home

ミステリの祭典

login
冬期限定ボンボンショコラ事件
小市民シリーズ

作家 米澤穂信
出版日2024年04月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 メルカトル
(2024/05/13 22:19登録)
小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。冬の巻ついに刊行。
Amazon内容紹介より。

『いちごタルト事件』だけしか読んでいないのに、間を飛ばして良いものかどうか判断が付きかねましたが、解説を読む限り大丈夫の様なので一応安堵しました。小市民を目指すとはどういう事なのかを理解できないとダメって訳なのでしょうか。
取り敢えず読み始めると冒頭からかなりショッキングな出だしで、ほう、成程流石に読者を惹き付ける手腕は相変わらずだなと感心しました。そしてどうでも良い事として、いきなり○○新聞という実在の新聞社の名が載っていて、それは作者の出身地方ではないかと。そして書かれている市の人口は作者の出身地の県庁所在地と一致するので、舞台は××市に違いないと小市民的な考えをぼんやりと思い浮かべていました。これは終盤に更に念押しされます。

さて、内容は本格ミステリと私としては捉えたいと思います。少なくとも日常の謎ではありませんね。過去の轢き逃げ事件と小鳩くんが被害者となった轢き逃げ事件との関係はあるのかないのか、あるとすればどんな因果関係があるのかを問うのが主題であると考えて間違いないでしょう。過去と現在を行き来しながら小鳩くんと小佐内さんの似た者同士の付かず離れずの微妙な距離感を描き、その中で二つの事件の関係者に的を絞って最後にアッと驚かせるストーリーには過不足なく、俊英の手練を感じさせます。作品として小粒な感は否めませんが、良作以上で問題ないと思います。

No.1 8点 文生
(2024/05/01 06:38登録)
小鳩君と小佐内さんの物語は今後新作が発表される可能性もなきにしもあらずですが、春夏秋冬の4部作としては本作が完結編という位置付けになります。
物語は冒頭で車に跳ね飛ばされた小鳩が病院のベッドで中学時代のひき逃げ事件について回想をするというもの。
この中学時代の事件はミステリーとして大きな仕掛けがあるわけでもなく、小鳩の探偵ぶりも未熟な部分が見え隠れしています。単体のミステリー小説と考えるならばパッとしたできではないのですが、それによって小鳩の思い上がりを浮き彫りにし、小市民というシリーズのテーマにつなげていく手管が見事です。同時に、現代進行形の小鳩ひき逃げ事件と対比しつつ、小佐内さんとの関係性の変化についても巧みに描き出しています。ラストの着地点も素晴らしく、本格ミステリというよりは青春ミステリーとして高く評価すべき傑作です。

2レコード表示中です 書評