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[ サスペンス ]
緋色の記憶
トマス・H・クック 出版月: 1998年03月 平均: 7.33点 書評数: 12件

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文藝春秋
1998年03月

早川書房
2023年04月

No.12 6点 ボナンザ 2022/11/13 19:29
徐々に明らかになっていく過去の出し方がうまい。意外とは言い難い真相だが、情緒的なようでしっかりミスリードしているところが見事。

No.11 8点 ROM大臣 2021/09/17 14:23
父親が校長を務めるチャタム校の生徒ヘンリー。彼の人生は、チャタム校に美しい女性教師が着任してから、徐々に変わり始める。
物語がどのような方向にいくのかまだわからない序盤から、被告席に立たされるミス・チャニングを回想するシーンなどが挟まれ、やがて起こるであろう悲劇に向けていやが上にも緊張が高まっていく。ところどころに挿入される思わせぶりな描写やセリフは物語終盤に一気に恐ろしい意味を持つようになる。そして最後の最後に、あまりにも冷たく恐ろしく切ない強烈な一撃が待っている。

No.10 7点 レッドキング 2020/02/16 21:04
敬虔な寒村社会の少年の前に現れた浪漫的な男女の「英雄」。かつて「遥かな国遠い世界」を夢見た少年が、老いさらばえて追想する残酷な事件の顛末。
日本語タイトル「いまを生きる」という、厳格な男子校に現れた型破りな教師と彼に憧れた少年達を描いた映画があったが、その原題は「Dead Poets Society(死せる詩人の会)」だった。この小説で少年が心惹かれたのもまた「詩の仲間たち」・・放浪の女画家とラテン語教師、身寄りのない少女・・
だが結局、少年の偶像達も、たんに情事の苦い結末を噛みしめる不倫男女に過ぎなかった。三島由紀夫「午後の曳航」と同じテーマ・・色褪せたかつての輝かしき英雄への少年の失意。
あらためて読み返すと、厳格な学校校長でもある少年の父親もまた、女教師に内心心惹かれ、彼女も最後に父親の浪漫に気付いていたことが分かる。
そして何より、生涯に三回・・親と夫と少年と・・三回にわたり捨てられた、あの奥さんの死の前の絶望感があまりにも痛ましい。それ故にこの少年には死ぬまで魂の安らぎは許されない。

No.9 7点 tider-tiger 2017/06/09 22:48
あの人はバスに乗ってコッド岬の小さな村にやって来た。その深緋色のブラウスを着た美しい美術教師が妻子ある同僚を愛してしまったことから、やがて『チャタム校事件』と呼ばれる悲劇が起きてしまう。
まだ少年だった当時を回想する老弁護士。チャタム校事件の真相とはどのようなものだったのだろうか。

槍ヶ岳山頂を目指しているのだが、ガスで頂上がまったく見えない。ただガスの切れ目からところどころ稜線の一部が顔をのぞかせる。風でガスが移動するたびに山の形が違って見える。こういう掴みどころのない話です。
そして、気付いたら槍ヶ岳ではなくてなぜか隣の奥穂高にいた、とでもなれば凄かったのですが、残念ながらそこまでの威力はありませんでした。
正直なところ真相に意外性はあまりなかったのです。が、別にそれはどうでもいい。淡々となにも起こらず終わっていたとしても、読んでよかったと思える作品だったでしょう。
悲劇に向かってゆっくりと進んでいく話としてトレヴェニアンの『バスク、真夏の死』が思い浮かびました。どちらもとても美しい物語です。
本作に関しては誰が誰を愛しているのか、明確なようでいて深読みも可能なところがいいです。『あの人』『あの女(ひと)』という代名詞が散見されますが、いい感じです。銀河鉄道999みたいです。
とある誤解に関しては、ちょっと強引かなあという気もしました。誤解したとしてもそこでなぜ独断専行してしまったのか。
個人的に意外だったのは作中人物の気持でした。
作中の自由派の連中は嫌いではありませんが、かなりイライラさせられました。
そして、できるだけ公平正確であろうとした校長の「危惧という言い方は当たらない」このつまらないセリフがなぜか印象に残っています。
作者は自由と規律を対比させて、なおかつどちらも尊重しているように思うのですが、時代も変わってきておりますので、語り手やチャニング先生、レランド先生のように自由に価値を置く生き方に反発を覚える向きも少なくないのではないかと思います。

結果だけを明示して過程を曖昧にしたり、登場人物を対比させたりしながら、読者の読むスピードまでコントロールしようとする書き方に思えました。
解説にある『雪崩をスローモーションで映したような』この譬えはわかります。
が、自分は本作を読んでいると映像ではなくて絵が浮かんでしまうのです。
本作は映画ではなくて紙芝居なのです。
そして、絵が浮かぶたびに立ち止まってしまうのです。
美しい絵であれ、残酷な絵であれ。
なにを言っているかわかりませんね。すみません。
ミステリとしては弱いと思うので7点とします。



以下 ネタバレ



原題とはかけ離れた邦題『緋色の記憶』
緋色についてはいくつかの意味がありましょうが、私としては(こんな風に感じる人はあまりいないかもしれませんが)、緋色は彼女のスカートの色だと思いたい。主人公が独身を通した理由は複数の要素があるのでしょうが、もっとも大きな理由は愛しかけていた女性を『殺して』しまったことへの償いだと。

No.8 7点 斎藤警部 2016/08/01 12:16
フーダニットならぬフーダイド? 予想外のホワイダニット、そしてホワイナットダニット。。。 そもそもイットは何を意味するか。

混在するカットバック/フラッシュバックを繰り返した挙句「ゼロ時間」にぶち当たってもまだ過去・現在・未来(?)の謎がどっぺりと痕を残しまくり。だいたいこの物語の「ゼロ時間」は本当にそこなのか?

文庫あとがきで紹介されていましたが「雪崩の様子をスーパースローモーション映像で見せられるような」って喩え、ズバリです。 出だし数十頁はちょっと退屈、しかしこの退屈はじっくり味わっておくべきです、真相の驚きに最後やられる為に。

湯気の立つホットアップルサイダー。。。。

No.7 8点 itokin 2015/11/20 14:30
淡々とした静かな物語の展開なんだが、文学調の表現力に引き込まれて作品に同化してしまった。最後は、やはりそうだったかです。

No.6 7点 蟷螂の斧 2014/06/28 07:49
文学的要素の強い作品でした。老弁護士の回想録なのですが、前半は事件の内容が小出しなのでイライラさせられます(苦笑)。ミステリー部分の真相は、半分当たり、半分外れといったところでした。「言葉の綾」で人生までもが大きく変わってしまう恐ろしさが伝わってきました。

No.5 6点 あびびび 2014/06/05 15:59
事件は簡単である。新しく赴任した美術の女教師と、家庭を持った英語教師が不倫の関係になる。そして、その妻が精神的苦痛に耐えきれず、暴走して殺人を犯す…。

しかし、田舎町である。よそ者には厳しい。女教師が一方的に非難され、姦通罪を適用されて監獄に入れられる。そして獄死に至るのである。

そんな状況を当時校長の息子だった少年が数十年経った今、回想するのだが、なぜ彼が今も独身で通しているのか、山の霧が晴れるようにじわじわと明かされる。最初はあまりにスローテンポな展開にじらされるが、後半はページをめくる手が早くなった。

No.4 8点 mini 2013/02/08 10:04
明後日10日に早川からトマス・H・クック「キャサリン・カーの終わりなき旅」が刊行予定
クックと言えば文春文庫のイメージだったが、版権が早川に移っての2作目ということか

クックの”記憶シリーズ”は原題に”記憶”が付くのはシリーズ第1作目の「死の記憶」くらいで、文春が勝手に題名を統一しているだけだ
シリーズ第2作「夏草の記憶」の原題は直訳すれば”心臓破りの丘”だし、この第3作「緋色の記憶」にしても原題は単純に”チャタム校事件”と味気ない
しかしこの「緋色の記憶」は、記憶シリーズ以前の初期作から徐々に評価が高まり候補には挙げられながらなかなか賞を取れなかったクックがついにMWA賞を受賞した代表作とのことだ
うん、前作「夏草の記憶」では候補止まりだったが次の「緋色」で受賞したのは肯ける
「夏草」でもあるサプライズが有るのだが、あざとい割には大きな効果を挙げていないように感じた
しかし「緋色」では物語自体は終盤までは単調な恋愛話だが、かえってその単調さが終盤のサプライズを効果的にしている
さらにこれは日本の読者から見てだが、「夏草」では舞台であるアメリカ南部の土着の風土や歴史的背景がテーマと密接に関わっており、これが日本人にはちょっと分り難いテーマなのもマイナス要因だった
しかし「緋色」では、舞台のアメリカ北東部の寒そうな風景が雰囲気の盛り上げに一役買っているものの、それがテーマと大きく絡んではおらずテーマ自体が普遍的なので、日本人が読んでも分り難いという事は無い、文句無くお薦めの作品である

No.3 8点 kanamori 2010/09/25 18:20
邦訳は本書が先ですが、前作「夏草の記憶」の基本プロットを踏襲したような、老境に入った主人公が少年時代に身辺で発生したある事件を回想するという形態をとっています。
冒頭の、新任女性教師がバスからチャタムの街に降り立つ映像的なシーンから、終幕の、事件関係者であったある女性のもとに主人公が訪れる現在の場面まで、文芸的な香りが横溢する文章で、引き込まれるように読みました。
読後は、瑞々しい少年時代の思い出と、独身のまま年老いた現在との対比で、じわじわと哀切感が込み上げてきます。

No.2 8点 2009/04/06 18:16
人間関係がよく描かれたドラマです。それほどトリックはなかったように記憶していますが、広義のミステリだと認識しています。叙情的な文章に引き込まれてしまい、読後も余韻が残りました。
クックは大好きな作家の一人です。日本の作家でいえば、帚木蓬生みたいな感じかなと思うのですが・・・。
読んだのは5,6年前ですが、その直後に、NHKでドラマ化されています。原作で味わえる雰囲気が十分に出ていました。主演の鈴木京香も好演でした。

No.1 8点 dei 2008/04/03 22:03
静かにゆっくりと過去の事件を回想する老いた弁護士。
その事件の持つ残酷さ、悲しさが少しずつ読み手にも伝わってくる。
すべてが終わった後からの回想だから、事件を浮き彫りにすることが出来たのだろう。


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