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ミステリの祭典

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テツローさんの登録情報
平均点:7.46点 書評数:108件

プロフィール| 書評

No.108 6点 超・殺人事件―推理作家の苦悩
東野圭吾
(2005/08/19 00:12登録)
「超・殺人事件 ー推理作家の苦悩ー」

 これは推理小説ではないんですね。ミステリ出版界隈を舞台にした、風刺小説かと。中の一遍「超犯人当て小説殺人事件」に本格っぽい仕掛けがあるけど。
 割と笑えはしたのですが、ラストの落ちが読めるのが多いのが難点。風刺小説だから、落ちよりプロットを笑って読むのが、正解なのかもしれませんが、やはりもう少し捻りを効かせて欲しかった、というのが感想です。


No.107 6点 ノヴァーリスの引用
奥泉光
(2005/06/12 13:08登録)
クライマックスのタイムスリップ描写、最初は本当にタイムスリップしたのかと思ったけど、一応合理的解釈はついたようで。ただこれは、例え合理的解釈がつかずとも良かったかな、とも思える。作者が言いたいこと、大事なことは、その中で登場人物に語らせていることだろうし。僕自身がそれを全て納得して理解できてるわけではないけれど、まあ雰囲気としてシチュエーションなどは良いと思う。

 余談ですが、僕が高校の時の文芸部が出した部誌に、同じシチュエーションの小品が発表されてました。主人公が教室に入ったらタイムスリップして、自殺者の動機を追想する、というもの。思春期だから生と死というものを考えることに、憧れるというか嵌る時期なんでしょうね。またそれだけでなく、教室とタイムスリップという取り合わせ。これは、『学生時代』というもの、そのものに対する、ノスタルジー的憧憬なのではないだろうか、とも思えます。これが、この「ノヴァーリス〜」という作品の根底にも、流れているのかも。作者の意図がそこには無くとも、読後僕が感じたシチュエーションの良さといいうのは、そういう理由からなのかも知れません。


No.106 7点 動機
横山秀夫
(2005/03/01 23:59登録)
 表題作「動機」のトリック、知ってたのに、あんなに有名なのに、読み終わるまで気付けなかった。読み終わったとき「あれか!!」と叫んでしまった。でも、こういうのは好みです。こういうので騙されるのは、心地良いですね。

 他3作は、トリック面で特にどうこうは無い、心理ミステリという感じか。事態に対して逡巡する心理などの描き方は、全体的に高いレベルでたいしたものだと思うが、収録順に後の作ほど、無理が多いようにも感じた。


No.105 6点 オーデュボンの祈り
伊坂幸太郎
(2005/03/01 23:37登録)
 一つ一つのエピソードは、深みを感じたり、恐怖を感じたり、和みを感じたりと、結構感じるものはある。ただ、読んでいて、少々まとまりが悪いように思った。今、主人公が追いかけているものは何か、何を感じ、何を思っているか、ともすれば見失いがちにも、なってしまったので。
 ただ、これは主人公を追いかける作品ではなく、描かれる情景を追いかける作品ととるべきなのかも知れませんね。解かれる謎も、説明されない設定も、うち捨てられた人物も全て含めて、この島のルールに則って進行していく、単なる情景なのだと。
 文庫の解説にある、“シュール”という言葉が、やはり一番ぴったり当てはまる作品です。


No.104 6点 3000年の密室
柄刀一
(2004/02/01 19:49登録)
 現代の殺人事件の方、トリックが少々分かりにくいですね。地形がどうなってて、ああなったのかが、ビジュアル的に想像しにくい。それと、動機の設定があまり好みではなかったし、犯人像・被害者像ともに嫌悪感しか抱けないし、探偵役もトラウマとそれの克服の描写があるものの共感を持つに至らないし、で、作品的には総じて退屈に感じる方が強かったですね。
 遺跡の密室については、あの解決方法は良いと思います。力技ですが、意表を突いて、かつ、上手く納得できたと思うので。細かいことを言えば「入り口を内側から塞いだ」という部分をちゃんと図説しないのが不自然かなとも思ったのですが、これはもう確固たる前提条件として流すしかないようで。
 サイモンが何処から来たのかをディスカッションするシーンは細切れにせず、一挙にやるべきかな?とも。この辺少なからず、少々退屈という読後感を抱くに至った原因になってると思えます。討議の内容自体は良いのですがね。


No.103 7点 彼女は存在しない
浦賀和宏
(2003/12/19 21:50登録)
 まあまあ、でしょうか。二人の人物の視点が交互に描写されていって、「これは絶対、何か引っ掛けがあるな」と思って、注意しつつ読み進めたのだけれども、結局分かりませんでした。そこら辺上手く書いてあるなと、素直に感心できる作品でした。
 キャラクターのひねくれ具合、ものの考え方や行動原理などで、他の作品同様、やはりちょっと感情移入できない描写はあります。それでもまあ、このストーリーの引っ張り方なら、文句は消えるでしょう。文句言う前に場面が先へと進んでしまうので。そこら辺確かに読ませる話にはなってると思います。


No.102 5点 地球平面委員会
浦賀和宏
(2003/12/12 22:53登録)
 主人公のスタンスがふらふらし過ぎで、どうも訴えて来るものが弱い。エラリィ・クィーンの孫であることを負い目に感じること、しかし自分にも何か出来るのではと事件に立ち向かうことを決意すること。ここらをもう少し深く掘り下げて書くべきだと思う。このエピソードが白々しく思えて仕様がなかった。
 後、犯人像がともかく気色悪い。最後に明かされた謎も、それほど感心はしなかった。
 佐久間愛は、可愛らしいキャラクターですね。この作品はこの娘でもってるようなもの、と言ったら言い過ぎか・・・・・・しかし、主人公の駄目さ加減が、この娘との会話シーンで何とか持ち直してるという風にも感じるので。
 まあ、ラストは彼女も主人公も助かったみたいなので、よかったです。


No.101 4点 記憶の果て
浦賀和宏
(2003/11/27 22:33登録)
 以前何処でだったか確かこの作品の評だったと思うが、「どうしてこんな気色悪い書き方をするのか」という文が記憶に残ってて、単純に「グロい内容なのかな」と思ってたんですね(「殺戮にいたる病」のような)。実際読んでみたらそういうのではなく、先の評は多分、主人公の心情描写のことを言ってるのだろうと分かりました。僕自身も少々そういう感想を持ったので。恐らく作者自身の心情の吐露でもあるのだろうけど、こういう考え方をする人間もいるのだろうとは思っても、本心としては、「その拗ね方、絶対間違っとるぞ」とでも言いたくなってしまって、欲求不満になりそうです。
 ミステリとしての側面でも、他作品への続きとなる謎はまあ置いといても、この作品中で解決されるべき謎の解明が、論理的に確定されず、「俺がそう思うことにしたからいいんだ」でまとめるのは、どうかと思います。探偵役を気取る金田というキャラクターの言動に共感を覚えたのですが、作中では「他人の心の中に土足で入り込んでくる無礼な奴」という、よくあるアンチ探偵扱いしかされず、この点でも不満でした。
 場面場面における考察などは読みやすく面白いとも思ったのですが、共感できない点が多く、全体的にはイマイチ感の方が大きいですね。


No.100 6点 もつれっぱなし
井上夢人
(2003/11/05 21:01登録)
 ある命題を、証明する側と否定する側の会話文のみで出来上がった短編集。ロジックを駆使して本格っぽく仕上がってるのかと思いきや、残念ながらそれほど本格味は無かった。
 と言うより、前半の3編は、証明する側の人間性に問題があるんじゃないだろうか?こんな奴に言い負かされたり丸め込まれるのか、と思うと嫌気がさしてしまう。第一話を読み終えた時点で、一旦本を閉じたほど。
 後半の3編は、逆に非常に良い出来だと思う。ブラック風味も程よく効いていて、読了感も「上手くやられた」と言う感じ。こちらはお薦めです。


No.99 6点 そして二人だけになった
森博嗣
(2003/11/03 23:29登録)
 ネタバレ込みですが。

 クイーンの「神の灯」の更に上を行く大トリック、それ自体は大層すばらしい。すばらしいのですが、何でそこまででまとめないのかぁーっ!! という文句が、やはりどうしても出てしまいますね。2人1役の部分や最後の落ちは、それだけで別の作品に仕立てるべきじゃないかなぁ、と。
 キャラクター的には、インタビューの部分の描写は割りと好きな描き方なのに、ストーリー部分だと少々鬱陶しいと感じてしまう。そこら辺りちぐはぐに感じてしまうのは、内的人格の違いという設定があるから、仕様がないのかもしれませんが。
 アンカレイジ脱出行の部分は、パニック物の映画みたいで良かったです。


No.98 5点 複製症候群
西澤保彦
(2003/11/03 23:04登録)
 主人公達の青春群像というものや、キャラクター達の推理談義のあたりは、おもしろいかなと思ったんですが、全体的にはあまり後味が良くない感じです。
 ラストの方の、登場人物全員が次々と殺人を犯していくあたりが、どうにも精神的に追いつけなかったですね。さっき青春群像と書きましたけど、やってることが自分勝手過ぎるというのが、どうにも。結果、評価としては、僕にはこの程度でした。


No.97 9点 風が吹いたら桶屋がもうかる
井上夢人
(2003/11/03 22:21登録)
 これは良いですね。こういう論理論理で攻めるストーリー展開は、本格っぽくて好みのタイプです。
 一つ難点が、語り手たるシュンペイのキャラクターかな? イッカクの推理の前に必ず「そんなことするな」と止めるところとか、イッカクの推理が外れてそれを冷やかすところとか、何かこう、本格物アンチの立場をとってるのかな?と思えて、嫌なキャラだなと感じてしまったんですね。それと対極にいるイッカクは、その分好感度アップでしたが。普通ミステリで、探偵に感情移入しながら読んでて、その推理が外れたりすると嫌な気分になるのですが、このイッカクくらい超然と外してくれると、かえって清々しいと感じます。
 もう一人のキャラ、超能力者のヨーノスケは、刺身のツマのような扱われ方にもかかわらず、良い味を出してていいキャラでした。
 全体的には、大層良かったです。


No.96 8点 リセット
北村薫
(2003/07/13 19:44登録)
 主人公2人のそれぞれの話が、私小説風に淡々と語られるので、最初は本当にどこが絡んでるのか、全然検討がつかなかった。つながった時は、少々唐突過ぎじゃないかな?、と最初は思ったけど、まぁこれはこれで良いんじゃないでしょうか。2番目につながった時は、麦畑を駆けて来るセーラー服の少女なんて、牧歌的だなぁとうれしくなった。
 その最初の戦前の話や、父が子に語る話も、昔話として面白く読める。(鼻につくという感想もあるが、逆に理解できん)転生物というネタがばれた後は、展開が速くなるのもそれは仕方ないだろう。引っ張れるのはばれる前まで。主人公にからむ女の子が出てきて、読者が「ははぁ、この娘が生まれ変わりだな」とおおよそ見当がついてるのに、知らん振りして続けるのは間抜けだろうし。
 後、獅子座流星群で始まって、獅子座流星群で終わるのも、良い展開だと思う。


No.95 8点 占い師はお昼寝中
倉知淳
(2003/07/04 00:06登録)
 日常の謎系列で、この方向性は好きな方。ただこのシリーズ、割と無理な解釈が多いような気がする。まあ、それも御愛嬌と言えば御愛嬌で、許せる範囲ではある。

「水溶霊」のラストの憂鬱な終り方が、北村薫のコピーを狙って力及ばず、という色を、一番濃く感じた。
「写りたがりの幽霊」もう少し深みが欲しかったところ。
「ゆきだるまロンド」無茶な設定だが、ラストの救いで良い話になったと思う。
「占い師は外出中」が一番良かったかな?ワトソン役の推理と、その矛盾を突き論破してゆく探偵役の推理の対比がおもしろい。

 続編、作れそうなものだが、もう作者、覚えてないかも。


No.94 9点 悪霊の館
二階堂黎人
(2003/06/04 00:47登録)
 密室トリックそのものは、それほど洗練されたものではなかったと思う。その他の小技的トリックや、二階堂蘭子の語る薀蓄の方が、本格ミステリとしての雰囲気を醸し出すのに効果的に用いられている。そっちの方が楽しめたな、と感じた。
 犯人指摘のシーンは、充分以上に盛り上がったかな。「地獄の奇術師」では最初からバレバレの犯人でちょっとしらけたものだったが、今回は一応、僕の予想がことごとく外れ、意外な犯人にびっくりしたので、そこは合格点と思う。


No.93 9点 花の下にて春死なむ
北森鴻
(2003/05/03 23:36登録)
 良いですね。安楽椅子探偵物として、それに日常の謎ミステリとして、秀逸な出来だと思います。日常の謎は厳密には半分しかないけど。ただ、実際自分的には、北村薫の「円紫師匠と私」シリーズを彷彿をさせるものでした。
 「終の棲み家」と「殺人者の赤い手」は、話のモチーフ自体は良かったんですけど、謎解きに少々無理があるように思いました。良かったのは表題作と「魚の交わり」ですかね。話の出だし、展開、締めと、全て収まるところに収まったと言う感じで。
 登場人物が多数入れ替わりで描写されてるのも、粋な計らいだと思います。


No.92 10点 Pの密室
島田荘司
(2003/04/02 20:54登録)
 「鈴蘭事件」「Pの密室」共に、いわゆる『後期クィーン問題』を巧みにかわしているな、という感触を持った。別に突き詰めて考えなきゃいけないって訳でも無いし、突き詰めすぎて法月綸太郎みたいになるのもどうかと思うので、これはこれでかまわんでしょう。
 僕は両作とも良いと思った。特に「Pの密室」の方は、思わず頭の中で映像が流れて、BGMがかかるくらい(御手洗が現場でルミノール反応の実践をするところ)。トリックが特にすごいというわけでもないけど、まず最初に凡人刑事が現場の状況を調べ、何とか事件の概略を形作ろうとするけど、不可能性・不可思議性が強調されるだけで全然解決できない、そういう前提を経た上で御手洗が事件を組み立てる、こういうスタイルはやはり好みのタイプなんだなぁ、と再認識してしまった。(「斜め屋敷」もそう)
 後、少年探偵という設定なぞ、今に始まったことでもなかろうに、と思うんやけど、「島田荘司だから、御手洗だから」でこだわってしまうのだろうか? ここが駄目という方は。


No.91 6点 聖林輪舞-セルロイドのアメリカ近代史
島田荘司
(2003/03/29 01:02登録)
 小説ではなくエッセイ集。ハリウッドで活躍した人物をドキュメンタリー風に書いた物。
 「秋好事件」「三浦和義事件」のように、実際の事件に対する考察の話もある。「トマス・インス殺し」や「マリリン・モンローの死」「チャールズ・マンソン事件」「O・J・シンプソン裁判」などの話がそう。
 月刊誌連載エッセイだったこともあって、一回の文量が限られていて、淡々と描写が進む展開が却って読みやすいと思う。割と面白かった。
 「龍臥亭事件」の「津山三十人殺し」の挿話も、この程度で収めてくれてたらなぁ、などと考えてしまった。


No.90 7点 最後のディナー
島田荘司
(2003/03/29 00:41登録)
 こういうインターネットの感想文書き込みサイトに書くようになってから気付いたのだけど、どうも僕は、ミタライアンではなくカズミストだったようだ。今まで自覚は無かったんだが。表題作における石岡君の行動・心情描写など、腹を抱えて笑いながら読んだ。
 ミステリとしては、表題作は殺人の謎より、大田原氏の行動の理由を探るという、日常の謎の方をメインと見たらまあまあか……
 「大根奇聞」の方は、実際に昔、TVアニメの「まんが日本昔話」で見たことある話だった。落ちがオリジナルの民話と比べて、シュールさが失われて地に足の付いた話になってしまってる。まあ、ミステリとしての謎の提示のくだりは良かったと思うが。
 全体的に島田荘司の文章は、会話文が不自然でなくって、読みやすいと思う。ただやはり、ミステリとしての評価は高くはならないか!?


No.89 10点 龍臥亭事件
島田荘司
(2003/03/29 00:01登録)
 ラストの謎解きが全然論理的じゃないというのは、確かにそう。下巻途中の「津山三十人殺し」の挿話も、こんなノンフィクション・ノベルの形態をとらずに、淡々とドキュメンタリー風に書いてくれた方が、まだいくらか良かったとは思う。ただ僕は、そういう観点とは別の方向から見て好きな点も数多く感じ、評価は良い方になった。
 それは、コード多用型ミステリとしての点。この作品で用いられているミステリのコードとして、横溝正史世界の舞台装置のことが、実際よく言われている。僕は、その横溝作品の舞台装置がまず一つ挙がるのは確かだが、他にも、乱歩の淫美性、「Y」のプロット、「九尾の猫」の探偵再生のドラマ、こういったコードも読み取れると思った。また、「津山三十人殺し」の挿話も、シャーロック・ホームズ物の長編にある、過去の因縁話を挿入するスタイルへのオマージュと見ることもできる。
 もちろん、過去の名作の後追いが多ければ、すなわち良い作品という訳でもない。繰り返すが、あの挿話については、やはりあそこまでだら長くせずに端折って欲しかったとは思うし、トリックは「なんじゃそら」ではあった。
 だが、上巻の、次々に殺人が起こっていくのに全然解決の糸口すらつかめない辺りの展開は、ページを繰るのももどかしいと感じるくらい面白かったし、下巻の石岡君の調査過程も興味深く読めた。何より、上記にある本格物の総決算のようなコードの多用が、僕のツボに入ったようで、この作品は僕の中では、割と名作として残る位置にある。

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