皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ サスペンス ] 夏草の記憶 |
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トマス・H・クック | 出版月: 1999年09月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 4件 |
文藝春秋 1999年09月 |
No.4 | 6点 | レッドキング | 2022/11/22 19:32 |
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深南部州アラバマの小さな町、五十路を迎えんとする開業医。妻と娘を持ち、地元でそれなりの地位を得ている彼の脳裏にフラッシュバックするのは、三十年前ハイスクール時代の悲恋。シングルマザーに連れられた、不思議な情熱に焼かれた転校生少女への失恋物語が、少女の「痛ましい事件」の裁判描写をカットバックしながら語られる。米国スクールカースト・・「ジョック」「クイーンビー」etcキャラ達の数十年の変容譚もチラつかせながら、黒人問題もの?思わせて、「ドクターモロー」ネタへ捻じられ、実に痛いWho・・いやWhatダニット解明に終わる。
※三島由紀夫が、鴎外の「雁」の主人公は・・「青年」の主人公とは違い・・将来、俗物男になっただろう、て書いてたが、漱石「三四郎」なんかどうなんだろう。美穪子が俗物肥満オバサンと化した戦後譚とか読みたいな。 |
No.3 | 8点 | 小原庄助 | 2020/10/27 09:09 |
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アメリカ南部の田舎町に住む医師のベンは、30余年前に起きた事件を思い出す。同級生だった少女のケリーはなぜ、無残に人生を断ち切られてしまったのか。また、町の郊外にある「ブレイクハート・ヒル」というロマンチックな丘は、なぜそんな名前が付けられたのか。
現在と過去を往復しながら、非常にゆっくりと謎が解き明かされていくストーリーである。内気な少年の目に映る少女のまぶしさ。そして幻滅。 初恋とその喪失を描いた小説だが、それだけにはとどまらない。端的に書くと、過去に存在した差別を社会が隠蔽したために、思いがけないかたちで、悲劇が甦ってしまったという物語なのである。 差別を行ってきた歴史をしばしば忘れようとする現在の日本で、この小説はとても切実に心に響くのではないか。 差別は悪であることを知りながら、どうしようもない憎しみを抱えたとき、差別を利用してしまう人間の心理。それを非常にリアルに描いているところも恐ろしい。 自分の一言が、どんなに他者を傷つけたかを、ずっと知らないでいる鈍感さ。自分は差別をしない、と思い込んでいる人間が最も危ういことを、この小説は深く見つめている。 ミステリ小説の醍醐味は、結末のどんでん返しにあるが、この作品では、全く意外なところに作者のトリックが仕掛けられている。 これに気づく人は少ないだろう。そして、その企みが分かったとき、過去の傷だと思っていたことが、現在も生々しく血を流していることに衝撃を受けるのだ。 |
No.2 | 8点 | touko | 2012/07/28 15:03 |
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読んだことのあるトマス・H・クックの作品の中では、今のところ、個人的には一番好きです。
クックは過去への思いに捉われてグダグダ悩みまくる内省的にすぎる作風がときに鼻につくんですが、不器用で内向的な少年が主人公のこの題材にはあっていて切ないので。 この作品は、何より、アメリカのハイスクールのいわゆる「スクールカースト」の予備知識ががないとピンとこない内容かもしれませんので、簡単に説明を……。 一番上は、男ならジョッグス(花形競技のプレーヤー、勉強は出来なくても推薦で有名大学進学も狙える)、女ならチアリーダーや演劇部のヒロインなどが女王様、次がその取り巻き、そして平均的な中間層がいて、下位の方はひねた不良やロッカーやゴス系、ブレイン(冴えないガリ勉、もっとも大学進学後は一転して田舎では唯一の成功者になることも)となります。 この作品では、1960年代のアメリカ南部の田舎町を舞台に、後には地元で良心的な医者になる、典型的な冴えないガリ勉の主人公が、華やかで個性的で人気者のヒロインに片思いをします。 ジョッグスやその取り巻き役も、ちゃんと出てきて、いかにもなお約束な役割を果たしてくれます。 そんなアメリカ青春ドラマや映画や小説では、お決まりの人間関係や心理に、ある社会派要素も絡んできて……。 男性読者は思春期の片思い心理の切実さ、リアルさに涙するんじゃないかなあ。 個人的にはヒロインのけなげさや辿った運命の残酷さ(二段落としのサプライズもあるし)に泣けました。 青春ドラマも痛ましい事件もコインの裏表、アメリカの原風景なんでしょうね。 内向的な主人公と外向的な体育会系で気のいい親友との対比、学生時代から現在までの関係のミステリとの絡め方もとてもうまい。 クックお得意の思わせぶりでもったいぶった叙述トリックによるミスリードも、この設定ならさほど不自然ではないし、伏線の張り方もうまく、読了してすぐ最初から読み返したくなるやられた感がよかったです。 本筋だけじゃなく、学生時代は華やかだった人間が落ちぶれていたりするところには、アメリカングラフティのような感慨も。 |
No.1 | 6点 | mini | 2009/07/20 09:57 |
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夏だからね(^_^;)
でもこれ夏らしい話ってわけでもないよなあ 大学が理系だったせいじゃないが私は文学の素養なんて無い人間だから、クックについてよく言われる純文学とミステリーとの融合とかって正直言ってよく分からない でもアホな私の頭でも、クックの冷静沈着な筆致は分かるよ 地味さを作品上の弱点とは思わない読者なので、こうした扇情を全く排除した冷静な文体は好き まあ作者が意図的にそういう文体で書いてるのかもしれないが ただたしかにクックは良い作家とは思うが、この作品はちょっと日本人向きじゃないんじゃないかな このテーマは日本人には分り難いと思う |