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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1938件

プロフィール| 書評

No.1718 5点 私、死体と結婚します
桜井美奈
(2024/05/31 15:11登録)
 熱心に何か調べる一方で、死体に話しかけながら食事をする主人公。怖い……違和感が急激に募る展開、スピーディに纏めたのは正解。深みはあまり無いが、良い意味で読み易いし、自分の強みを上手く生かせていると思う。
 英語翻訳が物凄い特殊技能みたいに扱われているのに苦笑。まぁストーリーの都合上、あれらを読めちゃったら困るか。


No.1717 6点 名探偵に乾杯
西村京太郎
(2024/05/24 14:09登録)
 アガサ・クリスティ『カーテン』のネタバレ有り。
 まず、密室その他、別荘に於ける(真の)トリックについて。普通のミステリなら噴飯物だが、このパスティーシュ・シリーズと言う舞台に限ってはその意味が逆転する。犯人の動機と相俟って、見事な批評である。拍手。
 但し、“読者への挑戦” を付けるべきではなかった。これはフェアプレイの地平を飛び越えたところに位置する真相であって、見抜くのは無理でしょ。他の作品のトリック当てで読者がこの回答を提出したら “真面目にやれ” と言われるでしょ。

 『カーテン』新解釈について。併読した立場で言うと、原典の文言を尊重しつつ、それなりに辻褄の合った結論を示しているとは思う。特に動機は上手いところから掘り出している。そういう “裏読み” は楽しいよね。
 但し問題は、ヘイスティングズが手記中で “都合の悪いことを省く” のみならず “嘘を記述する” ことも許容してしまった点。
 『名探偵に乾杯』の説に従うなら、犯人Xの暗示にかかり人を殺しかけたこと、及び無自覚なまま別の人物の死に関与したこと、と言う自身の恥を晒すようなエピソードがまるまる嘘なのだが、そんな捏造をする理由は説明されていない。ヘイスティングズは今になって小説家として開眼したのか?

 そして、謎と真相との構造上の関係性がシリーズ前作に類似しているのが引っ掛かる。どちらか一作だけならもっと高評価出来た。本作は『カーテン』を受けて生まれたものであって、もしかしたら “書かれる筈では無かった最終作” なのかもしれないけれど……。


No.1716 8点 カーテン ポアロ最後の事件
アガサ・クリスティー
(2024/05/24 14:09登録)
 【ヘイスティングズ大尉の告白】
 
 ある人物の死に関して私が果たした役割を、ポアロはただの偶然だと説明している。ところが実のところ、その人が皆にアレを振舞ったあの時、何故か私には判ったのだ。
 この人は何かをやった、と。
 説明できる根拠は無い。言葉でも動作でもない何か、その場にいたからこそ伝わる雰囲気、第六感。そんなものだ。殺人者Xを意識するあまり、違和に対して敏感になっていたのかもしれない。
 もとより100%の確信などは持ちようがない。それでもその場で騒ぎ立てるべきだったか。しかしそれがポアロの対X戦略にどう影響するか読めなかった。かといって座視するにはあまりに強い胸騒ぎであった。
 なにより熟考する猶予など無かった。アレが飲まれるほんの数瞬後までに対応を決めねばならない。
 と偶然にも、私以外の全員がバルコニーに出て、部屋には私一人が残されたのだ。その僥倖が背中を押した。私は素早くアレをまわした。二つのアレが入れ替わった。ただの思い過ごしなら、何も問題は生じない。仮に懸念が当たっていたとしても、それは自業自得ではないか!
 その後の成り行きは手記の通りだ。私はこれっぽっちも疑われず、ポアロでさえ私が意図せずにあの状況を作り上げたものと推理した。なにしろ全ては私の心の中のことであり立証しようがないのだから。
 断っておくが私は手記に何も嘘は書いていない。語り手が自分に不利な事柄を省くのは前例があり、非難には当たらないはずだ。
 してみれば、これは私がポアロに勝った、ということになるのだろうか?

 しかし今にして思えば、ちょっとした状況証拠がなくもない。
 もしも入れ替わりに気付かなかったというならば、私は目の前を回転木馬よろしく流れるアレを全く見落としたことになる。自分の目の代わりとして呼んでおきながら、なんとも信頼してくれたものだ。

 いや……それともポアロは、判った上であの推理を記したのだろうか? 誰も気付いてはいない、安心したまえ――と、敢えて勝ち逃げをしないことで最期のプレゼントに換えたのだろうか……?


 (※16-Ⅳ、18、19、後記、などを鑑みるに、『カーテン』は大尉の手記だとするのが妥当だと思います。)


No.1715 7点 イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ
山田正紀
(2024/05/24 14:08登録)
 作中で語られる五人の物語には読み応えがあるけれど、それを支える外枠の部分は上位の物語と言うより構造の説明でやや動きに欠ける。とは言え学術用語を駆使した時空バトルは散文的で逆説的に詩的(かもしれない)。前年の『オフェーリアの物語』に続いてアルチュール・ランボーをサンプリング。嵌まってたのかな~?


No.1714 6点 オフェーリアの物語
山田正紀
(2024/05/24 14:06登録)
 呪師霊太郎シリーズの種子を、言の葉の影響力強めの特殊な土壌に蒔いて着床させたもの? 諸々の概念が宙に浮かんだような、それとも、上下感覚を曖昧にしたまま、謎が謎であると言う一点をよすがに頁は進む。人形に似た人間の物語。ところで表紙の人形は切り絵なんだってさ。


No.1713 7点 黄土館の殺人
阿津川辰海
(2024/05/24 14:06登録)
 実のところ何となく判ってしまう。内と外に舞台が分かれる→じゃあ全体の構造としてはこう? 被害者が多過ぎて生き残りがこれしかいない→じゃあ犯人はこのポジション?
 だから、楽しんだけど、それは騙されたとか驚いたとかではなく、良く出来ているなぁと言う “感心” に近い。
 作者と対峙するのではなく、そうやって “共有” する読書も悪くはないが、上手さが仇になっているとも言える。

 そしてツッコミ。三人姉妹の二番目、月代。その漢字は “さかやき” だ。


No.1712 7点 悦楽園
皆川博子
(2024/05/16 13:17登録)
 皆川博子が雑誌に発表した初期短編は、作者本人に “書き捨て” みたいな気持もあったようで、短編集への収録状況がちょっと面倒なことになっている。どうすれば効率的にコンプリート出来るのか。まぁ編集時に秀作からピック・アップするのは自然だし、二度出会ったら二度読めば良い。
 本書は1974~85年の短編集4冊からの6編と、単行本初収録4編を併せた、94年刊行の初期傑作選。後者4編は『鎖と罠』(2017年)にも再録されており、“本書でしか読めない話” は無い。

 導入部での入りづらさは若干あるものの、その一山を越えれば、悪意が普通のことのようにシレッと書かれる独特の手際、特に「獣舎のスキャット」の一人称は効く。初短編集『トマト・ゲーム』に収録されていたものの、作者曰く “あまりに不健康かなァと、自粛” して文庫化の際に差し替えたそうな(ハヤカワ文庫版では復帰)。いやいや他の作品だって大して変わりませんよ。


No.1711 7点 あるいは酒でいっぱいの海
筒井康隆
(2024/05/16 13:16登録)
 筒井康隆の初期ショート・ショート集だけど、犯人当てSFミステリ「ケンタウルスの殺人」が収録されているので。
 フーだけならまぁ解けるかな。SF作家の肩書を利用して無理筋を通しており、はなから作品の外側で勝負しているんだね。と同時に、“ミステリのフェア・プレイとは何か?” と定義を問うているのかもしれない。

 最短2ページからの玉石混交ながら、作者のその後のアレコレを踏まえると、何となくもっともらしく思えて来るものである。表題作と「善猫メダル」が玉。最初期の「NULL」(本人主宰の同人誌)掲載作からして既に嫌な感じにリリカル。


No.1710 7点 ルームメイトと謎解きを
楠谷佑
(2024/05/16 13:15登録)
 珍しく犯人が判っちゃった。
 ロジックによるものではない。伏線を拾って行くと犯人像の輪郭が見えて来て、それに当て嵌まる人物がちょうど一人いたのだ。
 最後の “物証” は、犯人が事前にリスクに気付くことも可能だった筈、と言う意味で少々わざとらしいかな。

 もう一つ、別の予測もしていたので書いちゃおう。
 前年の自殺については、湖城のバックの圧力で背景解明が有耶無耶になった。しかしそういうトラブルがあっても、湖城は自重するどころかますます横暴になり目に余る。長い目で見るとリスクが大き過ぎると判断したバックは、湖城を切り捨てることにした。その結果がこの事件である……。


No.1709 6点 十三番目の人格―ISOLA
貴志祐介
(2024/05/16 13:15登録)
 超自然現象を妙にロジカルに処理しているところに可笑しみがある。私は漢字マニアなので、命名に関する部分はとても納得&共感するなぁ。


No.1708 5点 今宵、喫茶店メリエスで上映会を
山田彩人
(2024/05/16 13:14登録)
 色々都合良く進み過ぎな一方、性善説な世界観をそれなりの説得力で描けているとは思う。ただ、提示される謎があまり魅力的ではない(最終話の足跡の件は面白い)。映画と無理に結び付けるのをやめて、説教臭いコメントも控えて、謎の強度をもっと研ぎ澄ませれば良かった。それはもう別の作品か。


No.1707 7点 案山子の村の殺人
楠谷佑
(2024/05/09 11:49登録)
 紛れもない正統派で挑戦状を掲げる資格は充分。変にこじらせていないところが眩しい。
 しかし一つツッコミ。あのトリックは、左右同時に動かさないと上手く働かないと思う。確実を期すなら両者をリンクさせる仕組みが必要では(仕組みが無いとは記述されていないけどね)。


No.1706 6点 フランクフルトへの乗客
アガサ・クリスティー
(2024/05/09 11:49登録)
 AC作品にはミステリ的なポカが結構あって、それが気になり素直に読めないことも少なくない。でも本作は冒頭の時点で “あ、これはそういうこだわりは不要な奴だな” と判ったので、本格ミステリ作より気楽に楽しめた。
 作者は “社会風刺+戯画的で大仰なスペクタクル” でチェスタトンみたいなことをやりたかったんだと思う。しかし読み易く書くことに長けていたので、却ってああいうもっともらしさが出せなかった。人物造形が巧みなので、直線的なプロットや背景から浮き上がってしまった。
 自分に対する無いものねだりが過ぎる。その結果、意図しないところで “風刺すること” に対する風刺になって自爆してしまった。


No.1705 5点 毒入り火刑法廷
榊林銘
(2024/05/09 11:48登録)
 凝り過ぎて訳が判らなくなってる。どんでん返しはしっかりした基盤があってこそ成立するのだなぁと思った。魔法の不安定なルールの上で幾度も繰り返すのは厳しい。


No.1704 5点 教え子殺し 倉西美波最後の事件
谷原秋桜子・愛川晶
(2024/05/09 11:47登録)
 手記がこういう風に使われてたら、トリックの方向性も見当が付いてしまう。また、物語後半での美波の動きがどうも不自然で、話を収束させる為の作者の駒になってしまった。
 送り主不明のメールを素材にあれこれ推理するのも妙な感じ。手紙とかノートとかフィジカルなものでないと、自在に加工可能だから根本的な信頼性が著しく低い――との考え方はもう古い?

 ところでこれは一体どういう形で共作したのだろうか。両者の個性がシームレスに融合して、ぎこちなさ皆無。まるで同期したような、憑依したような、驚異の一心同体っぷりである。


No.1703 4点 麦酒の家の冒険
西澤保彦
(2024/05/09 11:45登録)
 こういう作品は強引でも構わないとは思うがやはり強引。

 ネタバレするけれど、計画を要約すると――奴が怪しまれる状況証拠をでっちあげる。一方で奴は実体験を証言するだろう。そこで、おかしな実体験をさせて後者が信用されない状況を作れば、奴に罪を被せられる。
 この場合、実体験の内容は変であればまぁ何でも良いのである。作者は楽である。これがまず面白くない。
 第二に。作者は “麦酒の家” と言う設定ありきで逆算して真相を考えたのだろうか。しかし犯人にはまず目的があり、それに相応しい計画を立てた筈。その場合、この内容が適切だとは思えないのだ。
 確実性の低さには目を瞑ろう。奴の記憶を曖昧にする小道具もある。人手が必要なのはマイナス点。何より “家具の無い別荘” はあまりに作為的だ。奴は “詳細は知らんけどハメられた” と確信するだろう。“不自然過ぎて却って嘘とは思えない供述” である。寧ろ “普通にありそうな話” をでっちあげる方が、“もしや自分がやったのだろうか?” と言う気分になってくれないとも限らないし、警察も “その証言は嘘” と判断し易いのではないか。

 と難癖を付けたがるのはミステリ読者の悪い癖だ。でもこれはまさにそういう面倒な読者をこそ対象とする作品だよねぇ。


No.1702 7点 猟奇文学館3 人肉嗜食
アンソロジー(国内編集者)
(2024/05/02 14:30登録)
 このアンソロジーには陥穽があった。
 普通に読めばサプライズになる筈の “人肉嗜食” と言う要素が、本書では前提事項になってしまうのだ。インフレ状態しかも半分ネタバレしているようなもの。故に以下タイトルは伏せる。とは言え、こうやって纏められなければ手に取る機会の無かった作品もあるので痛し痒しである。

 江戸川乱歩の猟奇短編みたいで、食った後に一捻り加えた村山槐多はシンプルながらインパクト大。高橋克彦は怖いけど “いい話” で感動。山田正紀の名品が加筆訂正版で収録されていることも重要だ。“実話” と言う箔付けを除くと牧逸馬は今一つ。
 美味しそうに描いている双璧は中島敦と生島治郎。
 ところで、人も牛のように熟成させた方が美味いのではないかと思う。その点で、墓を暴いて得た肉に舌鼓を打つ描写には納得。
 厳密を期すなら人間でないものも混ざっている、と揚げ足を取ったりして……。


No.1701 4点 人喰い
笹沢左保
(2024/05/02 14:30登録)
 冒頭の遺書には吸引力がある。直後の佐紀子周辺の成り行きにも引き込まれた。
 しかしそれ以降の事件の展開には首を傾げる部分が色々と見受けられた。最終的な目的がアレで、その為にああいった内容の犯行、と言うのは非常にこじつけがましい。
 犯行の為の犯行、トリックの為のトリック。いっそ “サイコパスの愉快犯” にした方が説得力がある。作者は視野狭窄に陥って、全体像を俯瞰出来ていなかったのではないか。

 犯行動機。ソレの為にそこまでやるか? 共感は出来ないが、故に “意外な動機” としてそれはそれでアリかな~。


No.1700 7点 湘南人肉医
大石圭
(2024/05/02 14:30登録)
 人肉嗜食に関する深い思索が窺われ共感を誘う。残虐描写でなく淡々と描かれる食肉処理が怖くてナイス。
 細かなスパイスも多々ちりばめられていて、“権利” を与えた老人の話は絶妙な不条理さが効いた。顔の皮とか耳とか美味しそうだけど食べないんだ? どう終らせるのか心配だったが、テクニカルな幕引きで良い匙加減。
 “肥満体” との設定には何か狙いがあるのか。目撃者の印象に残るリスクとか機動性の低さとか、作者が主人公に架した(必要性の無い)枷、と言う感じがするけれど……立場が逆転した時に多くの胃を満たせる、と言うバランス感覚?


No.1699 7点 死体の汁を啜れ
白井智之
(2024/05/02 14:29登録)
 ブツ切りの具がゴロゴロ入った死体汁である。書き下ろしなのに出し惜しみせずこんなにネタをぶち込んで大丈夫? しかもこの人の場合、謎が登場人物の各々勝手な行動と不可分なケースが多く、否応無しにストーリーが生じる。アイデアの羅列では終われないのだ。必然的に奇天烈なキャラクターもガンガン生まれる。大丈夫? 探偵側が多発する事件にズブズブ飲み込まれて “自身の事件” に変貌する流れが面白いと言うか “うげっ” と言う感じ。

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