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87分署インタビュー エド・マクベインに聞く
直井明
伝記・評伝 出版月: 1992年02月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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六興出版
1992年02月

No.1 7点 人並由真 2024/05/18 21:06
(ネタバレなし)
 本業は海外の各国勤務の商社マンだったが、大のミステリファンで87分署の研究書「87分署グラフィティ」で第42回日本推理作家協会賞の評論部門も獲得した著者・直井明による、エド・マクベインへのインタビュー本。取材は1990年10月にマクベインが来日した際に行われたが、この時点で直井氏はすでにマクベイン当人と親交があり、マクベインの方も新作を書くために、直井氏がシャーロッキアン的に研究したデータベースを参照することもたびたびあった。

 取材の話題は、おおまかに13の主題(項目)に分かれて、87分署周辺の作品内外に関することはもちろん多いが、それ以外に商業作家としてのマクベインの履歴やほかの作家との親交、脚本家として仕事した際の述懐……など多岐に及ぶ。

 それらのインタビュー(対談)の集積の中から与えられる情報量の多さには十分にお腹いっぱいだが、一ファンとしてはもうちょっとキャラミーハーな質問をしてほしかった気もしないでもない(なんでああもバート・クリングはいじめられるのか、とか、シンディ・フォレストの再登場を考えたことはないのか、とか)。

 しかしマクベインが亡くなったのは2005年。この本が出たときより15年もあとで、最後まで現役作家だったのだから、実はこのインタビュー本はきわめて貴重な一冊ではあると同時に、まだまだこのあと晩節のある作家の過渡期の一瞬を捉えたもの、という感もあった。そういう意味で本の内容には、実際に語られていない部分で、まだ見ぬ奥行きの広がりを幾らでも感じたりもする。

 通読してスゲーと改めて思ったのは、著者・直井氏の博覧強記ぶりとおしゃべり好きで、特に巻末に設けられた本文各所への註釈のそれぞれのボリューム感には唖然。ひとつ話題を振ったら、二十は語る、というようなマシンガントーク的な記述であり、いろいろ勉強になる。

 実際、作者のトリヴィア探求の情熱はすさまじく、たとえば87分署の本文中に実在人物らしいかなりマイナーな音楽業界の関係者の名前が出てきたら、20冊ほど原書の音楽関係書を実際にリファレンスして、ようやく見つけたと安心する。あの島崎博にも匹敵する熱量で、そりゃまあ、協会賞のひとつふたつホイホイと取れるだろう、と思う。

 直井氏の著作はほかにも買ってあるけど、実はマトモに一冊読んだのはこれが初めてであった(汗)。少しずつ勉強させていただきます。