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ミステリの祭典

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都市と都市

作家 チャイナ・ミエヴィル
出版日2011年12月
平均点7.00点
書評数6人

No.6 8点 八二一
(2022/08/22 20:27登録)
殺人事件は、社会体制の異なる二つの都市国家にまたがる形で発生する。市民らは互いに相手が存在しないものとしてふるまうことが義務付けられていて、それを「ブリーチ」という謎の組織が監視している。この二重都市という特殊な舞台設定に、SFとミステリの双方向から挑んでいる。

No.5 7点 糸色女少
(2022/02/14 22:54登録)
舞台となるのは、バルカン半島あたりに位置する二つの都市国家のべジェルとウル・コーマ。地理的にはほぼ同じ位置を占める二つの国は、ミルフィーユ状に領土が重ね合わされている。それぞれの国民は、互いに相手の国が存在しないように振る舞わなくてはならない。訓練によって反動的な「失認」状態を作り出し、それによって国境が維持される。
この奇妙な場所で殺人が起こる。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、この国際犯罪の犯人を追いつつ、第三の空間の謎に接近していく。ボルルが逃走する犯人を追うシーンは、同じ道を走る両者が実際にはそれぞれの国の領土しか走れないという設定が最大限に活かされたクライマックスになっている。
ミステリとしても十分に面白いが、本作の醍醐味は精神医学的には「解離」のメカニズムの政治的応用という優れたSF的な設定にある。

No.4 7点 虫暮部
(2020/07/21 11:49登録)
 筒井康隆の某短編を思い出した。基本設定がコレならああいうスラップスティックな喜劇になって当然なところ、真顔でリアルに書くのがこの作者の芸風か。
 実は最初のうち、二つの都市が異次元で一つに重なって二重写しのようになっている的な完全にSFの設定なのかと思った。あと、何を漂白するのかと思った(スペル書いてよ)。終盤での〈ブリーチ〉の使い方が面白く感じた、ってことはそれだけ作品世界に馴染めたのだろう。主犯との対決がだらだらした解説になってしまったのは残念。
 ところで私、いわゆる警察小説はあまり好まないけれど、SFに混ぜるとサラッと読めるな。

No.3 6点 YMY
(2020/03/16 19:20登録)
登場人物やプロットではなく、二つの都市の世界観を楽しむべきSFで、通常のSFや犯罪小説を期待しない方がいいかもしれない。文章はシンプルだが、状況を理解するのがやや困難。

No.2 7点 小原庄助
(2017/11/09 09:40登録)
2009年発表直後から評判を呼び、SF、ファンタジーの両分野で主要5賞に輝いた作品。
もっとも、冒頭は一見ごく普通の警察ミステリ。時は現代、所は南欧の(架空)都市国家ベジェル。
郊外で若い女性の刺殺死体が見つかり、ボルル警部補は、所轄の若い女性刑事とコンビを組んで捜査を開始する。だが、舞台の都市は全然普通じゃない。
ベジェルにはもうひとつの都市国家ウル・コーマが地理的に重なって存在するが、両国の国民は互いに相手国が存在しないかのようにふるまう。たとえ目の前にいても(建前上は)相手国民の姿は見えず、声も聞こえない。
この突拍子もない設定が、作者の手にかかるとだんだんリアルに思えてくるから不思議。
SFのテーマを警察ハードボイルドのスタイルで描く、前代未聞の都市小説。

No.1 7点 touko
(2012/07/31 19:45登録)
2009年から2010年にかけて、ヒューゴー賞・世界幻想文学大賞・ローカス賞・クラーク賞・英国SF協会賞受賞作……というSF系の著名な賞を軒並み受賞した話題作なのですが、オーソドックスな警察小説の文法と枠組みで書かれているし、SFとミステリを融合した傑作との評価も受けているので、取り上げてみました。

モザイク状に組み合わさった特殊な領土を有する、欧州における隣接する2つの都市国家で起こった、不可解な殺人事件を追う片方の国家の警部補が、封印された両国家間の歴史の闇に足を踏み入れていく……という内容。

この2つの国家の住民は、共有する領地にある他国の建物や人間や車などは見ないふりをしてやり過ごしているという設定がとにかくユニークで面白く(パレスチナや旧ユーゴあたりを想起するとわかりやすいかも?)、この設定を思いついただけでも勝ったも同然、みたいな作品であります。

なんせ凶器を投げ捨てて、もし隣国の領土に入ってしまったら、見えなくなってしまうし、隣家が他国の領土だったりすると、国境を越えなければ、隣の家を「見る」ことすら出来ないんです。
で、国境を越えたら、自分の家はないのが建前なので、目をそらすという……なんという不条理。
よく、カフカの「城」が引き合いに出されて評されているのもむべなるかな。。。

そして、SFによくある国家による薬物やマシンによる意識のコントロールではなく(取り締まる機関はあるものの)、住民自ら強烈なタブー意識で、見たくないものは見ていない(という建前)のがミソ。

そのタブー意識がどの程度の強度のあるものなのか、どのくらい葛藤があるのか等が作中で明確には描写されないので、どうも都合のいいところでは結構あっさり破られてしまうのが、ミステリ的にはずるく感じられ、個人的にはひっかかったんですが、そんな欠点も、突出した設定のユニークさでカバー!?

対立していた2つの国家の警察メンバーが内規を破ってまで協力するようになるくだりなど、典型的なバディ(相棒)もののノリになるのにも関わらず、これもタブー意識がどのくらいなのかはっきりしていない分わかりづらく、法や今までの常識を超えても理解し合い、協力し合う人間ドラマとしていまいち楽しめないのもどうかと。
この作者は他のSF作品では、異種間交流ものを得意としていただけに、もう少し、うまく書くことも出来たんじゃないかなあ……もったいない。

でもまあ、犯人に関しては意外性があったし、今時オーウェルの1984みたいなビッグブラザーものであれば、ここまで評価されていないだろうと思っていたので、落としどころは大体、予想できたものの、楽しめました。

ミステリ要素でリーダービリティとエンタメ性を高めているとはいえ、基本は奇想と不条理を楽しむ作品かもしれませんが……。

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