home

ミステリの祭典

login
黒百合

作家 多島斗志之
出版日2008年10月
平均点6.64点
書評数11人

No.11 6点 じきる
(2021/07/04 22:39登録)
ノスタルジックな雰囲気の青春小説に巧妙な仕掛けを潜ませた作品。
でも、ミステリーを期待し過ぎるとやや肩透かしかもしれないです。

No.10 5点 ぷちレコード
(2021/01/04 21:21登録)
戦後間もない六甲の別荘地で繰り広げられる、中学生たちの淡い恋物語。物語の大部分を占めるパートに、戦前のドイツと戦中の神戸が舞台となる二つの短いエピソードが挿入されるという構成。
最後の最後でようやく全編に巧みな罠が仕掛けられていたことが分かり、瑞々しい青春小説の中から別の風景が騙し絵のように浮かび上がる。作者の卓越した技巧は脱帽もの。

No.9 6点 パメル
(2020/10/22 08:59登録)
ノスタルジックな味わい深いミステリで時代と場所の異なる二つの話が交互に語られている。まず最初の章で語られるのは、一九五二年、十四歳の「私」が六甲の別荘地で過ごした夏の思い出。父の友人の息子・一彦とともに池で遊んでいたとき、香という少女と出会った。私と一彦は、一目で彼女に恋心と抱いた...。
章が変わり、昭和十年ヨーロッパの視察旅行中の私鉄会社社長一行が、ベルリンの終着駅で相田真千子という若い女性と出会う逸話がつづられていく。
少年時代の輝きに満ちた夏のひとときや初恋の甘い追憶、そして六甲の避暑地の風景が繊細に描き出されている一方で、戦前に起こった悲劇が、さらに人知れぬ殺人事件へと連鎖する暗い人間模様が物語られていく。犯人は誰なのか判然としないまま、やがて驚愕の結末へと向かう。
まるで、丁寧に織り込まれた色違いの美しい布地を大胆に重ね合わせたようなストーリー。最後に浮かび上がるのは、それまで見えなかった黒百合の鮮やかな模様だ。技巧を用いたミステリであると同時に、郷愁あふれる青春小説としての味わいが深く胸に残る。謎解きより仕掛けに面白味を感じる人向けといえるでしょう。

No.8 6点 sophia
(2018/10/18 22:29登録)
青春小説としては読めましたがミステリーとしてはいまいち。個人的に嫌いな類のオチなので。この手の騙しは安直に感じてしまうんですよね。話に謎が存在しないので読み進むモチベーションがなかなか持てませんでした。最後の最後に読者の考えていた構図をひっくり返してようやくミステリー色を出すわけですが、目玉となる相田真千子の正体もその人物に存在感がなかったので衝撃がそれほどありません。また、本の紹介文に「文芸とミステリの融合」というようなことが書かれていましたが、融合はしていないと思いました。分離して並存している感じです。

No.7 6点 メルカトル
(2018/08/01 22:27登録)
細かすぎて伝わらないモノマネ選手権じゃないけど、伏線とミスリードが細かすぎて伝わらないミステリって感じの作品。
探偵役がいない為、結局犯人の名前さえ明示されないとは。それくらい推理せよということだと思いますが、ちょっと不親切ではないでしょうかね。あまりにも説明不足です。ラストでえっ?とはなりましたが、一瞬それが何なのと。そしてよくよく考えてみれば・・・あれがああなって、あの人があの人でと、色々思い返してみて漸くなるほどと思えるみたいなね、もう頭が混乱して一度整理してみないとよく理解できない小説です。

一見青春小説としか思えないですが、一皮剥けば作者のずる賢い企みと欺瞞に満ちたミステリが徐に姿を現します。その意味ではなかなか稀有な小説だと思いますが、上手く融合されているとは言い難く、二種類の物語に分離されていると思われても仕方ないでしょう。
それにしても、この手の小説はせめて解説で断りを入れてネタばらしをしないといけないんじゃないですか。解説者も関係ない話に終始して肝心なところを省いてしまっちゃダメでしょうよ。
明快な解決編を楽しみたい本格ミステリファンにはお勧めできませんが、二度読み覚悟で自力で読み解き、達成感を得たい方は楽しめると思います。

No.6 8点 まさむね
(2017/01/22 20:19登録)
 昭和27年、六甲の別荘地における14歳の少年少女たちのひと夏の恋模様。昭和10年、少年たちの父親がベルリンで出会った日本人女性との触れ合い。昭和15年から20年にかけて、私鉄車掌と女学生との交流。これら3つの時間軸の中で、さてどのような繋がりが…という辺りがポイント。
 六甲の景色や少年たちの心の動きを楽しみつつ、最終盤の数ページで物語は急展開。一瞬「ありがち…」と感じてしまったものの、しばし立ち止まって頭の整理が始まりました。序盤からの巧妙な伏線を探し出すのも一興で、読み終えた後の方が楽しめたりして。「青春ミステリ」として記憶に残りそうな作品であります。

No.5 7点 ボンボン
(2016/11/20 11:17登録)
「瑞々しい」をそのまま文章にしたような14歳の夏休みが気持ちよく描かれている。
と同時に、始めから終わりまで「さあ騙していますよ。どうぞ真相を見破ってごらんなさい」と挑戦され続ける書きぶりを受け、じりじりと神経を使いながら読み進めるジグソーパズルタイプの作品になっている。是非メモのご用意を。
この二つの特徴がそれぞれ大変高度なものなのだが、どうもうまく融合していないようで別物のままに見えてしまった。読後振り返ると、きれいだった世界にザッと黒いものをかけられたようで、少し気分が落ちる。
一方、パズル方面から見ると、とにかく緻密な引っ掛けのオンパレードで、分析、深読みをいくらでも楽しむことができる。時代設定も舞台選びも登場人物の持ってき方も本当に抜かりない。目くらましが過ぎて、結局全然関係なかった人が複数人あり、物語として嵌っていないのが気になったりもするが、パズル完成後に余計なピースが残っていることも含めて巧妙なのかもしれない。

No.4 6点 touko
(2012/07/29 12:03登録)
文芸とミステリを融合させた傑作、なんてことも言われていますが、一般小説としてもミステリとしても中途半端のような……。

ミステリ要素がある分、普通の小説として読むには、人物の掘り下げ方が全体的に甘かったり、トリックを成り立たせるために不自然な偏りがあったりするし、かといって、ミステリとしては目新しさがなく、なんというか努力や狙いはわかるもののいまいち報われていない、コストパフォーマンスの悪い作品という印象。

No.3 7点 テレキャス
(2010/07/24 10:39登録)
登場人物達は真相を知らず、移り変わる各場面を読むことが出来る読者のみが全ての真相を知れる。
序盤に感じるような単なるボーイミーツガールミステリではない。
多島氏の娘さんのブログの更新も滞り、 ただただ氏の帰還を願うばかり。

No.2 9点 (^^)
(2010/04/07 02:08登録)
甘酸っぱい青春ストーリーの裏で・・・
作中の2件の殺人事件の犯人はおよそ予想できない、意外な人物。

No.1 7点 こう
(2009/02/08 23:26登録)
 多島作品で久々のミステリという評判で読んでみました。戦後間もない1950年代の「少年2人と少女1人のひと夏の淡い恋の物語」といった趣きのストーリーが続いてゆきます。
 従来の作品とは狙いが違う作品ですが多島ファンが望んでいるトリック、プロットかというとそうでもないかもしれません。このトリック、プロットが登場人物の造形が丁寧な多島作品に合ってない気がします。構成上仕方ないことですが一部の登場人物以外の描写がいつもほど丁寧でない気がします。また今回は不必要な(?)登場人物がいる点も少し不満です。
 ある意味一般的なミステリファン向けとも思えますがそのくせ淡々としたストーリーの中で淡々と明かされる感じで他の作家ならもっともったいつけるのになあと思います。アピールも弱い気がします。多島作品らしいといえばらしいのかもしれませんが。初読時途中では真相見破れませんでしたが最後真相がわかったときもなるほど、と思ったくらいでさほど驚きませんでした。
 ただどんな作品でもいいので新しい作品を読みたい作家ですので多島斗志之氏が無事に発見されることを祈っています。
 再読して若干書評を修正しました。 

11レコード表示中です 書評