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ミステリの祭典

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貴婦人として死す
HM卿シリーズ

作家 カーター・ディクスン
出版日1959年01月
平均点7.29点
書評数24人

No.24 7点 バード
(2023/01/05 06:27登録)
(ネタバレあり)
手記形式なので裏があるだろうと思いつつ、ルーク先生本人に怪しい雰囲気がほぼ無かったため疑いきれなかった。そこが落とし穴だったのね。騙す気満々の悪意ある手記とは趣が異なり、手記形式の先駆者『アクロイド』よりもある意味狡猾(褒めてます)と感じた。
メインの誤認ネタ以外も面白く、特に意外な二人の消失ルートは良かった。

しかし、ここまで褒めてきたが、点数に関しては7か8かで迷った末、7点とした。というのも、本作はあくまで「手記形式で想定しうる範囲で上手い」という感想にとどまったためである。
オンリーワンの魅力を有する傑作には一歩及ばない良作という印象だな。

No.23 7点 クリスティ再読
(2022/05/08 20:43登録)
読みやすくトリッキーな佳作。まあだけど、カーの通例でこんなの中んないよ...とはいいたくはなるが。

やはりクロックスリー医師の手記形式がなかなかよく出来た仕掛けと思う。これに狙いがあったりするわけだし。当事者の主観による「改め」になるから、ずるい、といえばそうかもしれない(苦笑)。それでも謎の設定が上手だから、興味をうまく引っ張っていけている。
グレインジ弁護士&クラフト警視と、クロックスリー医師が事件の解釈で対立することになって、クロックスリー医師が謎を解かなくてはならないハメに陥るプロットの綾がなかなか効いている。それと中盤で初登場する女性キャラの性格付けがなかなかナイス。だから中盤、飽きない作品。

怪奇趣味を排してのんびりした田舎の怪事件で、HMの車椅子のドタバタをからめてユーモラスに描いたあたり、単純に楽しい小説でもある。そういえば荒野にある流砂にハマって...というので、「バスカヴィル家の犬」を連想したら、同じコーンウォール半島のその近辺の地域のようだ。バスカヴィルのあるダートムアの北側に広がるエクスムーアという地域で、クリスティが生まれた(あと「ABC」のCとか「シタフォード」の舞台)イギリス海峡側とは逆のデヴォン州北部が舞台。何となく評者、ここらへんに憧れる。行ってみたいな。

No.22 8点 弾十六
(2021/11/14 11:35登録)
1943年出版。H・M卿第14作。昔のハヤカワ文庫で読了。銃関係の誤訳が多くて、創元新訳と比べたくなりました。なので、トリビアは銃関係の誤訳についてだけ書きます。他にも当時の英国について結構たくさんネタがあるのですが、それは創元新訳を読んだ後のお楽しみ、としましょう。
作品としては、皆さんがおっしゃる通り、強烈な謎と素晴らしい解決及び読後感良しで文句なしの傑作。これ以上、言うべきことはありません。まあH.M.のドタバタは全然趣味に合わないんですけど…
あっ、思い出した。本作で、本文には一切出てこないのですが、警察がパラフィン ・テストを行なっていることは確実。残渣が洗い流された、という可能性を全く考慮していないので、毛穴の奥まで調査出来るパラフィン ・テストなのだろう、と思います。文中(p80)では「燃焼しきらない火薬がはねかえって、手にあとがのこる(unburnt powder-grains that get embedded in your hand)」と書かれています。昔、人並由真さんが問題提起した英国でのパラフィン ・テスト使用のかなり早い例ですね!(作中年代は1940年7月)
さて以下は本題の銃関係の誤訳。
p77 a型32口径(a .32 bullet)♠️勘違いは仕方ないが編集は何をしてたの?aは不定冠詞。
p78 a32口径のブラウニング自動拳銃(a .32 Browning automatic)♠️同上。連続3回も繰り返されてるんだから気付いて欲しい。お馴染みFMモデル1910。
p80 このピストルにかぎって…まあなかにはないこともありませんが…逆発することがはっきりしている(But this particular gun has got a distinct “back-fire”, as some of them have)♠️「逆発」って用語は英和辞書には載ってるが、普通使わない。ピストルは構造上、発火時の高圧ガスが後方に若干漏れるものだが、個体によっても多少の違いはある。問題の銃は、特にガス噴出が多いのだろう。試訳: 特にこの拳銃は、この形式だと結構あるのですが、目立って「後方噴射」を出すのです。(ここは「誤訳」ではなく、ニュアンス違い)
p124 からの薬莢は発射しただけじゃ弾倉からとび出しはせん。止め金を上右へ動かすととび出す(Spent shells don’t just roll out of the magazine when they’re fired. They’re thrown out with a snap, high and to the right)♠️自動拳銃の場合、発射後直ちに自動で薬莢を排出しなければ、タマ詰まりを起こしてしまう。リボルバーなら何らかの仕掛けを手動で排莢するが… (後の方、結構重要な場面で、正しく訳しているのに関連性に気づいていない!) 試訳: 薬莢は、発射後、弾倉からただ転がり出るのではない。勢いよく高く右に向かって排出される。
後の方(p261)で、正しく訳してる部分は「自動拳銃は薬莢を高く右手へはねとばす(An automatic pistol ejects its cartridge-cases high and to the right)」
(ここまで2021-11-14)
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(以下2021-11-20)
創元文庫を入手しました。山口雅也さんの「結カー問答」が付録。JDC/CDファンなら、まあそうだねえ、という内容で、オドロキの知見は残念ながら無い。初代と二代目には全然敵いません。(トンプソン・サブマシンガンについての記述が、ガンマニアとしてちょっと気になりました。タトエとしてピンと来ないのですが…)
さて、お預けとなっていた銃関係の誤訳以外のネタです。もちろん創元では「a型32口径」なんて珍発明はない。上記の誤訳はもちろん正しく訳されているが、ちょっとイチャモン。まずp80早川/p80創元の「逆発」は共通して使っていて残念。創元「燃焼しきらなかった火薬が逆発し、手にめり込んであとがのこる(a back-fire of unburnt powder-grains that get embedded in your hand)」は「燃焼しなかった火薬が後方噴射で手にめり込む」としたいなあ。p124早川/p124創元の創元「高く右後方へ(high and to the right)」も「後」の付加が気に入らない。動画を見ると「若干後方」ですが… (どちらも細かくてすんません)
気を取り直して、まずは作中年代から。
創元では、日付を訳者が勝手に直しています(p22創元/p20早川)。原文はSaturday, the thirtieth of June、ここを創元では「6月29日土曜日」、1940年(これは何度も本文中に明記)の曜日に基づき日付を補正。ここは早川「6月30日土曜日」のように放って置いて欲しかったところです(曜日間違いの可能性もあるし『猫と鼠の殺人』のように著者の誤りから正しい日付がわかる場合もある。ゴルフ格言「あるがまま」を翻訳者の皆さまにもお願いしたい)。
この日付の「ひと月後」(So I waited for over a month)p26創元/p23早川、の土曜日に事件は発生したのです。その二日後が、Monday night in July(p158創元「七月の晩」/p160早川「六月の月曜日の晩」何故ここを間違う?)、ということは1940年7月最後の月曜日の前の土曜日が事件日である可能性が非常に高い。該当は1940年7月27日土曜日です。
でも史実を調べると、米国政府(当時はまだ参戦していない)が欧州から最後に米国人を避難させたのはSS Washingtonで、これは合ってるんですが、時期は1940年6月(イタリア参戦のため)。ジェノヴァ、リスボン、ボルドーなどをまわり、ゴールウェイ出発は6月12日、ニューヨークに到着したのは6月21日です(英Wiki)。残念ですがJDC/CDの記憶違いなのでしょう。
続いてタイトルについて。
“died a lady”は普通の言い方なのか、どういうニュアンスなのか、WEB検索しても本書の例しか出てこない、ということは、かなり珍しい表現なのでしょうか?似た例で”Born a Dog, Died a Gentleman”というのを見つけましたが、愛犬が実に紳士だった、という意味の墓碑名のようです。本文中ではJuliet died a lady(早川「ジュリエットは操を立てて死にました」、創元「ジュリエットは貴婦人として世を去りました」)。何か文学作品からの引用か、と思ったのですが、見当たりません。私は昔からずっと、主人公の女のどこがladyなのかわからなくて、今回再読後も全然腑に落ちません。
以下トリビア。ページ数と訳は早川文庫のもの。全体的に創元の翻訳が良い。早川の翻訳は仕上げがちょっと雑な感じです。
p6 北デヴォン海岸(North Devon coast)… リンマス(Lynmouth)… 索条鉄道(funicular)… リントン(Lynton)… エクスムーア(Exmoor)♠️いずれも実在。この辺りにリン川(East LynとWest Lyn)が流れている。リンコウム(Lyncombe)、リンブリッジ(Lynbridge)は架空地名のようだ。
p8 「わが軍は交戦中(We are at war)」♠️まだ独・英間では実際の交戦をしていない時期。ここは戦争が始まったよ!という切迫感あるニュースの場面。創元「我が国は交戦状態に突入しました」の方がまだ良いが「交戦」は気になる。試訳: 我が国は戦争となりました。
p8 この前の靴をはいていたころ(while I was in the last one)♠️ 創元でも「一つ前の靴を履いていた時」と訳してる。直前の文に靴が出てくるが、ここは靴だと変でしょう?試訳: 前の大戦に従軍していたとき
p8 <世界中で女がお前だけだったら(If You Were the Only Girl in the World)>♠️詞Nat D. Ayer、曲Clifford Greyのヒット曲。ミュージカル・レビュー”The Bing Boys Are Here”(1916-4-19初演Alhambra Theatre, London)のために作られた。某TubeでBuffalo BillsとPerry Comoのとても楽しいヤツを見つけたので是非。
p8 馬車馬亭(Coach and Horses)♠️普通に「大型四輪馬車と馬(複数)」で馬車一式の意味だが、創元「トテ馬車亭」ってなんのこと?詳細はWebで。ちょっとトビ過ぎの訳語。
p8 S・S・ジャガー(S.S.Jaguar)♠️高級スポーツカー。当時ならSS Jaguar 100(製造1936-1939)か。オープン2シーター(米語ロードスター)でえらくカッコ良い。
p11 <岩の谷>ヴァリー・オブ・ロックス(Valley of Rocks)♠️創元の割注で実在の景勝ポイントだと知った。Lynton Valley of Rocksでググると素敵な画像がいっぱい。情景のイメージ作りに役立つ。
p11 踊り人形みたいな真似(play the jumping-jack)♠️創元「ぴょんぴょん跳び回る真似」
p13 女の畜生(the damned woman)♠️創元「あのいかれた女」
p14 弁護士の言うねんごろ(the lawyers call intimacy)♠️お堅く訳して欲しい。創元「弁護士だったら『親密な関係』と」
p22 トムスンとバイウォーターズ… ラントンベリーとストーナー(Thompson and Bywaters… Rattenbury and Stoner)♠️創元は丁寧に注付きでわかりやすい。
p29 タイプ印刷の店(manages a typewriting bureau)♠️創元「事務所を構え、タイピストを雇って」
p51 ティッシュ・ペーパーで覆いをした懐中電灯(an electric torch, hooded in tissue-paper)♠️灯火管制時のやり方。敵になるべく光を見せないようにする、という用心。創元「薄紙の笠をかぶせた懐中電灯」
p64 新式のスピットファイア(a new Spitfire)♠️1940年8月から配備のMk.II(タイプ329)のことか。当時話題になっていたのかも。
p69 片目は義眼(with one glass eye)♠️戦傷なのかも。
p75 靴のサイズ♠️創元では丁寧に割注でサイズ換算している。
p79 硬質ゴムを張ったにぎりのほかはピカピカにみがいた鋼鉄(bright polished steel except for the hard-rubber grip)♠️グリップは黒いが、銃本体は銀色の仕上げ。銃本体が黒スティールだったら、夜に見つからないはずだが、銀色なのでピカリと光って見えた、ということだろう。試訳: 硬質ゴムのグリップ以外はスティールの磨いた銀色で。創元「樹脂をかぶせた握りのほかはぴかぴかに磨かれたスティール製」ハードラバーは天然樹脂でエボナイトのこと。樹脂には人工樹脂もあるので「硬質ゴム」が良い。
p95 ディズニーの漫画に出てくる竜(a dragon in a Disney film)♠️The Reluctant Dragon のUK初公開は1941-9-19(米国1941-1-2)。この文章は1940年11月に書かれたことになっている(p160)ので、JDCの時代錯誤だろう(このアニメじゃない可能性もあるが)。ところでJDCはこのアニメを見たんだろうか?
p107 弾薬… 鉄砲所持許可証♠️ここら辺、ガンマニアとしては興味深い。当時英国で弾丸を買うにはfirearms licenceを店に提示する必要があったのだが、戦争になってそのルールは形骸化されていたらしい。
p108 ピストルの革袋をベルトごと(holster-belts)♠️創元「ベルトごと拳銃のホルスターを」、ここら辺も興味深い。軍人がクラブやレストランや劇場で無造作にホルスター・ベルトをクロークに預けて平気、という情景。将校の拳銃は自弁で、型や口径は好きに選べたようだ(こうすると弾丸の種類が増えて補給に困ることになるんだが…)
p112 土曜日の晩にブリッジやハートを(playing bridge or hearts on Saturday night)♠️ハーツがブリッジと並んで記されている。1939年ごろ米国や英国でルール追加があり、Black LadyとかBlack Mariaと呼ばれたようだ。(英Wiki “Hearts (card game)”)
p123 過去の事件への言及。題名を書かなければネタバレにならない?原文を書いておきましょう。(I’ve seen a feller who was dead, and yet who wasn’t dead. I’ve seen a man make two different sets of finger-prints with the same hands. I’ve seen a poisoner get atropine into a clean glass that nobody touched)
p123 事件の顛末を話してみせる(It would just round out my cycle)♠️創元「わし流のサイクルヒットを達成できる」英国人だし、唐突に野球用語が出てくるかなあ。cycle of legend and saga と解釈して「わしの伝説を完成させるのにちょうど良い」くらいか。
p128 チップにやる銀貨をさぐったが、十シリング札しかない(for silver as a largesse; but he could find only a ten-shilling note)♠️次の文中の十シリングはten bob。戦時中の硬貨不足を表現している?当時の英国銀行10シリング札はEmergency wartime issue(1940-4-2から)でサイズ138x78mm。デザインはSeries A(1928-11-22から)と同じで印刷が赤色から藤色に変わっただけ。なお英国財務省発行10シリング札(1914から)は1933年に通貨使用終了となっている。英国消費者物価指数基準1940/2021(58.79倍)で£1=9173円。10シリングは4586円。
p128 ローマ人がキリスト教徒たちを火あぶりにしたりする教育映画… 女の子たちは着物を着てない…(Tis a educational film, about the Romans that burnt Christians to a stake and all. And the girls ’adn’t got no clothes on)♠️ 「クオ・ヴァディス」だと思われる(p182)。監督Enrico GuazzoniのQuo Vadis(伊Cines 1913)だろうか? 期待して某Tubeで見たけど女性はちゃんと着物を着てた… ここは映画を見る前のセリフなので、宣伝ポスターがワザと色っぽい情景を描いてたという事か。
p142 パッカードのオープンで、うしろに大きな補助席(a Packard roadster with a big rumble-seat)♠️ 「七、八百ポンドもする(p151)」ようだ。創元「パッカードのオープンカーで二人乗りなんだけど、後ろにランブルシートがある」丁寧な翻訳だが「大きな」も重要ポイントなので入れて欲しい。1939 Packard V-12 Roadster rumble-seatで大きな二人用ランブルシートがある素敵なのが見られる。
p197 五、六千ポンド
p160 一九四◯年の夏までは物資もかなり潤沢(Up to the summer of 1940, there was a reasonable plenitude of everything)
p181 二百ポンドもする椅子車
p183 『ポーリンの冒険』第三話(like the third episode of the Perils of Pauline)♠️The Perils of Pauline (1914)全20巻の冒険活劇。主演Pearl White、第3話はOLD SAILOR'S STORY (私は未見だが、こういうの淀長さんがお好きでしたね)
p196 ジョーゼフ・マクロードやアルヴァー・リデル(Joseph Macleod or Alvar Liddell)♠️いずれもBBCのニュースアナウンサー。「大陸にいる(in the land)」ではなく「地上で(聞こえたら)」という意味だろう。創元では丁寧な訳注あり。
p246 「虹のかなたに」(Over the Rainbow)♠️映画『オズの魔法使い』の英国公開は1940年1月(米国公開1939年8月)、レコードはDECCAから1940年3月リリース。“We were all whistling Over the Rainbow in that summer, perhaps the most tragic summer in our history.” 本書の記述からこの曲はジュディの素晴らしい歌声だけじゃなく、当時の人の平和への切実な願いをすくいとってヒットしたのだな、と判る。創元は「虹の彼方に」この表記が日本語での定番のようだ。
p246 モーリス式安楽椅子(Morris chair)♠️デザインの源流は、ウィリアム・モリスの会社が1866年に販売したもの。創元「モリス式安楽椅子」
p247 オーヴァルタイン(Ovaltine)♠️スイス1904発祥(Ovomaltine)、英国1909、米国1915から。ミロみたいな麦芽飲料らしい。日本でもカルピスが「オバルチン」として1977年から販売(80年代に終了か)。創元「オーヴァルティーン」(私は長音はなるべく省きたい派です…)

No.21 8点 SU
(2020/08/16 18:08登録)
個性的なキャラクターが事件発生から解決まで、やたらと騒ぎを起こしてくれるので飽きることがない。ラブロマンス要素を含めたドタバタコメディでありながら、トリック・ロジックともに良く出来ている。

No.20 7点 斎藤警部
(2020/07/03 18:30登録)
“だが、そこまで行ったらアドルフ・ヒトラーと変わらなくなる。”

本作のフーダニットは、○○トリックに纏わる複雑なものと、●●ギミックで目眩しされるシンプルに盲点を衝くものと、どちらも一筋縄では行かない堂々たる飛車角の競演と言った体の豪華版であります。そしてこの二つの大血脈が戦時下という状況で交差する点から、最後には意外性豊かな人間ドラマが滲み出て来て止まらない。。。という実に興味深く感慨深いフーダニット。よくぞやってくれました。 犯人特定ロジックが何気にしっかりしているのも、地味に魅力的。 ■■が二つあった(そっちの意味じゃなくあっちの意味で)だなんて。。。。 「手記」使いの可能性、「信用できない語り手」の可能性の広さに想いを馳せる作品です。 この犯人の意外さ、隠匿の巧みさには参ったなあ。 身勝手に見える「アレ」の動機も、欧州での戦争がとうとうヤバくなって来ている時期だと考えると、その気持ちは理解出来る。 HMの人情派にして豪快な超法規解決には開いた口が塞がりませんが。。

それにしてもあの、「読者への挑戦」かと思いきや。。。。のページ!! 犯人バラしてるやないか!!ww 驚いたなああの仕掛けには。 それと、「貴婦人」てのは「淑女」の誤訳とは思いますが、こっちの邦題が訴求力あって良いかもね。 創元推理文庫、扉頁の方の惹句、笑っちゃう巧さでした。 8点に肉薄の7.47点です。

No.19 7点 ◇・・
(2020/06/20 19:01登録)
記述者のクロックスリー医師を空襲で死なせてしまうことで、記述者が最後まで真犯人の正体を知らなかったということにして語りの自然さを保ち、なおかつ記述者が真犯人のことを自分の肉親であるが故に、嫌疑の対象外とする設定によって、フェアな犯人当てを徹底しつつ犯人を読者の死角に置くという難題を見事に成就させている。

No.18 8点
(2020/03/11 10:34登録)
 第二次世界大戦のさなか、ナチス・ドイツによるパリ占領とフランス降伏から約半月後の一九四〇年六月二十九日土曜日、イギリスのノース・デヴォン海岸沿いにあるリンクーム村で不可解な事件が起こった。崖っぷちに建つ大きな山小屋風の一軒家〈清閑荘(モン・ルポ)〉に住む元数学教授アレック・ウェインライトの妻リタが、カードに招かれた俳優志望の車のセールスマン、バリー・サリヴァンと共に断崖から身を投げて心中したのだ。だが数日後に引き上げられた二人の遺体は両方とも心臓を撃ち抜かれており、着衣には銃を体に押しつけて発射した痕跡が残っていた。
 凶器に使われた三二口径のブローニングは半マイルも離れた路上で見つかり、また現場に残された二組の男女の足跡は偽装されたものではなく、周囲には第一発見者のほかに足跡はない。心中への関与と偽装工作を疑われた発見者、ルーク・クロックスリー医師は、己が嫌疑を晴らすため独力で、たまたま村に滞在中のヘンリ・メリヴェール卿すら匙を投げるほどの謎を解こうとするのだが・・・
 『仮面荘の怪事件』に引き続き戦時中の1943年に発表された、HM卿シリーズ第14作。翌年の『爬虫類館の殺人』ほどではないにせよ、同年七月十日からの英国空中戦(バトル・オブ・ブリテン)大空襲を控え、シチュエーションのところどころに戦争の影が見られる作品。にもかかわらず非常にシンプルかつコンパクトな出来映えで、『囁く影』などと共に中期の佳作と目されるもの。
 脚の親指を挫いてモーター付き車椅子を駆るH・Mの強烈なお笑いはありますが、それを除けば無理のない流れで、泡坂妻夫『右腕山上空』を思わせる時間差での盲点が指摘されます。足跡トリックとしては同作者の『白い僧院の殺人』よりも上でしょう。カー/ディクスンにしては短めの長編ですが、メインの叙述トリックと併せて非常に中身が詰まっています。こちらの設定もその自然さにおいて出色。
 犯人がほとんど策を弄さず、被害者二人の企てに便乗しただけというモダンな構図。2年前に発表されたフェル博士ものの『猫と鼠の殺人』もそうでしたね。ケレン味皆無でこの作者らしからぬところがファンにはやや物足りないのですが、秀作なのは間違いないでしょう。
 評者の好みだとメリヴェール卿シリーズ最終作『騎士の盃』になりますが、普通に選べばカー/ディクスン全作品ベスト10にギリギリ食い込んでくる作品。戦中ミステリの収穫のひとつです。

No.17 6点 ミステリ初心者
(2019/11/16 20:18登録)
ネタバレをしています。

 犯人の足跡が無い系の謎であり、心中とみせかけて駆け落ちする被害者たちの計画で、今までにないパターンでした。また、足跡を消してつけ直す発想が良いです。
 また、HM卿が車いすで爆走するシーンは非常に良かったです(笑)。

 以下、難癖ポイント。
・普通、心中駆け落ち計画を他人に話しますかね?(笑)。途中、バリー別人説や、バリー偽愛人説とか考えてしまいました(謎)。自分の思ったよりリタが馬鹿でした(笑)。
・もし、ルークが、リタとバリーの足跡の近くに足跡をつけてしまったらどうしていたのでしょうね(笑)。
・銃を落としたのが偶然とするのは難易度が高かったです…すごく悩みました。しかし、トムのポケットが破けていたのはいい複線でした。
・犯人の、ダイヤを元の場所に戻す行為を推理するのは難しいです。鍵はトムが持っていて、チャンスがあることはわかりましたが、アレックを憐れんで戻すということがわからず、結構悩みました。ダイヤを戻せた人間が犯人とする伏線ならば、犯人にとって必須の行動でなければ成り立たない伏線だと思いました。
・ルークの披露する推理に対し、HM卿が"本当のことは一つもない"的なことを言ったため、私はローラー説が覆されたと思ってしまいました。HM卿の配慮だったのですが、小説的にはただ読者を混乱させるだけのものに思えます。犯人当てとしてはイマイチな印象があります。
・読者への挑戦状がないために、どこまで読んでよいものやら分からず、トムが犯人であることを唐突にバラされてしまいました(笑)。データがそろった段階でもう一度最初から読み返すのが好きなので、これにはガッカリしました(カー作品全体的にそうですが)。

No.16 7点 いいちこ
(2019/04/02 08:49登録)
足跡のトリックは一見して無粋・無骨な印象を受けるものの、被害者が仕掛けている点、犯行時間の誤認をリードしている点等、考え抜かれたもの。
老医師の手記という構成がもたらす真犯人の衝撃も含め、地味な印象が強い作品だが、完成度の高い佳作

No.15 8点 レッドキング
(2019/02/13 18:55登録)
心中自殺しかありえない状況にして殺人。足跡の偽造が不可能という設定下での足跡トリック。360度+αに「開かれた空間」にして他殺不可能な「密室」。
4人の・・いや、アクロイドネタ含めて5人の容疑者が浮かんだが、あの犯人だけには思い至らなかった。やられた。

No.14 7点 makomako
(2017/08/08 10:52登録)
 殺人か自殺か。自殺だったらバカみたいだから当然殺人でしょう。ここまではすぐわかるのですが、もし殺人としたら完全犯罪としか思えないようなシチュエーション。殺人をどうやって説明できるか見当もつかなかった。謎解きをしてみれば比較的簡単なトリックなのですが。
 登場人物も限られており犯人は分かりそうなのだが、結局全然わからなかった。
 種明かしされればなるほどとは思うのですが、これってちょっと物語を変えれば、違う人を犯人とすることは簡単にできそうな気もします。
 まあそのあたりが若干のマイナスなのですが、しっかりした本格推理小説であることは間違いないので、本格物が好きなら楽しめること請け合いです。

No.13 7点
(2016/11/22 21:35登録)
久しぶりに、今回は創元版新訳での再読です。
最初に読んだ時には、断崖に残された足跡のトリックは、わからなかったものの解説されてもそんなに感心するほどじゃないなと思ったのでした。しかし今回読み直してみると、時間差を利用したところがさすがにうまいと思いました。トリック後半部分は他にも方法がありそうですが、シンプルに決まっていますし、HM卿の観察による足跡の特徴などの伏線がさすがです。
また、本作のメインとなるあのアイディアには、そうだったのかとうならされたのでした。こちらの方は、知って読んでいると、リタの次の行動としては、そうならなければならないはずだから、その人物への疑惑が起こるのが当然だなと思えるところもありました。また小粒な謎ながら不可解な拳銃が道端で発見された原因についての伏線も会話の中でさりげなく出てきます。
あと、車いすに乗った暴君ネロのギャグ・シーンには笑えました。

No.12 6点 E-BANKER
(2016/08/29 23:56登録)
1943年発表。
HM卿シリーズでいうと十四作目に当たる。カー中期の名作という評価も多いがさてどうか・・・

~戦時下イギリスの片隅で一大醜聞が村人の耳目を集めた。俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって打ち上げられたのだ。医師ルークは心中説を否定、二人は殺害されたと信じて犯人を捜すべく奮闘し、得られた情報を手記に綴っていく。やがて、警察に協力を要請されたヘンリ・メルベール卿とも行動をともにするが・・・。張り巡らした伏線を見事回収、本格趣味に満ちた巧緻な逸品~

パッと見は地味ながら、実は味わい深い作品・・・
他の方も概ねこういう評価が多いが、やっぱり同様の感想を持った。
カーというとどうしても密室殺人を嚆矢としたトリックやオカルト趣味というところに目が行きがちになるが、中期の作品ともなると、そういう派手な衣装よりは、玄人受けしそうなミステリーらしいミステリーに矛先が向いてくる。
その中でも本作は出来のいい方なのだろう。
(巻末解説で山口雅也氏もえらく褒めています)

謎の中心は一見すると、断崖絶壁で急に消えた男女ふたりの足跡、というふうに見える。
他殺か自殺かという判断は思いのほか早く提示されるが、コイツが実はクセものなのだ。
終盤大詰めを迎えたところで、作品全体に仕掛けられた大いなる罠が発動される。
確かにまぁ伏線は張られているんだけど、そこは気付かないよなぁーっていうレベル。
こういう仕掛けをシレーっとやれる辺りがさすがに大作家といわれる所以だろうな。

HM卿は今回もお笑い全開!
電動車椅子を操るだけでも抱腹絶倒なのに(?)、街中を巻き込み、更なる混乱の渦を生み出していくことに・・・
本作では本当に脇役というべき存在で、最後の最後でようやく卿の推理が開陳されるのだ。

ということで、評価としては水準以上という感じかな。
ただ、他の佳作との比較ではちょっと落ちるのは否めないだろう。

No.11 7点 Tetchy
(2016/05/22 15:54登録)
決して許されない恋に落ちた男と女が先のない行く末を儚んで心中する、というよくある悲劇が一転して2人は至近距離で何者かに撃たれた後に崖から転落したという不可解な犯罪へと転ずる。この辺の転調が実にカーらしいケレンに満ちている。

さて以下からはネタバレを含みます。

今回ルーク・クロックスリー医師の手記で構成した作者ディクスンの狙いとは“信用のならない語り手”をテーマにしたことだ。
さらに犯人の隠された秘密や人となりが判明するに当たり、このテーマの裏に隠れたもう1つのテーマとは“家族であってもそれぞれが十分に理解しているとは云えない”という実に普遍的なテーマだったのだ。
駆け落ちする男女を犠牲者にすることで色恋沙汰の悲劇という実にオーソドックスな作品かと思いきや、ディクスンの思わぬ意図に感心させられてしまった。

そして本書ではさらにイギリスに迫りくる第二次大戦も本書にほのかに影響を与えている。真相が解明された時には既に手記を残したルーク・クロックスリー医師は戦死しており、また真犯人もまた従軍して不在となっている。明日をも知れぬ戦時下という特殊状況ゆえにリタは道ならぬ恋に落ち、真犯人は恋人を捕られたという実に軽い動機で殺人に至った。何一つ確かなものがない時代だったからこその逃避行であり殺人であった、そのようにも解釈ができる。

今回は新訳改訂版であったため、実に読みやすかった。せっかくのカーの諸作を古めかしい旧訳の古めかしい文体で読むよりも遥かにいいので、東京創元社にはこのまま新訳改訂版の出版を継続してもらいたい。

No.10 8点 青い車
(2016/05/22 15:17登録)
 崖から飛び降り心中自殺したはずの男女は至近距離から射殺された死体となって発見された……。不可能犯罪に新たなヴァリエーションを加えた作者の発想力に脱帽。トリックも現場の特性を活用した切れ味抜群の出来です。終盤からの犯人指摘の演出までサスペンスに満ちた、隠れた名作といっていいのではないでしょうか。

No.9 8点 ロマン
(2015/10/21 11:54登録)
老医師の手記という形で語られる本書。断崖絶壁に消えた二人の足跡トリックには最後まで悩まされる。戦争が影を落としていく中、HM卿の登場には大笑いさせられ、垣間見える人情にじんとくる。怪奇趣味や密室はないが、皮肉な人間ドラマといい相変わらず最後まで読む手を引っ張っていってくれる。形式的にある作品を連想したが杞憂だった。『貴婦人として死す』という題名については色々考えさせる。

No.8 7点 了然和尚
(2015/08/05 21:49登録)
ちょっと地味な内容かと思いましたが、作品としてよくまとまってました。第二、第三の殺人が組み込まれてもおかしくない構成なのですが、最初の事件だけにすることで、結末を(またもや超法規的、人情的な決着)盛り上げています。「王立美術院会員ポール・フェラーズによって書かれた補足と結末」と唯一タイトルが付けられた1ページのインパクトは最高の効果を上げていました。確かに本書は他の人に勧めたい一冊ですね。

No.7 6点 蟷螂の斧
(2015/05/16 20:28登録)
2つのトリックは評価したいと思いますが、リーダビリティや物語の展開に難があるような気がします。また、H.M卿の存在がやや邪魔(浮いている)に感じられた。

No.6 9点 ボナンザ
(2015/03/15 20:57登録)
ディクスン名義の最高傑作。
トリックも例のあれも素晴らしい上にまったく不自然さを感じさせない。
必読。だけど最近だと入手困難か。

No.5 6点 測量ボ-イ
(2012/12/09 18:43登録)
足跡トリックと見せかけて、うまく読者の意識をミスリ-ド
した佳作。カ-の作品にしては、怪奇趣味もあまりなく地味
な印象ですが。まずまずよい作品でしょう。
採点7点といきたいところですが、訳が古めかしく読みにく
いのでマイナス1点。

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