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ミステリの祭典

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冬期限定ボンボンショコラ事件
小市民シリーズ

作家 米澤穂信
出版日2024年04月
平均点6.88点
書評数8人

No.8 5点 ボナンザ
(2024/11/10 21:25登録)
秋で一応一区切りついていたこのシリーズのエピローグ的な位置づけになるであろう最終作。無理矢理な感もあるが、終盤で一気にたたんでいくところとか、いつになく優しい小山内とか見どころは多い。

No.7 7点 まさむね
(2024/10/29 21:34登録)
 小山内さんとの下校途中に轢き逃げされた小鳩君。意識を取り戻したのは病院のベッドの上…。導入部から衝撃的な展開であります。
 入院中の小鳩君と、犯人を特定せんと動く小山内さん。でもこの二人はなかなか会えない。携帯電話も壊れて直接の会話もできない中、小山内さんが病室に置いていくプレゼントとメッセージカード。小鳩君は3年前の同様の轢き逃げ事件に思いを馳せ…。
 過去と現在の事件が交互に語られ、グイグイ読まされます。過去の事件の背景の一部は予測しやすいような気もしますが、あくまでも一部であって、全体を見通すことはできませんでした。過去の「密室」の謎解明も含め、終盤の怒涛の展開は魅力的。
 小鳩君と小山内さんの中学時代の出会いも描かれていて、二人の高校時代を巡る春夏秋冬の完結版として、非常に綺麗に締めてくれました。大学時代の二人も見てみたいのですが…米澤さん是非お願いします。

No.6 7点 パメル
(2024/10/24 19:19登録)
間もなく受験も迫ろうかという高校三年生の十二月。そんなある日、小鳩常悟朗は正面から来た車に撥ねられ轢き逃げに遭う。病院のベッドで昏睡から目覚めた彼が知ったのは、入院とリハビリを余儀なくされ、大学受験が絶望になったこと。そして事件に居合わせた小山内ゆきが、轢き逃げ犯を探り始めているようだが、なぜか小鳩君が眠っている時ばかりに訪れ、短いメモを残すだけだった。やがて小鳩君は中学時代に体験した過去の事件の記憶を振り返り始める。それは小鳩君と小山内さんが出逢うきっかけとなった謎、二人が「小市民」を志す原因となった出来事。互恵関係という、恋愛関係でも友情関係でもない関係性がどう始まったかが分かるシリーズものとしての面白さもある。
小鳩君の入院生活を描く現在と、彼が回想する苦々しい過去。物語は二つの異なる時間軸が交互に綴られていく構成となっていて、かつてのトラウマを連想させるような事件が現在の二人の前に再び立ちはだかってくる展開が熱い。
一見どこか隙がありそうだが、足を使った地道な捜査で強固な不可能性が確かめられていく過程は魅力的。また、小鳩君と小山内さんのユーモラスで愛らしいやり取りなど青春小説的な爽やかさも味わえて楽しい。
そして過去の事件が辿った顛末に打ちのめされ、登場人物たちと同じ無力感に苛まれる暇もなく明かされて現在の事件に関する驚きの真相。全く予想もしない角度から仕掛けられていた騙りの手筋に思わず唸った。まさに「語り」と「騙り」の技巧が結集することで織り上げられた作品と言える。

No.5 6点 虫暮部
(2024/09/13 12:01登録)
 ミステリ的には強引。同じ人が三年置いて同じような事故に偶然巻き込まれるのは如何なものか。新旧二つの件を平行して考証しているので紛らわしい。
 “旧” の方は腑に落ちた。問題は “新”。衝動的犯行、そして偶然その後も関わりが続く。そのへんまではまぁ良いが、正体を隠そうとした犯人の理屈は考え過ぎ。出口戦略が無いままの一時凌ぎで、余計な事後工作である。寧ろそのせいでバレてるよね。
 小鳩君達の心情の変遷を追う教養小説的要素は、いい感じと嫌な感じの背中合わせが一人称で巧みに描かれ期待通りなのだが、前述のように不安定な土台に載せてしまったのは戴けない。
 病院小説としてはなかなかの優れものじゃないだろうか。

No.4 7点 ことは
(2024/08/16 15:53登録)
うまい。1章50ページで、章の区切りごとに一息つける構成がよい。過去と現在の行き交い方も自由自在。春、夏と比べたら、断然うまくなっている。事件も相変わらずビターだし、中学時代の小佐内さんも可愛いし、期待通り。
解決に無理がある(それを期待して行動するなんて、無理があり過ぎて納得行かない)けど、それはシリーズのいつものことだしね。
でもこれでシリーズ完結かぁ。Wikipediaをみると、「""都市""""スイーツ""の謎」の短編3作が、まだ単行本未収録なので、もう1冊短編集はでそうだが、その後は無いのだろうな。
アニメもはじまりましたが(2024/7-)、映像は美麗だが、アニメとしてはプロットが薄味すぎかな?

No.3 8点 HORNET
(2024/05/19 19:28登録)
 大学受験を控えた時期に、轢き逃げに遭い病院に搬送された小鳩君。手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、小市民として「互恵関係」を結ぶ小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。いっぽう小鳩君の頭には、小山内さんと出会ったきっかけとなった、中学時代の苦い思い出がよみがえり…

 中学時時代、まだ虚栄心に満ちていたころの小鳩君が小山内さんと出会ったのは、今回と同じ道路で、似た状況で起こった同級生の轢き逃げ事件だった。当時名探偵よろしく立ち振る舞った小鳩君は、結果的にその同級生を傷つけた。その顛末が現代と並行して描かれ、それぞれに解き明かされていく構成の長編。
 シリーズ読者には、2人のなれそめが描かれている過去の物語も一興。しかも現代の小鳩君の轢き逃げと、その中学時代の過去との両者がそれぞれに謎解き物語となっており、微妙にリンクしながらもそれぞれの結末へと収斂していく。さすがの手腕である。
 どちらかというと中学時代の過去の物語の方が、謎解きとしては印象的だったかな。とはいえそれぞれに施された仕掛けと謎解きの過程も上質で、ミステリとして十分に一級品である。
 前作「巴里マカロン」が、秋から冬にかけての短編集だったから、てっきりこの「季節限定シリーズ」の冬版かと勘違いしていたら、ちゃんと「冬期限定…」長編として出てくれて嬉しい限り。
 これでホントに一区切りなのかな?

No.2 7点 メルカトル
(2024/05/13 22:19登録)
小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。冬の巻ついに刊行。
Amazon内容紹介より。

『いちごタルト事件』だけしか読んでいないのに、間を飛ばして良いものかどうか判断が付きかねましたが、解説を読む限り大丈夫の様なので一応安堵しました。小市民を目指すとはどういう事なのかを理解できないとダメって訳なのでしょうか。
取り敢えず読み始めると冒頭からかなりショッキングな出だしで、ほう、成程流石に読者を惹き付ける手腕は相変わらずだなと感心しました。そしてどうでも良い事として、いきなり○○新聞という実在の新聞社の名が載っていて、それは作者の出身地方ではないかと。そして書かれている市の人口は作者の出身地の県庁所在地と一致するので、舞台は××市に違いないと小市民的な考えをぼんやりと思い浮かべていました。これは終盤に更に念押しされます。

さて、内容は本格ミステリと私としては捉えたいと思います。少なくとも日常の謎ではありませんね。過去の轢き逃げ事件と小鳩くんが被害者となった轢き逃げ事件との関係はあるのかないのか、あるとすればどんな因果関係があるのかを問うのが主題であると考えて間違いないでしょう。過去と現在を行き来しながら小鳩くんと小佐内さんの似た者同士の付かず離れずの微妙な距離感を描き、その中で二つの事件の関係者に的を絞って最後にアッと驚かせるストーリーには過不足なく、俊英の手練を感じさせます。作品として小粒な感は否めませんが、良作以上で問題ないと思います。

No.1 8点 文生
(2024/05/01 06:38登録)
小鳩君と小佐内さんの物語は今後新作が発表される可能性もなきにしもあらずですが、春夏秋冬の4部作としては本作が完結編という位置付けになります。
物語は冒頭で車に跳ね飛ばされた小鳩が病院のベッドで中学時代のひき逃げ事件について回想をするというもの。
この中学時代の事件はミステリーとして大きな仕掛けがあるわけでもなく、小鳩の探偵ぶりも未熟な部分が見え隠れしています。単体のミステリー小説と考えるならばパッとしたできではないのですが、それによって小鳩の思い上がりを浮き彫りにし、小市民というシリーズのテーマにつなげていく手管が見事です。同時に、現代進行形の小鳩ひき逃げ事件と対比しつつ、小佐内さんとの関係性の変化についても巧みに描き出しています。ラストの着地点も素晴らしく、本格ミステリというよりは青春ミステリーとして高く評価すべき傑作です。

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