毒入りチョコレート事件 ロジャー・シェリンガム、アンブローズ・チタウィック |
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作家 | アントニイ・バークリー |
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出版日 | 1962年01月 |
平均点 | 7.12点 |
書評数 | 41人 |
No.41 | 8点 | みりん | |
(2024/04/10 02:33登録) 300ページまるまる解決編!! "推理"小説としてあまりの無駄のなさに感動を覚えるレベルでした笑 推理合戦+アンチミステリって感じで、『虚無への供物』とは皮肉る部分は異なっているけれども、通ずるところがありますね。 めっちゃ楽しめたけど、あえて不満点【以下ネタバレを含みます】 あらかじめ推理に使われる材料が揃ってから、6通りの解決を示されれば「おぉ…すげぇ…」ってなるのですが、隠された情報を後出しされて推論を立てられると、「ほーん、なるほど」程度になっちゃいます(これなんで?) うーんでも作者がアンチミステリの部分を主張したいからこそ、あえて情報を後出しにしたと思われるので、これに関しては不満を言ってもしゃーないか… ちなみに私はシェリンガムの推理が1番好き!! 特にユースタス卿に届いたチョコレートは○○○○○で、後に犯人が○○○○○という工夫の部分は、非常に感心しました。 ※あとこれ多重解決の元祖なんですね。はじめて刀城言耶シリーズを読んだ時は「この探偵すげぇ…斬新すぎんだろ…」となったけども、アントニイ・バークリーの功績だったのか。じゃあ10点満点付けないとダメな気がしてきたな。 好きになる作家が三津田信三、白井智之、方丈貴恵となぜか多重解決作家ばかりなので、元祖を読めて良かった。とりあえず、ロジャー・シェリンガムシリーズは追いかけます。 |
No.40 | 8点 | ʖˋ ၊၂ ਡ | |
(2021/07/22 14:15登録) 一つの事件について六人の探偵役が六つの推理を示すという趣向が絶妙で、日本でも多くの追随作品が生まれた。 その魅力とは、仮説構築とその崩壊が繰り返される快感だろう。難解なパズルに挑む時の思考、ある種の悦楽。後のブランドやデクスターの作品にも見られる、本格の醍醐味の一端を明示した記念碑的作品。 |
No.39 | 7点 | okutetsu | |
(2020/09/05 20:02登録) 作品のほとんどが解決編になるので読んでいて面白かった。 どの解答もそれなりに信憑性があってそれで終わってもいいんじゃないかと思わせる出来。 4人目の解答がミステリとしては一番それっぽいし収まりが良さそう(実際そういう短編もあるそうだ)だけど、そこで終わらないところが凡百の作品との違いだと思う。 |
No.38 | 7点 | バード | |
(2020/08/30 11:52登録) こてこての古典作品と思わせる堅苦しいタイトルに反し、実際の本書は、中々にミステリ小説を皮肉ってらっしゃる変化球本である。 本書の最重要テーマはミステリにおける論理の脆弱性で、これは奇書と名高い『虚無への供物』と似ている。皆さんが書かれているように、この本の分類はアンチミステリっすね。 最近、ミステリの粗が気になり、昔ほど純粋に楽しめていないという方に本書はお勧め。ミステリの論理なんて良くも悪くもこんなもんよ、と初心を思い出させてくれるだろう。 扱ってるテーマは興味深い(9~10点)が、同じ事件の解決案を6回も聞かされるので、物語的には少し退屈(5~6)だったかも。点数はテーマと読み物としての面白さの両方を考慮した。 |
No.37 | 7点 | ◇・・ | |
(2020/03/15 17:10登録) それまでのミステリで名探偵が提示する解決は一つだったけれど、そんなのは論理的にいくらでも考えられるぞ、と言って五つ六つ並べて眩惑させる。 コンセプトとテクニックと両方持っているのが凄い。 |
No.36 | 8点 | 弾十六 | |
(2020/01/03 19:07登録) 1929年6月出版。創元推理文庫(高橋 泰邦 訳、1994年21版)で読みました。この長篇と短篇『偶然の審判』The Avenging Chance(初出Pearson’s Magazine1929年9月号, 表紙絵はこの短篇の一場面。チョコレートの裏側の穴を拡大鏡で観察する二人の男の顔)との関係については、藤原編集室WEBサイト『本棚の中の骸骨』の「書斎の死体」コーナーに真田啓介さんの素晴らしい論考「The Avenging Chance の謎」があり、そこで言及されてる中篇The Avenging Chance(生前未発表)はThe Avenging Chance and Other Mysteries From Roger Sheringham's Casebook(Crippen & Landru 2019)に収録されkindle版も入手可能です。 本作は、新聞で読んだ事件を無責任にあれこれ論評するような楽しさ。各登場人物ならではの独自の見方が反映された説になってれば、なお良いのですが(アジモフ『黒後家蜘蛛』はどうだったっけ?) 残念ながらイマイチです。最初の著名弁護士は自分の指摘した「犯人」から弁護を依頼される可能性を全く考えてなかったり、女性作家が二人もいるのに女性的視点を思わせるところが薄かったり(バークリーだから仕方ない?)… 最大の難点はチタウィックの紹介が漠然としてるので「意外にも冴えない男が…」という趣向が生かされてないところ。(この点はアジモフのが良いアイディア) ミステリとしては、どの説も純粋な「推理」を堪能させる考察として物足りないので、そこが皆さんの評価が低い原因なのでしょう。でも本作は非常に上手く出来てると思います。各人の説は次の語り手によって否定されるのですが、らせんを描くように次々と事実が積みあがってゆき、そして結末に至る構成は素晴らしい。特に後半、登場人物のモラルがどんどん崩れてゆく流れが好き。(証言がアンフェアという意見がありますが、警察じゃないただの素人の質問には、あーゆー返しも当然あり得ると思います。) ところで短篇『偶然の審判』を読んでピアスン編集部はどう思ったんだろう。既に出版されてたこの長篇にほぼ全部内容が含まれてるのですが… (原稿の使い回しと受けとられても仕方がないですね。) でも、まあ両方とも作品として成立させちゃうところが、この作家の凄いところかも知れません。 以下トリビア。参照した原文はMartin Edwards監修British Library 2016(付録のChristina Brandによる「新解決」はまだ読んでいません) 犯罪者たちの略歴は“殺人博物館”madisons.jp/murder/murder.htm, murderpedia.org, Wikiを参照しました。 作中時間は「11月15日金曜日(p19)」が事件発生の日、直近は1929年。(その前だと1918年) 1929年11月だと出版月から見て未来なんですがでもバークリーは日付誤りが多いらしいので問題なし?発表時、その年のカレンダーを見て曜日を決めたのかも (短篇及び中篇Avenging Chanceも同じ日付と曜日になっており、もし1928年発表なら、この曜日にする可能性は低い気がする。これ短篇が1929年初出説の傍証になる?ピアスン誌がカヴァーストーリーにしてるのは初出だからこそなのでは?) 現在価値は英国消費者物価指数基準1929/2020で63.95倍、1ポンド=9016円で換算。 献辞To S. H. J. COX BECAUSE FOR ONCE HE DID NOT GUESS IT (何故か私が参照した原文には掲載なし) S・H・J・コックスは身内じゃなくて出版社の編集者とのこと。 p7 犯罪研究会(Crimes Circle): まるで翌年設立のDetective Clubのような仕組み。 p8 パリ警視庁(Sûreté in Paris): 相変わらず評価が高い。 p14 英国の海水浴場の名前(the name of an English watering-place): が名前に入ってると何故か米国人に受ける、というのは実在の作家への言及か?と思ってList of seaside resorts in the United Kingdom(wiki)を眺めたのですが、思い当たる作家名なし。でもそのリストにSheringham(Norfolk)があり、自分自身(シェリンガム)のことを言ってるということ? p18 探偵たちの回想録(the reminiscences of a hundred ex-detectives): 18シリング6ペンス=8340円もする分厚い本(普通の単行本は大抵7シリング6ペンス=3381円、本書も同じ。) だが売れ残ってすぐに18ペンス=676円になるという。そんなに回想録あった?調べるとBow Street Runner(1827)、Vidocq(1828)、William RussellのRecollectionシリーズ(1849, 1852, 1856)、Note-Book of a New York Detective(1865)、Allan Pinkerton(1874)が見つかりました。結構ありますね。「眉毛を剃る」(shaves his eyebrows)は、すぐに「つのだじろう」を思い出しちゃいます… p19 ピカデリー通りのクラブ<レインボー>(Rainbow): 1734年創設で元はコーヒーハウスという設定。List of gentlemen's clubs in London(wiki)には載ってない。たぶん架空。 p20 下世話なコーラスガール(a blasted chorus-girl): blastはdamnの婉曲語。中篇Avenging Chanceではblastedではなくblast。(短篇は未確認) chorus-girlは歌って踊るラインダンサーが一番近いイメージか… 英国ではミュージカルIn Town(1892)が初登場、続くGaiety Girls(1893)が大ヒットしたらしい。フレンチカンカンは1830年ごろの発祥なのでフランスだねか。(wiki) p23 五十万ポンド近くの持参金: 45億円。 p25 百点まで玉突き(played a hundred up at billiards): English Billiardsでは普通300点が勝利ラインらしいので「早々と切り上げた」という意味か。100点ぎめのゲームも普通だったのか。 p37 国訛りで(in his native tongue): セリフを拾うとGet out o’ ma office、Ye know as well as I do that that letter was never sent out from ’ere、The devil ’e ’as! など。単語冒頭のH落ちはコックニーに限らず下層出身の習いらしい。maとかyeはアイルランド英語? p40 自分免許の探偵(would-be detective): 自称〜、〜志望の意味。「自分免許」は人情本・花の志満台(1836‐38)の用例あり。(日本国語大辞典) p43 ハーウッド事件(Horwood case): Brigadier-General Sir William Thomas Francis Horwood, GBE, KCB, DSO (1868-1943)は1920から1928まで警視総監 Commissioner of Police of the Metropolis, head of London's Metropolitan Police(Wiki) 精神を病んだWalter Frank TatamがHorwoodに1922-11-9(誕生日)に砒素入りチョコの箱を送ったが、一つ食べてすぐ苦しくなり、近所の医者の迅速な手当で助かった。 p50 委員会(committees): 社会改良的な活動か。 p55 十八ヶ月前、ラドマスでは(eighteen months ago at Ludmouth): Roger Sheringham and the Vane Mystery(1927年2月出版)のことと思われるが、モレスビーにやられたのがギリギリ出版直前と仮定しても18ヶ月後は1928年8月。となると事件発生月(11月)にも届かない。(この会話の時期については遅くとも12月。下記参照) なので残念ながらこのくだりは年月の確定には役立たないようです。 p57 延長された聴聞会(the adjourned inquest): Crimes Circle初会合(月曜日)と同じ日に開催されている。inquestは死亡者の身元と死因が確定したら、あまり間を置かずに開かれると思うので初会合は11月中か遅くとも12月初頭か。短篇では冒頭シェリンガムとモレスビーの会話が事件の約一週間後(11/22頃)として設定されていました。 p61 ミルサム=ファウラー殺人事件(The Milsom and Fowler murder): 1896-2-14にAlbert Milsome(1862-1896)とHenry Fowler(1864-1896)がHenry Smith(79)をロンドンの自宅で殴り殺した。古典的なcut-throat事件(互いに相手が犯人と罪をなすりつけ合う)で、二人は1896-6-9同時に絞首刑となった。(絞首台上で争うのを防ぐために、間に一人死刑囚を挟んで三人同時に吊るしたらしい。) p61 年間ずっと3万ポンドの収入(His income of roughly thirty thousand pounds a year): 2億7千万円。「ざっと」の誤植? p63 一千ギニー: 947万円。1ギニーは1ポンド1シリング(=1.05ポンド)。ほとんど1ポンドと同じとして使われてる場面を読んだことあり。(謝礼や報酬に使われる単位らしい。ちょっと色をつけた、という感じなのか。) p79 マリー・ラファージュ事件(Marie Lafarge case): Marie-Fortunée Lafarge (1816-1852)は夫を1840年に砒素で毒殺した疑いで逮捕され有罪となった。フランスで大々的に新聞報道された最初の例。 p80 メントン(Mentone): 仏語マントン。イタリア語ならメントーネ。 p81『三匹の熊』(The Three Bears): "Goldilocks and the Three Bears" (originally titled "The Story of the Three Bears") is a British fairy tale、Robert Southeyが匿名で1837年に発表。(wiki) p82 英国で今年すでに六カ月滞在… もう一歩でも英国に足を踏み入れれば、英国で所得税を払わなければならない: 海外に本拠があっても英国滞在が6カ月を超えたら、英国に所得税徴税権が発生する、という仕組み?調べてません。 p88 肌着(combinations): このコンビネーションについて“I don’t wear the things. Never have done, since I was an infant.”と作家が言う。上下繋がったつなぎっぽい下着のことか。作家が否定してるのは古臭いイメージでダサいから? p96 陰の女(chercher la femme):「女を探せ、犯罪の陰に女あり」大デュマの小説『パリのモヒカン族』(Les Mohicans de Paris,1854-1859)でパリ警視庁長官ジャッカル氏の口癖として何度も繰り返されるらしい。これがこの有名なセリフの初出だという。(wiki) p97 メアリー・アンセル事件(Mary Ansell case): Mary Ann Ansell(1877-1899)は1899年に妹Carolineをリンで毒殺したとして逮捕され、絞首刑となった。 p97 ニューヨークで起こったモリノー事件(Molineux case in New York): ブルックリンのRoland Burnham Molineux(1866-1917)は、1898年に恋敵の住居に毒入りの鉱泉水を贈り、うっかりそれを使った下宿の家主Katherine Adamsを毒殺したとされ裁判にかけられ、かなり不利だったが、1901年に無罪となった。 p113 ハミルトン社製(Hamilton machine): このタイプライターは「ハミルトンの四型(Hamilton No. 4)」(p158)とある。文章から受ける感じではポータブルではなく、デスクトップっぽい。Hamilton製Automatic Typewriter(1890ごろ?)というのがWeb検索で見つかったけど旧式すぎる。たぶん架空ブランド。当時の有名ブランドはUnderwood、Corona、Remington、Imperial、Royalなど。 p132 戦時中… タクシー運転手(taxi-drivers)… 面白い習慣(interesting habits): 文脈からすると「誰も二度と乗りたくなくなるような不愉快なやり口」だったらしい。ワザと遠回りして料金をボッタくるのかな。 p138 昔の諺(old saying)… 音なし川は深い(still waters run deep): wikiによるとQuintus Rufus Curtius(1世紀ごろの人)作『アレクサンダー大王伝』にaltissima quaeque flumina minimo sono labi (the deepest rivers flow with least sound)と記され、バクトリア起源という。英語文献では1400年ごろの使用例ありとのこと。 p154 ペイパー・ゲーム(paper-games): 紙を小さく裂いた程度の大きさで遊ぶらしいが、どういう遊びかよくわからない。 p157 彼女の思い出した限りでは『運命の炎』という映画(film called, so far as she could recall, Fires of Fate): 当然架空、と思ったら、意外にも該当あり。Fires of Fate is a 1923 British-American silent adventure film directed by Tom Terriss and starring Wanda Hawley, Nigel Barrie and Pedro de Cordoba. なんと原作はArthur Conan Doyle!小説The Tragedy of the Korosko(1898)を自身で劇化したFires of Fateに基づくもの。 p158 ハーフィールド万年筆インク(Harfield’s Fountain-Pen Ink): 調べつかず。たぶん架空。当時の広告などからメーカーを拾うとPelikan(万年筆用は1886年ごろから販売), Carter, Sanford, Signet, Gimborn, Loma など。 p164 グレゴリー風の詠唱(Gregorian chant): 正しくは「グレゴリオ聖歌」 p164 『輝く瞳』(A Pair of Sparkling Eyes): Gilbert&Sullivan作のコミックオペラThe Gondoliers(1889) Act Two no. 30: Take A Pair Of Sparkling Eyesのこと。 p164 ちょうど20年前にフィラデルフィアで起こったウィルスン博士殺人事件(The murder of Dr. Wilson, at Philadelphia, just twenty years ago): 青酸カリ入りビールによる殺人で、迷宮入り事件だという。色々探したが全然ヒットしない。多分架空。(2021-4-25追記: 最近、ふと気になって再度ググったら、ニューヨーク・タイムズの過去版の記事がヒットした。150年前までの全記事が読めるサービスに登録して読んだら、まさにこの事件の概要にぴったり。1908年6月26日、Dr. William H. Wilsonが送られてきたaleを飲んで死んだ事件。ということは毒チョコは1927年か1928年の事件、ということか。絹靴下事件の私の書評も参照願います。) p166 確率: かなり誤りの多い計算のような気がする…(でも具体的に何が間違いなのかはパスしときます…) p167 オニックス万年筆(Onyx fountain-pen):調べつかず。たぶん架空。当時の広告などからメーカー名を拾うとWaterman(1884年に万年筆の特許), Sheaffer, Parker, Onoto, Wahl, Conklin, Dunn, Swan など。値段はもちろんピンキリですが安くて2.5ドル(約4000円)くらいか。 p173 レオブとレオポルド事件: Richard Albert Loeb(1905-1936)とNathan Freudenthal Leopold, Jr.(1904-1971)が実業家の子Bobby Franks(16歳)を1924-5-21に誘拐し撲殺。逮捕され二人とも終身刑となった。 p180 クリスチナ・エドマンズ: Christina Edmunds(1828-1907) 1871年にストリキニーネ入りチョコやケーキをばら撒きSidney Albert Barker(4歳)が死亡、他にも中毒の被害あり。逮捕され死刑を宣告されたが精神異常の疑いで終身刑に。 p202 コンスタンス・ケント: Constance Kent(1844-1944) 1860年に義弟(4歳)Francis "Saville" Kentの喉を切り裂き殺害。1865年に犯行を告白し、死刑を宣告された(のちに終身刑に減刑) p202 リッツィー・ボーデン: Lizzie Andrew Borden(1860-1927)は1892-8-4に父と義母を斧で殺害したとして逮捕されたが、裁判で無罪となった。 p202 アデレイド・バートレット事件(Adelaide Bartlett case): 1886年に死んだThomas Edwin Bartlettの胃から多量のクロロホルムが見つかり、殺害の疑いで妻Adelaide Blanche Bartlett(1855-?)が逮捕されたが、食道の損傷無しで多量のクロロホルムを投与できる方法がわからず、裁判で無罪となった。 p206 近頃、話が完結するのは流行らない(Stories (...) simply weren’t done nowadays.):「(ダラダラ長くて)最近は単純に小説が終わらない(のでウンザリ)」という意味かな? p222 カーライル・ハリス事件(Carlyle Harris case): Carlyle Harris(1868-1893)は1891年に妻をモルヒネで殺害、シンシン刑務所の電気椅子送りとなった。 p242 八ポンド: 72126円。中古タイプライターの値段。新品だと1920年にはCoronaが110ドル(約18万円)、1938年にはRoyalが40ドル(約8万円)くらいという情報が見つかりました。(製品グレードは不明) p261 ジョン・トーウェル(John Tawell): John Tawell(1784–1845)は愛人Sarah Hartを1845年に青酸で殺害、電報による史上初の逮捕という記録を残したが、絞首刑となった。 |
No.35 | 5点 | レッドキング | |
(2018/09/18 20:42登録) まあ あの 〇〇小事件など衆目の元に行われた例外的な事件は別として、犯罪の真相など神と本人のみぞ知るだから、「文学」の立場からしたら どこまでも「解釈」あるのみだろ。でもこれ、普通の「ミステリ」なんだから「神の視点」から解決してもらわなきゃなあ。でなきゃ、余韻を残した「文学」か「アンチミステリー」に昇華させるか。 |
No.34 | 7点 | sophia | |
(2017/03/23 00:52登録) 読む前は事件パートと推理パートが独立していて会議室では無機質な推理合戦が繰り広げられるのかと思っていましたが、相互が絡み合うことで事態は複雑な展開をみせます。毎晩一人ずつ推理を披露するという趣向も面白い。 しかしながら、最後に明かされる真犯人の正体にどうも驚けない。その原因は途中で一度他の研究会メンバーに容疑がかかっていることが大きいでしょう。しかも真犯人の名前は痴情絡みで唐突に浮上しており、これだったら別に誰が真犯人でもよかったかなと思わされます。 さらに全体に渡って事件的な面白さも物語的な面白さもほぼありません。構成点のみで7点です。 |
No.33 | 6点 | いいちこ | |
(2017/02/20 20:20登録) 多重推理・多重解決(無解決とも解し得るが)の先鞭を付けた作品とされており、読み応えもあるのだが、推理合戦の過程で、当該推理者しか知り得ない新たな証拠が続々と提出される展開は、極めていただけない。 各推理が、いわば犯人を特定するための証拠調べのプロセスとなっており、これでは「各推理が独立した推理合戦」というよりは「推理合戦全体が1つの推理プロセス」と解すべきであるように思える。 多重推理として構成するのであれば、前記証拠の全体像を先に示したうえで、それ以降は新たな証拠が提出されることなく、証拠の取捨選択と解釈だけで各推理を誤導させてほしかった。 冒頭に発生する犯行の態様と結果は極めて興味深く、その貯金で逃げ切った作品 |
No.32 | 3点 | クリスティ再読 | |
(2016/11/27 21:47登録) 本サイトでは有数の人気作だ。けどねえ、この人気評者はよくわかんないや。なのでわざと点を下げるために悪い点をつけます。いや評者はちゃんと楽しんだよ。 多重解決モノというよりも、もちょっとメタなミステリ創作論みたいなあたりにポイントがあるように感じるよ。 技巧的な論証は、ほかの技巧的なものがすべてそうであるように、ただ選択の問題です。何を話し、何をいい残すかを心得ていさえすれば、どんなことでも好きなように、しかも充分に説得力をもって、論証することができます。 ...それを言っちゃあ、おしまいよ。 だから、6つの真相のどれも恣意的で、しかも証拠はいくらでも後出しできるようなユルユルの小説なんだしね。最後のチタウィックの真相が、他の真相に勝る根拠がホントにあるんだろうか、と評者悩むんだが.... とくに本作みたいに、偽証拠がアリならば、作品中で証拠と偽証拠が矛盾したとしても、どちらが偽かを判定するのは小説内部では不可能になってしまう(いわゆる後期クイーン的問題①)。ミステリって突き詰めて論理的に考えれば考えるほど、問題の根拠がなくなってしまうような、そもそも前提に不備ありの擬問題(易しく言い換えればプロレスww)なんだからね。評者は「エンタメとして読者を一番楽しませる真相」こそが「小説として正しい真相」だと思う。あくまで、論理じゃなくて小説の問題、としてね。 こんなのマジに考え出したらホント小説なんて書けなくなると思う。本作に意味があるなら、それは舞台裏をさらけ出したメタ・ミステリだ、というあたりだね。「推理合戦が楽しいです」なんてお気楽な読み方をするような小説じゃないよなあ。 |
No.31 | 5点 | パンやん | |
(2016/11/24 08:01登録) 旧訳を手にしたとはいえ、実に読みづらく、どこまで著者の意図を理解出来たかは自信は無いが、後から次々と新証拠や新証人が出てきて推理の逆転ってズルくないか。と思ったが、5人目までが問題編で6人目を解決編とすれば、アリかなぁと。古典とはいえ、多重解決ものとしては?! |
No.30 | 10点 | nukkam | |
(2016/09/17 00:10登録) (ネタバレなしです) 1929年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第5作の本書は大胆な趣向が多いバークリーの作品中でも極めつけの作品だと思います。複数の探偵役による多重解決ものの本格派推理小説は本書の後にも何作も登場していますが今なお本書の価値は色褪せていません。物語の3分の2が解決編という構成からして破格ですし、あちこちに「常識破り」の爆弾が仕掛けてあります。探偵役が推理を披露している途中なのに犯人として指摘されようとしている名前を傍聴者役が先回りしてばらしてしまう場面なんか思わずのけぞりました。しかしそんなのはほんの肩ならし程度の型破りです。 |
No.29 | 5点 | りゅうぐうのつかい | |
(2016/07/09 22:54登録) 未解決事件の概要を刑事から聞き出して、それを参加メンバーが調査・考察した上で、その推理結果を披露するという、この多重推理、多重解決のスタイルは、あからさまに言えば、犯人を一人に絞るだけの十分な手掛かりが示されていない段階で、ああだ、こうだと言い合っているだけにすぎない。 刑事の事前説明を読んだ時点で、後で6人の回答者が示した7人の犯人(うち1人はダミーの犯人)の内の3人までは犯人としての想定範囲内だったし、残りの4人についても、各人の調査内容が小出しに示されると早い段階で該当者に気づく程度のものであり、特に切れのある推理が示されるわけでもない。 各人の調査で徐々に明らかになるある人物の女性関係だが、当然警察でも把握してあるはずのことであり、事前の警察からの説明内容が簡略すぎて、これらの説明が省略されており、各人の思い込み、調査内容で推理に差が生じたのだと感じる。また、前の人が調べた証言が実は間違いでしたと次々と覆されるのでは、何でもありの状態で、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。 最後の人物の回答も抜き差しならない証拠を示してはいないので仮説に過ぎず、さらにその証言も覆るかもしれないので、真相とは言い切れない。 (ネタバレ) ユーステス卿が小包を受け取った時の目撃者として、ベンディックスがレインボー・クラブに呼び出されたとチタウイックは語っているが、ベンディックスがレインボー・クラブに居たとしてもユーステス卿が小包を受け取ったことを目撃するとは限らないと思うのだが。 |
No.28 | 7点 | メルカトル | |
(2016/03/17 22:00登録) 今時なら珍しくない多重解決モノだが、事件が一見単純に見えるところがミソじゃないのかね。シンプルな事件をどれだけ展開させてこねくり回せるのか、しかも6つもの解決法を提示して、さらには前者の推理を否定しつつ新たな解法を披露するという荒業は、さすがに名作と呼ばれるだけのことはあると感じる。 二人目まではやや疑問符付きだったけれど、それ以降はとてもよく考え抜かれていると思う。意外な犯人あり、人間関係の妙あり、巧妙な欺瞞ありと、様々な視点からの推理がみられる。 ラストのブラックな味わいも、思わず唸らされる。 |
No.27 | 9点 | 青い車 | |
(2016/02/13 18:53登録) はじめて読んだバークリー作品です。あまり小説的でない地味な殺人事件について、登場人物たちが六通りの推理を披露するという特殊なスタイルをとっています。はじめの二人あたりの推理は粗さが目立ちますが、後半に向かうにつれて推理と指摘する犯人の意外性が増していきます。ミステリーの手がかりはどうとでも解釈できるという問題提起とも取れますが、単純に読み物としても楽しめバークリー入門に最適な一作です。 ちなみに芦辺拓氏をはじめ、別の解を考える人もいらっしゃると聞きましたが、そういう試みは個人的に興醒めな感じがして好きではありません。 |
No.26 | 9点 | ロマン | |
(2015/10/20 11:29登録) 今までにないミステリのあり方。これほどまでに終始堪能出来るミステリがあったとは。わくわくとページをめくり、犯罪研究会のメンバーが次々に発表する推理に頭の中が心地良くぐるぐる。そうして最後にはしてやられた!の清々しさ。ラストの締めくくりは最高。シンプルな事件に対して6つの推理と解決策を提示している点は味わいがいがあるというもの。推理って面白いなぁをしみじみと実感させてくれるのだ。 |
No.25 | 5点 | 斎藤警部 | |
(2015/08/28 17:20登録) 遥かな時を飛び越えて貫井徳郎「プリズム」に見事な本歌取りを成就させた本作ですが、多重解決を突き進めながらもスリルとサスペンスが充満していたかの近作と違い、こちらは純粋にゆんわりと論理の遊びを反芻して愉しんでいる様子。 そんな中に意表を突く展開や一定の緊張有る結末(?)もありますが、ちょっと空気が緩くて私の好みにジャストフィットとは行きません。 が、それなりに興味深くは読めます。エポックメイキングな作品と思います。好きな人にはたいへん面白かろう。 短篇「偶然の審判」の方は私も凄く好き(10点相当!)なんですけどね。 |
No.24 | 6点 | 名探偵ジャパン | |
(2015/04/22 18:26登録) 「なるほど、これが『毒入りチョコレート事件』ですか」 話には聞いており、ミステリ批評書などにも度々その名を目にしてきた本作だが、私は不勉強ながら、今の今まで読む機会を得ずにいた。 結局真相が有耶無耶のまま幕を閉じる本作からは、他の方が書評にも書かれていた、「ミステリの推理なんてこんないい加減なものでしょ」「作者の都合のいい解釈を名探偵に言わせてるだけでしょ」という、ミステリ批判のようなものを感じた。 しかし、ミステリに描かれる事件が、「その世界に実際に起きた事件を小説化したもの」という設定である限り、真相はひとつだけ確実に存在しているはずで、(「三億円事件なんていくらでも都合のいい解釈ができる。いい加減な事件でしょ』などと言う人はいないだろう)そこを「アンチミステリ」的に突っつき回しても、「所詮この事件は作者が頭の中で考えた絵空事ですよ」「解釈なんていくらでもできますよ」と、読者に冷や水を浴びせているだけに思える。「これは現実に起きたことではありません」と、再三口を挟み、読者が作品世界に入り込むのを拒絶しているような感じを受ける。 「こんな小説にマジになっちゃってどうするの」と言うわけだ。 とはいえ、本作が後のミステリに与えた影響は大きなものだったはずで、作者の本心がどこにあったから分からないが、『毒入りチョコレート事件』は、「絵空事のミステリ」を好み作品世界に進んで入り込むディープなファン(と作家)に指示されているというのは皮肉に思える。 |
No.23 | 7点 | 臣 | |
(2015/03/16 10:08登録) 「毒入りチョコレート事件」について、「犯罪研究会」の6者6様の推理が順に披露される推理合戦モノ。 たんなる推理合戦かと思って読んでいくと、そんな単純なものではないことがわかってくる。 作者のねらいは、読者を推理に参加させることかというと、そうではなく、ミステリーなんて、いろんな解決方法があるんだなあ、推理なんていい加減だなあと、読者に思わせることなのでしょう。 でも、個人的には、6人の収集した情報が蓄積されていくわけだから、捜査ですこしずつ証拠を積み上げながら、軌道修正をしながら真実に近づいていく刑事物のような面白さを味わえたところが、むしろ気に入っています。中盤の面白さということでしょうか。 くじ引きで前半に当たった登場人物の推理は、刑事物で前半に、脇役の所轄の署長がピエロ役のように、短絡的にとんでもない馬鹿げた推理を披露するようなものと考えておけばいいでしょう。 いずれにしろ、6人がいっせいに答えを出すのではなく、前の推理を聞いたうえで順番に自身の推理を開陳するというスタイルを採ったからこそ、こんなすばらしい歴史に残るミステリーが生まれたのだと思います。 |
No.22 | 6点 | ミステリ初心者 | |
(2014/12/22 05:36登録) ネタバレがあります。 登場人物が、それぞれ、自分の推理を述べていく形式がとっても面白かったです。登場人物ひとりひとりにキャラクターがあり、読みやすかったです。 個人的には、シェリンガムさんの推理が一番好みでした。犯人の犯行はやっぱり、すべて計画通りに行ってほしいです。偶然性がないほうが好きです。 この作者の他の作品には、チタウィックが探偵のシリーズと、シェリンガムが探偵のシリーズがあるみたいですね! 意外でした。 詳しくはしらないですが |