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[ 本格/新本格 ]
捜査線上の夕映え
作家アリス&火村シリーズ
有栖川有栖 出版月: 2022年01月 平均: 6.29点 書評数: 7件

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文藝春秋
2022年01月

No.7 7点 zuso 2023/11/23 22:14
コロナ禍の大阪、マンションの一室で男が殺された。容疑者は数人に絞り込まれたが、そこからが難航した。各人に鉄壁のアリバイがあったのだ。かくして大阪府警は、火村に出馬を要請する。
捜査、新情報、推理、新たな疑問と基本的にはその繰り返しだが、知的刺激たっぷりで抜群に心地よい。しかもそこに異質な「筋」が織り込まれていたり、旅情や景色といいう魅力もある。もちろんあの伏線があのトリックに結びつき、あの壁が崩されるのかという驚きも味わえる。

No.6 6点 パメル 2023/11/06 20:09
新型コロナウイルスが拡大した中で、火村英生と有栖川有栖が謎解きを興じる。大阪のマンションの一室で、ある男性がスーツケースに詰め込まれた状態で発見された。このマンションの入り口には防犯カメラが設置されており、このマンションに訪れた人物はカメラでチェックされるため、容易に犯人を特定できると思われたが、そうはいかない。死亡した人物の交友関係を洗い出していく中で、容疑者が複数浮かぶ。しかし、防犯カメラの映像やアリバイが障害になり絞り込めない。
一見、シンプルな事件であるが中々上手くいかない。ある切り口から論理を突き詰めていくのだが、パズルが上手くはまらない部分が出てきてしまう。これを埋めようとして、また別の切り口から推理を進めていこうという繰り返しが読ませる。語り口もいつも通りな軽妙なやり取りで楽しい。
後半になると、それまで描かれていた雰囲気がガラリと転調され、印象が変わる技巧が素晴らしい。またタイトルにもなっている夕日のシーンが印象的だが、そのモチーフの使われ方も随所に効果的に使われている。詩情や旅情という別の魅力もある。トリック自体には無理があるが、エモーショナルなミステリとして楽しませてもらえた。

No.5 5点 mozart 2023/07/25 14:30
このところ読書タイムはラノベ風ミステリーとか特殊設定ミステリーとかに偏っていたのですが久々に有栖川ミステリーも堪能しました。作家アリスと火村のやりとりや本作者固有のエモーショナル(?)なストーリー展開もある意味懐かしかった。トリックについてはちょっとアレでしたが全体としては許容範囲でした。

No.4 6点 人並由真 2022/10/12 11:39
(ネタバレなし)
 新本格の雄の一角である作者だが、評者は2015年の『鍵の掛かった男』以降の「作家アリス&火村シリーズ」をリアルタイムで読むばっかり。
 当然ながらシリーズの大枠も作品世界や登場人物たちの基礎知識も疎いので、こういうセミレギュラーの過去にからむ事件(らしい)だと、急に居心地が悪くなる。いや、たぶんこれはこっちが悪いのだが(汗)。

 とは言いつつ、ああ、謎解きパズラーというより小説的な魅力で読ませる作品だな、という実感も多めな一冊。
 でもって作者ご自身があとがきで、本作は一見さんでも楽しめます、といくらいっても、当該のセミレギュラーキャラにほとんど思い入れのない評者など、田舎の遠縁の家にいって、面識のさほどない親戚の活躍ぶりを聞かされた気分。
(一方で、小説の作りがスナオすぎるものだがら、んー、この人がゆくゆくは物語の中盤か後半からキーパーソンになるな、とすぐに察しがついてしまう。)
 こういうの(レギュラーキャラの深掘り作劇)に、昔からのファンでもない者が文句をつける筋合いはないが、かたや、さすがに自分のような読者が、十全に楽しめたとはいいがたい。

 結構大きな情報や手掛かりの提示も後半の遅めだし、謎解き作品としてはあまりいい点はあげられないでしょう。
 動機に関しては、ああ、そんなものですか、という感じであった。よくも悪くも。

No.3 7点 虫暮部 2022/05/09 11:49
 地味な事件を味わい深く書いている。事件そのものより後半の旅行記の方が印象に残っていたりして。動機に関わる心情に説得力がある。
 こういう “偶然の再会” は好きじゃないけど(もしかしてソレが無いと事件は解決出来なかった?)、そういうもの全部込みでの地道な捜査の物語でパズラーの枠組みを適度に壊すのは面白い。

No.2 6点 文生 2022/04/06 12:02
冒頭で、昨今流行りの特殊設定ミステリに対して自分はあくまでも王道を貫くというアリスの宣言が頼もしく、作中の事件も地味ながら二転三転する展開は読み応え満点です。特に、監視カメラと容疑者たちのアリバイを検証するくだりは本格ミステリの醍醐味をたっぷり味わうことができます。
ただ、実際に用いられたトリックはあまりにも無理があり、アリスも作中でツッコミを入れるほどです。その後、なんだか無理があるところに意味があるという流れになっていくのですが、いくら無理のあるトリックを使った理由を力説されても納得はし難く、その辺りが大きな減点対象となっています。話自体は楽しめたので総合的には6点ぐらいが妥当かなと。

No.1 7点 HORNET 2022/02/06 19:55
 大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。男の遺体はトランクに詰められ、クローゼットの中に。金銭の貸し借りや交友関係上から、容疑者が浮上するも、それぞれに決め手に欠け、単純と思われた事件の捜査は一向に進展しない。コロナ禍で蟄居を決め込んでいた火村に、久しぶりに要請がかかるが、一筋縄にはいかない事件の様相に、火村は「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」と漏らす――。

 久しぶりの火村シリーズの長編、それだけで心が躍る。取り立てて奇抜な仕組みや設定があるということのない、正道の本格ミステリで、それが何よりよい。現場となったマンションには監視カメラがあり、出入りは全て記録されている中、その記録によれば容疑者たちは全て圏外になる。どの容疑者も等しく疑わしい状況の中、正攻法の捜査過程がずっと描かれていくのだが、それがよい。結末も、特に色めいた異彩さがあるようなものではないが、正道の本格ミステリを十分に堪能できた。
 大雪の家籠り(2/6)を、大いに楽しめた!


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