| ʖˋ ၊၂ ਡさんの登録情報 | |
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| 平均点:6.01点 | 書評数:121件 |
| No.121 | 8点 | 火刑法廷 ジョン・ディクスン・カー |
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(2025/10/22 10:06登録) タイトルの「火刑法廷」とは、十七世紀にフランスで行われた魔術や毒物を用いた怪奇な事件を審理する法廷のことである。 そのタイトル通り、この作品では毒殺魔と現代の事件とがうまく重なり合い、妖しい世界に導いている。一方では、大理石によって固く閉ざされていた納骨所から死体が消失するなど秀逸なミステリにふさわしい合理的な謎解きが展開される。また身近な人間が疑われて窮地に追い込まれていくサスペンスも加えられていて贅沢な内容となっている。 |
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| No.120 | 7点 | 告白 湊かなえ |
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(2025/10/22 10:00登録) 冒頭で担任の春口悠子が「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」と生徒の前で独白するシーンはインパクトが大きい。 娘を殺された教師が復讐する物語を登場人物5人のそれぞれの視点で描かれていく。森口が残した仕掛けによって、犯人たちがどのような反応を見せるのか目が離せなくなる。人が変われば同じ情景でも見える景色がここまで違うのかということに驚き。最後は共感できるところもあった。 |
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| No.119 | 7点 | 渚にて ネビル・シュート |
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(2025/09/19 15:34登録) 第一次大戦のさなかにパイロットになり、以来四十年以上にわたる人生のすべてを空を飛ぶことに捧げてきた男の栄光と挫折、誇りと愛を綴り上げている。 「空を飛ぶことはこの世で最も大きな冒険、殆ど確実に死をもたらす冒険だった」という時代に飛ぶことに魅せられ、老齢となった今、避難して瀕死の重傷を負った伝説のパイロット・パスコー。三十年来の知人で恩師でもある彼を救うために駆け付けたベテラン飛行士のロニーが、天候の回復を待つ間にパスコーの家で微睡み、師の人生を追体験するという幻想的なスタイルで鮮やかに再現されるドラマが胸に迫る。 |
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| No.118 | 6点 | 厭な小説 京極夏彦 |
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(2025/09/19 15:24登録) それぞれのタイトルになっている「厭な子供」「厭な老人」などのキャラクター描写、希望のない展開、薄汚いデザインの装丁など、すべてが厭で読後感は胸糞悪い。 ページをめくると汚い沁みだけでなく、潰れた蚊の死骸まで印刷されて入りるという徹底ぶり。だが厭だと思い不快になりながらも、妙に期待を抱かせてしまう変な小説。 |
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| No.117 | 9点 | 利腕 ディック・フランシス |
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(2025/08/04 14:27登録) シッド・ハレーは騎手を引退後、自分の探偵事務所を経営し、二つの事件を抱えていた。一つは元妻の無実を晴らすこと、もう一つは元の雇い主に持ち込まれた依頼である。最も有望な馬が行方不明になったのは、何かの陰謀なのか、あるいはヒステリックな妄想なのか。 本書はシッドの最も奥深くに眠る恐怖感を抉り出している。また獣医学についても、人間の強欲さについても興味深い洞察を行っている。そして非常に巧妙なプロットと、息をのむような結末を備えている。 |
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| No.116 | 5点 | 鎖された夏 大西赤人 |
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(2025/08/04 14:23登録) ゲーム好きの学生、風戸隆は奇妙なアルバイトに応募する。経済界にのさばる浜村財閥の御曹司、新司の家庭教師なのだが、家庭教師といっても軽井沢の別荘で十日間、病弱な新司の話し相手になるだけというもの。 別荘に集まった一族はいずれも欲の面の皮が張った連中ばかりで、その彼らが次々と殺されていく。よくあるパターンではあるが、途中で開示される「弱者を巡る対話」から俄然この作者の持ち味が発揮される。自身が血友病という難病を抱える作者の人間観や社会観が大きく物語に投影されてくる。惜しむらくは舞台がほとんど別荘から動かず、殺人の仕掛けにオリジナリティや工夫が見られないところか。 |
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| No.115 | 7点 | そして誰もいなくなる 今邑彩 |
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(2025/07/11 12:58登録) 名門女子高の開校百周年記念行事の一環として上演された「そして誰もいなくなった」。その舞台上で、毒を飲んで死亡する役の生徒が実際に死んでしまう。 舞台の筋書き通りに現実でも事件が起きるという展開は秀逸で、次の展開を予測させながら次々とそれを裏切っていく手腕には脱帽するしかない。また終盤では眩暈を感じさせるようなどんでん返しの中で、「そして誰もいなくなった」でも描かれていた「裁かれざる犯罪」というテーマが別の形で浮上し、作品に深みを与えている。 |
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| No.114 | 6点 | 夜明け遠き街よ 高城高 |
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(2025/07/11 12:53登録) バブル期のススキノを舞台にしたノワール小説。キャバレーの副支配人、黒頭悠介を主人公にススキノの夜の世界を描いて間然とするところがない。時代考証、風俗考証も行き届いている。 緩やかな連関を持つ連作短編集で、一つ一つのエピソードに工夫があり、それが全体としてススキノを浮かび上がらせる凝った構成になっている。登場人物の風貌や服装、表情の動きなどを精細に描写し、それによってその人物の性格、心理を描き出している。 |
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| No.113 | 6点 | 嗤う伊右衛門 京極夏彦 |
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(2025/06/26 11:03登録) 伊右衛門と岩、互いを想うはずの夫婦のすれ違いに周囲の思惑や悪意が絡み合い、徐々に一同を壮絶な運命へと導いていく。 結末では真相をすべて明らかにせず、真実を知った伊右衛門と岩、二人の想いが交差する瞬間について、あえて核心を語っていない。その描かれない部分の妖気。数々の悪意や悲運を織り込みつつも、根底に流れるものは、あくまで美しく、哀しくそして怖い。 |
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| No.112 | 9点 | そして扉が閉ざされた 岡嶋二人 |
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(2025/06/26 10:58登録) 核シェルターに閉じ込められた四人の若者が、三カ月前に起きた事件の真相を探っていく。舞台はごく狭い空間で、関係者四人と限られているが、そこで繰り広げられる推理は濃密。 四人の中に確実に犯人が存在すると同時に、存在しない不可解な事実が徐々に明らかになっていく展開に惹きつけられた。真実が分かった瞬間、タイトルに込められた意味に納得。 |
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| No.111 | 6点 | ぼくの好色天使たち 梶龍雄 |
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(2025/06/05 18:44登録) 終戦から一年後、闇市バラック街で、在日米軍将校を相手にする街娼だった女性が殺害された。華族の子弟、弘道は暴漢に襲われた娼婦たちを助けたことがきっかけで、被害者を含むバラックの住民たちと親しくしている。弘道は事件を追うが新たな殺人事件が起きてしまう。 貧しく混とんとした状況なのに、明るく人情味あふれる作風で五感の一つが決め手となるトリックが巧い。 |
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| No.110 | 6点 | そして二人だけになった 森博嗣 |
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(2025/06/05 18:41登録) 互いに正体を隠した「僕」と「私」が向かったのは、A海峡大橋を支える巨大なコンクリート建造物の内部。そこには秘密裏に「バルブ」と呼ばれる核シェルターが作られており、そこで実際に生活するという実験が行われることになったのである。「僕」とともに「バルブ」に入ったのは五人。しかし、実験開発早々、殺人事件が発生し、その後も何者かによって一人ずつ殺害されていくのだった。 影武者同士を視点人物にするという捻りも上手く活用されており、意外な展開と結末を演出することにも成功している。 |
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| No.109 | 7点 | 下町ロケット 池井戸潤 |
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(2025/06/05 18:36登録) 佃製作所の社長佃航平は、元宇宙科学開発機構の技術者でロケットエンジンの開発に携わっていた。ところが肝腎のロケット打ち上げに失敗、その責任をかぶって辞職し、父親が創業した精密機械の製造工場を引き継ぐ。しかしロケットへの夢は捨てきれずにいた。 町工場と大企業の攻防、そして社員同士の反目や確執が、次から次へと繰り出される。夢の実現にこだわる佃の頑固一徹な性格、それに反発しながらも最後には協力する社員たちの対比が絶妙。予定調和的な結末だが爽やかな読後感。 |
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| No.108 | 6点 | クロニクル・アラウンド・ザ・クロック 津原泰水 |
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(2025/02/06 12:54登録) 人気ロックバンド「爛漫」のボーカル・ニッチが、違法薬物の過剰摂取で急逝した。絶対音感を持つ不登校児の少女・向田くれないは、その死に疑問を抱き、ニッチの兄で影のブレーンとしてバンドを支えていた鋭夫と共に事件の真相を探り始める。ニッチを殺した犯人は無事に捕まるも、その後もさらなる殺人が続き、黒幕として「オープンD」なる存在が浮かび上がった。 作者の音楽への深い愛と経緯が詰まったロック小説であり、少女の成長を描く晴れやかな青春もの、そしてニッチの死をめぐるなぞ解きを明かすミステリと、様々な要素が溶け込んだ作品。 |
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| No.107 | 5点 | バスに集う人々 西村健 |
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(2025/02/06 12:48登録) 主に東京の路線バスによる街巡りになぞ解きを絡めたシリーズ三作目でこれが完結作となる。 電車を使えば一駅数分のところを、登場人物たちはあえて遠回りになるバスを乗り継ぐことで東京の風情に触れる。彼らが街の至る所にある様々な不思議な謎と出会うのが基本パターンだ。名探偵役は元刑事・炭野の妻まふる夫人。彼女は路線バスに乗ることはなく自宅にいながらにして謎を解く。いわゆる安楽椅子探偵ものの系譜に連なるミステリである。 路線バスが見せる東京の風景は多種多様、それに合わせるように立ち現れる謎も様々で飽きが来ない。うつろいゆく東京の街並みを素描していく筆致は穏かで滋味深い。 |
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| No.106 | 5点 | ボス/ベイカー 上田未来 |
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(2025/02/06 12:40登録) 泥棒である主人公の人生が、親友であるボスを射殺して犯罪を続ける世界と、その親友の射殺に失敗して、頭を冷やして友人と一緒にパン屋を営む世界とに分岐する。一度枝分かれした物語は終盤で合流し、同じ結末を迎えるというコンセプト自体がなかなかのもの。 その過程では両世界線でのシンクロニシティも頻発し、宿命がこだまする。なお主人公は親友に強い執着を抱き続ける。それが怖い。 |
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| No.105 | 6点 | 女優 春口裕子 |
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(2024/11/25 14:33登録) 一流大学を経て大手化粧品メーカーの広報部に勤務と、そのキャリアに一点の曇りもない主人公の平野佳乃。 物語の序盤、彼女が高校時代からの二人の友人と久しぶりに食事をする場面があるが、ここから「見栄」合戦が展開していく。これみよがしな見栄の張り方ではなく、巧妙かつ微妙。決して相手を見下さず、自分の勝ちポイントをさり気なく見せるける技は、女心の嫌らしさ全開。 完璧を期する女性の心に生まれる隙間。嫉妬や虚栄が生み出す人間模様。やがてこの女同士の見栄の張り合いが事件へと繋がっていく。見えない悪意が、女を破滅へと追い詰めていく姿が楽しめる。 |
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| No.104 | 7点 | マルペルチュイ ジャン・レー&ジョン・フランダース |
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(2024/11/25 14:28登録) 表題作は、作品名と同じ奇妙な名前の館を中心に描かれる。館に住む若者、彼の恩師、その祖父、そしてのちに憔悴しきった若者を保護した修道士、さらに彼らの手記を修道院から盗み出した男の5人の語り手によって時空を行き交う複雑な入れ子構造になっている。 館には、自分たちを人間だと思い込んでいる古の神々が住んでいる。時の流れの中で信仰を忘れられ死に瀕した神々は、人間の剝製に詰め込まれて暮らしている。おぞましく邪悪な実験と、神々すら従わせる運命に、若者たちは翻弄され圧倒される。しかし作者はこの超重層的な物語の中に、美しい自然描写、飲み食いを楽しむ暮らしの喜び、恋を巡る愛憎の切ない機微を織り込んでいる。 |
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| No.103 | 5点 | 永遠の森 菅浩江 |
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(2024/11/25 14:19登録) 地球と月の重力均衝点に浮かんだ博物館惑星「アフロディーテ」は、世界中の工芸・美術品、あらゆる動植物が収められている。学芸員の田代孝弘は、人々の芸術に対する想いに触れていく。 読み終わった時、しばらくこの世界にとどまりたいような気持にさせてくれる美をめぐる9つの物語。 |
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| No.102 | 6点 | 検事の本懐 柚月裕子 |
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(2024/07/08 13:32登録) 北国の架空都市・米崎市の地検に勤務する若手検事・佐方貞人が主人公を兼ねて、狂言回しを務める。物語はおおむね、佐方以外の人物の視点で語られ、そこから佐方の人物像を浮き彫りにする、という手法がとられている。唯一の例外は、苦境に陥った幼馴染の元恋人に頼まれ、トラブル解決に佐方自身が乗り出す「恩を返す」のみ。ここでは元恋人のほか、彼女を恐喝する悪徳刑事、そして佐方の視点が交互に出てきてサスペンスを盛り上げる。 「樹を見る」、「罪を押す」、「拳を握る」はいずれも、証拠から明らかに有罪と思える事件を扱う。場合によっては、被疑者が自白までした事件に、佐方が疑問を呈して再調査し、無罪を立証するという構成をとる。警察捜査が、やや杜撰すぎるきらいもあるが、佐方の粘り強さがよく出ていて、最後まで飽きさせない。「本懐を知る」は、佐方の亡父の過去の謎めいた事件を取り上げる。ルポライター・兼先の視点で、その秘密が次第に明らかにされる展開は読み応えがある。 |
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