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[ 本格/新本格 ]
妃は船を沈める
作家アリス&火村シリーズ
有栖川有栖 出版月: 2008年07月 平均: 5.71点 書評数: 14件

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光文社
2008年07月

光文社
2012年04月

No.14 6点 虫暮部 2021/04/04 11:49
 良く出来たパズラーだとは思うが、「猿の手」を引用する必要がどれだけあるのか。こういう使い方は好きではない。
 催眠術云々が本格的に絡んで来ないのは残念。この作者は某長編(1995年)でアレを使った前科があるので期待(心配)したんだけど。
 “催眠術で自殺はさせられない”説に私は懐疑的。試したんですか? と突っ込んでしまう。

No.13 4点 ボナンザ 2021/03/16 22:30
猿の手の解釈はいかにも有栖川らしいが・・・。

No.12 6点 ボンボン 2016/06/17 01:05
(ネタバレかも)
妃沙子の異様な人物像が不快で、その取り巻きの男たちの雰囲気も気持ち悪くて、なかなかいい気分では読めないが、見どころはしっかりあると思う。
まず、ジェイコブズの短編「猿の手」の解釈を巡る火村とアリスの議論は、非常に興味深い。作者のはしがきにあるとおり、答えの正否はさて措いて、友人とこんな深読み対決が楽しめるなんて愉快で幸せ。これを一つの事件の解決につなげてしまう火村のナイスショットも悪くなかった。
二年半後に話が移ってからは、大地震の被災下という特殊な、しかし今の日本人には実感しやすい舞台設定に乗っかり、あっちに間違い、こっちに気を取られしながら進んでいくのが面白い。
犯罪の手口についてはきっちり論理的に解明した火村だが、今回は何故か珍しくグズグズと悩んだりする。最後に、歪んだ人の心を見抜いて敵に突き付け、ついに陥落させた(と思われる)のは、アリスだ。火村は、アリスの洞察に脱帽してしまう。二人で一人前の名探偵。

No.11 6点 青い車 2016/04/26 20:35
 短めの長篇というより中篇ふたつというべき編成なので、謎解きのヴォリューム感はあまりありません。しかしそのふたつの謎解きはいずれもなかなかの水準に達していると思います。
 『猿の左手』はトリックは新しくないものの扱い方が非常にうまいです。そして、それ以上に『残酷な揺り籠』の謎解きにはロジックへの並々ならぬ拘りが感じられます。怪奇小説について論理性を突き詰めた考察を披露するのも面白いです。
 褒めてばかりいますが、妃沙子のキャラクターの描き方がもうひとつなのが難点で、小説としては6点が妥当だと思います。

No.10 6点 風桜青紫 2016/01/17 22:59
妃沙子のキャラがなんともたまらんです。しっかり男の子たちと肉体関係を結んでるあたりとかなんとも趣味が悪い……ww。第一部は平均的な有栖川短編。けれども「猿の手」の話やら、妃沙子のキャラクター性で楽しく読めます。第二部は偶然に焦点を当てたなかなか良くできた犯人当て。作家アリスのこういう妙にロマンチックなところがなんともいい。作家アリスシリーズ、回を重ねるごとに面白くなっている気が……。

No.9 6点 測量ボ-イ 2013/10/12 14:46
氏の作品読むのは結構久々です。
今回は中篇2作をつなげた意欲作でしょうか。
リ-ダビリティは相変わらず評価できますが。前半の話しは
真相推理の材料が少なく、満足度はもう一つ。後半の話しの
方がミステリとして評価できると思います。

No.8 5点 おっさん 2012/12/23 15:39
先日のレヴューで、東雅夫氏の編んだ『怪奇小説精華』(ちくま文庫)を取り上げました。今回は、そこからの派生読書です。

前掲書で、いくつかの古典怪談を読み返し、また未知の作家の新鮮な衝撃を体感したなかで、筆者にとってのベスト作は、実際に怪奇現象を描くことなく、しかし読者の心のうちにまぎれもない怪異を現出させる、W・W・ジェイコブズの「猿の手」でした。
干からびてミイラ化した“それ”は、本当に持ち主の願いを三つだけ叶えてくれるのか? というその呪物テーマの名作をモチーフにした本格ミステリ連作が、本書なのです。

作者が2005年と2008年に、ミステリ専門誌『ジャーロ』に発表した2本の中編――ファム・ファタール役をつとめる同一キャラクターが、いわくつきの“猿の手”を持っているという設定――を並べ、あいだに「幕間」を書き下ろすことで、全体を長編ふうに仕立てなおしています。(「はしがき」で有栖川さん自身は、犯罪学者・火村英生シリーズの第八長編と明言していますが、やはり“連作集”が正札でしょう)。

前篇にあたるのが、第一部「猿の左手」(こちらは初出誌で目を通していました)。
睡眠薬を呑んだまま、車ごと海に転落した男。殺人ならば、容疑者は、周囲に若い男をはべらせ、「妃」の異名を持つ女傑・三松妃沙子をふくむ、彼の周囲の三人にしぼられる。しかし、じつは彼らの誰にも、犯行をなしえない事情があった・・・
という事件を、火村は、一点突破の閃きで解決に導きます。その“気づき”のポイントとなるのが、ジェイコブズの怪談の解釈をめぐる、作家アリスとの論議。
視点を変えて読むと、まったく別の“真相”が浮かび上がるという意味で、まことに興味深い内容です。私は同意しませんがw
なるほど火村説は「気味が悪いほど筋が通ってる」。でも却下。なぜか? 作者ジェイコブズが、ある作中人物を、その“真相”から逆算してキャラ立てしていないからです。
火村(=リアル有栖川有栖)は、プロットの辻褄合わせしかしていない。
そしてその姿勢が、そのまま、くだんの解釈から導かれる、第一部「猿の左手」の“意外性”の弱点にもなっています。ある状況下でなされた、非常識な命令。その荒唐無稽さを、あとづけのロジックで懸命にフォローしようとしていますが・・・動機づけの弱さはいかんともしがたい。

筆者としては、ケレン味に欠けても、後篇に相当する、第二部「残酷な揺り籠」のほうに、点を入れたいですね。
結婚して家庭に入った――かつての奔放な“夢”を乗せた“船を沈め”た――妃沙子の家の離れで、大地震の直後、かつて彼女の取り巻きの一人だった青年の射殺体が発見される、こちらの話のほうを評価するのは、精緻に展開する、火村の解明の論理が美しいから・・・ではありません。その点に関しては、警察の現場検証をわざと曖昧にしたうえでのワンマンショーじゃないか、という不満をぬぐえないと思います。
それでもともかく、火村は真犯人を理詰めで限定する。しかし――論理だけでは、この犯人は落ちなかった。火村には理解できなかった、「異様で空想的」ともいえる事件関係者のもつれた心情を、作家アリスが洞察することで、事件は終息するのです。理と情のコラボがここにはあります。まずは、合わせ技一本、というところ。

No.7 5点 いけお 2012/11/07 08:16
別々の中編2つを上手くセットにしてある。
タイトルと前編から、後編の意外性が増したように感じた。
地味だがロジックもさすが。

No.6 6点 まさむね 2011/10/03 21:15
 作者の意図はどうであれ,構成としては「中編2本を幕間でつないだ作品」という評価を超えることは難しいでしょうね。
 中編自体は,どちらもロジカルでなかなかの出来栄えです。ミステリアス(?)なヒール役が相当に貢献していますね。(取り巻きの青年達の精神構造は理解不能でしたけど。)1作目における「猿の手」の解釈も面白い。
 個人的には,これまでに読んだ国名シリーズ短編集(ロシア紅茶・ブラジル蝶・英国庭園)よりも楽しめましたよ。

No.5 4点 HORNET 2011/01/16 09:01
 三松妃沙子という女が通して出てくる二つの中編の連作。トリックとしては一作目のほうが好きです。
 ただ,個人的には,読むほどにこの三松妃沙子という女への嫌悪感が強くなり,なんというか・・・気持ち悪くなります。読後感はあまりよいものではありませんでした。

No.4 7点 makomako 2010/10/17 19:30
中篇をふたつくっつけたというのは本サイトの書評にもあるとうりでした。長さとしてはちょっと短い長編小説なのですがアリスと火村の掛け合いはやや少ないのは残念なのですが、その分推理小説としてコンパクトにそぎ落とされた魅力もあります。読みやすいしこういったこともときにはありなのではと思うけど、私としては作者のがっちりした長編のほうが好みです。

No.3 5点 こう 2009/05/04 00:53
 先に書かれている方の通りでこれは長編とは言えず中編+中編でしょう。
 良くも悪くも妃沙子というメインキャラクターの造形に依存した作品だと思います。
 第一部「猿の左手」は典型的な〇〇トリックのバリエーションで非常にわかりやすい作品でした。第二部「残酷な揺り籠」はロジックで暴いてゆくスタイルで悪くないと思います。
 個人的には妃沙子というキャラクターがイメージできず特に第二部は動機にもかかわってくるのでその点は不満ですがロジックで犯人を暴くスタイル自体は悪くないと思います。

No.2 6点 おしょわ 2008/10/28 22:17
中篇+中篇を越えるものではないと思います。
猿の手の解釈はなるほどと思いますが、読んでない人にはアンフェアな気もしますし、読んでてもそこまでは覚えてないよ・・・・と言いたくなります。
でも、まぁ悪くないです。

No.1 8点 vivi 2008/07/28 18:36
中編をくっつけて長編にしたものとは聞いていましたが、
幕間を接着剤にして、並べただけでした(^^;
でも、かえってこのまとまりの方がいい気もします。
何故なら、ロジック炸裂の作品だから。

特に後半の章は、『スイス時計の謎』を念頭に置いたようなロジック。
容疑者が決まってからの謎解きだから、カタストロフは薄いけど、
なかなかの力作で楽しめました♪


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