて読者に問うている。

No.17 7点 sophia
(2018/08/26 16:36登録)
独特の硬質な文章でちょっと読みにくかったです。主人公の人となりがあまり見えませんし。全体的に紀行文としては面白いですがミステリーとしては微妙な出来でしょうか。「凍れるルーシー」の猫が鳴いた回数や「叫び」の川で服を洗う時間の論理などがちょっと頼りない。

No.16 7点 パメル
(2017/12/12 13:58登録)
世界を旅するジャーナリスト・斉木が遭遇した奇妙な事件をめぐる物語が5編収録されている連作集。
苛酷な環境や、特異な集団内で起こる出来事に対して、まずは謎とその推理が次々と示されていく。異国の気候や風景を記す文章も臨場感があり鮮やか。広大な砂漠、夏のスペイン、秋の修道院と毎回場所や季節は違っても、たちまち物語に引き込まれてしまう。
作者は、それぞれの土地の風俗や伝説、人々の習慣や信仰などをもとに、残酷な殺人、ロマンチックな謎、狂気の世界を用意し、毎回ラストで驚くべき真相を明かしている。日本人旅行者の視点を巧みに生かした語りもお見事。

No.15 8点 青い車
(2016/07/22 16:40登録)
 ざっくりと各篇の感想を。
 『砂漠を走る船の道』は文句なしの傑作。この現代にここまで読み手を驚かせる動機を発明したのはすごいです。遠い異国の人間の、異常な論理に驚愕しました。
 『白い巨人』はあくまで相対的にではあるもののやや落ちる出来。彼女がどう消えたのか?に関しての謎は拍子抜けです。小説としてはまずまず。
 続く『凍れるルーシー』はラスト一行の衝撃が凄まじい作品です。地に足の着いた謎解きと、非科学とが合わさった奇妙な味が楽しめます。
 『叫び』も一話目と同様に異常な論理から生まれた動機が軸です。ただし、前者のインパクトに霞んでしまった気もします。
 そして締めの『祈り』が何と言っても印象的でした。こういうエンディングがあるだけで満足感は変わってきます。蛇足という人もいますが。
 総括すると、異国ばかりで事件が起きる、という趣向に必然性があってどれも水準は高いと思います。ベストは意外と『凍れるルーシー』だったりします。

No.14 8点 Tetchy
(2016/06/17 23:57登録)
2016年の現在、たまたま海外に住んでいる私にとってここに書かれている独特の論理や倫理観は全く特別なことではない。日本人の考え方は世界のグローバルスタンダードではなく、先進国となり、儒教の教えが今なお残っている日本の長い歴史で培われた独特の考え方であることを再認識させられる。

本書もまたそうで、国、地域そして宗教の数だけ独特の考え、倫理観がある。
砂漠という過酷な環境で生活せざるを得ない人々にとって何が一番大事なのか?
聖女の存在を信じた修道女にとって聖人とは決して腐敗しない存在でなければならなかった。
強烈な伝染病に侵された部族が滅ぶしかない状況の中で敢えて連続殺人が起こる理由とは?

これらの問いの答えが明らかになる時、我々に刷り込まれた人の命を尊ぶ道徳観が脆くも崩れ去る。先進国に住む平和な我々には想像できないほど明日への保証のない後進国では自身が生きるために他者を殺すことなど平気でするのだから。人の死もまた自分の生活のために利用するのが彼らの論理だ。

また梓崎氏がミステリシーンにもたらしたのはこのような海外の国々で醸成された倫理観や価値観を導入しただけではない。携帯電話の普及や最先端の科学を応用した警察捜査が横行する現代にあってまだそれらが介在できない状況があることを示したのもまた本書の大きな成果の一つだ。
目の前に広がるのは砂の海ばかりという砂漠の只中や携帯は圏外となるアマゾンの奥地では人が死んでも容易には警察は来られない。この事実には目を開かされる思いがした。21世紀の今でも警察が介入できない状況があることを梓崎氏は斬新な手法で我々に示してくれたのだ。それはやはり日本だけで物語を繰り広げていては嵐の中の山荘程度の発想しか出来なかっただろう。世界へと外側へミステリを開いていったことがこの成果に繋がったのだ。

そして平和な日本では測れない尺度で物事が進行し、容易に人の命でさえ奪われる環境に身を置いた斉木もまたこれらの物語に取り込まれていく。
彼が記憶を無くす物語「祈り」で彼が抱えた心の傷の深さがしみじみと伝わってくる。彼が回復するのもまた彼が経験した数々の物語だった。
そしてこういう作品を最後に持ってきた作者の手腕に感嘆する。創元推理文庫で上梓される新人の短編集は最後の1編で今までの短編に隠されたミッシングリンクが明かされるのが常だが、それが時にキワモノめいてやりすぎの感が否めないものもあった。しかし本書では主人公斉木が回復するファクターとして用いられる。特に驚いたのは収録作でも異色の「白い巨人」に登場した人物が重要なキャラクターとして再登場することだ。正直この短編のみ本書の世界観とそぐわないため、私の本書の評価が5ツ星ではなく4ツ星となったのだが、まさかこの1編も一つの大きな輪となるとは思わなかった。だからこそ逆に勿体ないとさらに思ってしまうのだが。

最後まで読むとなぜ本書のタイトルが『叫びと祈り』なのかが解る。世界を巡る斉木は人間にとって生きることが困難な世界の残酷さとそこで生きざるを得ないために残酷な道を選ぶ人々に対して叫んだのだ。しかしそれでも世界は美しいと信じたいがために祈りを捧げる。明日を信じてまた斉木はまだ見ぬ世界へと旅立つのだろう。

日本の本格ミステリよ、新たな論理を求めて海の外へ繰り出そうではないか。まだまだ未知なる謎と論理の沃野は果てしなく広がっているのだから。

No.13 7点 tider-tiger
(2016/03/27 13:31登録)
良い短編が二つ、まあまあが一つ、悪くはないがこの短篇集の中では浮いている話が一つ、番外編一つといった評価です。
最後の『祈り』でまとめるのではなく、「部外者には理解し難い理由で事件が起きる話」だけで一冊の短篇集にすれば良かったのではないかと感じました。
本来なら日本人には理解できない事件ばかり、しかし、異なる価値観を持つこれらの世界のことを読者は読み進めるうちにある程度は理解できて(もちろん共感はできないでしょうが)、もしかしたらこの人たちはこんなことを考えるのではないかと動機を推理(推測?)できるように書く。ここまでやれば異なる文化圏の考え方を推理するという新しいタイプのミステリが誕生したかも。
それにある程度成功しているのが「砂漠を走る船の道」「凍れるルーシー」の二編で砂漠の評価が高いようですが、ルーシーも遜色なしと私は思います。
「叫び」は話の性質上仕方がないとはいえ、原住民たちの価値観を推し量る材料がほとんど出ないうちに事件発生、動機を聞かされてもいまいち納得し難い。エンタメとしては悪くないと思いますが。
そして、浮いているのは……「白い巨人」おめえだ。おめえはただ外国を舞台にしているだけなんだよ! 読後感は悪くないんですけどね。でも、愛し合っていた二人がなんでこんな状況になってしまうのか理解できません。他にやりようがあったろうに。
最後の「祈り」については、まあそれは、いろいろありますよ。
本屋大賞候補だけあって、なかなか楽しめました。

No.12 8点 アイス・コーヒー
(2014/09/20 22:36登録)
翻訳ミステリを読むと、日本では考えられない理由で犯罪が起きることがある。本作はその「ギャップ」をあえてテーマに据えて書かれた連作短編集だ。あるジャーナリストの青年・斉木が世界各地で遭遇する奇怪な事件が並んでいる。

デビュー作「砂漠を走る船の道」はかなり面白い。砂漠のキャラバンで起こる連続殺人という、特殊なクローズドサークル下での犯人当てとその犯行動機には驚愕させられる。さらにその上にもう一工夫加えてくる執念深さにも感嘆。詩的な情景描写を中心とする独特の文体も一役買って、実に魅力的な一編となっているのでこれだけでも本作を読む価値はある。
スペインの風車に伝わる「消えた兵士」の謎を巡って推理合戦が繰り広げられる「白い巨人」も、衝撃こそ前作に劣るもののかなりよく出来た仕上がりになっている。密室での消失トリックは色々とアレではあるが、儚い恋を描いたこの内容なら不思議と許せてしまう。
南ロシアの決して朽ちない聖人の遺体を巡る「凍れるルーシー」は前二作で慣れた読者にとっては、トリックがわかりやすくなっていて残念だ。しかし、ホワイダニットの伏線回収は見事で結末の衝撃も中々。唯一あの猫のロジックだけは気に入らないが。
「叫び」は南米の未開民族の部落で伝染病が流行る中、突然連続殺人が発生する話。内容としては「砂漠を走る船の道」に近いが、動機はそれよりさらに捻くれてる。(いや、単純化されてるというべきか。)
そして、四編の短編が最後の「祈り」で収束する。確かに展開が突然すぎるのは、それまでの連作が面白かっただけに勿体ない気もするが、一つの結末として納得することにしよう。
振り返ってみればまだ不器用ではあるが、かなりの力量を持つ大型新人だ。これからも本格ミステリの新たな地平を開拓していただきたい。

No.11 6点 メルカトル
(2014/05/13 22:28登録)
異色の5篇の短編からなる連作短編集。中でも『砂漠を走る船の道』は傑作で、他も同レベルなら9点を付けるのに吝かではなかっただろうし、当然本屋大賞も受賞していたに違いない。
だがしかし、どの作品も異国の空気感を存分に味わうことができ、その意味では一読の価値はあると思う。そこはかとなく漂う文学の香りを好ましく思いながらも、ミステリ色がやや薄いことに物足りなさを覚えてしまうのは、一ミステリファンとして致し方のないところか。
他の方も指摘されているように、最終話は取ってつけたようなわざとらしさが感じられて、どうにもスッキリしない。別に連作だからと言って、最後でうまくまとめようとしなくてもよかったのにと思ってしまう。
繰り返すが、第一話のような名作を書き上げるだけの手腕の持ち主であるならば、もっと時間を掛けても他の作品に力を注いでほしかった。そうすれば、正真正銘、十年に一度の稀有な短編集が生まれたのではないかと思うと、歯がゆさを禁じ得ない。それでも第一話の『砂漠を走る船の道』は素晴らしく、これだけでも読む価値はあるだろう。

No.10 7点 いいちこ
(2014/04/04 18:54登録)
各話とも舞台設定を活かし切ったプロットが素晴らしく、テクニカルな筆致が光る。
特に「砂漠を走る船の道」の真相の美しさ・衝撃度は別格で、ホワイダニットとしては最高級。
それだけに、随所で用いられる●●トリックのぎこちなさ、そして何より最終話「祈り」の結末が蛇足に感じられて残念。

No.9 7点 E-BANKER
(2013/12/15 11:48登録)
~選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで突き進む驚異の連作推理。「週刊文春ミステリーベストテン国内部門第二位をはじめ、各種ミステリーランキングの上位を席巻、本屋大賞にまでもノミネートされるなど破格の評価を受けた大型新人のデビュー作~

①「砂漠を走る船の道」=舞台はアフリカ大陸に跨る砂漠。“砂漠の船”足るラクダとともに貴重な塩を運ぶ隊商たち。彼らのなかで巻き起こる連続殺人(?)事件が本編の謎。とにかく美しい! そして何より殺人に至る動機が驚きの一言。
②「白い巨人」=舞台はスペインの小都市。その昔、イスラム教に征服された街。街の名物ともいえる巨大な風車を舞台に起こる人間消失が本編の謎。探偵役の斉木が解明した真相はかなり本質的なものだが・・・。これも美しい風景が目に浮かぶ。
③「凍れるルーシー」=舞台はロシア。ロシア正教会に属する修道院。そこで“聖人”と呼ばれるリザベーダという存在。柩の中に眠る彼女はまるで昨日今日死んだばかりの如く新鮮な姿だという・・・。トリックは実にミステリーっぽいというか、このトリックだけ取り出すと、なんだか薄っぺらく見えてしまうのだが、これはもう舞台設定の勝利だろう。
④「叫び」=舞台はアマゾンの熱帯雨林地方にある少数民族の村。突然村に発生した驚異の伝染病(エボラ出血熱)。伝染病に犯されてない住民までも喉をナイフでかき切られた姿で発見されてしまう・・・。まるでパニック小説のような展開なのだが、ラストは若干消化不良気味かも。
⑤「祈り」=①~④をまとめるのが本編。連作短篇としてはこういう趣向がある方が望ましいのだが、サプライズとしてはやや小粒。ちょっときれいにまとめすぎたのかもね。

以上5編。
以前から評判となっていた本作がようやく文庫化され、早速購入&読了。
すべての作品に登場する雑誌記者(或いは調査員?)の斉木を主人公&探偵役とした連作短篇集の体裁をとっている。
どちらかというと“ホワイダニット”に拘った作品が並んでいる印象。

大方の評判どおり、新人としては異例ともいえる完成度。
独自の世界観やスケールの大きさ、美しい筆致など、褒めるべきところは枚挙に暇がないほど。
ただ、これはもう個人的な好みの問題だが、ミステリーとしての“詰め込み具合”にやや不満あり、という感じ。
作家としての力量や潜在能力は十分だと思われるので、今後の作品に期待したい。
(ベストはやはり①。とにかく動機にビックリ。③も良質)

No.8 5点 touko
(2012/08/07 23:42登録)
「世界の車窓から」+ライトミステリって感じの短編連作集。

評判のいい「砂漠を走る船の道」は、異国情緒溢れるしゃれたミステリで、なるほどよかったですが、他はイマイチ。

ムード作りはうまいし、あざといくらい狙いにいってるのはわかるんですが、変な方向にそれたり、最終話なんかは暴投しすぎ。

でも、若いし、一般受けしそうなこじゃれた作品を書くセンスはあるようなので、今後化けるかもしれない可能性は感じました。

No.7 4点 ayulifeman
(2012/04/24 01:12登録)
風景描写多く私はこのタイプの小説に入り込めない。
日本人作家なのに外国の小説を読んでいるようでイマイチ。
「砂漠を走る船の道」の展開は好き。

No.6 5点 HORNET
(2012/01/04 21:05登録)
「砂漠を走る船の道」…砂漠の一行に起きた連続殺人。一番よかった。 「白い巨人」…巨大な風車の塔に消えた人の怪。うーん、そんなオチ? 「凍れるルーシー」…聖人リザヴェール様にまつわる怪。雰囲気的には嫌いじゃない。ただ、宗教色の薄い我々には理解できない。「叫び」…アマゾンの小民族に起こった悲劇。これはミステりーなのか? 「祈り」…この連作のオチ。個人的にはなくてもよかった。
 そんな感じでこの評価です。

No.5 7点 虫暮部
(2011/09/07 16:01登録)
 最終話が、くどい。1~4話目まででシリーズ短編集として充分なクオリティなのだが、ラストで連作長編にまとめようとしてしくじった、という印象である。
 叙述トリックについては途中で読めてしまったものもある。しかし、必ずしもそれがミステリとしての核ではないこともあり、別段マイナス要素とは感じなかった。(個人的には、トータルで面白ければトリックの使い回しはそれなりに大目に見て良いと思っている。)

No.4 6点 まさむね
(2011/06/05 22:10登録)
 昨年度の各種ランキングで高評価続出の連作短編集。
 中でも,綾辻氏・有栖川氏が激賞した(らしい)「砂漠を走る船の道」は,噂に違わず高水準。ホワイダニットとして秀逸です。一読の価値はありますね。
 その他の短編はちょっと疑問。正直,読み進めたくなる感情があまり沸き起こってこなかったんですよねぇ。1作目で「目が慣れた」からなのか,単に私が日本人だからなのか?
 でも,今後期待できる作家であることは記憶に刻みました。次は長編を読んでみたいですね。

No.3 6点 江守森江
(2010/05/05 16:07登録)
「論理的かつ読ませる非常に優れた新人が登場した!」と絶賛されるのもやぶさかではないのだが・・・・・。
あくまで個人的な事だが、娯楽であるミステリで異郷の世界観(特に人生観&宗教観)を読まされ&考えたくない(翻訳ミステリが苦手な根本的原因)気持ちが先立ち国産ミステリなのに面白さが激減してしまった。
表題作は、生活&人生観の部分を醒めた感覚で読んだので、何故?な部分がミエミエで叙述トリックも小賢しく、下記(※)の疑問が解消しない御都合主義に‘諦めのため息’が出た。
バカミスの寄せ集め的推理合戦に、これまた小賢しい叙述トリックを絡め恋愛小説仕立てな「白い巨人」
気付きのミステリとしての素晴らしさを宗教色&ラストのホラーオチ(幻想的と褒める気はサラサラない)の挟み撃ちで帳消しにした「凍れるルーシー」
どうでもよい世界観が動機の根底にある為に真相その物すらどうでもよく感じる「叫び」
そして、継続を断ち切る「祈り」で完結する。
作品全般に流れる世界観を受容せずに読んだので、主人公の精神が世界観に耐えきれずに壊れる結末が、この作品集で一番納得する部分だった。
継続を断ち切る展開に賛否両論だが、主人公を超人的回復力の持ち主にするか、まだ語られていない物語としても継続は可能だろう。
但し、個人的には日本人世界での論理的ミステリを読んでみたい。
※ネタバレで最大の疑問点に言及しています。
長の死体を分割・有効利用すれば殺人は不要かもしれない。
それで不足なら砂漠の民達で結託し、生活に一番関係ない主人公のみ殺す。
2死体を2分割で4個になり、それにナイフを突き立て道標にするのが、砂漠の民にはベスト選択だと思うのだが!

No.2 8点 あるびれお
(2010/04/21 23:09登録)
いろんな書評を読んだり評判を聞いたりしてから手に取ったので、いやが上にも期待が大きかった。そして、その期待はほぼ満足させてもらえた。ただ、最後の一編だけはあまり高く評価できない。短編集として「まとめて」しまう必要はまったくないと思うのだが...

No.1 8点 kanamori
(2010/03/16 02:01登録)
旅人・斉木が遭遇する4つの謎ともう一つの物語。
とてもデビュー作とは思えない高いクオリテイと完成度の連作ミステリ。
これは年末のベストテン上位に顔を出すでしょうね、ホワイダニットの秀作が満載です。
サハラ砂漠のキャラバン隊、ロシア正教の修道院、アマゾンの密林部落など、その土地その設定であればこその殺人の動機が秀逸、意想外で唸ってしまいました。
(以下ネタバレ)

とくに第3話「凍れるルーシー」は傑作でしょう。
信仰をテーマにしたところはホックの「長方形の部屋」を彷彿させますが、その上をいってます。結末はカーのアレ、文句なし。「砂漠を走る船の道」もいいんですが、サブの叙述トリックが、この作品の場合は余分だと思いました。

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