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[ 本格 ]
月明かりの男
ベイジル・ウィリングシリーズ
ヘレン・マクロイ 出版月: 2017年08月 平均: 5.80点 書評数: 10件

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東京創元社
2017年08月

No.10 6点 レッドキング 2023/09/15 22:54
ヘレン・マクロイ第二作。対独(対日もオマケ)戦時下の米国大学で起きる連続殺人のWho・Whyミステリ。加えて全編被うナチススパイねたがサスペンスしてて面白い。如何にもクセある教官、理事、学生ら容疑者達。逃走者の風体が目撃者三人三様に異なる「心理」ロジックや、供述の虚偽を見破る客観的ロジック・・読み返せば見取図ないままにキチンと描写されてた・・が、美味しい。「事実を述べる時には心情は隠されるが、本音が出て来ると物語=噓が始まる」・心理的推理良いが、客観的証拠のタイピングネタがいまいち。

No.9 6点 ミステリ初心者 2022/12/19 23:57
ネタバレをしております。

 精神科医ウィリング博士が探偵の推理小説です。精神科医だけあり、容疑者の心理面の分析の文章がよくでます! また、私の想像よりも大分若いのか(?)ほのかな恋愛要素もありましたね!
 また、時期が戦時中なためか、途中からスケールの大きい話になっていきました。

 本格色が強い作品でした。心理実験の途中の犯行であり、犯人にとってイレギュラーな要素がありました。また、ホールジー君が夢遊病者?なのかてんかんなのか、それも読者や犯人にとってイレギュラーな要素で、複雑な犯行現場でした。その辺は、なんだかカーみたいですね。
 また、3人目撃者が居ながら、3人ともまるで違う特徴の犯人を証言しました。これは非常に不可解で、興味をそそられました。

 以下、難癖部分。
 3人とも食い違う証言や、ホールジーの要素は、カーならば飛びっきりのトリックやドンデン返しに利用されるところですが、この作品ではあまりそういったことがありませんでした。なので、その部分では残念でした。あくまで各登場人物の心理面のヒントのみでした。物的証拠ではないので、純粋な犯人当ての決めてにはならず、また犯人がこさえたトリックもほとんどなかったです。
 ラスト、論理によって犯人を追いつめる展開があり、犯人を一人に断定できる作品ではあります。しかし、犯人の証言の地理的な矛盾については地図が添付されていないため非常にわかりづらかったです。また、タイプライターの問題は知識がいる事ですし、現在の私たちではちょっと難しいかと思います。

 総じて、本格愛を感じる作品ではあったものの、証言の食い違いは魅力的な謎にならず、大きなトリックもなく…ちょっと地味な印象を持ちました。各登場人物が隠している謎と、その背景が明かされている感じはアガサっぽくて、その部分が好きな人はもっと高評価をつけると思います!

No.8 5点 八二一 2020/10/01 20:39
キーボード・ブラインドタッチ・胸腺異常などのツールを極限まで活用する手腕が見事すぎて、その分リアリティで損している。

No.7 5点 ボナンザ 2020/01/28 20:51
魅力的な謎の提示だが真相は今一つか。
それでもよくできたフーダニットだとは思う。

No.6 6点 弾十六 2019/09/13 20:35
1940年出版。(Pretty Sinister BooksというWebサイトを見たら、Dell版(Mapback edition)裏表紙の大学建物群の鳥瞰図がありました。これ付けてくれたらかなりわかりやすいですね。まだ読んでない人は是非参照してください。) ベイジル ウィリング第2作。創元文庫で読了。翻訳は原文のハンデ(ところどころ英文が出てくる… でも必然性ありなんです。シリーズ最後の翻訳となったのも止むなしですね。)にもかかわらず端正な出来です。
マクロイの長篇は初めて。設定がJDC/CDばりの凝りまくった本格もの。いろんな事件が起きて、いろんな人が次々登場するので、ちょっと混乱します。(冒頭部分から100ページくらいまで読み直しました。) 私の目当ては硝煙反応(=パラフィンテスト)だったのですが、そこは素通り。犯行当時、手袋をしてたら当時のテスト方法では検出できないのですが、最重要容疑者の手袋の硝煙反応を調べないのは疑問。当時は布製からの検出はできなかったのかな?(また調べることが増えてしまった…)
起伏に富んだ面白い筋たて。「月明かりの男」は目撃証言ネタとして感心したのですが、ロフタス先生あたりが実際に実験してそう。(また調べることが増えてゆく…) 美女の扱いは不満。ベイジルの視線がもっと絡みつかなきゃ… そしてアクションシーンが不得意、これは女流作家に共通してるかも。(JDC/CDなら冒頭とラストは長い格闘に持ち込んでます。) 全体として黄金時代の香りが嬉しい、次の作品が楽しみな探偵ものでした。(解説の意味深なのも気になります。) ただしウィリングのキャラが印象に残らない。まーそれもシリーズを読み進める楽しみ、ということで。
以下トリビア。原文は入手してません。
作中時間は五月四日土曜日と明記、1940年という設定。ヨーロッパと中国ではドイツと日本が戦線拡大中、という時代。まだ米国は参戦してません。
銃は最初に「四五口径のコルト」が登場。SAAかな?と思いましたが、流通量と扱い(スイングオープンしてるような描写あり)から考えるとM1917でしょうね。続いて「リヴォルヴァー(…) 先の大戦の置き土産、モーゼル」が登場。モーゼルのリヴォルヴァーって結構レアなM1878通称Zig-Zag(数タイプあり)なんですが… 自動拳銃の間違いかも?と思いましたが、黒色火薬を登場させたりしてる作者なので文字通りモーゼルのリヴォルヴァーとして考えて良いと思います。自動拳銃でxxは動作不良(一発撃つだけなら問題なし)になりますからね。
p32 千ドル: 機械の値段。米国消費者物価指数基準(1940/2019)で18.33倍、現在価値195万円。
p147 銃や戦闘機を買うための足し: 給料のほとんどを本国に送っている理由。マクロイさんは中国に造詣が深い印象あり。「燕京綺譚」の内容はほとんど覚えていませんが…
p150 チャーリー・チャン… フー・マンチュー… 探偵小説: 黄金時代の特徴、探偵小説への言及。
p174 上質のストッキング: 日本製が入って来なくなって高くなった、というのをクール&ラムシリーズで読んだ記憶があります。Hose, silk and rayon, not full fashionが1940-12で1組平均36.3セント(706円)という統計あり。1920年代の調査ですが絹ストッキングは1組25セントから10ドルの幅があったようです。最初のナイロンストッキングは1939-10-24にデビュー、 “Nylon Day”(1940-5-16)には全米の百貨店の棚に用意された四百万のナイロンストッキング1組(値段$1.15=2235円)がたった二日で売り切れた。その後、米国が戦争に突入したら資源節約でナイロンストッキングの製造は中止。本格普及は戦後。

No.5 5点 蟷螂の斧 2018/10/10 18:03
肩透かしを食った感じで、読後の印象はあまり良くない。一つは三人の目撃者の証言が食い違っているという謎がうまく機能していなかったこと。結果的には犯人特定に結びつくが、どうでもいいような感じであった。二つ目はギゼラ(女性秘書)が主人公に思わせぶりな態度をとり、恋に発展か?と期待するも、途中ではほとんど触れられることもなかった。そしてラストで急に主人公の彼女への思いが語られるのだが、それは唐突でしかなかった。ということで、二は本編の推理とはあまり関係ない書評ですが・・・(苦笑)。全体的には詰め込み過ぎといった印象の作品。

No.4 6点 あびびび 2018/09/12 23:12
端正でスマートな推理小説。それでいて、こだわりも凄い。ウィリング博士が心理専門家ということで、特に精神、心理学の知識は圧倒される。それが読者に分かりやすく表現されているのも好感が持てる。

この作家の作品も残り少なくなってきた。アガサ・クリスティの時のようにさみしく感じています。

No.3 7点 E-BANKER 2018/07/13 22:17
「死の舞踏」に続いて発表された、精神科医ヴェイジル・ウィリング博士シリーズの二作目。
創元文庫にて続々と刊行される同シリーズだが、順番が滅茶苦茶なのがいいのか悪いのか?
1940年の発表。原題は“The Man in the Moonlight”

~ヨークヴィル大学を訪れたフォイル次長警視正は、構内で風が運んできた紙片を拾う。そこには「殺人計画」と書かれていた。決行は今夜8時。犯行現場に指定された建物に赴いたところ、心理学の実験に用いた拳銃の紛失騒ぎに立ち会う。言い知れぬ不安を覚え、八時に再度大学を訪れたフォイルは死体の発見者となる。被害者は亡命者のコンラディ博士。月明かりの中を逃げる不審人物が三人の男に目撃されていたが、彼らの証言する外見はすべて異なっていた!~

冒頭に書いたとおり、最近読む機会がかなり増えてきたマクロイ作品。
違う作品の書評でも書いたと思うけど、作品ごとの出来不出来が少なくて、どれも一定水準以上と思わせる作品ばかり。
で、シリーズ第二作となる本作も期待にたがわぬ作品という評価。

物語は序盤から魅力的な展開を見せる。
「殺人計画」なる紙切れを拾い、誘われるように事件の渦中に飛び込むこととなるフォイル次席警視正とウィリング博士。
まずは紹介文にも書かれた、三人の男が逃げ去る犯人をすべて違う外見で捉えるという摩訶不思議な謎に遭遇する。
(この真相は他の方も書かれたとおりで、やや肩透かしなものだが・・・)

嘘発見器による実験や夜中誰もいないはずの部屋から響くタイプライターの音など、マクロイらしい道具立てが用意されている本作。
こんなに風呂敷を広げて大丈夫か?と若干の心配をしていたが、それを嘲笑うかのように終盤以降、ウィリングの頭脳によってひとつひとつ、真実が白日のもとにさらされていく。
最終章での真犯人とウィリングの対決がまさに物語のクライマックス。実に端正な本格ミステリーという満足感を得られる(だろう)。

動機の件(特に第三の殺人)は気にはなったし、ウィリングが真犯人を特定するきっかけとなった第一の事件現場での証言の齟齬については、せめて現場の見取り図を入れて欲しかったなど、細かな不満はあるけど、総合的に評価は高い。
けど、コレが一番かと問われると、YESという答えにはならないかな・・・
ちょっと未整理な部分も見え隠れするのが初期作品らしい。

No.2 6点 人並由真 2017/10/12 17:30
(ネタバレなし)
 ウソ発見器やら怪しげな亡命者の密集やらケレン味ある趣向が盛りだくさんのパズラーで、その点は誠に結構。ネタの盛り込みようは、ちょっとC・D・キングを思わせる印象もある。
 弱点をあえて挙げれば中盤の関係者への尋問が続くあたりがややダレることだが、後半になって事件の裏や周辺の真相が続々と浮上してくるあたりはパワフルな面白さだった。
 しかしマクロイ、この作品のなかで話題にしたネタをのちの作品のなかでもっと本格的に使っているあたりは興味深い。その意味、日本ではこの作品が当該のもうひとつの作品より遅れて翻訳されたのはよかったのかな、とも思う(本作を先に読んでいたら、そっちの意外な真相の見当が早々とついた可能性もあるので)。
 ただし「月明かりの男」について三人の証言が食い違うあたりの謎解きはやや腰砕け。いや小説内のできごととしてはリアルだと思うんだけど、そのロジックなら割とあらゆることがアリになっちゃう気もする。

 それにしてもウィリングものの長編もこれであと未訳ひとつ。これからマクロイを読む読者はシリーズを日本語で執筆順に読むことも(ほぼ)可能で、その意味ではうらやましい。と言いつつ、オレもまだ『死の舞踏』読んでないんだけど(汗)。
(しかし鳥飼さんの巻末の解説はかなり奥ゆかしいね。シリーズ上、この作品がどういう位置になるかは、まあ書いちゃってもいい気もするんだけど。この作品でマクロイに初めて接する読者まで想定して、かなり気をつかっている。)

No.1 6点 nukkam 2017/09/06 10:47
(ネタバレなしです) 1940年発表のベイジル・ウィリングシリーズ 第2作の本格派推理小説です。創元推理文庫版の粗筋紹介では月明かりの中を逃げる不審人物に関する3人の目撃証言がそれぞれ食い違っている謎(レオ・ブルースの「骨と髪」(1961年)をちょっと連想しました)をハイライトしていますが、銃弾の見つからない射殺とか、警官が見張っている犯行現場に何者かが何度も侵入を試みるのはなぜかとか他にも謎が沢山用意されています。被害者や容疑者たちに学者を揃えたためか難解な用語が時々登場しますし、手掛かりには時代の古さを感じさせるものもあります。動機に関する議論で学術的な理由、経済的な理由、そして政治的な理由までが可能性として登場するところが当時の本格派としては結構モダンだと思いますが、なじみにくくて読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。しかしながら有罪を立証することは不可能だと自信満々な犯人をベイジルが推理で追い詰めていく最終章はなかなか印象的です。


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