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ミステリの祭典

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北の夕鶴2/3の殺人
吉敷竹史シリーズ

作家 島田荘司
出版日1985年01月
平均点7.19点
書評数48人

No.48 8点 虫暮部
(2023/08/26 13:12登録)
 まずツッコミ。妻二人の死体発見の状況がきちんと書かれていない。
 藤倉兄弟が、妻が一晩戻らないと言って警察に捜索願を出した。妻達は同じマンションの加納通子の部屋へ行くと言っていた。
 それだけの根拠で第三者の部屋に無断で踏み込むのは、正当性が弱いと思う。作者の書き忘れか。いや、これはわざとじゃないかな~? 具体的にどういう成り行きで錠を開けさせるか思い付かず、伝聞なのをいいことに曖昧に誤魔化した、とつい邪推してしまう。

 吉敷襲撃事件もやや不自然。
 彼の言動、そんなに脅威だろうか? 寧ろあのタイミングで襲撃したら自白みたいなものだ。証拠能力は無くても、当事者同士では通じ合っちゃったんじゃないだろうか。
 確かに、謎解きはともかく、通子を確保されるリスクはあった。但し、吉敷が牛越に期限付きで頼み込んだことを犯人は知らない筈。なのにまるで犯人が読者視点で吉敷の思考を読んで襲撃したようじゃないか。

 共犯者へのフォローが無さ過ぎ。被害者との関係性を鑑みれば当然疑われるポジションなのに。アリバイを偽証するくらい出来ると思う。

 現場で共犯者が悲鳴を上げた意味が判らない。“隣室の者が不審がってやってきたらどうするのか” と疑問を呈しておきながら(私もそう思う)、解答を示していない。

 “保険金の額の差” はあまりにわざとらしい。

 と色々思うところはある変な話だけれど、このトリックは馬鹿馬鹿しくて好き。また、再読で流れは知っていたのに、武者の写真のくだりはゾーッとした。
 島田荘司の文章を上手いと思ったことはあまり無いが、本作は全体的に迫力があり驚いた。

 加納通子のキャラクターは好きになれないな~。主体性の無さ。別れた相手に対する中途半端な期待感。自分にも相手にも無駄なコストを強いる感じが苦手。吉敷は重い鎖を背負ってしまった。公私混同も甚だしい。
 しかし、それ故に彼の無駄にエモーショナルな刑事としての生き方が推進されたような側面もあるし、そのストレスへの反発が熱い描写を生んだのかも知れない。だから一概に否定も出来ないのである。作者はどこまで意図してこの人をこの段階で投入したんだろうか。

No.47 8点 みりん
(2023/08/16 17:38登録)
私は本格ミステリに"実現可能性"というあまりに些細なことを気にする余り、『斜め屋敷』や『姑獲鳥の夏』を読んでブチギレそうになったのも今は昔。今読めばどちらも傑作という評価を下すでしょう。いつか読み返そうと思いつつ、なかなかタイミングがねぇ…

この『北の夕鶴2/3の殺人』も実現可能性が著しく低そうなトリック、それでいい(保険付きなのは笑った)。『占星術』『斜め屋敷』そして今作『北の夕鶴』。一生忘れられないであろうトリックを島荘はいくつ生み出しているのだろうと楽しみにこれからも読んでいきます。

吉敷竹史シリーズは3作品目。奇妙奇天烈で掴みやすい御手洗潔と違って冷静な好青年というぼやけた印象しかなかった吉敷竹史がこんなに情熱的で感情的なキャラクターだったとは。男とはこうあるべきだという少々古臭い価値観だが、元妻の幸せを心から祈る元亭主の命懸けのラブロマンス+サスペンスとしても優秀だと思います。しかし、あのユニークな物理トリックとこのラブロマンスがややミスマッチな気がしないでもない笑

No.46 5点 バード
(2020/02/22 14:36登録)
吉敷シリーズ3冊目。
島田さんはロープを使った物体輸送トリック好きなのかな?同作者の短編集、『御手洗潔の挨拶』、にもほぼ同じネタがあったので本作は途中でトリックの見当がついた。大がかりだが、力業すぎて綺麗なトリックと思えなかった。
ただ本作の印象と違い、同じトリックでも短編集の方では悪くないと感じた。トリックにも親和性の高い作風、低い作風があるのだなあと痛感。(結局は魅せ方ってことなんですかね?)

勝手に予想しておいて天邪鬼かもしれないが、本作のようにびっくりトリックが売りの作品で予想した答えが正解じゃ面白みが無い。私の想像を超える真相を見たかった。
ストーリーや雰囲気は6点だが、上記のようにメイントリックで肩透かしをくらったので1点減点。

No.45 8点 mediocrity
(2019/07/28 03:48登録)
トラベルミステリみたいなタイトルで、実際1章終わりまではそんな感じである。プロローグは文体とか言い回しまで西村御大みたいでちょっと笑ってしまった。文庫版第27刷を読んだが、P11、一ケ所だけ「ゆうづる」が「ゆうずる」になっている。何か意味があるのかと思ったがただの誤植のようだ。
2章は突如、本格推理ぽくなり数々の魅力的な謎がばらまかれる。これらが全て説得力を持って解決されれば大傑作だと思いながら読み進む。
4章に入るとハードボイルド調に。個人的にあまり好きでないので斜め読み。ちょっと長い。
5章、あと50ページしかないぞ、全て解決できるのかと思ったが無事解決。めでたしめでたし。

『斜め屋敷の犯罪』のトリックは頭をぶん殴られたような衝撃だったが、この作品の物理トリックはあれほどではなかった。可能性として「直接結ぶ」しか方法がないから、なんとなくは想像できてしまう。それでも細かい点はやはり良く練られていると思った。
ただ、集合写真に鎧が映っていた方の謎はちょっと欲張りすぎな気がした。あまりにも偶然にすぎるし、別になくても話は成立するから。

No.44 8点 パメル
(2018/06/29 13:50登録)
濃い霧、鎧武者の亡霊、夜泣き石、心霊写真・・・伝説などを事件に絡ませて、胡散臭い雰囲気を漂わせながら、ストーリーは進み惹きつけられる。(雰囲気はとても好み)
事件の謎を解けば、摩訶不思議な現象の謎も解けるという構図になっている。犯人には目星がつき、フーダニットとしての楽しみは味わえないが、ハウダニットとして独創的で豪快なトリックが味わえる。(バカトリックですが)また、吉敷刑事の人間味あふれる魅力が存分に出ていて嬉しい。
建物を上から見た図から、トリックが何となく想像できたが、実際はそれを遥か上を超えていた。トリックが物理的に可能と証明できれば、9点いや10点でもいいです。

No.43 5点 レッドキング
(2018/05/30 19:10登録)
不可能トリックはミステリの「華」だ。どんなに小説として面白くとも、トリックのしょぼい、さらにトリック自体のない物はミステリとしてあまり評価できん。そう言う意味で、島田荘司こそ「至上の日本ミステリ作家」と呼ぶべきだろうに・・ところが、そうとは思えない・・自己矛盾した話だが。この作品の大技トリックにしても、そこだけ取り出せば「すげえ」となるが、ミステリとしては「うーん」なのだ。なぜだろう、要するにトリックが本体と分離してしまっているのだ。トリックは「華」としてだけでなく「根」「茎」としても機能しないと面白いミステリにはならないと思い知らされる・・ワガママ贅沢な要求だが・・と書いてきて「星を継ぐもの」ってSFミステリはトリックが即「茎」になっているからミステリとして面白いのだと連想が移った。

No.42 6点 nukkam
(2016/01/31 23:23登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の吉敷竹史シリーズ第3作の本格派推理小説で重要作と評価されています。吉敷の元妻である加納通子が初登場する作品で、吉敷の私生活がハイライトされ、単なる探偵役に留まらない行動をとります。これが強力なサスペンスを生み出すことにもつながっています。犯人当ての要素はありませんが(早い段階でわかります)、奇怪としか言いようのない事件のトリックの大胆さに驚かされます。島田はこのトリックがよほどお気に入りだったらしく、後の作品のいくつかでこのトリックのバリエーションを使っています。ですので本書のトリックがお気に召さない読者は他の島田作品とも相性がよくない可能性が高いと思います。

No.41 8点 ロマン
(2015/10/21 12:07登録)
失踪した元妻が容疑者に上がり、仕組まれたトリックを吉敷が暴く。義経北行伝説を絡めた奇奇怪怪ムード満点の不可能犯罪。最後の最後に明かされるトリックには思わずニヤリ。島田荘司らしい大掛かりなトリックだけども、中身は意外にも精密。特に、鎧武者の扱い方に関しては素直に感心してしまった。やっぱり島田荘司は凄い、と改めて思った傑作。

No.40 8点 斎藤警部
(2015/06/09 00:57登録)
私にとって「斜め」とは似て非なる(とは言えバカはバカですが)壮大なトリック解明に辿り着くまでの魅力的な謎と謎解きこそがこの小説の美点の中核。

それにしても、御手洗でなくまさか吉敷警部がこんな事件に遭遇するとは! 彼が主人公のせいで幾分抑制の効いた渋い雰囲気で進む物語が、最後のトリック究明で一気に大バカ大会に突入、しつつも微妙にまだダンディズムの薫りを残している(のか?ww)というまるで泉昌之のマンガを思わせるクスクス笑いの感覚はお笑い的は大好きだけど推理小説としてはどうだかなあ。でも島荘さんの作品(ご本人も?)ってそういう何というか「モテそう+可笑しい」みたいなムウドがどこかしら付いて回りますよね。。
とにかく、面白いです。 長い間、御手洗ものと勘違いしてました。

No.39 5点 take5
(2015/01/04 18:20登録)
五点は「まあ楽しめた」ですが、本当にまあ楽しめたぐらいでちょっと残念。
トリックが凄すぎてバカミスっていうのが嫌なのではありません。激しすぎて潔くて文句も出ないです。
只、通子さんの心情や生い立ちがあまりにも弱い、書けていないと思ってしまいました。もっと辛い過去を想像してしまいました。これでは男の人が書いた都合のいい女性像の域を出ません…
因みに、時間に追われる系の作品は、ドラマも小説も残り時間やページから、ドキドキするか強引さを感じてしまうかで良し悪しが分かれる所ですが、本作品は強引さの方を感じてしまいました。

No.38 7点 谷山
(2014/10/01 02:51登録)
吉敷の通子への思いの前では正直トリックとかどうでも良くなりました。だからこそこういうインパクトのあるトリックになったのかも知れないな。
それにしてもタイトルにある2/3って何の数字だろう。犯人一味の生き残り数だろうか。

No.37 7点 ボナンザ
(2014/04/08 00:30登録)
吉敷シリーズ最高傑作。馬鹿ミスではあるが、トリックは島田荘司ならでは。

No.36 8点 mozart
(2013/01/21 10:56登録)
文庫版を再読しました。カッパノベルズで出た時すぐ読んだので30年近く前のことになりますが、メイントリックだけは強烈なインパクトがあって、未だに鮮明に覚えていました。それでも読み始めたらストーリー展開にも結構引き込まれて、結局数時間で読了しました。やはりこの頃の島田先生の作品は文句なく面白いと思います。

No.35 6点 蟷螂の斧
(2012/02/16 20:52登録)
時間的制約のあるサスペンス&ハードボイルドタッチの小説で、ロマンスもあり面白くスラスラと拝読できました。トリック自体は、手段としてある物を使用しない限り不可能と思っていたので、判明してもあまり驚きはありませんでしたが・・・。

No.34 5点 まさむね
(2012/01/19 22:12登録)
 ラブロマンス的要素,サスペンス的要素にバカミス的要素も加わり,何とも不思議な読後感でした。(ちなみに,私にとって「バカミス」とは,決して否定的意味合いではございませんので,念のため申し添えます。)
 ラブロマンス的要素は,今後の2人の関係に興味を持てたし(早速「羽衣伝説~」を入手),まぁ良かったかなぁと。
 一方,サスペンス的要素は,私にはちょっと冗長に感じてしまいましたねぇ。相当にまどろっこしいぞ吉敷刑事。犯人もトリックに自信があるのなら,敢えて夜討ちをかけなくてもさ…なんて言ってたら小説が成り立たないか。
 最後に,バカミス的要素は楽しめましたよ(現場見取図で概ね察しはつきましたが…)。鎧武者の偶然性などご都合主義が過ぎるとか,実現可能性云々とか,敢えて申し上げますまい。この大技自体に意義がある!

No.33 8点 いいちこ
(2012/01/03 16:11登録)
序盤に示される大きな謎と徐々に明らかになる不可能犯罪。
義経伝説、夜鳴き石、鎧武者、心霊写真等、これでもかと提示されるいかにもなガジェット。
これらのプロットを奇想天外な大技トリックで一刀両断にするカタルシス。
島田荘司の方程式どおりに描かれた渾身の王道本格ミステリだろう。
メイントリックの物理的可能性は彼なら許容範囲だし、それを問題にさせない強烈なインパクトがある。
制限時間がもたらすサスペンスフルな筆致と、切ないラブロマンスも作品に華を添えていて素晴らしい。

No.32 7点 江守森江
(2011/03/01 03:39登録)
大技物理トリックは映像で観たいとお思いで、関東地方在住の方々に告知を兼ねて例外的に本作二度目の評を・・・・・今週の金曜日・地上波TBSで13:55から本作のドラマ化作品を再放送しますので録画予約をお忘れなく!!!!!
あの鎧武者や空○ブ○○コ・トリックが映像で観れる作品で2サス・ファンの間では伝説となっています。
とんでもトリックでバカミスに類する小説の映像化作品で本作に比類する作品は思い当たりません《原作無しなら「奇術探偵ジョナサン・クリーク」に何エピソードかあります》
本作のミステリとしての骨格部分(トリック)は絶対に映像で観る方が楽しいと思います(2サスも捨てたものじゃありません)
是非ともお見逃し無きよう!
因みに吉敷と通子の関係の話は、鹿賀丈史と余貴美子の熟年恋愛を見せ付けられるので辟易する覚悟で観て下さい(原作でシリーズ・ファンの方々には非常に不評です)
※全く書評はしてませんが伝説的作品の告知なのでお許し下さいm(_ _)m
では、ご機嫌よう。

No.31 5点 kanamori
(2010/08/02 19:59登録)
元妻を登場させることで主人公の人物造形に厚みを増し、北海道・釧路という舞台を得て、抒情的で読み応えのあるロマン・サスペンス小説になっているのに、場違いのバカトリックで雰囲気をぶちこわすところは島荘の面目躍如といえます。

No.30 8点 seiryuu
(2010/07/25 18:47登録)
読み初めてからずっとせつなくて、やっと道子さんに会えてからはがんばれーと読みながら応援していた。
正直 事件のトリックより2人のことが気になって仕方なかった。
トリックは島田氏らしくスケールが大きなものだったので期待通りだと笑ってしまった。
特徴のある建物が出てきたからまさかとは思っていたけど。
吉敷さんお疲れ様でした。

No.29 7点 ZAto
(2009/10/18 12:27登録)
夏の終わりに、「光文社ミステリー資料館」で開催された島田荘司フェアに出掛け、そこで展示されていた“斜め屋敷”の模型をニヤニヤ眺めてはトリックの凄さに改めて唸っていたものだったが、その流氷館のトリックに匹敵するだけの仕掛けが、この三ツ矢マンションのトリックなのではないか。
まったくこんな摩訶不思議な超絶事件に次々と立ち会う羽目になった北海道警の牛越刑事には同情を禁じえない。

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