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ウィージー自伝 裸の町ニューヨーク
伝記・評伝 出版月: 1981年06月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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リブロポート
1981年06月

No.1 7点 クリスティ再読 2020/10/13 08:01
たまには反則も、したいなあ。写真家の自伝である。
けどね、これがタダの写真家ではないのである。

ウィージーに写真を撮られるようになってはじめて社会の敵としてFBIやテキ屋のベストテン・リストにのるのだった。私はついに警察からそうした貢献を認められ、殺人株式会社の公認写真家という称号を与えられた。

1930年代後半から1940年代のニューヨークで、特別許可を得た警察無線を搭載したシボレーで、殺人現場にいち早く駆け付ける写真家、通名ウィージー。ギャングたちの殺し合い現場、殺人犯の逮捕の瞬間、捕まった犯罪者の面構えなどなど荒っぽい現場を撮影した、荒っぽい写真を新聞に売り込むのだ。評者に言わせれば、ハードボイルド小説を「書く」以上に、「ハードボイルド写真を撮影した」写真家であり、ハードボイルドを地で行った男だと思っている。
そんな男の自伝である。つまらないわけがないでしょう? 

それから枕の下の現金を隠すと、電報と手紙を読み始めた。『ライフ』の明細書には「殺人二件につき、三五ドル」とある。『ライフ』は弾丸一発につき五ドル支払ったことになるわけだ。つまり、ひとつの死体には五発、もうひとつには二発の弾丸が撃ち込まれていたのである。

....いや、ハードボイルド小説以上の、この非情で煮え切ったハードさ!

ギャングたちは、たいてい道路の側溝に倒れ込んで顔を上げており、黒いスーツに身を固め、ピカピカの専売特許の革靴をはいてパールグレイの帽子をかぶっていた。それはまるで殺されるための正装のようだった。

写真家の自伝?いやハメットの小説に出てきても全然不思議じゃないカメラアイ描写。そりゃ、写真家、だからね。まさに「カメラアイ」そのもの。
もちろんこの1930~40年代の描写が素晴らしいわけだけど、自伝だからね。ウィージーはこの「殺人株式会社の公認写真家」としての写真集「裸の町」1945を出版して、一躍時の人になり、アーチストに成りあがってしまう。それからは写真も自伝の記述も退屈になってくる。まあ、それは仕方のないことだ。
でこの写真集「裸の町」を映画化する企画があって作られたのが、ジュールス・ダッシン監督の「裸の町」で、ウィージーの写真にインスパイアされた、オールロケのポリスアクション。これも映画史では重要な作品になる。

ちなみに今は亡きリブロポートの写真関連書籍で出版された本である。装丁に戸田ツトムが入っていて、センスのいい造本が素晴らしい。もちろんウィージー撮影のギャングの死体がゴロゴロ転がった写真も多数収録。紙質はよくはないから、洋書でいいなら Weegee の写真集は手に入りやすいからどうぞ。