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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1628 5点 抜け首伝説の殺人 巽人形堂の事件簿
白木健嗣
(2024/01/17 12:06登録)
 妖怪話や田舎の情緒で雰囲気を出したいのか、事件捜査の整然とした流れで行くのか、どっちつかず。真相よりダミー推理の方が印象的。破綻はしていないが、新しい何かと言ったものではなかった。視点人物の卑屈なキャラクター設定は良いかも。

 “100年” なるイラストレーターによる装画がやけに怖く感じて見る度に心臓が暴れるんだけど、どう?


No.1627 5点 愛しても、獣
山田正紀
(2024/01/17 12:04登録)
 男には “獣” が潜んでいる、と言うのはステレオタイプだと思うが、“こんな姿は見たくない” と思わせる部分を容赦無く突き付けてかつてなく読者を凹ませる山田作品。
 ただ、そういったメイン・テーマよりも、一世代前の炎上の様相が悲惨で印象に残った。しかも真相が明らかになっても光はあまり見えない。矛先があっちの家に変わるだけである。

 ところで結果論として、悪意ある彼女の行動が想定外の真相を引きずり出したわけで、その点の面白さはもっと強調しても良かったのでは。


No.1626 5点 蠅の王
ウィリアム・ゴールディング
(2024/01/17 12:02登録)
 奇妙な手触りの小説だ。
 孤島に漂着した少年達。そこに至るまでの説明は殆ど無し。人数も経歴も不明。都合良く温暖で、食物も手に入る環境。
 それはまるで、或る瞬間に突然実体化されたような、しがらみの無い箱庭。“人間のあり方を追求した” のは確かだろうが、私には人間を超えた高位知性体がその為の実験観察をしているように思えた。“ような” ではなく本当に孤島と少年達を地球と言う実験室に創ったのである。
 と言う視点で読むと、“蠅の王” の台詞は単なるイメージではなく実際に音声として存在したのだろうし、ラストに登場するアレもその何者かの采配だ。メタ的には完全にSF。
 以上は多分に曲解だけれど、私にとってはプラスに働いた部分。

 以下はしっくり来なかった部分。
 少年達の前半の言動が全然リアルではない。危機感の無さ。蛮人ごっこなんてするか?
 暴走の始まりも、何故あの程度のことがきっかけになったのか、または逆にあの時点までは何故平気だったのか(もっとさっさとグチャグチャになるかと予想していた)。極限状態の描写なら孤島ミステリ(の出来の良いもの)の方が遥かに優れている。


No.1625 5点 殺人現場へ二十八歩
都筑道夫
(2024/01/17 12:01登録)
 文庫版解説に倣って都筑道夫作品を構成要素に分解すると、①ストーリー。謎と論理のエンタテインメント。②小道具への興味、諸々の薀蓄。役に立たない物事について実に博識。③下町の風物の活写。多分にノスタルジックではあるが、もはや良くも悪くも作者の看板。
 なまじ②③で巧みにページが埋まってしまうせいで、本書では①のミステリ部分がなおざりにされている気がする。“新しいアイデア” と言う感じが全然しない。


No.1624 4点 ママに捧げる殺人
和田はつ子
(2024/01/17 11:59登録)
 我孫子武丸『殺戮にいたる病』はOKなのに、何故コレは違うのだろうか。吐くから? 痩せ過ぎた骨の感触が怖い? 凄絶な心身の病、でも正直に感想を言えばみんな気持悪い愚者達だ。潔い程、共感出来る隙が無い。上手く描かれているせいで忌避したくなる。

 人間関係が都合の良い偶然で成り立っており、何か大きなトリックを期待したが肩透かしで残念。作中で刑事の思考を借りて読者に向かって言い訳してるけどね……。


No.1623 8点 すべてはエマのために
月原渉
(2024/01/11 12:51登録)
 転落(二回もある)なんてほんの一瞬だから、意図的に目撃させるにはかなり微妙にタイミングを計らねばならない。従って目撃者二人のうち片方が共犯者で、もう片方を誘導する形だった筈。するとアクロイド方式か、またはシリーズ・キャラクターが犯人、どっちにせよ大胆だ。
 なんて思ったのだが、この指摘は野暮?
 
 それを抜きにすれば、登場人物達の心情が腑に落ちると言う点で、シリーズ中屈指の説得力。


No.1622 6点 ポンド氏の逆説
G・K・チェスタトン
(2024/01/11 12:50登録)
 逆説とは何か。真理に反する説である。従って逆説の前に真理がなければならない。しかしGKCはまずタイトルでこれは逆説であると宣言してしまった。何と言う厚かましさ。そのため読者は真理を逆説の逆のものとして設定し直させられることになる。逆説にぶら下がった間接的な真理は心理的な不安定さを誘発するので文章は逆接だらけになるし道聴塗説ばかりで関節は複雑骨折に至ることも少なくない。最も重要な教訓は “物は言いよう” と言うことであって、その舌先三寸はまさしく見習いたいところだけれど、ミステリとしての面白さには必ずしも直結しないのが本作の難点であり、そのつまらなさを読むことこそ面白いと言う事実によって逆説を体現しているのだから作者の大言壮語も相互作用の一要素として有効性を認めざるを得ないのが何か悔しいじゃないか。


No.1621 6点 ハロウィーン・パーティ
アガサ・クリスティー
(2024/01/11 12:50登録)
 Trick or treat! じゃないの? アレは米国の風習? 日本人的な理解だと “こんなのがハロウィーン?” と疑問にも思うが、英国人による英国舞台の話だから嘘八百でもなかろう。

 犯人のキャラクターは気持悪くて魅力的。あと最後に殺され損ねた彼女も。
 但し、ストーリーや舞台の空気感とは合っていない。が、全編耽美世界にしないその齟齬、あんな思いも日常の言葉に回帰して行くあたりがクリスティっぽいとも思う。
 (現在の)第二の殺人は成り行きも描写も雑だ。“殺人は癖になる” って奴か。それとも作者は犯罪の低年齢化に対する警鐘を意図したのか。


No.1620 6点 秋雨物語
貴志祐介
(2024/01/11 12:49登録)
 「フーグ」のラスト。防腐剤入りの水に漬かっているなら、内臓も腐敗しないのでは。そこまで強い効き目は無いか?
 「白鳥の歌」。作中でバッド・エンドに解釈されているのと正反対のことを私は思った。命と引き換えの幻であっても、ひととき手にした奇跡の声。それを使いこなすだけの能力があり、レコードとして遺せた。これは幸せな話じゃないのか?


No.1619 5点 湯殿山麓呪い村
山村正夫
(2024/01/11 12:48登録)
 あちこちで物語がブツブツ切れている。なかなか村へ行かないのでやきもき。
 “謎の遍路” は呪いそのものが怖いのではなく、イマドキそれを信じている危なそうな人間の存在を暗示するので怖い。と言う演出を犯人は結構理知的にやっている? タイトルに象徴されるおどろおどろしさが、例えば横溝のようにはストレートに伝わってこない嫌いがある。ヴィジュアルにすれば怖いか。
 一番怖いのはエピローグ。示唆された部分には説得力を感じた。


No.1618 8点 不夜島
荻堂顕
(2024/01/05 13:42登録)
 設定からすればSFだが、本質は終戦期の与那国島~台湾を舞台にしたハードボイルド・アクション。テンポ良く一歩進んで二歩沈む、みたいな成り行きに引きずり回されてしまった。物語を貫くのは、作品世界に深く潜って飲み込んだ泥を吐き出したような猥雑な生命力。敵味方が判り易いのは助かる。
 賭場船の場面。通信を阻害するテクノロジーはあるのに、賭場で使わずに主人公達のイカサマを許しているのは腑に落ちない。


No.1617 7点 1ダースまであとひとつ
山田正紀
(2024/01/05 13:38登録)
 初出誌がどこにも記載されていないが、全部書き下ろしなのだろうか(未確認)? ジャンルを分散させることで全ての作品が全ての作品の箸休めを為しつつテイストの変化を常に味わえる巧みな円環を描く短編集、を意図したのかもしれない。
 気軽に楽しめる短編が揃っていて概ね満足。「システムダウン」だけは今一つ。凝っているけどそれに見合った効果が得られていない。


No.1616 6点 幽玄F
佐藤究
(2024/01/05 13:34登録)
 航空機の名称が具体的なイメージにつながらないので、マニアックな趣味の話を意味不明なまま雰囲気だけ聴いているような気分。舞台がタイに移って以降、人も動き始めて気持が乗って来た。でもちょっと美化し過ぎ、詩的に書き過ぎじゃない? 森博嗣のあのシリーズにも通じるところがあるけど、題材が題材だからこういう風になっちゃうのかなぁ。薀蓄小説として色々盛り沢山なあたりは実にミステリ的だ(皮肉ではない)。


No.1615 6点 聖乳歯の迷宮
本岡類
(2024/01/05 13:32登録)
 キリストの乳歯~神の実在~宗教ブーム、と世界の変容を大胆に描く部分は面白い。比較するとスケールダウンするものの、青ヶ島の鬼関係も興味深い。 
 ただ、この二つがつながるの? と言う部分で、てっきり伝奇ミステリにありがちな歴史ネタと現代の事件を強引に連結するあの手の奴かな~と見切ってしまった。どちらか片方だけで良かったんじゃない、なんて思ったりもして。
 ところが、意外にもラストで両者がかなり鮮やかに結び付く。これにはびっくりで、御見逸れしましたと言うしかない。
 犯人の動機も良い。一方で、主人公(と言うより狂言回し?)のキャラクターは今一つ。なんだけど、ここに凡人を配するのはバランス的に重要かもしれない。

 “神が作った密室” のフェアネスは微妙な気もする。専門家が “不自然だと感ずることは何もなかった” と証言したら、読者はそれを信じるしかないじゃないか。
 しかし、何らかの犯意を想定するなら、あの石灰岩の壁を壊すしかない。具体的な手法は不明でも疑うことは出来たか(特殊な知識だからアンフェアだ、との論法には私は与しないので)。専門家であっても名前を付与された主要人物だから、間違えることもアリか? うーむ。


No.1614 6点 ヘパイストスの侍女
白木健嗣
(2024/01/05 13:28登録)
 嫌な奴の配置とか新しいテクノロジーとか、いかにも島田荘司が好みそうな……いやいや、もっと無心に読もう。
 犯行動機に関わるあのトリックは、全く想定外だったので効いたな~。
 一方で、選評で指摘されていた犯行方法の不備は大いに気になる。登場人物も言及しているしね。
 各々がそれぞれの正義を押し付けたがっている様相は、一歩引いて見ると結構滑稽。でもそれを描く文章力がもっと欲しい。

 “マリス” なるネーミング、スペルは違うが片仮名だと malice (=悪意)と重なって違和感アリ。ところが “悪意” には “或る事実を知っていること” と言う語義もあるので意味深長に思えなくもない。わざと?


No.1613 7点 雨の恐竜
山田正紀
(2023/12/29 15:24登録)
 ヤングアダルトのレーベルを意識したのか、いつもより柔らかみのある文体、しかし時々いかにも山田正紀なやりとりが挿まって苦笑を誘われる。
 作者はその枠組みを上手く使って、中学生と警察官と恐竜をシームレスにつないでみせた。読者はいつの間にか十四歳になっており、夕日の中の恐竜はあまりにも美しい。

 ところで、登場人物紹介に “斉藤ヒトミ:本書の語り手” とあるが、彼女は視点人物であって語り手ではないよね。
 一貫して彼女の見たこと思ったことだけが書かれてはいる。一ヶ所だけサヤカの視点になる部分があるけど、それはその場にいたヒトミにサヤカが語った事柄だとの解釈も可能。
 すると実は “ヒトミ” と言う表記は一人称? 叙述トリック(笑)?


No.1612 7点 薔薇忌
皆川博子
(2023/12/29 15:24登録)
 舞台芸能短編集だけど、泡坂妻夫の職人ものみたい。あっちで耐性が付いていたからスンナリ読めたってとこがあるかも。具体的なイメージは出来ずともなんとなく情景が伝わるいにしえの語彙。カードの家を作るように丁寧に積み上げられる台詞と男女の機微。
 結構強烈な筈の各編結末のサプライズが意外にサラッと流れたのは、日常と幻想を抱き合わせる筆致のなす業か。因みに作者の性別に起因すると思われるような違いは私は感じなかった。


No.1611 7点 でぃすぺる
今村昌弘
(2023/12/29 15:22登録)
 これはジャンル不明で読むのが得策だと思う。推理合戦の形態からも、どちらへ転ぶのか最後まで明かさず引っ張ろうと言う意図を感じる。
 語り手の内省がしっかり描かれていて良い。ただそのせいで、小学生の限界が物語の壁になってしまったかも。
 あと、マリ姉の回りくどい伝え方のおかげで無用な誤解が生じて被害が拡大した側面もあるよね。本作に限らず “策を講じ過ぎ” な話には若干乗り切れない部分が残ってしまう。


No.1610 5点 幽霊もしらない
山田彩人
(2023/12/29 15:22登録)
 作中のユーモアは、ここがユーモアですよ、と指差すような書き方のせいか今一つ効きが悪い。
 音楽に関するアレコレは、かなり大雑把に書いてると思う。しかしそれは単なる飾りみたいなもので目くじらを立てる程のことではない。
 ミステリ的には地味。事件の表層にせよ真相にせよ、膜を隔てた他人事の空気で、そこをグッと引き寄せてくれる力が何か欲しかった。


No.1609 5点 目薬αで殺菌します
森博嗣
(2023/12/29 15:21登録)
 架空のアレ、と言うのは微妙だけど、存在感自体は際立っていてナイス。他のエピソードも個々に見ると面白い。でもまとめ方が投げ遣り(いつものことか……)。
 【バカ】を含む名前を付ける親はいないだろう、と思いながら読んでいたが、案の定。伏線?

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