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コナン・ドイル書簡集
ダニエル・スタシャワー ほか編
伝記・評伝 出版月: 2012年01月 平均: 9.00点 書評数: 1件

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東洋書林
2012年01月

No.1 9点 小原庄助 2019/08/21 12:21
主にシャーロック・ホームズの作者として知られるアーサー・コナン・ドイルが残した千通に及ぶ手紙(大英図書館所収)から約600通を選んだ書簡集。ドイルの書簡がこのようにまとまった形で公開されるのは初めてだ。
私信を少年期から晩年まで年代順に並べるだけでなく、その背景の解説や作者の諸作品と関連づけて紹介されているので、非常に分かりやすい。エピソードは豊かだが筋自体はごくシンプルな長編小説のような読み心地で、枕になりそうな厚さにも苦にならない。
手紙の大半は母メアリにあてたもので、母親への思慕と崇拝の念がほとばしっている。確執が推測された父チャールズへも愛情を抱いていたことがしのばれるし、妹たちや弟への思いが伝わってきて、ドイルの人間像が鮮やかに浮かび上がる。
ドイルの生涯は冒険的だ。若い頃には船医として捕鯨船に乗り、はやらない開業医時代にホームズの物語を書いて起死回生を果たし、流行作家となるもホームズ人気に不満を募らせつつ作風を広げる。愛国者として言論活動や政治活動にも熱心で、ボーア戦争に従軍したり郷里で選挙に出馬して落選したりしたかと思うと、義憤から冤罪事件の真相を追求し、心霊主義に走って晩節でつまずき・・・と忙しい。
本書を読むと、そんな冒険の日々の奥にあったものをドイルが打ち明けてくれる。いや、私信だから、彼は打ち明けるつもりなどなかったのだが。本書は書簡集の魅力に富むと同時に、偉大な作家からファンへの「最後の最後の挨拶」とも言えそうだ。