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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.1392 6点 群青のタンデム
長岡弘樹
(2017/10/29 21:38登録)
~警察学校での成績が同点一位だった戸柏耕史と陶山史香。彼らは交番勤務に配されてからも手柄争いを続けていた・・・。驚愕のラストを知ったとき、物語の表と裏がひとつになる・・・。
ということで、作者得意の警察小説+連作短篇集という体裁の本作。2014年の発表。

①「声色」=連作の冒頭部となる第一編。紹介文のとおり、耕史と史香は手柄の象徴である「点数」争いを続けていた。そんな中、っ交番に現れる闖入者と意外な真犯人・・・って、いきなりこんな“手”でくるとはねぇー。
②「符丁」=連続ストーカー事件の犯人を追って、デパートの張り込みを連日続ける史香。史香に不審感を抱くデパート警備員に気を取られるうちに、手柄は耕史の手に・・・。
③「伏線」=①でも登場した“闖入者”・・・元警察官で耕史の祖父。痴呆症の祖父の世話に手を焼く耕史と施設の嫌われ者の管理者。そして真相は突然に判明するが、一体なにが「伏線」だったのか?
④「同房」=物語はいきなり時代を重ねて、耕史は四十代の警察学校教師となっていた!(突然?)。その警察学校内で起こる銃弾消失事件が本編のテーマ。もうひとりの主要登場人物“薫”の行動もどこか変。
⑤「投薬」=出世を重ねた史香は、市長の肝いりで市の特命役に就くことに。そして部下の男は何と・・・。そして発生する大きな事件!
⑥「予兆」=物語はさらに時を重ねて・・・。で、ここですげぇ急展開! 一体なんの「予兆」なのか? 
⑦「残心」=いよいよ最終章。耕史と史香は何と六十代。舞台は警察ではなく、なんと託児所って、なぜ? そしてエピローグ・・・サプライズが待っている!

以上7編で構成。
企みに満ちた連作集。触れてきたように、耕史と史香というふたりの主役は、ストーリー展開とともに年を重ねていくところが斬新。(この手の作品ではあまりお目にかかったことがないように思う)
それもこれも、ラストのサプライズのための伏線だったのか・・・

あまり書くとハードルを上げちゃうし、ネタバレにつながるのでこれ以上は触れない。
でもなぁー・・・何か不自然っていうか、理解不能な箇所が多いんだよねぇ。
ノドに引っ掛かるような感覚。これが作者の狙いなら嵌ってることになるのだが・・・


No.1391 6点 母性
湊かなえ
(2017/10/29 21:37登録)
2012年発表のノンシリーズ長編作品。
地上波ドラマ化など、相変わらず作者の作品はもてはやされていますが・・・

~女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。・・・遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故かそれとも・・・。圧倒的に新しい「母と娘」をめぐる物語~

これは・・・“ザ・湊かなえ”とでも呼びたくなる作品。
これまで何度も接してきた気がするのは錯覚だろうか?
それでも最後まで飽きることなく読まされてしまう。これはやはり、作者の「腕」若しくは「計算」ということだろう。

本作は、ある「母」と「娘」そして「母の母(娘にとっては祖母)」の物語。(そして、時々「父」って感じだ)
血の繋がった母娘なのに、すれ違う想い、どこかねじ曲がった家族関係。
それは全てある台風の日の出来事が原因だった・・・
プロットの主軸は「手記」と「回想」というのが、何ともあやふやで読者を不安にさせる。
悲劇に向かって徐々に不穏な空気が生まれ、まとわりついてくる感覚。
ひとりひとりの登場人物が、それぞれどこかに「嫌な」部分を持っていて、それが読者の心に引っ掛かり、何とも言えないざらざらした感覚を与えていく・・・

まぁ旨いですわ。売れるはずです!
ミステリーとしては当然薄味ですけど、これは敢えての薄味っていうか、人間の心をこうでもかっていうくらい抉られると、嫌だ嫌だと思いながらもついつい頁をめくってしまう。
まさに作者の術中にハマってしまう。そんな作品。

他の方も触れているとおり、確かに最終章はいらないというか、ここまでイヤミス風味だったんだから、最後までそれを貫いて欲しかったというのが本音。
激辛なのは分かってるんだけど、敢えて「30倍激辛カレー」を注文したい!みたいな感覚かな・・・


No.1390 7点 狂人の部屋
ポール・アルテ
(2017/10/18 22:41登録)
1990年に発表された作者五番目の作品。
アラン・ツイスト博士シリーズとしては、「カーテンの陰の死」に続く四作目ということになる。
今回も、“フランスのディクスン・カー”に相応しい本格ミステリーなのかどうか?

~ハットン荘のその部屋には忌まわしい過去があった。百年ほど前、部屋に引きこもっていた文学青年が怪死したのだ。死因はまったくの不明。奇怪なことに部屋の絨毯は水でぐっしょりと濡れていた・・・。以来、あかずの間となっていた部屋を現在の当主ハリスが開いた途端に怪事が屋敷に襲いかかった。ハリスが不可解な状況の下で部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の妻が卒倒したのだ。しかも、部屋の絨毯は百年前と同じように濡れていた。果たして部屋で何が起きたのか?~

シリーズ四作目にして、ミステリーとしてのアイデアは最上位に評価できる作品に思えた。
(前作が酷かったということもあるが・・・)
作品全体にオカルト趣味を漂わせながら、その殆どを合理的に解決することには一応成功している。
(「全て」ではなく「殆ど」というところがミソ。過去の怪事件のことは結局置き去りのままだしね)
中盤までのモヤモヤした展開を、力技とはいえ最終段階でスパッと解決させた手腕は評価できるだろう。

最も感心したのは、作中でも一、二の謎として取り上げられている「予言」について。
単に作品世界を盛り上げる小道具としてではなく、トリックの軸としてうまい具合に処理されている。
本家カーの作品でもオカルティックな小道具は頻出するけど、ここまで有機的に使われている例は浮かんでこなかった。
後は、紹介文でも触れられている「ぐっしょり濡れた・・・」謎。
言われてみれば「そんなこと!」なのだが、伏線としてはあからさまなだけに、逆に効果的な演出だろうと思う。

瑕疵はまぁいろいろあるんだけど・・・
動機の是非は許すとして(ある意味禁忌だよね)、墜落死の場面の無理矢理感はかなり酷い。
アリバイに関しては読者には推理不可能なレベルだし、○体をそこまで簡単に○○できんだろう!
などなど、指摘すれば枚挙にいとまはない。
(ツイスト博士もラストで「(あまりの)偶然の連続」を嘆いてますから・・・)

でも、楽しめたかどうかということなら、「結構楽しめた」ということに落ち着く。
本格好きなら手にとって損はないんじゃないかな?


No.1389 7点 満願
米澤穂信
(2017/10/18 22:40登録)
『磨かれた文体』『完璧な技巧』『至高のエンターテイメント』・・・帯には豪華絢爛な惹句が書かれている。
それもその筈、何しろ史上初のミステリー三冠受賞作なのだから・・・(因みに「このミス」「週間文春ミステリーベスト」「ミステリが読みたい」の全てで第一位)
2014年の発表。

①「夜警」=横山秀夫の警察小説を思わせる第一編。主人公を通して語られる問題の男“川藤”。殉職した「川藤」の行動を追ううちに判明するある事実。そして反転・・・。心の弱さというのはやはり行動に出るということなのかな。それだけ交番勤務というのは窮屈なものなのかも。
②「死人宿」=トラベルミステリー風な序盤から、徐々に妙な方向にねじ曲がっていく第二編。自殺志願者は誰なのかというテーマなのだが、思わぬラストが待ち受ける。“旨さ”を感じられる作品。
③「柘榴」=これは・・・背筋がヒンヤリとさせられる第三編。大人よりも大人な美少女。だいたいこんな男に限って女にモテルんだよね・・・。東野圭吾「白夜行」の主人公・西本雪穂を思い出してしまった。作中では最も印象的な一編。
④「万灯」=これは・・・皮肉の効いたラストが見事に決まっている。バングラディシュでのやり取りも惹かれたが、そうか・・・まさに「因果応報」ってことだな。殺人の動機っていう意味ではかなり納得がいった。
⑤「関守」=ラストはこうじゃないかな・・・って思っていたとおりだった。なので、できればもうひと捻りあればということなんだけど、これはこれで十分ゾォーっとする。
⑥「満願」=これを連城風というなら、まぁそうかなと思わせる最終編。静かで緊張感のある序盤から中盤を経て、主人公の気付きから意外な真相が判明するラスト! まさに短編の見本とも言えるプロット。

以上6編。
作者の熟練した確かな力量を感じさせる作品集・・・ということで良い。
「儚い羊たちの祝宴」は背筋がザワザワするような感覚を残す、仕掛けの強い連作短篇集だったが、それに比べると本作は「王道」のような作品集。ただし、解説の杉江氏も触れているとおり、最後に「ザラリ」という後味が残るというのがいかにも作者らしいということなのだろう。

世評からするとハードルを上げたほうがよいのかもしれないけれど、個人的には十分に満足できる水準だった。
このレベルの作品を連発できるようなら、作者は稀代のミステリー作家ということになる。
まっ、「三冠」というのは偶然なのかもしれないけど・・・


No.1388 6点 生還者
下村敦史
(2017/10/18 22:39登録)
乱歩賞受賞作「闇に香る嘘」、二作目「叛徒」に続いて発表された長編三作目。
ミステリーの一分野とも言える「山岳ミステリー」に挑んだ野心作。
2015年の発表。

~雪崩で死亡した兄の遺品を整理するうち、弟・増田直志はザイルに施された細工に気付く。死因は事故か、それとも・・・。疑念を抱くなか、兄の登山隊に関係するふたりの男が相次いで生還を果たす。真相を確かめたい増田だったが、ふたりの証言は正反対のものだった! ヒマラヤを舞台にいくつもの謎が絡み合う傑作山岳ミステリー~

まずは、作者の取材力に敬意を表したい。
山登り経験者なのかどうか分からないけど、本作を読み進めるほどに作者の丁寧で綿密な取材ぶりに驚かされる。
エベレスト、K2に次ぐ高峰“カンチェンジェンガ”・・・特に最終章での山の描写はなかなかの迫力。
実に映像化に向いた作品だと思う。

ただ、ミステリーとしての骨格は正直弱い。
紹介文のとおり、主たる謎は「山(カンチェンジェンガ)で何があったのか?」なのだが、最終的に反転があることは普通の読者なら途中で察してしまうだろう。
加えて、中盤のやり取りは結構まだるっこしくて、何がプロットの主軸となるのかが曖昧模糊としたまま進んでいくのもマイナス。
ただ、最後のヒマラヤ行の迫力がそれまでのモヤモヤを消し飛ばしていることは大いなる救い。

重厚な筆致も好みが別れるところかもしれない。
デビュー作と同様、良く言えば作者の生真面目さがよく表れているし、悪く言うなら“遊び心のなさ”ということだろう。
そういう意味では好き嫌いがはっきり別れるのかも。
個人的には・・・やや微妙。
「闇に香る嘘」の書評でも触れたが、好きなタイプとは言い難い。
でもまぁ軽めの作品がもてはやされる昨今。こういう生真面目なミステリーがあっても、それはそれで素晴らしい。
(「○○者」っていうと、どうしても折原と被るな。しかも山岳ミステリーとは・・・敢えてか?)


No.1387 6点 黒い天使
コーネル・ウールリッチ
(2017/10/08 21:15登録)
「黒衣の花嫁」「黒のカーテン」「黒いアリバイ」に続く、いわゆる“黒のシリーズ”四作目。
前年にはアイリッシュ名義の名作「幻の女」が、翌年には「暁の死線」が刊行されるなど、作者の黄金期とも言える時期に発表されたのが本作。
1943年の発表。

~夫はいつも彼女を“天使の顔”と呼んでいた。彼女を誰より愛していたのだ。ある日、彼女は夫の服がないことに気付く。夫は別の女性のもとに走ろうとしていた。裏切られた彼女は狂おしい思いを抱いて夫の愛人宅を訪ねる。しかし、愛人はすでに何者かに殺されており、夫に殺害容疑がかかる! 無実を信じる彼女は真犯人を探して危険な探偵行に身を投じる・・・~

ポケミスの旧約版で解説者の都筑道夫氏が、ウールリッチという作家の特徴が一番よく出ているのが本作ではないかとの指摘を行っていて、理由のひとつとして、『~女を書くのがうまい。ことに窮地に立った若い女性を書かせては比類がない』ことを挙げているとのこと。
う~ん。確かに。
何しろ、「天使の顔」などと呼ばれる女性なんて、どんだけ可愛い顔してるだろ?
って思いながら読みすすめていた。
しかも、浮気までされた夫なのに、無実を信じて自ら危険も顧みず、果敢に行動するなんて・・・
アンビリーバブル!!

ゲス不倫やら、W不倫やら、不適切な関係やら、まさに風紀の乱れ切った現代社会に比して一服の清涼剤のような女性・・・
って思ってたら、オイオイ! やっぱり他の男に行ってるじゃないか!!
まぁでもそうだよねぇ・・・浮気されてんだもんね・・・
いくら七十年以上前の話だとしても、普通はその時点で「コイツ許せん!!」ってなるよなぁ。
ということで、最後は納得してしまった。

で、一体どんな作品なのかって?
他の皆さんが書かれてるとおりです。(オイオイ!)
確かに「黒衣の花嫁」とはプロットが似てるし、「幻の女」ともどことなく被ってるように感じます。
でも、そこはアイリッシュ=ウールリッチ好きの人にとっては気にならないのでしょう。
私は・・・結構気になりました。


No.1386 5点 謎亭論処
西澤保彦
(2017/10/08 21:14登録)
お馴染み(?)「タック&タカチ」シリーズの短篇集。
タックとタカチ、ボアン先輩とウサコ・・・今回もいつもの四人が酒を飲みながら四方山話といった風情。
「小説NON」誌を中心に書かれた短編をまとめたもの。2001年発表。

①「盗まれる答案用紙の問題」=ボアン先輩が女子高の教師に! 何て羨ましい・・・。しかも同僚の女性教師が超美人とは! そんな都合のいいことあるのだろうか? 事件は・・・ってもうどうでもいいです。
②「見知らぬ督促状の問題」=美しい女子大生のもとに届いた家賃の督促状。でもそれは全く身に覚えのないもの。しかも同じ大学の女性だけを狙い撃ちしていた! 推理結果はまぁそんなもんだろうね。
③「消えた上履きの問題」=舞台は再び①の女子高。消えた上履きの謎もそうだけど、チューバのケースっていうのは例のコンドラバス・ケースをもじっているのか? こんな女子高生ってホントにいるのか?
④「呼び出された婚約者の問題」=結婚したウサコの旦那が警察官で、その夫から最近起きた事件の顛末を聞いて・・・っていう設定。まさにアームチェア・ディテクティヴの典型。
⑤「懲りない無礼者の問題」=“安槻市”の悪口を言って、近県の“T**市”や“M**市”を持ち上げる・・・何となくその光景が想像できる。でも、この真相はかなり突飛っていうか想定できない!
⑥「閉じ込められる容疑者の問題」=中では一番本格ミステリーっぽい一編。なにしろ「密室」テーマですから。家中の鍵がかかり、玄関にはチェーンロックまでかかっているという堅牢な密室。探偵役となる男性はタカチの前で必死に推理を展開するが・・・
⑦「印字された不幸の手紙の問題」=さすがに最近聞かないねぇ・・・「不幸の手紙」なんて。SNSでは同種のものが存在するのだろうか? タックの推理はこりゃ「想像」のレベルだね。
⑧「新・麦酒の家の問題」=シリーズの名作「麦酒の家の問題」をリメークした作品なのだが、前作よりも設定&真相とも強引。

以上8編。
学生時代と社会人設定が混在して時系列がおかしいのが気になるけど、シリーズファンにとっては必読の一冊。
相変わらずタックとボアン先輩は飲んでるし、四人であることないこと推理してるし、このいつもの雰囲気はなぜか安心感がある。
でもまぁやっぱりタカチでしょう。
文庫版巻末解説はズバリ“美女タカチについての考察”というタイトル。
絶世の美女と安槻市(高○市)って、どうもアンバランスな気がして仕方がないけど、本シリーズはやっぱりタカチでもっているんだと思う。
本筋は、って? まぁそこそこっていう感じです。
(ベストは⑥かな。あとはどれもそこそこ・・・)


No.1385 4点 牡牛の柔らかな肉
連城三紀彦
(2017/10/08 21:13登録)
1992年9月~1993年7月まで「週間文春」誌に連載され、後に単行本化された長編。
「終章からの女」「花塵」とともに、“平成悪女三部作”とも呼ばれているとのこと。(全然知らなかった・・・)

~「剃髪前の私は本当に恐ろしい顔でひとりの男の命を死にまで追い詰めた、人殺しと変わらない女なのですから・・・」。謎に満ちた過去を墨染めの衣の下に隠す美しき尼僧・香順。愛を失い、社会に居場所をなくした男たちを意のままに操る彼女は救世主か、それとも稀代のペテン師か? 万華鏡のごとき目眩く展開の会心作~

これは・・・一体どんなストーリーだったのか?
正直、途中でよく分からなくなった。
果たして、作者は分かっていたのだろうか?
自分がどんな物語を紡いでいたのかを・・・
もしかして、作者も分かっていなかったのではないか、という疑問すらも抱かせる、何とも曖昧模糊としたストーリー。

他の方は本作のミステリー的技巧にも気付かれたようですが、私にはもはや理解不能でした。
尼僧・香順の秘密めいた過去がプロットの中心になっていることは分かりますが、順次登場する男たちとの絡み合いは、どれだけ必要だったのか?
矢沢を思わせる稀代のロックスター桜木準なんて、その登場にどんな意味があったのでしょうか?
参議院選挙出馬には一体どんな意味があったのでしょうか?

最後の最後で、作者らしく反転による決着が付くのですが、このために500頁以上も読まされたのかと思うと、ただ脱力感に苛まれてしまったというのが本音。
巻末解説の香山氏も、さすがに「並みの書き手なら前半だけで読者に見捨てられかねない・・・」というフォローのようなフォローでないようなコメントを残しているのだから、こういう思いは私だけではないのだろう。
いやはや・・・これから本作を手に取ろうとしている方! 心して手に取るようご忠告します!


No.1384 5点 見知らぬ乗客
パトリシア・ハイスミス
(2017/09/22 21:52登録)
「リプリー」(「太陽がいっぱい」)で広く知られるP.ハイスミスのデビュー長編がコレ。
発表の翌年にはヒッチコック監督で映画化もされた作品。
1951年の発表。

~新進建築家のガイは、妻と離婚するために故郷へと向かう列車のなかで、ひとりの青年と出会う。ブルーノーと名乗るその男は富豪の息子で、父親を偏執的に嫌悪していた。ガイが彼に妻とのトラブルについて打ち明けると、ブルーノーは驚くべき計画・・・『交換殺人』を持ちかけた。心理サスペンスの金字塔として読み継がれるハイスミスの処女長編~

本作のテーマは紹介文のとおり『交換殺人』。
昨今では『交換殺人』をテーマとするミステリーも増殖していて特に珍しくもない。
書き方としては、犯人視点となるのが殆どだから、どうしたって「倒叙形式」になる。
だから、フーダニットはもちろん、ハウダニットやホワイダニットという部分の興味は最初から期待薄となってしまう。
それは本作も同様。
ということで、心理サスペンス的なアプローチとなるわけだろう。

それ自体はまぁいいか・・・という感想になるんだけど、最近の「交換殺人」テーマっていうと、某法月氏の「キングを探せ」をはじめ、トリッキーで捻りの効いたものを期待してしまうだけに、本作に対してはどうしても「地味ィー」って思ってしまう。
でもそれは、“ないものねだり”っていうこと。
こういうテーマを生み出してくれたor広めてくれた作者には感謝。

本筋としては、う~ん・・・如何せん中盤がまだるっこしいよなぁー
ブルーノーがアルコールに溺れて狂っていく様子や、罪の意識に犯されるガイの心理などなどが手を変え品を変え表現されていくんだよねぇ・・・
これは文章で追っていくというよりは、映像化に向いた作品なんだろうね。
その方が「余韻」というか、微妙な表現ができるように思えた。
でも本作は作者二十九歳の時の作品だって! それを考えればスゴイと思える。


No.1383 6点 ガリレオの苦悩
東野圭吾
(2017/09/22 21:51登録)
「探偵ガリレオ」「予知夢」、そして「容疑者xの献身」に続くガリレオ・シリーズの四作目。
「容疑者x」での悲しい結末を経て、湯川准教授にどのような変化が訪れたのか?
単行本は2008年の発表。

①「落下る」(おちる)=ここから内海薫刑事が湯川のパートナーとして登場する。警察の捜査に対して非協力的になっている(=これも「容疑者x」が尾を引いている)湯川に対して、内海の真摯な姿勢が彼の心を開かせることに。ただし、結果は彼女にとってホロ苦いものになってしまう・・・
②「操縦る」(あやつる)=今回は湯川の大学時代の恩師が登場。フーダニットについては最初から明々白々なだけに、どのような仕掛け(物理トリック)が使われたのかが鍵となる。ただし、それ以上に、湯川の恩師に対する心配りこそが本編の読みどころ。トリックについては正直よく分からなかったのだが、伏線がちょっとあからさますぎ(カヌーの件とか)。
③「密室る」(とじる)=こちらは湯川のバトミントンサークルの同級生が登場。彼の依頼に応じて不可解な殺人事件の捜査(推理)に協力することとなる。「密室」とは銘打っているものの、斬新なトリックがあるわけではない。単純な錯誤を使ったトリックだし、本シリーズらしくない作品のように思えた。やはりテーマは湯川の心の中なんだろう。
④「指標す」(しめす)=いわゆる“ダウジング”がテーマとなる作品で、本編のみが書き下ろしとのこと。これもトリック云々はあまり響かないんだけど、ダウジングに絡めた湯川の考察&推理過程がやや面白い。
⑤「攪乱す」(みだす)=“悪魔の手”と名乗る人物から警視庁に送られた怪文書、そこには連続殺人の予告と湯川を名指しして挑発する文面が記されていた・・・という粗筋。これもトリック自体は全く予想の範疇(もちろん細かな科学的知識は別として)なのだが、歪んだ真犯人の精神&犯行動機が印象に残る。

以上5編。
他の方々も触れているとおり、最初の短篇集二作品では“推理マシーン”のように書かれていた湯川だったが、「容疑者x」を経て犯人や関係者の心の内までも推理対象とし、まさに真の探偵へと昇華していく姿が描かれている本作。
トリックそのものはあまり見るべきところはなかったけど、小説としては面白みが増しているという評価に同意。

相変わらず「動機には興味がない」旨の発言はあるのだが、それでも犯罪や悪を憎み、正義を貫こうとする人間・湯川学の姿に憧憬の念を抱いてしまう。
もちろん次作も手に取るつもり。
(どうしても福山の顔が頭にチラついてしまう・・・仕方ないかな)


No.1382 6点 黒龍荘の惨劇
岡田秀文
(2017/09/22 21:50登録)
「伊藤博文邸の怪事件」に続く、“月輪龍太郎シリーズ”の二作目。
今回は前作から約十年後の明治時代後期。日清戦争直前のきな臭い時代が舞台。
2014年の発表。この年の各種ミステリーランキングでも上位を賑わした作品。

~明治二十六年。杉山潤之介は、旧知の月輪龍太郎が始めた探偵事務所を訪れる。現れた魚住という依頼人は、山縣有朋の影の側近と噂される大物・漆原安之丞が、首のない死体で発見されたことを語った。事件現場の大邸宅・黒龍荘に赴いたふたりを待ち受けていたのは、不気味なわらべ唄になぞらえた陰惨な連続殺人だった・・・。ミステリー界の話題を攫った傑作推理小説~

冒頭の目次を見れば、400頁程度の文庫版に「第六」にも及ぶ惨劇の章題が・・・
これを見るだけでも、作者が古き良き時代のミステリーに傾倒していることが分かる。
しかも「わらべ唄」による見立て殺人、首なし死体にバラバラ死体、密室からの首の消失などなど、
とにかく大時代的なギミックの数々が並べられている・・・そんな印象だ。

こういうふうに書くと、小島正樹的“詰め込み(すぎ)ミステリー”なのか?と思ってしまうけど、そういう感じではない。
これほどの重量級連続殺人の割に、筆致はあっさりしているし、登場人物たちにも緊張感はない。
それもこれも、終章に判明する真犯人の悪魔的奸計のためであり、だからゆえの“あっさり感”なのだ。
でも、こりゃ、明治時代じゃなければ無理だな・・・

他の方も書かれているが、どうしても他作品とのプロットの相似が気になるところはある。
あの部分は某三津田氏の「○魔の如き・・・」と被るし、雰囲気は某貫井氏の「朱芳=九条シリーズ」を想起させるし・・・
あと、このメイントリックってどっかで接したような・・・って考えてたら、これって某二階堂氏の「人○○の恐○」に影響されてんじゃないだろうか?(誤解?)
まぁそれはいいとしよう。
今時、こんな大時代的なミステリーにチャレンジすることだけでも貴重な人材ということで、次作にも期待したい。
評価はこんなものかな。
(結局、伊藤博文の長々とした口上はどういう意味があったのか?)


No.1381 7点 象牙色の嘲笑
ロス・マクドナルド
(2017/09/08 23:18登録)
リュウ・アーチャー登場作としては四番目に当たる長編。
1952年発表。
原題は“The Ivory Grin”。 ハヤカワ文庫の新訳版で読了。

~私立探偵リュウ・アーチャーは怪しげな人物からの依頼で、失踪した女を探し始めた。ほどなくしてその女が喉を切り裂かれて殺されているのを発見する。現場には富豪の青年が消息を絶ったことを報じる新聞記事が残されていた。ふたつの事件に関連はあるのか? 全容を解明すべく立ち上がったアーチャーの行く先には恐ろしい暗黒が待ち受けていた・・・。錯綜する人間の愛憎から浮かび上がる衝撃の結末。巨匠の初期代表作!~

紹介文のとおり、本作は作者初期の代表作ということになっている。
訳者解説によれば、まだチャンドラーの影響が色濃く残っていた頃の作品ということなのだが、個人的には決して嫌いではない。
リュウ・アーチャーもまだまだフットワークも軽くて、活動的&情熱的という印象だ。
中期以降の代表作「さむけ」や「縞模様の霊柩車」と比べれば一枚落ちるけれど、プロットとしても十分納得できるレベルだと思う。

さて、今回は(というか今回も)実に印象的な女性が登場する。
寄ってくる男たちを手玉に取り、自身がのし上がっていくための踏み台にする女。
そう、まるで女王蜂。
男たちは女王蜂を我が物にするため、犯罪はおろか殺人にまでも手に染めてしまう・・・
終盤に差し掛かる前には大凡の事件の構図は見えたと思っていた刹那、驚くべき真相がラストで判明する。
いやいや、思い詰めた男って、一番やっかいな人種なんだね・・・昔も今も。
巻き込まれたのは、貧しい身の上から何とか脱却したいと考えた底辺に生きる男女というのが切ない。

ということで、ハードボイルドファンにもロスマクファンにも、十分満足できる作品ではないか。
もちろん探せば瑕疵はいろいろあるんだけど・・・
水準以上という評価。
(ミッキー・スピレインへの対抗意識の話はなかなか興味深い・・・<訳者解説>より)


No.1380 6点 眼の気流
松本清張
(2017/09/08 23:17登録)
昭和38年(1963年)に発表された作品集。
~日常生活に潜む恐ろしい生の断層、現代の憎悪を抉る推理傑作集~とのこと。

①「眼の気流」=主人公となる「タクシー運転手」が語り手となる前半と、ある失踪事件を捜査する刑事の目線で描かれる後半。短篇とはいえ、まずはこの構成の妙に拍手!っていう感じだ。ひと昔前の刑事ドラマのシナリオっぽさはあるけど、特にラストが何とも切ない・・・
②「暗線」=時代を感じさせる暗いお話。奥出雲の山奥の村という舞台設定からして「重い」。自分の出自というかルーツって、そこまでして探りたいものなんだろうか・・・
③「結婚式」=芸能人や政治家が次から次へと○○文春に血祭りに挙げられる・・・そう「不倫」だ! 本編のテーマはまさしく「不倫」。昭和三十年代だろうが、二十一世紀の現代だろうが、男と女が絡み合えば、考えること&やることは一緒、ってことだろうね。
④「たづたづし」=個人的にはこれが一番ミステリーっぽくて好みかな。これまた「不倫」の果てに、我が身可愛さから不倫相手を葬り去ろうとする自分勝手な男。そんな奴には“文春砲”をお見舞いだ! というわけではなく、何だかよく分からない不透明なラストが待ち受ける。(どうせなら因果応報的ラストの方がよかったのだが・・・)
⑤「影」=いわゆるゴーストライターのお話。ゴーストはやっぱりゴーストってことが言いたかったのか? これまた切ないラスト。

以上5編。
やっぱり旨いですなぁー
特段目新しいプロットやトリックが披露されているわけでもなく、淡々と物語が進められていくわけなのだが、読み終わってみると、やっぱり「旨い!」「さすがに・・・」という形容詞が頭に浮かぶ。
これぞ一流作家の証なんだろう。

やっぱり回転寿司は回転寿司だし、老舗の寿司屋とは似て非なるもの。
そんなことも頭に浮かんでしまいました。
(相変わらずよく分からない表現ですが・・・)
もはや私の評価なんてどうでもいいのでは? なんて思ってしまいます。


No.1379 7点 蝶々殺人事件
横溝正史
(2017/09/08 23:15登録)
昭和21年5月より『ロック』誌に連載。ちょうど同時期に『宝石』誌上では「本陣殺人事件」を連載という、まさに作者の華々しい時代を彩る作品。
探偵役がいつもの金田一耕助ではなく、元警部の由利麟太郎というのも実に新鮮(な気が・・・)。

~原さくら歌劇団の主宰者である原さくらが、「蝶々夫人」の大阪公演を前に突然姿を消した。数日後、数多の艶聞を撒き散らし、文字どおりプリマドンナとして君臨していたさくらの死体は、バラと砂とともにコンドラバス・ケースの中から発見された! つぎつぎと起こる殺人事件にはどんな秘密が隠されているのだろうか? 好評の金田一耕助シリーズに続く由利先生シリーズ~

前々から読もう読もうとしていた作品を今回やっと読了できた。
それだけでも十分満足! ということで終了・・・というのも無責任なので、簡単に書評。
全体的な感想を言うなら、戦後間もない日本で書かれたとは思えないほど端正なミステリーということ。
<読者への挑戦>や暗号などギミックも満載で、作者のサービス精神というか「情熱」を感じさせる。

死体をコンドラバス・ケースに詰める、『東京⇔大阪間の死体移動』などのプロットは、言うまでもなくクロフツの名作「樽」を意識している。
ただし、鮎川哲也「黒いトランク」や島田荘司「死者が飲む水」がトランクの移動とアリバイトリックを複雑&有機的に絡めていたのに対して、本作はアリバイトリックはかなり単純なレベルでまとめ、フーダニットの興味を最大限煽っているのが特徴かな。
(トランクの動き+被害者の動きで読者を惑わすという点では相似だが・・・)
「手記」の件は分かりやすいとの批判もあるようだけど、個人的には見事に騙されてしまった。(「手記」には嘘があるというのはパターンなんだけどね・・・)
無駄を極力排した分量や、ロジックを重視した由利麟太郎の推理過程も十分満足いくものだった。

難癖を付けるとすれば、やはり第二の殺人かな。
舞台設定そのものはインパクト十分なんだけど、この準密室はリアリテイに乏しいし、真犯人の逃走経路も相当リスキー。
(誰かが上を向いたらすぐに気付いたのではないか?)
フーダニットもやや煽り過ぎの感はあるし、その分察しやすくなっているのはあると思う。
でも、本格好きの嗜好に合致した作者の代表作のひとつという評価でよいのではないか。
金田一もいいけど、これはこれでもう少し書いて欲しかったなとい気がする。


No.1378 6点 死者のあやまち
アガサ・クリスティー
(2017/08/27 19:38登録)
1956年発表の長編。
ポワロものとしてはかなり後期の作品に当たる。
「ひらいたトランプ」で初登場した女流ミステリ作家・オリヴァ夫人が事件の冒頭を飾ることに・・・

~田舎屋敷での催し物として犯人探しゲームが行われることになった。ポワロの良き友で作家のオリヴァ夫人がその筋書きを考えたのだが、まもなくゲームの死体役のはずの少女が本当に絞殺されてしまう事件が・・・。さらに主催者の夫人が忽然と姿を消し、事態は混迷してしまう・・・。名探偵ポワロが卑劣な殺人遊戯を止めるために立ち上がる~

「(前期・中期の作品に比べて)随分作風が変わったような・・・」って、読み進めながらずっと感じていた。
良く言えば、明るくポップになったんだけど、悪く言えば、“軽く”なった・・・と言えばいいんだろうか。
作者も年をとるわけだし、時代は変わっていくのだし、当然作風もそれに合わせて変化していくものなのだろう。
でも、何となく初期作品の重厚さに惹かれてしまうという方が多いのではないだろうか。
(かくいう私もそうなんだけど・・・)

それはさておき、本筋はというと、
見事なプロットと言えばそうだし、「そうきたか!よくある手だね」と言えばそう。
昔のミステリーにはありがちな○れ○わりトリックが本作でも登場。
これについては今まで何回も書いてきたけど、人間の目ってそこまで節穴じゃないだろ! って言いたくなる。
まぁ最終的にはそれが露見しそうになり、それを回避するために犯人側がかなり複雑な目眩しを仕掛けるわけだ。
(他の方はこの辺りの無理矢理感がお気に召さないのだろうな)

そこはさすがにクリスティで、ポワロの推理が開陳されるやいなや、それまでもつれていた糸が一気にほどけるという快感・刹那を味わうことはできる。
(怪しいと思った奴がまっとうで、まっとうと思った人物が実は・・・っていう奴。まさに「どんでん返し」!)
ただ、「葬儀を終えて」なんかもプロットとしては同じベクトルの作品だと思うけど、こっちは若干経年劣化を感じてしまうね。
あくまで高いレベルでの話ではあるんだけど・・・


No.1377 7点 死と砂時計
鳥飼否宇
(2017/08/27 19:37登録)
~世界各国から集められた死刑囚を収容する特殊な監獄でつぎつぎに起こる不可思議な犯罪。外界から隔絶された監獄内の事件を、老囚シュルツと助手の青年アランが解き明かす。終末監獄を舞台に奇想と逆説が横溢する渾身の連作集~
ということで、第十六回本格ミステリ大賞の受賞作。

①「魔王シャヴォ・ドルヤマンの密室」=“なぜ囚人は死刑執行前夜に独房で殺されたのか”がメインテーマとなる第一編。どうしても「密室」という単語が気にかかるが(確かに密室トリックもなかなか秀逸)、やはりホワイ・ダニットが主。(巻末解説によると、法月綸太郎氏の名作「死刑囚パズル」が本作執筆の強い動機になっているとのこと・・・なる程)
②「英雄チェイン・ウェイツの失踪」=“なぜ囚人は人目につく満月の夜を選んで脱獄したか”がメインテーマ。まさに「逆説」ということで、満月だからこそ脱獄した・・・というのが真相となる。ではなぜ? 革バンドの使い方は若干疑問符だが・・・
③「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」=“なぜ監察官は退官前に死ななければならなかったのか”がテーマとなる。その日に退官を迎える監察官をなぜ殺したか?という謎なのだが、真相はロジックとしては分かるけど、現実的にそんな理由で?こんな場所で?という無理矢理感は残った。
④「墓守ラクバ・ギャルポの誉れ」=“なぜ墓守は埋めた死体を自ら掘り返して解体したのか”・・・って書くと、相当強烈な謎のように感じる第四編。「○○」という一言で片付けられているので、どうしても強引な謎解きに見えてしまう。ただし、本作の特異な世界観とは絶妙にマッチしている。
⑤「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」=“なぜ女囚は男が誰もいない女子刑務所で身籠ったのか”-というわけで、まぁ普通に考えれば、体外受精とか人工受精したんだろ、って解法になるよな・・・って思いながら読み進めていたところ、思いもよらぬ展開に! ここから連作集はジェットコースターのように奈落の底へ・・・
⑥「確定囚アラン・イシダの真実」=“ぼくを終末監獄へ追い込んだ犯人は誰か”、ということで裏の構図がついに明らかとなる最終編。本作の語り手となっていたアラン・イシダには大いなる謎があった! けど、構図自体は予想がついたという読者が多そうな気がする。ラストは逆説的というか、皮肉な結末を迎えることに。

以上6編。
何ていうか独特の世界観。
「監獄」という究極ともいえるCCを舞台に、無国籍感漂う登場人物たちの多くは死刑囚という特殊設定。
この世界に慣れるまでにまずは時間を要してしまった。
チェスタトンを範にとった逆説的&捻りの効いた真相が各編ともに仕掛けられていて、本格ファンなら満足感を得られるのではないか?
連作短篇集としても、上質な出来だと感じた。
けど、合わない人は合わないかもね・・・


No.1376 6点 白骨の処女
森下雨村
(2017/08/27 19:35登録)
1932(昭和7)年、新潮社版「新作探偵小説全集」の一冊として刊行された本作。
作者は雑誌「新青年」の初代編集長にして、大作家・江戸川乱歩の誕生にも大きく関わった、戦前の日本ミステリー界の重鎮的存在(すべて巻末解説の受け売りですが・・・)
先般、河出文庫より復刊されたものを読了。

~神宮外苑に放置された盗難車両から、青年の変死体が発見される。その婚約者が大量の血痕を残し謎の失踪。連続殺人?の容疑者には大阪駅にいたという鉄壁のアリバイが・・・。新聞記者が謎の真相を追うのだが・・・。乱歩をも見出した<日本探偵小説の父>、幻の最高傑作待望の初文庫化。テンポのいい文体はまったく古びてない!~

なるほど。発表以来八十年余りを経て、初文庫化されるというだけの価値はある・・・という気はした。
“テンポのよさ”は確かに紹介文にもあるとおりで、幾分大時代的な表現はあるものの、それほどストレスなく読み進めることができた。それだけでも、作者の力量が分かろうというものだ。

トリックやプロットについては、2019年現在の目線からすると疑問符が付いたり、“?”って思うことは多々ある。
特にわざわざ惹句が付けられている「アリバイトリック」については、かなり肩透かしなレベル。
松本清張のあの作品の数十年前だし・・・ということはあるけど、時計にまつわるトリックにしても、「そんなこと?」っていうレベルの仕掛け。
でもそれは致し方ないだろう。
殺人や怪事件が連続して発生する緊張感や、かといって通俗&スリラーに走らず、ロジック重視の解決を図ろうとするスタンス。
動機についても十分配慮されていて、そのための捜査行が作品に深みを与えていること、などなど好意的に捉えられる要素は数多い。

個人的には、鮎川哲也の「鬼貫警部シリーズ」とどことなく似ていると感じた。
(もちろん「アリバイくずし」だからということもあるけど)
まぁ、でもあくまで歴史的価値という視点での作品かな・・・。そこに興味がない方なら敢えて手に取る必要まではないかも。
というのが正直な評価。
(最後にようやくタイトルの意味が分かった! でも何か腑に落ちないんだけど・・・)


No.1375 6点 風ヶ丘五十円玉祭りの謎
青崎有吾
(2017/08/27 19:34登録)
「体育館」「水族館」と続いた裏染天馬シリーズ初の短篇集。
すでに三作目「図書館」のアイデアはまとまっていたが、編集側の要望で連作集が先に発表されることになった模様(巻末解説より)。
それはともかく、“平成のエラリー・クイーン”の惹句は短編集でも生きているのか?

①「もう一色選べる丼」=風ケ丘高校学食の一番人気「二色丼」。半分残された「丼」に纏るミステリーが連作の第一編。お得意のロジックから絞り込まれた容疑者は呆気なく罪を認めジ・エンド、ということなんだけど、どこかこう背中がむず痒くなる推理。そう、「こんなことどうでもいいだろ!」ってことかな・・・
②「風ケ丘五十円玉祭りの謎」=若竹七海氏の実体験から生まれた伝説のアンソロジー「五十円玉二十枚の謎」。作者がこれにインスパイアされたのかどうか定かではないが、やっぱり本編の真相にもかなり無理がある。そう!一言で言うなら「こじつけ」だ!
③「針宮理恵子のサードインパクト」=「体育館」にも登場した学園の問題児・針宮理恵子と年下の恋人に纏る謎を扱った第三編。まぁ、そういう解法になるよなぁーという程度のことなのだが、その光景を想像するとなかなか羨ましい!(正直、見たい!!)
④「天使たちの残暑見舞い」=一番「こじつけ」っぽいのがコレかな。厳しめに言うなら「ご都合主義も甚だしい」ということなんだけど、二学期制・三学期制という言葉がさりげなく触れられている辺りに、作者のセンスは感じる。
⑤「その花瓶にご注意を」=個人的に一番感心したのはコレだ。本編のみ妹の鏡華が天馬に代わって探偵役を務めているのだけど、コチラの方が(探偵役として)いいんじゃないかと思ってしまった。美少女キャラで名探偵なんてね、本シリーズにはいかにも嵌りそう。それはともかく、本編では「傘」・「モップ」ではなく、「花瓶」という小道具からお得意のロジックが全開!

以上5編。(「おまけ」あり。天馬の父親が初登場?だよね)
長編二作と比べてはいけない。
とにかく軽くというか、ちょっとしたインパクトや雰囲気を重視したような作品が並んでいる印象。
ラノベテイストも長編よりは高めなので、純粋な本格ファンには物足りなく映るだろう。

かくいう私もそうなんだけど、まぁ“箸休め”的な短篇集ということで、次作に期待というところ。
作者は寡作でいいから、できるだけ質の高い本格ミステリーを書いていただきたい。
(⑤でも書いたけど、今後は天馬ではなく、鏡華の方が探偵役に相応しいんじゃないか?)


No.1374 5点 快盗タナーは眠らない
ローレンス・ブロック
(2017/08/27 19:33登録)
個人的にはマッド・スカダーシリーズを読みあさっている状況のなか、なぜか手にした本作。
全八作が発表された“快盗タナー”シリーズの記念すべき第一作目。
1966年の発表。原題は“The thief who couldn't sleep”(まさに邦題どおり!)

~脳に銃弾を受けて眠りを失ってしまったが、その代わりに語学力と万巻の書からの知識を得たエヴァン・タナー。ギリシア・トルコ戦争時のアルメニア金貨が今もまだトルコ領内に埋もれているとの情報を得た彼は、金貨を手中にすべく旅立つが、スパイ容疑で逮捕された! 決死の脱出から始まるヨーロッパ大活劇。異能のヒーローが活躍するブロック初期の痛快シリーズ、ここに開幕!~

確かに、他の皆さんの書評どおり!
ということで終わってもいいくらいなんだけど、折角なのでもう少し。

いくら職人ブロックといえども、若い頃はあったんだなぁーという感想。
マッド・スカダーシリーズの痺れるような緊張感や、読んでるだけで目に浮かんでくるようなNYの街の描写力・・・
などなど、読むほどに痛感する“旨さ”は本作からは感じられない。
プロットもなぁー
読者としては、ただひたすら、タナーの動きを追っていくしかないというのがねぇ・・・
どこかで捻ってくるかと思いきや、最後までスーッて行ってしまった感が強い。

もちろんそれはあくまで「ブロックなら絶対面白いはず!」っていう先入観のなせる業だし、他の作家に比べれば楽しめる要素は満載だと思う。
タナーがヨーロッパを股にかけ、あらゆる国々で事件に巻き込まれる珍道中!
会話も洒落てるし、ラストのまとめ方も手馴れている。
それから・・・って、これ以上は褒められない!(褒め言葉が浮かばない)
全八作のシリーズ。果たして次作以降はどうなのか?
やっぱり、スカダーに会いたくなった・・・


No.1373 5点 ほうかご探偵隊
倉知淳
(2017/08/27 19:32登録)
2004年、講談社の企画<ミステリーランド>の一冊として発表された作品。
文庫化に当たり、何故か東京創元社より発表されたものを読了。

~ある朝、いつものように登校すると僕の机の上には分解された縦笛が。しかも一部品だけ持ち去られている。これで四件目だ。同級生が描いた何の変哲もない風景画、クラスでも人気のない飼育小屋のニワトリ、不細工な招き猫型の募金箱・・・。今五年三組では「なくなっても誰も困らないもの」が続けざまに消え失せているのだ。いったい誰が何の目的で? 僕は真相を探るべく友人とふたりで連続消失事件の調査を始めた!~

今さらながら改めて<講談社ミステリーランド>について調べてみると・・・(いつものようにウィキペディアですが)
2003年に小野不由美、殊能将之、島田荘司の三氏による一回目の配本がスタート。以後、18回に及ぶ配本で全29もの作品を上梓したシリーズ。参加した作家たちも豪華絢爛。
まさに現在を代表するミステリー作家が作品を提供していて、会社的にも力を入れてきたことが窺える。
本シリーズの狙いは、もちろん少年少女たちにミステリーの面白さを味わってもらい、将来に及ぶファン獲得を目指す・・・そんなことだったのだろう。

これで約半分は読了したけど、他の方もご指摘のとおり、本作が最もシリーズの趣旨を理解して書かれた作品だと思う。
麻耶氏の「神様ゲーム」や島田氏の「透明人間の納屋」など、ジュブナイル向けの体裁を取りながら、中身は大人が読んでも背筋に冷たいものが・・・っていう作品もあるなか、この何とも言えない“ホノボノ感”。
本作で探偵役を務める僕の友人・龍之介君のおじとして紹介される人物(もちろんあの方です)の影響もあるのだろうけど、汚れなき少年少女たちが安心して手に取れる作品。(自分の子供に読書感想文の題材として紹介したいくらいだ!)

そうは言っても、そこは倉知氏。
単なる謎解きでは終わらせず、クドいくらいの「・・・まだ終わらない」。
大人も思わずニヤッとさせられる仕掛けも施している。
いやあー真面目な方なんだろうねぇ・・・作者は!
どんな作品も全力投球。読者に楽しんでもらおうというサービス精神。まさに頭が下がる思いです。
Good Job!のひとこと。

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