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ミステリの祭典

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toukoさんの登録情報
平均点:6.16点 書評数:241件

プロフィール| 書評

No.241 5点 叫びと祈り
梓崎優
(2012/08/07 23:42登録)
「世界の車窓から」+ライトミステリって感じの短編連作集。

評判のいい「砂漠を走る船の道」は、異国情緒溢れるしゃれたミステリで、なるほどよかったですが、他はイマイチ。

ムード作りはうまいし、あざといくらい狙いにいってるのはわかるんですが、変な方向にそれたり、最終話なんかは暴投しすぎ。

でも、若いし、一般受けしそうなこじゃれた作品を書くセンスはあるようなので、今後化けるかもしれない可能性は感じました。


No.240 5点 奇蹟審問官アーサー 神の手の不可能殺人
柄刀一
(2012/08/07 23:35登録)
ヴァチカンの奇跡審問官がアルゼンチンがモデルの国を舞台に、不可能状況下で連続殺害されていく現代の聖者「十二使徒」の謎に挑む。

ユニークな設定、異国情緒溢れる舞台、ミステリアスで知的なイケメン探偵役、凝ったトリック……なのに、なぜこんな地味で盛り上がりと魅力に欠ける作品になるのか、作中に出てくる様々な不可思議な現象よりよほど不思議で、ヴァチカンに逆奇跡として申請したくなるくらい!?(笑)

オカルトじみた現象や不可能殺人を合理的に解き明かすという本格の王道をいっているにも関わらず、偶発要素が強いのもさることながら、物理トリックがちまちましすぎていて、時刻表ものと同じくらい、サプライズもカタルシスもないのも難点でしょうか。


No.239 4点 紙の碑に泪を
倉阪鬼一郎
(2012/08/04 23:33登録)
印刷会社に勤めていた経験のある作者らしいオチがついていますが、こんな内輪ネタというか楽屋オチ、一般読者が面白いとかやられたとか思うわけないでしょうに。。

この作者が印刷業界の内幕をぶちまけた自伝ものは、内部の常識にどっぷりつかっている社員たちと対人関係に不器用でひねた作者との相克や距離が描かれ、出版当時は新聞の文芸評などにも取り上げられていたくらい、なかなか冴えた作品だったというのに……。


No.238 4点 ドミノ
恩田陸
(2012/08/04 23:27登録)
偶然が偶然を呼ぶドタバタ喜劇。

なんか、田舎のよき善人である素人やセミプロ子役をいじって笑わせるという、あたかも萩本欽一みたいな芸風!?が、個人的にはクスリとも笑えず、読み通すのが辛かったっす。


No.237 6点 そして二人だけになった
森博嗣
(2012/08/04 23:25登録)
直前までは面白くても、ガッカリオチと評判の作品ですが、むしろ、ラストの自己陶酔に満ちた偏愛を感じる世界を読者に受け入れさせるために、頑張ってミステリ好きにウケそうな壮大な前フリをしてみたのかも(笑)。

作者も普通のミステリとして終わらせることは当然、出来ただろうし、読者も脳内補完はわりと容易(ここまで書いてあれば、何通りもミステリらしい終わり方は考えつきそう)な作品ですし、何もこの終わり方にする必然性はないんだし……。

うろ覚えなんですが、似たようなオチを同じ作者の他作品で読んだことある気がするので、よほどこういうのが好きなんでしょうねえ。。


No.236 6点 新参者
東野圭吾
(2012/08/03 21:24登録)
東京下町を舞台にした連作短編集。

下町に赴任してきた加賀刑事が、下町情緒溢れる店を訪れ、老若男女に聞き込みを続けるサイドストーリーを通して、メインの事件の犯人が浮き上がってくるという趣向。

ミステリとしては弱いんですが、現代の風俗描写をきっちり押さえながらも、リアリティのある下町の人情話として成立させているところに、うまさを感じました。

ドラマ化慣れしているせいかもしれませんが、現実にはほとんど使われない、書き言葉特有の女言葉(~わ)や老人言葉(地方人でもないのに、わし~じゃ)を使わないでも、ちゃんと女性や老人が喋っているとはっきりわかるところに、何より作者の筆力を感じたりして(笑)。


No.235 5点 幽女の如き怨むもの
三津田信三
(2012/08/03 20:25登録)
地方の遊郭で戦前・戦中・戦後に起こった不可解な花魁の連続身投げ事件を巡るホラーミステリ。

吉原を舞台にした小説・ドラマ・映画等は数あれど、地方の遊郭が舞台というのは珍しく、ミステリということを意識しないでも、興味深く読めました。

ただ、資料をたいしてアレンジもせず、だらだら並べているだけなんじゃないかって部分も多く、ページ数稼ぎしている感もなきしにもあらず。。

さくさく読めるのはいいんですが、長さのわりには、ホラーもドラマも謎も薄味。

ホラーじみた内容を合理的に解決するいつもの刀城言耶シリーズとは違い、今作はお好みでホラーとしてもミステリとしても楽しめるように、両解釈がラストになされているのですが、致命的な欠点が……。


(以下もしかしたらネタバレになるかもしれません……注)

いくらなんでも、このトリックを、よりによって、この題材に使うのはありえないでしょ~。

だって、世の中でもっとも他人の容姿、しかも化粧や髪型や服装での変化にうるさく、立ち居振る舞いにも敏感であろう者同士が同居してるんですよ。
意識したものではなく、些細な生来の癖や仕草ですら、商売に影響するんだし、いくら地方とはいえ女同士の世界、売れっ子であればなおさら、重箱の隅をつつくようにチェックされてますって。。

しかも、ミスリードのためとか、ホラー的な謎を残すためとか、トリックのためならリアリティなどあえて無視するという覚悟があるからでもなんでもなく、何も考えずに適当に書いたんだろうなあ……と思われるところが痛くて。

全体的に大雑把で軽いのは、まだそういうものとして読めたのですが、これだけはどうも。
遊郭を取り上げる意味がないので、男子寮ものでも書いててください(笑)。

あと、同じ悲惨な境遇の女性のうち加害者は同情ゆえか見逃し、被害者の方はスルーしたあげく、妙に人権派ぶって終わるのも、確かに印象悪いですよねえ……。


No.234 6点 ジェノサイド
高野和明
(2012/08/01 20:52登録)
スケールの大きな国際謀略冒険SFバイオサスペンス。

アメリカの学校で映画製作を学んだ経歴もある作者だけあってか、ハリウッド娯楽大作映画のノリで、万人がハラハラドキドキ楽しめそうではあるのですが、キャラ造形が陳腐というのか、戯画化通り越して、時々ギャグ漫画みたいになっているのが、個人的には鼻につきました。
特にブッシュもどきのアメリカ大統領なんか、やりすぎで、アメリカの風刺コントみたいなんだもの(最期なんて、ドリフのタライが落ちてくるコントじゃないんだから……笑)。

上記大統領にに限らず、全体的に善玉、悪役をはっきりさせるために、極端なキャラづけがなされてしまったんでしょうか……どうも興ざめしてのめりこめず。

超人類の描き方も、今時さすがにこれはアナクロすぎでは……私もkanamoriさんと同じく、小松左京の60年代の作品等を思い出しましたもん。
私の場合は、思い入れがないためか、ノスタルジーではなく、50年前の作品よりテーマとかも古臭く感じるのはどうなの? とか思っちゃいましたが(^_^;)

もっとも、小松左京はその時代に即したシビアな文明批評が売りの作家だったけれど、これはどっちかというとソウヤーとかの楽天的リベラル系SFの系譜なのかなあ?? ソウヤーみたいな科学色の強いハードSFでは全然ないけれど。

同じ時期に書かれ、似たような題材を扱っていても、今日的な問題意識のあった伊藤計劃の善悪二元論では割り切れない「虐殺器官」(テーマ先行で物語性はイマイチでオチも弱いかも)とは好対照。

とはいえ、スピーディかつ派手な展開の目白押しで、だれる部分もなく、大風呂敷広げてもちゃんとまとめているし、目新しさはないものの、職人的な娯楽作品としてよく出来ているんじゃないでしょうか。


No.233 7点 都市と都市
チャイナ・ミエヴィル
(2012/07/31 19:45登録)
2009年から2010年にかけて、ヒューゴー賞・世界幻想文学大賞・ローカス賞・クラーク賞・英国SF協会賞受賞作……というSF系の著名な賞を軒並み受賞した話題作なのですが、オーソドックスな警察小説の文法と枠組みで書かれているし、SFとミステリを融合した傑作との評価も受けているので、取り上げてみました。

モザイク状に組み合わさった特殊な領土を有する、欧州における隣接する2つの都市国家で起こった、不可解な殺人事件を追う片方の国家の警部補が、封印された両国家間の歴史の闇に足を踏み入れていく……という内容。

この2つの国家の住民は、共有する領地にある他国の建物や人間や車などは見ないふりをしてやり過ごしているという設定がとにかくユニークで面白く(パレスチナや旧ユーゴあたりを想起するとわかりやすいかも?)、この設定を思いついただけでも勝ったも同然、みたいな作品であります。

なんせ凶器を投げ捨てて、もし隣国の領土に入ってしまったら、見えなくなってしまうし、隣家が他国の領土だったりすると、国境を越えなければ、隣の家を「見る」ことすら出来ないんです。
で、国境を越えたら、自分の家はないのが建前なので、目をそらすという……なんという不条理。
よく、カフカの「城」が引き合いに出されて評されているのもむべなるかな。。。

そして、SFによくある国家による薬物やマシンによる意識のコントロールではなく(取り締まる機関はあるものの)、住民自ら強烈なタブー意識で、見たくないものは見ていない(という建前)のがミソ。

そのタブー意識がどの程度の強度のあるものなのか、どのくらい葛藤があるのか等が作中で明確には描写されないので、どうも都合のいいところでは結構あっさり破られてしまうのが、ミステリ的にはずるく感じられ、個人的にはひっかかったんですが、そんな欠点も、突出した設定のユニークさでカバー!?

対立していた2つの国家の警察メンバーが内規を破ってまで協力するようになるくだりなど、典型的なバディ(相棒)もののノリになるのにも関わらず、これもタブー意識がどのくらいなのかはっきりしていない分わかりづらく、法や今までの常識を超えても理解し合い、協力し合う人間ドラマとしていまいち楽しめないのもどうかと。
この作者は他のSF作品では、異種間交流ものを得意としていただけに、もう少し、うまく書くことも出来たんじゃないかなあ……もったいない。

でもまあ、犯人に関しては意外性があったし、今時オーウェルの1984みたいなビッグブラザーものであれば、ここまで評価されていないだろうと思っていたので、落としどころは大体、予想できたものの、楽しめました。

ミステリ要素でリーダービリティとエンタメ性を高めているとはいえ、基本は奇想と不条理を楽しむ作品かもしれませんが……。


No.232 5点 ルームメイト
今邑彩
(2012/07/30 23:04登録)
作者がお好みで読んでも読まなくてもいいと断っていたラストのオチがなかったら、何の面白みもない盛り上がりに欠ける作品のような。。

ところで、この作者の中でも特に面白い方でもない古い作品なのに、最近になって、書店が主に若い女性をターゲットにし(たそうです)、これをプッシュして成功したのは、NANA(対照的な2人の20歳の女の子がたまたまルームメイトになったことから始まる青春友情恋愛バンドもの、映画化もされた少女漫画の大ヒット作)の影響なんじゃないか……なんて推理してみたんですが、どうでしょう。

だとすると、若くないけど(汗)女の私でも面白くないんだから、男性読者には余計つまらないかも?


No.231 6点 連続殺人鬼 カエル男
中山七里
(2012/07/29 12:51登録)
翻訳家&書評家の大森望が、この作品を選考した時、ライバルはマイケル・スレイド(的な作品だ)と評していたというので、期待して読んでみました。

なるほど、主人公は刑事、えぐい殺人方法のシリアルキラーの跋扈、随所に挿入される謎めいた犯人らしき人物のサイコな過去、やり過ぎなアクションシーン、どんでん返し、意外な犯人、後味の悪いオチ……と、まさにマイケル・スレイド。

違いは圧倒的なリーダービリティのよさと、マイケル・スレイドがカナダ、アメリカ、イギリス等多国を舞台にしたり、各地の歴史や伝承を取り込んだりして、やたらとスケールの大きな作品を書くのに比べて、埼玉がメインと実にこじんまりとしているところ。

でも、こっちの方が断然お行儀がよく、まとも(平凡とも言えますが)で万人向け、ミステリとしても、突出したところはないものの、無難にまとまっていて、出来はいいと思います。

暴動シーンはやり過ぎでリアリティがないと評判悪いようですが、マイケル・スレイド的なんでもあり悪趣味世界を基準にすると、これでも優等生すぎる、もっと弾けてしまってもいいようにすら感じてしまったり(笑)。

もっとも、精神障害の扱い方は、現代の小説にしては流石にご都合主義で微妙……。


No.230 5点 ダークゾーン
貴志祐介
(2012/07/29 12:28登録)
作中に出てくる将棋を擬人化したゲームが、ちっとも面白くないんですよね……センスも古臭くて、ファミコン時代のダメなシミュレーションゲーム(いわゆるク○ゲー)みたい。

現実にあるヘボなゲームですら、小説ではうまく描写して楽しげに見せるということは可能なのに、これはオチも見え見えだし、小説としても面白くありませんでした。


No.229 6点 追悼者
折原一
(2012/07/29 12:15登録)
東電OL事件をモデルにした作品というと、桐野夏生の傑作「グロテスク」が有名なので、男性作家がこの題材に挑戦するのは勇気がいるんじゃないかなんてことも思ったのですが、こちらは女を巡る社会病理や心理の部分はばっさり切り捨てた純然たるパズラー作品でした。

かといって、東電OL事件ならではのガジェットもちゃんと生かされているし、長すぎて冗漫な部分もあるものの、全体的にはよく出来ていて、楽しめました。


No.228 6点 黒百合
多島斗志之
(2012/07/29 12:03登録)
文芸とミステリを融合させた傑作、なんてことも言われていますが、一般小説としてもミステリとしても中途半端のような……。

ミステリ要素がある分、普通の小説として読むには、人物の掘り下げ方が全体的に甘かったり、トリックを成り立たせるために不自然な偏りがあったりするし、かといって、ミステリとしては目新しさがなく、なんというか努力や狙いはわかるもののいまいち報われていない、コストパフォーマンスの悪い作品という印象。


No.227 9点 彼女がその名を知らない鳥たち
沼田まほかる
(2012/07/28 17:57登録)
(ネタバレかも?)












ダメな男女の共依存ということでは桜庭一樹の「私の男」、ミステリ的には東野圭吾の「白夜行」を思わせるものの、それぞれ評判のいいこの2作よりは、文学的には上だと思います。
美化しまくったそれらに比べて、みもふたもない生理的に不快な人物造形と歪な人間関係と、これまた歪んでいるし、ある意味絶望なんだけれど、感動すら覚えさせるラストのギャップが素晴らしい。

山田詠美が、これが直木賞を取ってないことに驚いたそうですが、直木賞は一作だけじゃなく、中堅作家の業績評価でもあるからそれは流石に無理でしょうが、まぐれにせよ、これは傑作。
桜庭一樹は色々なジャンルで、コンスタントに安定した作品を書ける力のある作家ではありますが、直木賞受賞作の「私の男」と単品で比較してしまえば、それが取れて、これが取れないのはおかしいと思っても仕方ないのかも?
山田詠美も好きな谷崎潤一郎の系譜でもありますが、芥川賞作家の金原ひとみなんかがよく描く病的なカップルものなんかより、(あくまでこれ一作だけなら)、うまく描けているとも思うんですがどうでしょう?


No.226 8点 夏草の記憶
トマス・H・クック
(2012/07/28 15:03登録)
読んだことのあるトマス・H・クックの作品の中では、今のところ、個人的には一番好きです。

クックは過去への思いに捉われてグダグダ悩みまくる内省的にすぎる作風がときに鼻につくんですが、不器用で内向的な少年が主人公のこの題材にはあっていて切ないので。

この作品は、何より、アメリカのハイスクールのいわゆる「スクールカースト」の予備知識ががないとピンとこない内容かもしれませんので、簡単に説明を……。

一番上は、男ならジョッグス(花形競技のプレーヤー、勉強は出来なくても推薦で有名大学進学も狙える)、女ならチアリーダーや演劇部のヒロインなどが女王様、次がその取り巻き、そして平均的な中間層がいて、下位の方はひねた不良やロッカーやゴス系、ブレイン(冴えないガリ勉、もっとも大学進学後は一転して田舎では唯一の成功者になることも)となります。

この作品では、1960年代のアメリカ南部の田舎町を舞台に、後には地元で良心的な医者になる、典型的な冴えないガリ勉の主人公が、華やかで個性的で人気者のヒロインに片思いをします。
ジョッグスやその取り巻き役も、ちゃんと出てきて、いかにもなお約束な役割を果たしてくれます。
そんなアメリカ青春ドラマや映画や小説では、お決まりの人間関係や心理に、ある社会派要素も絡んできて……。

男性読者は思春期の片思い心理の切実さ、リアルさに涙するんじゃないかなあ。
個人的にはヒロインのけなげさや辿った運命の残酷さ(二段落としのサプライズもあるし)に泣けました。
青春ドラマも痛ましい事件もコインの裏表、アメリカの原風景なんでしょうね。

内向的な主人公と外向的な体育会系で気のいい親友との対比、学生時代から現在までの関係のミステリとの絡め方もとてもうまい。

クックお得意の思わせぶりでもったいぶった叙述トリックによるミスリードも、この設定ならさほど不自然ではないし、伏線の張り方もうまく、読了してすぐ最初から読み返したくなるやられた感がよかったです。

本筋だけじゃなく、学生時代は華やかだった人間が落ちぶれていたりするところには、アメリカングラフティのような感慨も。


No.225 6点 ブラッド・ブラザー
ジャック・カーリイ
(2012/07/28 14:33登録)
元々この兄のアナクロなキャラ自体がいまいち機能していないように感じていたので、兄全開はいいのですが、兄のキャラのいきなりの方向転換にはついていけませんでした。


No.224 8点 デス・コレクターズ
ジャック・カーリイ
(2012/07/28 14:30登録)
本格ミステリ要素の強いサイコサスペンス。

人物造形や基本設定にお約束感はあるものの、その分、万人向けで読みやすく、細部までよく練られているし、意外性もあるのに、わかりやすい。
今後ミステリのオールタイムベストとかにも入ってきそうな秀作なのではないでしょうか。
特に日本のミステリファンに受けそう。


No.223 7点 百番目の男
ジャック・カーリイ
(2012/07/28 13:51登録)
レクター博士まがいの猟奇殺人犯を兄に持つ刑事の弟が主人公。
やたらトラウマに苛まれている登場人物ばかり出てきたりと、1980~90年代くらいのサイコサスペンスのお約束を満載したような内容なので、今時こんなのって新鮮味がないなあ……などと思いながら読んでいたら、シリアルキラーが死体になぜ謎のメッセージを残していたのかの絵解きが斬新すぎて目が点。
よく考えついた、盲点だったとも言えるけど、超悪趣味作家集団マイケル・スレイド並みにえぐいような……汗。

でも、全体的に読みやすく、ミステリとして破綻したところもないので、シモネタOKで、度肝を抜かれてみたい方は、一度は読んでみる価値はあり?


No.222 8点 冬の灯台が語るとき
ヨハン・テオリン
(2012/07/28 13:20登録)
英国推理作家協会賞・ガラスの鍵賞・スウェーデン推理作家アカデミー賞受賞作、だそうです。
日本での評判も上々のよう。

妻に先立たれた夫がけなげに子育てをする内容がメインなのですが、夫婦愛や妻の死の真相が切ないし、田舎暮らしとはいえ、日本ではオシャレなイメージのある北欧の手作りの丁寧な暮らしの描写等、どちらかと言えば、日本では女性読者の方にアピールしそう。

厳しくも神秘的な北欧の自然の描写や、地域に根ざした民話のような趣のある幽霊譚も印象に残ります。

個人的にはちょっとスローテンポすぎるし、ミステリとしては脇道にそれすぎかな? とも感じたんですが、たとえミステリ要素がなかったとしても読ませる作品の上に、ミステリとしても秀逸。
互いの要素が相乗効果をあげていて、不自然さもないという、これぞ文芸とミステリの融合のお手本みたいな作品かと。

探偵役の老人のキャラもよく、強盗の追跡劇のくだりではアクション要素もありスリリング、謎解きも意外性があり、満足しました。

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