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[ 本格 ]
読後焼却のこと
ベイジル・ウィリングシリーズ
ヘレン・マクロイ 出版月: 1982年02月 平均: 5.33点 書評数: 3件

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早川書房
1982年02月

No.3 6点 2020/05/19 10:50
 海軍退役大佐の未亡人ハリエット・サットンは、ボストンに着くとすぐなじみの弁護士ジェイベズ・コッパードの助言に従い、ビーコンヒルの旧市街保存区域内にある家を買い求めたのち、下宿屋を開業した。家の一部分に住み、入ってくる家賃で残金の分割払いと維持費その他をまかなうのだ。ハリエット自身いくらかものを書くことから、間借人は作家の中から探すことにした。
 クリスマスの翌日、間借人をみつけ終わった彼女が顔合わせパーティの準備をしていると、バルコニーに向かって開いたドアからそよ風に吹かれ、タイプした紙が舞い落ちてきた。一行目にはこうあった。"焼き捨てること"
 興味をそそられたハリエットは続きを読むが、誰かに宛てたタイプは、われわれと一緒にこの家に住んでいる〈ネメシス〉を自然死か事故に見せかけて殺そう、と唆していた。文章は「わたしの計画は――」でとぎれている。けれどこの家には現役の作家ばかりが集まっているのだ。単なるいたずらかもしれないし、未発表の新作の一部かもしれない。彼女はパーティの席上でみんなに紙を見せることに決める。
 だが作家たちには誰も心当たりは無かった。ネメシスはボストン一タチの悪い匿名書評家で、多くの作家の恨みを買っているがこれは自分たちの仕業ではないという。おまけにパーティの最中、問題の紙きれはどこかへ消えてしまう。
 奇妙な出来事に不安を覚えるハリエット。それから数日後、童話作家アリス・ジャコモの部屋に招待された彼女は、自室に戻ると恐怖にゆがんだジェイベズ弁護士の死体を発見する。かれはのどを裂かれて血を流していた。しかもその傍らには、モロッコにいるはずの彼女の息子トミーが、血まみれの手をして立っていた・・・
 1980年発表。ヘレン・マクロイ七十五歳の時の作品で、長編ミステリとしては未訳の"The Smoking Mirror"に続く二十九作目(ヘレン・クラークスン名義"The Last Day"を含む)、ウィリング博士シリーズとしては第十三作目にあたります。第1回のローレンス・ブロック『泥棒は詩を口ずさむ』に続いて、本書で同年第2回ネロ・ウルフ賞を受賞。
 「犯行以前」「ドクター・ウィリング登場」の二部構成を取っていますが、長編としてはやや短め。にもかかわらず〈冗長〉との評価は、ハリエットの息子トーマス・サットンが夾雑物になるからでしょうか。この辺バッサリ切っても良かったような気がします。
 どちらかというと黙殺に近い扱いを受けていますがそう捨てたものでもなく、晩年になっても手掛かりがキッチリ配置されてるところは流石。このお年としては上の部類でしょう。打率の高い作家さんはどうしても点が辛くなりがちですが、本書は十分水準作。ベイジル・ウィリング最後の事件にふさわしいかどうかはともかく、〈読まなきゃよかった〉レベルの作品ではありません。
 ただ全盛期に比べて薄めなのはどうにも仕様がない。『幽霊の2/3』同様に出版業界の裏表を扱ったものですが、ある程度前者の推論が応用できるのも難点。〈ネメシス〉の正体も筆名が暗示する分割れ易くなっています。あと某人物とはそこまで親しくなさそうなので、犯行に必要なものを手に入れるのはかなり難しいのでは。
 総評としてはけっこう読めるがそこまでの内容でもない。点数はギリ6点。古書価高めとはいえ、大枚叩いて入手するほどではありません。

No.2 6点 nukkam 2016/10/03 02:00
(ネタバレなしです) 1980年発表の本書は「割れたひづめ」(1968年)以来久しぶりにベイジル・ウィリング博士が登場する本格派推理小説(シリーズ第13作)で、ヘレン・マクロイ(1904-1992)の最後の作品でもあります。ボストンの自宅を5人の作家に間借りさせているハリエット・サットンは作成途中と思われる手紙を入手します。その手紙には辛辣な批評で作家たちから忌み嫌われている謎の書評家ネメシスの正体をつかんだこと、ネメシスがハリエットの家にいること、そしてネメシス殺害に加担するよう書かれていました。一体誰が誰に送ろうとした手紙なのか、ネメシスの正体は誰か、そして当然ながら殺人犯は誰なのかと謎は色々と提供されます。しかしkanamoriさんのご講評で指摘されているように全盛期の作品に比べると淡白な謎解きに終わっているのは残念です。それでも十分水準作の域には達していると思いますが。なお本書を読む前にコナン・ドイルの「バスカーヴィル家の犬」(1902年)を読んでおくと面白さがちょっとだけ増えると思います。

No.1 4点 kanamori 2010/04/29 18:17
偶然見つかった殺人計画メモがもたらすサスペンス、1980年作の著者最後の長編ミステリです。
未亡人で作家である主人公の家が舞台で、間借りする5人の文筆家の中に、犯人と殺害対象の覆面評論家がいるという古典的設定自体は面白いですが、そこからの展開が冗長で、登場人物も最盛期のような個性的な書き分けが出来ていないように思いました。ベイジル・ウィリング博士も登場しますが、これも精彩を欠いて見え、結末もあっけないです。


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