(2021/05/07 17:10登録)
(ネタバレなしです) 大西赤人(おおにしあかひと)(1955年生まれ)は中学卒業後に14歳から書き溜めた短編をまとめた「善人は若死にする」(1971年)で文壇デビュー、その後も短編作家として活躍しますが1983年に発表された長編作品の本書(当時は「熱い眼」というタイトル)は何と本格派推理小説でした。光文社文庫版の巻末解説を土屋隆夫が書いていますがそこでは「論理の面白さ」と「文学精神」を賞賛しています。大黒柱を失い誰が後継者になるかを巡って微妙な関係にある財閥一族が山荘に集い、一族を抹殺するという脅迫状が舞い込むという古典的な設定は私の好むところですが物語のテンポが案外と遅いです(最初の事件がなかなか起きない)。犯人を特定する手掛かりはそつなく織り込んでいますが推理説明よりも犯人の自白の方が長いのが特徴です。この自白は印象的ですがそこに至るまでは他の容疑者も含めて登場人物の心理描写にはほとんど踏み込んでおらず(20人以上に300ページ少々のボリュームでは人物描き分けには十分でないのでは)、個人的には本書は普通の本格派推理小説で、文学性は特に感じませんでした。ミステリーと文学性の融合を追求した土屋ならではの思い入れは解説から伝わってきましたけど。
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