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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.1439 6点 売国
真山仁
(2018/05/01 22:43登録)
「ハゲタカ」シリーズでお馴染みの作者が贈る、硬派&社会派エンタメ作品。
2013年5月から2014年8月まで「週刊文春」(!)に連載され、後に単行本化された長編。
単行本は2014年刊行。

~気鋭の特捜検事・冨永真一。宇宙開発の最前線に飛び込んだ若き女性研究者・八反田遥。ある汚職事件と、親友の失踪がふたりをつなぐ。そしてあぶり出される、戦後政治の闇と巨悪の存在。正義を貫こうとする者を襲う運命とは? 雄渾な構想と圧倒的熱量で頁をめくる手が止まらない!~

『頁をめくる手が止まらない!』・・・かというと、確かに序盤から終盤に入る頃まではそのとおりだった。
東京地検特捜部に異動した途端、大物政治家の汚職事件を担当することとなった冨永パートと、宇宙開発の最前線で働くチャンスを得たものの、そこに大きな壁の存在を知った遥のパート。
ふたりのパートが順に語られる展開。
当然ながら、このふたつの潮流はどこかでクロスすることになるんだろう・・・と想像しながら読み進めていく。

そして、“売国奴”という存在が浮かび上がる終盤。ついにふたりの運命はクロスする!
これこそがプロットの妙! と言いたいところなんだけど、そこまで鮮やかなものではなかった。
正直にいって、終盤はトーンダウンしたように、それまでの迫力が落ちていった印象は拭えない。
「巨悪」の対象こそ明らかになったものの、「さあ、これからどういうふうに立ち向かっていくのか?」っていうところで、唐突にカットされたように思えた。
(もしかして、ノンフィクション的にどこかから横槍が入ったのか?)

「ハゲタカ」シリーズでは一企業内での権謀術数が語られていたが、本作は日本だけに留まらず、米国をも巻き込んだ権謀術数の世界へ突入。そこには当然ドロドロした争いや必殺仕事人orゴルゴ13のような闇の世界が広がっているのだ・・・
おおー怖!
一小市民でしかない私には想像もつかない世界。
ちょうど、朝鮮半島で歴史的な会談が行われた時節というのが何とも暗示的だ。あれも裏側には数限りないドロドロした人間の欲望が蠢いているんだろうな・・・


No.1438 6点 夜より暗き闇
マイクル・コナリー
(2018/05/01 22:40登録)
2001年発表。
作者のメインキャラクターであるハリー・ボッシュ。そして「わが心臓の痛み」の主役、テリー・マッケイレブ。ふたりがダブル主演を務めることとなった本作。
“ボッシュ・サーガ”の深化とともに、新たな展開を予感させるシリーズ七作目。

~心臓病で引退した元FBI心理分析官テリー・マッケイレブは、旧知の女性刑事から捜査協力の依頼を受ける。殺人の現場に残された言葉から、犯行は連続すると悟ったテリーは、被害者と因縁のあったハリー・ボッシュ刑事を訪ねる。だが、ボッシュは別の殺しの証人として全米が注目する裁判の渦中にあった。現代ミステリーの雄コナリーが、人の心の奥深くに巣食う闇をえぐる!~

ハリー・ボッシュとテリー・マッケイレブ。そして、『ザ・ポエット』(1996)の探偵役ジャック・マカボイまでもが顔を揃えた本作。
まさにオールスターキャストとでも表現すべき大作だ。
物語は当初、「マッケイレブ」パートと「ボッシュ」パートに分かれて進行する。
共に、真犯人や弁護人の策略に遭い、徐々に窮地に陥ってしまうふたり。
特にマッケイレブは、プロファイルを進めるうちに、何とボッシュ自身が真犯人ではないかという疑いすら抱いてしまうことに・・・

ボッシュが真犯人なのか?という、何とも刺激的でファンにとってはやきもきする展開。
その鍵となるのが、“ヒエロニムス・ボッシュ”という画家。
(ボッシュの名前がその画家に因んで名付けられていたということ、不覚にも忘れていた。)
講談社文庫表紙にはボッシュの作品である『最後の審判』と『快楽の園』が使われているのだが、これがルネサンス期の画家だとすれば実に先鋭的だし、「夜より暗き闇」というタイトルに妙にマッチしている。

で、総合的な評価はどうなんだっていうと、ひとことで言うと「ちょっと微妙」っていう感じ。
これまでのサプライズ感の強いどんでん返しやいわゆる“ジェットコースター”的要素はこれまでの作品に比べて薄くなっている。
終章近くで判明する真犯人や全体の構図にしても、それほどの大技ではなく地味な印象は拭えない。
そんなことよりも、ボッシュにまとわりつく「闇」が本作通じてのテーマ。
妻や子供に恵まれ、前向きに生きようとするマッケイレブとの対比もあって、ますますボッシュのダークサイドが気にかかってくる。
この何とも言えない「後味」は、次作に期待しろっていうことなんだろうね。


No.1437 6点 花咲舞が黙ってない
池井戸潤
(2018/04/15 21:18登録)
地上波TVドラマでお馴染みとなった『花咲舞』が大活躍(!)する連作短篇集。
2016年1月~10月にかけて、読売新聞に連載された作品の単行本化。
読みながらどうしても杏と上川隆也の顔がチラ付いてしまって・・・

①「たそがれ研修」=五十歳を超えて、組織の中でもはや“上がり目”のなくなった男たち・・・。そうまさに「黄昏」なのだ。サラリーマン小説としてはよくあるテーマ。オッサンも哀しいわけですよ、そんな哀しいオッサンに何もそんなに強く当たらなくても・・・
②「汚れた水に棲む魚」=テーマは“反社会的勢力”。まっとうな会社にとっては実にやっかいな存在。ただし、完全に無視はできない存在だったりする・・・。ここにも私利私欲を最優先する罰すべき男たちが登場。
③「湯けむりの攻防」=なぜか“湯の町・別府”が舞台となる第三編。しかも、なんとあの男が登場! そう半○直○だ! なぜ彼が登場するのかは実際に読んでみてください。ついに作者の主要キャラふたりが作中でニアミスしてしまう刹那!
④「暴走」=銀行でローンを断られた男が、その後自動車の暴走事件を引き起こす! 一見単なる事故に思えた事件を花咲舞の鋭い勘が意外な真相に導く。でも欠陥住宅はいかんよ! 男の一生の買い物なんだから!
⑤「神保町奇譚」=唯一ほっこりするいい話がコレ。確かに神保町界隈には地味だけどいい仕事してる飲み屋さんが多そう。一冊の通帳から意外な真実を探り出すというのは、作者の作品の原点かもね。
⑥「エリア51」=物語もついに佳境へ!というわけで、東京第一銀行を揺るがす大事件が勃発する第六篇。ふたりもなぜかその渦中に巻き込まれるわけだが、真相に近づきすぎたふたり(特に相馬)にピンチが・・・。
⑦「小さき者の戦い」=いやだねぇーこういう組織って・・・などと思わずにはいられない最終編。結局は予定調和の結末に終わるかと思われたその時、またしてもあの男が登場! そう、半○直○だ!ってクドイな・・・。

以上7編。
花咲舞があまりにもスゴすぎて、こんな一般社員本当にいたら嫌だな・・・
すべてに対して「白は白、黒は黒」って言いたいんだけど、どうしてもしがらみや複雑な人間関係を考えて煮え切らない態度を取ってしまう自分自身と違いすぎるからな・・・

でもなぁ、多くのサラリーマンはそういう組織の嫌なところを見ながら、微妙なバランスの中で生きている。当然プライドもあるし、正義感もあるのだか、小さな幸せを守るために奮闘している。
って、そんなことを言うと花咲舞に笑われそうだな。
やっぱ、女性の方が強いね。


No.1436 5点 カレイドスコープの箱庭
海堂尊
(2018/04/15 21:17登録)
田口&白鳥の『バチスタ・シリーズ』もついに最終章。
2014年の発表。
なお、宝島文庫版では書き下ろしエッセイ「放言日記」と「桜宮市年表」を併録。

~閉鎖を免れた東城大学医学部附属病院。相変わらず病院長の手足となって働く“愚痴”外来・田口医師への今回の依頼は、誤診疑惑の調査。検体取り違えか診断ミスか・・・。国際会議開催の準備に向け米国出張も控えるなか、田口は厚労省の役人・白鳥とともに再び調査に乗り出す。「バチスタ」シリーズの最終章!~

これはもう付録というかファンブック。
シリーズの幕開けとなった「チーム・バチスタの栄光」を彷彿させるような田口&白鳥のやり取りもそうだし、物語の終盤にはバチスタ・スキャンダルの当事者・桐生医師や“ゼネラル”速水医師まで登場するなど、シリーズファンにとっては堪えられない展開。
ただ・・・ファン以外の方には「何じゃこりゃ?」という感想しか残らないんじゃないか。

今回も例によってAiの是非が裏テーマとなっている。
これはシリーズ通じての作者の一貫した主張だし、シリーズ最終譚でも外すことはできなかったんだろうな。
本作では米ボストンでの講演や国際会議まで開催するなど、もうやりたい放題。
(個人的にはお腹いっぱい)

で、本筋はというと・・・なんだっけ?
というくらいのものです。
そんなことより、併録の「桜宮市年表」が興味深い。
「海堂ワールド」の集大成というか、世界観もここまで広げられれば壮観のひとこと。
ここまで何作にも渡って同じ世界観を共有する作品を書き続ける作家って他にいたっけ?
これは・・・もう才能としか言いようがないし、スゴイとしか言えない。
最近、地上波TVドラマ(「ブラックペアン1988」)も始まったことだし、また人気が再燃するかもね。
(相変わらず人に形容詞を付ける才能がスゴイ! 本作では「牛丼鉄人」が登場)


No.1435 6点 インスブルック葬送曲
レーナ・アヴァンツィーニ
(2018/04/15 21:15登録)
作者は1964年、オーストリア・インスブルック生まれ。
というわけで、生まれ故郷の街を舞台にした本作は、デビュー作にしてドイツ推理作家協会賞受賞という快挙。
2011年の発表。

~イサベルが死んだ。彼女は家族から離れ、オーストリアのインスブルックでピアノを学んでいた。心不全だったという。妹の死に不可解なものを感じた姉・ヴェラは、真実を突き止めるべくミュンヘンからインスブルックに居を移し、独自の調査を開始する。時を同じくして、切断された腕だけが発見されるという猟奇殺人が当地で発生した。チロル州警察首席捜査官のハイゼンベルクが捜査に当たるが、事件はやがて連続殺人の様相を呈していく・・・~

インスブルック・・・
オーストリア・チロル州の州都。風光明媚な観光都市であり、またウィンタースポーツの聖地として世界的にも知られており、1964年と76年に冬季オリンピックを開催したことでも知られる。人口は約13万人で国内五番目の規模。
というわけで、まずは舞台の紹介から・・・(最近、こういうのが増えたな・・・)
つまりは、良く言えば歴史と伝統ある、悪く言えば古びて陰鬱な中央ヨーロッパの小都市ということ。
こういう街で、サイコ的な連続殺人事件が発生する。(その割には警察ものんびりしているのだが)

で、ここから本筋。
良く言えば、スピード感や意外性十分のフーダニットを絡めたいかにも現代風のミステリー。悪く言えば、どこかで読んだような(何度も)、既視感ありありのプロット、というところか。
作者自身も作中でアメリカのミステリーチャンネルを揶揄しているのだが、本作こそまさにそれをなぞったかのようなミステリーに仕上がっている。
視点人物が次々に入れ替わり、真犯人の思わせぶりな独白パートが中途で何回も挿入されるなどなど、これでは某J.ディーヴァーの焼き直しと言われても仕方ない。
そしてラストに判明するサプライズ!というべき驚きの真犯人。
ただ、やっぱり練り込み不足かな。三つの脇筋が最後に合流するというプロット自体はいいんだけど、最初からミエミエだしね。
ここまであからさまな疑似餌だと、さすがにアホな読者も引っ掛からないということ。

ちょっと辛口すぎる書評になってしまったけど、きれいにまとまってるし、駄作というわけではないので誤解なきよう。
デビュー作でここまで書ければ上出来かもね。


No.1434 5点 シーラカンス殺人事件
内田康夫
(2018/04/01 21:02登録)
去る三月十八日、八十三歳にてお亡くなりになった作者。
浅見光彦シリーズをはじめとして、数多くの作品を残された作者に敬意を評して・・・ということで本作をセレクト。
1983年発表で探偵役は初期作品らしく、警視庁の岡部警部。

~大東新聞学芸部記者・一条秀夫は、大東新聞が後援する<シーラカンス学術調査隊>に同行するため、南アフリカのコモロ・イスラム共和国へ特派された。だが、“巨大シーラカンス日本へ”という特ダネが大東新聞のライバル紙中央新聞の第一面を飾った。大東は完全に出し抜かれたのだ。その後、一条は突然姿をくらまし、調査隊員のひとり・平野の死体が発見された。凶器には一条の指紋が! 傑作長編ミステリー~

内田康夫というと、世間的には「浅見光彦」というイメージだろうね。
実際、あれだけ日本中の津々浦々を訪れ、各地の名所や名産、名物料理を紹介し、いつも若く美しい女性から好意を寄せられながらプラトニックに徹し、何十年間も“ソアラ”を乗り回し、そして母親に決して頭が上がらない男・・・
いやいや、浅見光彦は今回関係ないんだった。

初期作品にはこの岡部警部や信濃のコロンボこと竹村刑事(のちに警部)が主な探偵役として登場するけど、この二人をメインで書き続けてたらどうだったかね?
本作同様、ずっと硬派で真面目な作風だったのかな・・・
ひとつ言えるのは、間違いなくここまでの人気作家にはなってなかったろうね。
でも、そのせいでコアなミステリーファンからはそっぽを向かれる存在になってしまった。
個人的には・・・昔は旅のお供として手軽な読書にはうってつけの存在だったけど、最近はだいぶご無沙汰だったなぁー

というわけで、一応本作の書評もということなんだけど、うーん。
ひとことでいうと、可もなく不可もなくという感じかな。
もともと探偵役の捜査行を追っていくだけの読書になりがちだし、本作はアリバイトリックなどで多少の工夫があるとはいえ、サプライズなどとは無縁なプロット。
ただ、逆に言えば安心して読める。若い頃から抜群の安定感。
褒めるところはそれくらいか・・・
いずれにしても合掌。ご冥福をお祈りします。
(シーラカンスか・・・最近ぜんぜん話題に上がらないけど、どうなんだろ?)


No.1433 5点 虹の歯ブラシ 上木らいち発散
早坂吝
(2018/04/01 21:01登録)
問題作(?)「○○○○○○○○殺人事件」につづく、上木らいちシリーズの第二弾。
単行本刊行は2015年だが、文庫化に当たり大幅改稿が行われたとのこと(文庫版「作者あとがき」より)。
今回も問題(?)満載の連作短篇集。

①「紫は移ろいゆくものの色」=「紫」の章。初っ端作品らしく、“軽いジャブ”って感じの一作。こんなアリバイトリックを思い付いて実行する奴が本当にいたらスゴイ!
②「藍は世界中のジーンズを染めている色」=「藍」の章。ラブホテルに残されたジーンズのジッパーに残された指紋から導き出す、らいちの見事なロジック! まさにらいちしか思い付かない推理・・・かも? これが藍川刑事とらいちの出会いとなった事件。
③「青は海とマニキュアの色」=「青」の章。「作者あとがき」によると、本編がこの連作の端緒となった作品とのこと・・・だが、こりゃ“大問題作”だな。まさか本作を褒めている方がいらっしゃるとは思わなかった! あの深水氏までもが褒めてるなんて、ある意味ショック。これじゃタチの悪い特撮AVみたいだ・・・
④「緑は推理小説御用達の色」=「緑」の章。これもなぁ・・・、やれやれっていう感覚に陥ったけど、これはこれでアリかなとも思う。
⑤「黄はお金の匂いの色」=「黄」の章。ここまでくると、作者の狙いってなに?っていう疑問がまず浮かぶ。正直、何書いてるかよく分からないんだけど、多分これも作者の仕掛けなんだろうね・・・(っていうことで次へ)
⑥「橙は???の色」=「橙」の章。これは普通に一読しても理解不能。(っていうことで次へ)
⑦「赤は上木らいち自身の色」=「赤」の章。というわけで、連作の狙い、仕掛けが判明する最終章。確かにね、気になってたよね。途中のよく分からない「太字」や「ルビ」。なるほど、こういうことか・・・。で、結局?

以上7編。
なにか、作者にいいように遊ばれてる感じだ。
①~③辺りまではまだいいんだけど、だんだんと不穏な空気が流れてきて、最終章まで付き合うと怒りすら覚えてくる。

でも、それも作者の狙いなのだろうね。
ふざけてるといえばふざけてるんだけど、ミステリーなんて所詮作者の匙加減ひとつでどうにでもなるもの。
文庫版あとがきで深水氏も書かれてるけど、多重解決やら多重設定やら、つぎつぎと新基軸を考える作者も大変だ・・・
って上から目線でスイマセン。
(一晩五万円か・・・男の夢orロマンだね)


No.1432 5点 紐と十字架
イアン・ランキン
(2018/04/01 21:00登録)
「リーバス警部」シリーズの一作目に当たる本作。
(他の方も触れてますが、当初シリーズ化の意図はなかったとのこと・・・)
1987年の発表。

~「結び目のついた紐」と「マッチ棒で作られた十字架」・・・。奇妙な品物がリーバスのもとに届けられた。別れた妻が嫌がらせで送ってきたのか? 孤独なリーバスはエジンバラの街を震撼させている少女誘拐事件の捜査に打ち込む。だが、間もなく少女は無残な絞殺体で発見された。やがて彼のもとに差出人不明の手紙が。「まだおまえは分からないのか?」・・・。現代イギリス・ミステリーの最高峰、リーバス警部シリーズ待望の第一作~

エジンバラ・・・
有名なスコットランドの古都。人口約四十六万人。旧市街と新市街の美しい街並みはユネスコ世界遺産にも登録されている。
イギリス国内有数の観光都市である・・・(ウィキペディアより)

ということで、舞台となるのがエジンバラということがまずは本作、本シリーズの魅力となっている。
本格ミステリーというよりは米国のハードボイルドや警察小説の影響を強く受けた作風なんだけど、LAやNY、はたまたロンドンという渇い大都市ではなく、何ともジメジメした地方都市、しかも歴史だけは古く、伝統と因習に彩られた街で起こる事件・・・
それが本作、本シリーズの価値を高めているのだろう。

で、本筋はというと、うーん。正直、たいしたことはない。
真相についても、もう少し早く気づくだろう!っていうレベルだし、連続少女誘拐&殺人事件という猟奇的&魅力的な筋立ての割には工夫が足りないというか、起伏に乏しい。
リーバスの家族や過去に焦点を当てるというプロットも、シリーズ化を企図していたなら分かるけど、そうじゃなかったっていうんだからなぁー・・・
終章の対決場面も若干(?)消化不良気味。
それほど悪くはないんだけど、特段褒めるところもないというのが正当な評価かな。


No.1431 5点 化石少女
麻耶雄嵩
(2018/03/25 22:02登録)
~京都の名門高校に続発する怪事件。挑むは化石オタクにして極め付きの劣等生・神舞まりあ。哀れ、お供にされた一年生男子と繰り広げる奇天烈推理の数々。いったい事件の解決はどうなってしまうのか?~
2014年発表の連作短篇集。

①「古生物部、推理する」=まずは主要登場人物の紹介がてら、という初っ端の作品。まりあの奇天烈なキャラ&推理。諌める“従僕”桑島彰・・・
②「真実の壁」=部室棟の横になぜか聳え立つ「真実の壁」。そこに映ったのは加害者と被害者の影・・・というわけで、謎そのものは魅力的なんだけど、なにせまともなミステリーじゃないからね。
③「移行殺人」=叡山電鉄と嵐山電鉄ですか・・・。いいですね、特にこれからのお花見シーズンは・・・っておいおい、そんなことじゃないだろ!ってツッコミを入れたくなる一編。
④「自動車墓場」=古生物部の合宿で訪れた石川県でもまたまた巻き起こる殺人事件。一見するとまともなアリバイトリックのように思えたけど、まりあが指摘する推理はまとも・・・ではない。
⑤「幽霊クラブ」=ここまできても、この連作の意図(オチ?)は見えず。今回も真相はうやむやに・・・
⑥「赤と黒」=一応、密室殺人が扱われるラスト。これもうやむやに終わらせるかに見えて・・・問題のエピローグに突入。

以上6編。
またまた実に斬新なミステリー、ということで・・・
プロットというか、作者の狙いについては他の方がすでに詳しく書かれてますので、そちらをご参照ください。

しかしなぁ・・・
いくらミステリーの真相なんて作者の匙加減ひとつって言ってもなぁー
ここまで遊ばれるとねぇ・・・なんか真面目に読むのが馬鹿らしくなってしまう。
そりゃ、つぎつぎにアイデアをひねり出すのは至難の業なんでしょうけど・・・

今回は作者の底意地の悪さが良くない方に出ちゃった感が強い。
まぁたまにはこんなこともあるだろうね。


No.1430 6点 金曜日ラビは寝坊した
ハリイ・ケメルマン
(2018/03/25 22:01登録)
『九マイルは遠すぎる』で著名な作者のもうひとつの代表作(っていうかシリーズ)。
「○曜日+ラビ」シリーズ全五作の初っ端を飾るのが本作。
1964年の発表。

~マサチューセッツ郊外の町バーナード・クロスウィングに赴任してきた若いラビ(ユダヤ教の律法学士)、デイビット・スモールの評判は芳しくなかった。無頓着な服装と理屈っぽい説教に、教会の古い信者たちは眉をひそめていた。そんなとき、教会の庭に置いてあったラビの車のそばで女の絞殺死体が発見された。捜査は難航し、手掛かりはラビの車に残された女のハンドバックだけ。苦境に立ちながら、ラビは驚くべき論理性に貫かれた推理を駆使して反撃を開始した・・・~

なかなか事件が起きないし、本筋以外の脇道や薀蓄めいた説明箇所が多すぎない?
読みながらそんなことを考えずにはいられなかった。
まぁ、シリーズ一作目だしね。
いきなり「ラビ」って言われても、『何それ?』って思うよね、多分。

他の方も書かれているとおりで、ユダヤ教やユダヤ人、彼らのサークル(社会)などが丁寧に説明されていて、それはそれでまぁ参考になったといえばそうなのだが・・・
その代わり、本筋がやけにあっさりしてたなというのは否めない。
「車の後部座席に残された吸殻」のくだりだけが、いかにも作者らしい、「九マイル・・・」に通じるロジックっぽい箇所かな。
ただ、このフーダニットはどうだろう?
確かにサプライズ感はあるけど、まさかあの違和感がこんな結果になるとは・・・ということで、作者の大胆さにある意味サプライズだ。

良く言えば「ケレン味のない文章」だし、そこは評価すべきポイントなのだろう。
その分、派手好みの方には少々物足りなく映るかもしれないが・・・
個人的には嫌いではないが、もうワンパンチ、ツーパンチ欲しかったなという気にはさせられた。(曖昧な表現ですなぁー)
でも続編は読むでしょう。


No.1429 6点 迷蝶の島
泡坂妻夫
(2018/03/25 22:00登録)
作者の第五長編。
一月から河出文庫より三か月連続で復刊された泡坂作品の第三弾がコレ。
1980年発表。

~太平洋を航海するヨットの上から落とされた女と、絶海の孤島に吊るされていた男。いったい誰が誰を殺したのか? そもそもこれは夢か現実か? 男の手記、関係者の証言などでつぎつぎと明かされていく三角関係に陥った男女の愛憎と、奇妙で不可解な事件の驚くべき真相とは?~

これは・・・策略に満ちた作者らしい作品。
そもそも「手記」から始まること自体怪しいよね。
ミステリーに出てくる「手記」なんて、明らかに仕掛けが満載なのだから・・・
「洋上の船」という舞台もミステリーにはたびたび登場するけど、やっぱり魅力的に映る。
究極の密室とも言えるし、絶海の孤島などという表現がサスペンス感を増す効果を生んでる。
(そういえば“山岳ミステリー”という言葉は聞くけど、“洋上ミステリー”というのはあまり聞かないな・・・)

というわけで本筋なのだが・・・
仕掛けそのものは割と単純。
最後まで読めば、「何だそんなことか・・・」という感覚になるかもしれない。
ただ、手記の謎を別の手記が明らかにするというプロットはなかなか面白い。
男女の「愛憎」の絡め方もさすがに旨いし、いい意味で「手堅い」仕上げだなと思った。

でも、女って怖いね・・・
こんな女には近づかないのが一番ということだ。でもまるで「迷蝶」の如くフラフラと引き寄せられてしまう・・・
ってことは、「迷蝶」って実は男の方を象徴してたのかな?


No.1428 6点 危険な童話
土屋隆夫
(2018/03/11 12:17登録)
長編としては「天狗の面」「天国は遠すぎる」に続く三番目の作品となる本作。
次作以降シリーズ探偵となる千草検事ではなく、信州上田署の木曽刑事が探偵役として大奮闘。
1961年の発表。

~『ねぇ だれか わたしと遊ばない?』 あるばん お月さまが お星さまたちに 話しかけました・・・。幻想的な童話と血腥い殺人。被害者は傷害致死で服役し、仮釈放されたばかりの男・須賀俊二だった。人生の再出発を誓う彼が訪れたのは、従姉妹のピアノ教師の家。しかし、ここには何者かの冷酷な殺意が待ち受けていた。日本推理史上屈指の名作~

さすがに代表作とされるだけはあって、重厚で精緻、そして作者らしく何とも物悲しさに彩られた作品。
そんな印象の作品だった。
他の作品でも感じたことだけど、ミステリーに対する氏の真摯な想いや情熱がストレートに伝わって来るのが好ましい。

プロットは単純と断ずるのは簡単だけど、裏を返せば実に難しいプロット。
最初から犯人は明白。途中で対抗馬は殆ど現れず、アリバイを含めた犯行過程の謎一本槍。
これだけで最後まで引っ張らなくてはならないのだ。
並みの作家ならいろんな脇筋や蘊蓄や途中訪れる地の観光案内(?)やら書きそうなものだけど、そういった装飾は殆どなし。
終盤、木曽刑事の気付きからついにトリックが瓦解する刹那。
これこそが本作の白眉に違いない。
動機もねぇ・・・前時代的といえばそうなんだけど、重いよなぁー。

と、ここまで好意的なコメントを続けてきましたが、不満点も相応にあるというのが本音。
一番気になったのはやっぱりハガキの指紋の件。
真犯人が策を弄するわけなんだけど、これは明らかに蛇足だし意味のないトリックだろう。かえってリスクを増大させている。
童話の件も、かなりあやふやなものに賭けたなぁーという気がした。
両方ともプロットの鍵となるだけに、これは割引材料。
トータルとしては他作品より上かと言われると、そこまでではないという評価。


No.1427 5点 拾った女
チャールズ・ウィルフォード
(2018/03/11 12:16登録)
1954年発表の長編。
作者は『マイアミ・ポリス』三部作などで知られる米クライムノベルの巨匠(とのこと)。
原題“Pick Up”

~サンフランシスコ、夜。小柄でブロンドの美しい女がカフェに入ってきた。コーヒーを飲んだあと、自分は文無しのうえハンドバックをどこかで失くしたという。店で働くハリーは、ヘレンと名乗る酔いどれの女を連れ出し、街のホテルに泊まらせてやる。翌日、金を返しにやって来たヘレンと再開したハリーは、衝動的に仕事を辞めヘレンと夜の街へ。そのまま同棲を始めたふたりだったが、彼らの胸中に常につきまとったのは死への抗いがたい誘いだった・・・~

杉江松恋氏が、巻末解説で本作を『ある男女のやりきれない恋愛物語』と評しているが、ひとことで表すならまぁそういうことかなという感じ。
偶然出会った男女がまるで運命の糸に導かれるように同棲生活をはじめ、先の見えない人生に悲観し、やがて死を望むようになる・・・
ひと昔も、ふた昔の前の映画のようなシナリオではないか。

ただし、これが単なる恋愛物語で終わらせないのが、ヘレンの死以降の展開。
徐々にハリーの歪んだ精神や頭の中が明らかになるにつれ、これはそういう方向のミステリーかな?って感じてくる。
そして、問題のラスト2行なのだが・・・
これは、「だから・・・何?」って最初は思った。
でもこれがいわゆる「技法」なんだね。物語の風景が一変する、とまではいかないけど、違う角度から読む必要が出てくる。
これこそが作者の腕前ということなんだろう。

とはいえ、二度読みするほどかなっていうのが実感。
サラサラと読めてしまうし、ケーブルカーの走るサンフランシスコの街並みという舞台設定も魅力的。
それなりに味わい深い読書も可能なのだが・・・
どうもね、個人的嗜好とは外れている感じだ。


No.1426 5点 七人の敵がいる
加納朋子
(2018/03/11 12:15登録)
小説「すばる」誌に断続的に掲載されてきた作品をまとめた連作形式の長編or作品集。
単行本化は2010年。
各編(各章)にはタイトルどおり、様々な“敵”が並ぶ!

①「女は女の敵である」=ということで、敵は女である。まずは主人公・陽子の「ブルドーザー」と呼ばれる辣腕ぶりが発揮される。小学校のPTAかぁー。未知の世界だ!
②「義母義家族は敵である」=こんないい義母。敵だと思ったらバチが当たる! 小姑的な女性は嫌だが・・・
③「男もたいがい、敵である」=そうです。プライドと見栄の塊なんですよ、男っていうものは!
④「当然夫も敵である」=もちろん! 敵同士です。夫婦なんて! もちろん例外はありますが・・・
⑤「我が子だろうが敵になる」=タイトルとは裏腹に、ここで重大な秘密が明かされることになる。
⑥「先生が敵である」=個人的に“教師”という人種は嫌いである。こういう“狙い”で教師になってる奴って多いんじゃないのか、と邪推したりする。
⑦「会長様は敵である」=ラストは「大ボス」とでもいうべきPTA会長との対決。こういう相手こそ陽子の真骨頂発揮・・・ということで。

以上7編+α。
非ミステリーである。でもそんなことはどうでもよい(いや、どうでもよくないのだが・・・)。
あくまで女性視点であるので、世のお父さん方、ご安心ください。
いや、安心しない方がいい?
とにかく身に覚えのあることが多すぎて、もはや読むのが苦痛になるほどだった。

PTA活動? 自治会活動? やってないねぇ・・・
働き方改革真っ只中の現在。価値観を少し改める必要はあるのでしょう。
いずれにしても、世の中は女性中心で回っているんだなと痛感させられた次第。
(まったくミステリー書評ではないな)


No.1425 6点 エッジウェア卿の死
アガサ・クリスティー
(2018/03/08 17:58登録)
エルキュール・ポワロ探偵譚の七作目。
他の皆さんも書かれているとおり、創元版では「晩餐会の十三人」という別タイトルとなる本作。
1933年の発表。

~自宅で殺されたエッジウェア卿の妻は、美貌の舞台女優ジェーン・ウィルキンスンだった。彼女は夫との離婚を望んでおり、事件当夜に屋敷で姿を目撃された有力な容疑者だった。しかし、その時刻に彼女はある晩餐会に出席し、鉄壁のアリバイがあったのだ・・・。数多の事件の中で最も手強い敵に立ち向かう名探偵ポワロ!~

雰囲気は大好きだし、途中までは相当に期待が膨らんだ。
もしかして他の傑作に負けない佳作なのではないか?という気にさえさせられていた。
ただなぁ・・・メイントリックとなるアレがなぁーどうにもいただけない。

さすがにクリスティらしく、作中には用意周到に伏線が張り巡らされている。
それこそ読者のミスディレクションをいまかいまかと待ち受けるように。
途中にポワロが提示する五つの疑問も、いかにも手練のミステリーファンを意識したつくりだ。
「鼻眼鏡」やら「謎のイニシャル付きの宝石箱」やら「届かなかった手紙」やら・・・
読者としては意識せずにはいられない小道具の数々。
さすがにクリスティ!って思っていた。

だからこそ、このメイントリックはねぇ・・・
何回も書評で触れたように思うけど、「○れ○わ○」トリックは基本的に眉唾だと思うのだ。
人間の感覚はそこまで鈍くはないっていうか・・・
ただし、本作の場合、それは分かった上で更にその上(或いは裏)をいくというという点では十分ありなのかもしれない。

いずれにしても、「旨い」のは間違いない。
本格ミステリーとはこうでなくては、と思わせるに十分の大作。
真犯人のキャラも強烈だし。決して低い評価にはならないでしょう。


No.1424 5点 バラの中の死
日下圭介
(2018/03/08 17:56登録)
1975年に「蝶たちはいま・・・」で江戸川乱歩賞受賞。
作者についてはその程度の知識しか持ち合わせていませんが・・・
粒ぞろいの短編から選りすぐられた作品集(とのこと)。

①「砕けて殺意」=悪く言えば「実に古臭い」ミステリー。真相は「何じゃそりゃ!」というようなもの。でもなぜか味わい深い。
②「流れ藻」=これも何とも言えぬ味わいを醸し出すミステリー。日本海側の荒波が目に浮かぶような・・・。実に「昭和」を感じさせる。
③「突然のヒマワリ」=ヒマワリが真相解明のヒントとなる本作。ここまで読むと、作者の作風がなんとなく読めてくる。
④「バラの中の死」=実に美しい「殺人現場(?」。それだけが印象に残った。それ以外は「う~ん」・・・
⑤「暗い光」=タイトルどおり何とも“暗さ”を感じさせる作品。この「甥」キモイって思うのは私だけだろうか?
⑥「木の上の眼鏡」=これはよくある手といえばそうなのだが、ジワジワ効いてくる佳作。ラストは「やっぱりね」とは思うんだけど・・・
⑦「木に登る犬」=なぜ犬が木に登る(登ろうとする)のか? それが真相解明の重大なヒントとなる。
⑧「鶯を呼ぶ少年」=これも・・・暗い作品だなぁー。何ともいえずしんみりしてしまう。

以上8編。
良く言えば「味わい深い」「渋い」、悪く言えば「重い」「ジメジメした」というところか。
確かに清張を彷彿させるところはあって、それはつまい「旨い」ということなんだけど、読めば読むほど“どんより”した気分になってしまう。
登場人物がまたジメジメしてるのだ。
退職後の警察官や田舎でイジメにあっている少年、子供を失った中年男・・・etc

評価としては・・・うーんこんなもんかな。
別に悪い作品ではないのだが、積極的にオススメできるものでもない。
渋い作品が好みなら是非どうぞ。
(ベストは⑥かな。あとは⑦か②というところ)


No.1423 5点 柩の中の狂騒
菅原和也
(2018/03/08 17:55登録)
第三十二回横溝正史ミステリ大賞を「ゴミよ、言葉なんて」(単行本化に当たり「さあ、地獄へ堕ちよう」へ改題)にて受賞。
1988年生まれ。バーテンダー、クラブのボーイなど異色の経歴を持つ・・・とのことで、作者の初読み。
(手に取ったのは単なる偶然ですが・・・)
文庫化に当たって「柩の中に生者はいらない」へ改題されたものを今回読了。2014年の発表。

~『悪魔』の透明標本を作り学会から追放されたと噂される根室正志。その根室の最後の作品が完成し、披露されることになった。人づてに聞きつけ集まったのは一見結び付きのない八人の参加者。猟奇事件を追うフリーライター、遺産で生活する美人写真家、推理作家など・・・。彼らは福島県の沖合の孤島に向かうも、予想外の事件が待ち受けていた。島での一夜を余儀なくされた男女にさまざまな思惑が渦巻く。そして第一の殺人事件が・・・~

ということで、外界から隔絶された「孤島」に浮かぶ妙な造形の「館」である。
集められたいかにも秘密有りげなメンバーたち、招待主も一癖も二癖もありそうな芸術家(科学者?)
そして唐突に発生する殺人事件。しかも死体の首だけが発見される猟奇的殺人。
当然のように第二、第三の事件が・・・

なにを今さら、こんな設定持ち出しやがって!
って思うよね。自分自身で作品のハードルを上げているとしか思えない暴挙!
で、うまくできているかというと、これが微妙なのである。
ネタバレになりそうなのであまり書けないけど、少なくとも“正統派の”本格ミステリーでは決してない。
もともとがホラー寄りの作者らしいけど、そこまで「ホラー」に振り切っているわけでもない。
「本格」と「ホラー」のハイブリッド、いいとこ取りを狙った作品なのだろう。

数多のミステリー作家が掘り尽くした「絶海の孤島」という鉱脈を最後にひとすくいしてやろうとした、とでも表現すればいいのか。
しかし、そこに「金」は殆どなく、あったのは僅かばかりの「砂金」だったということかな。(分かりにくい?)
常識的な解決が付けられたと思われた矢先に仕掛けられた作者の毒(っていうか仕掛け)。
これも「毒」の量が少なくて、あまり痺れなかった。
まぁチャレンジスピリッツは買うけどね。作風ほど作者はとんがってなくて、やや予定調和というか読者の顔色を伺ってる感が鼻に付くのが惜しい。


No.1422 6点 詩人と狂人たち
G・K・チェスタトン
(2018/02/25 11:50登録)
~平穏な風景の中に覗く微かな違和感から奇妙な謎を見出し、逆説と諧謔に満ちた探偵術で解き明かす。画家にして詩人であるカブリエル・ゲイルの活躍を描く八編の探偵譚を収録。チェスタトンの真骨頂というべき幻想ミステリーの傑作!~
ということで、実に「難解」な作品集。
1929年の発表。新訳版にて読了。

①「風変わりな二人組」=まずはご挨拶がてら、とでも言うべき初っ端の作品。『この世界は上下さかさまなんです。僕らはみんな上下さかさまなんです・・・』、って???
②「黄色い鳥」=『君は二等辺三角形だったことはあるかい?』、って??? でもこの問いについては解答を与えてくれる。(なんとなく分かるような・・・)
③「鱶の影」=なんと“足跡のない殺人”という実に普遍的なテーマがここにきて登場! でもまさかこういうトリックとは、っていうかトリックなんていうものじゃない。でもまぁ、ミステリーっぽさは一番かもしれない。
④「ガブリエル・ゲイルの犯罪」=『君、野原に仰向けになって、空を見つめて、踵で宙を蹴ったことがあるかい?』、って?? ゲイル自身の犯した犯罪(?)にはやはり意味があった。
⑤「石の指」=これもゲイルの逆説的探偵法が示される一編。行方不明になったと思われた科学者(?)が意外な場所で意外な姿で発見される。犯罪の動機もこれは首肯できる。
⑥「孔雀の家」=個人的にはこれがベストかな・・・。十三人目のゲストとしてなぜか見ず知らずの家に招かれたゲイルが殺人事件に巻き込まれる。ホワイダニットも気が利いてて、通常のミステリー寄りの作品だろう。
⑦「紫の宝石」=うん。実にチェスタトンらしいプロットというか雰囲気。目の前に見えるものが真の姿ではないと、ゲイルの指摘により明かされる刹那。まぁ、よく見れば分かりそうなものだが・・・
⑧「冒険の病院」=最初はよく分からなかったんだけど、よくよく考えてみると、なかなか驚きの真相ではあるし、うまくできてると感心。ラストは“狂人”らしくというか、ゲイルらしい終わり方(なんだろう)。

以上8編。
なかなかの怪作。分かりにくさは「ブラウン神父」シリーズを遥かに凌駕している。
初心者や私のような底の浅い人間には辛い読書かもね。

でも、よくよく考えてみると、実に示唆に富んだ質の高いミステリーであることが分かってくる。
さすがにチェスタトン。並みの作家ではない。
再読すればもう少し良さが理解できるはず!


No.1421 5点 双孔堂の殺人~Double Torus~
周木律
(2018/02/25 11:49登録)
「眼球堂の殺人」につづく、『堂』シリーズの第二弾。
今回も一風(かなり?)変わった建物、そして新たなシリーズキャラクターも登場。
2013年の発表。

~二重鍵状の館“Double Torus(ダブル・トーラス)”。警察庁キャリアである宮司司(ぐうじつかさ)は放浪の数学者・十和田只人に会うため、そこへ向かった。だが彼を待ち受けていたのはふたつの密室殺人と容疑者となった十和田の姿だった。建築物の謎、数学者たちの秘された物語。シリーズとして再構築された世界にミステリーの面白さが溢れるシリーズ第二弾~

「眼球堂」よりもスケールではワンランク下・・・っていう感じだ。
前作につづき今回も「堂」にまつわる“大掛かりな”トリックが十和田の推理のもと詳らかにされる。
図面もふんだんに挿入されていて、その点はいいんだけど、どうにも分かりにくいような・・・
文章を追っているだけでは、「いったいどういう仕掛けor建物?」っていう疑問が湧いてきた。
まぁ、ものすごく単純化して表現するなら、そのむかし、推理クイズなんかであった「崖の上に立つ建物」(○Fが実は・・・ってネタバレか?)のようなものか?

密室は・・・肩透かしといえば肩透かし。
なんとなく「入れなくちゃいけないんで入れました」というような開き直りを感じてしまう。
動機やラストのどんでん返しは・・・こんなもんかな。ちょっと陳腐かもしれない。
数学の話は・・・まぁ必要か不必要かと問われれば「不必要」なんだろうけど、作品の世界観にかかわることだからねぇ・・・。十和田が探偵役を務める以上は付き合わざるを得ないでしょう。

全般的には他の方も触れられているとおり、綾辻の「館」シリーズと森の「S&M」シリーズをハイブリッドして数学風味をプラスしました、っていうことなんだろう。
そう聞くだけで背を向ける読者も多そうだけど、難しい分野に敢えて踏み込もうとするチャレンジ・スピリッツは買いたい。
上から目線っぽいけど、そんなことを感じた次第。
(シリーズキャラが今ひとつ弱いのがねぇー地味な理由かな)


No.1420 6点 神様の裏の顔
藤崎翔
(2018/02/25 11:48登録)
重ねて第三十四回目の横溝正史ミステリ大賞受賞作。
元お笑い芸人という異色の経歴でも騒がれた本作。
2014年の発表。

~神様のような清廉潔白な教師、坪井誠造が逝去した。その通夜は悲しみに包まれ、誰もが涙した。・・・のだが、参列者たちが「神様」を偲ぶなか、とんでもない疑惑が。実は坪井は凶悪な犯罪者だったのではないか? 坪井の美しい娘、後輩教師、教え子のアラフォー男性と今どきギャル、ご近所の主婦とお笑い芸人。二転三転する彼らの推理は? どんでん返しの結末に話題騒然となる!~

他の方も書かれてましたが、確かによくできたコントのシナリオのような雰囲気。
これは別にけなしているわけではない。
実に計算された舞台劇という意味での「よくできた」なのだ。
(三谷幸喜のシナリオに近いような雰囲気もある・・・かな?)

物語は紹介文のとおりで、登場人物ひとりひとりが亡き坪井誠造の「神様」のような振る舞いを偲ぶ回想シーンから始まる。
ただし、回想シーンのところどころに“わざと”「伏線」がまかれていて、読み手の心をザワザワさせる。
そして、物語は急転直下。聖人君子だった男が、世にも希な殺人鬼へと・・・
平穏な方向へと落ち着くかに見えた終盤。物語は更なるサプライズへと導かれていく・・・のだ。

こんなふうに書くと、ものすごく面白い作品のように思っちゃうよね。
でもまぁ、そこまでではない。
ラストは予想の範疇という方もいらっしゃるだろう。
作者としてはこのメイントリックこそがサビでありオチだったんだろうな・・・乾坤一擲。長年温めてきた!っていう感じだ。
デビュー作としては十分及第点だと思う。
アイデアとしてはなかなか面白くて、「なるほどね」と感心させられる点もあった。
もちろん、齟齬や瑕疵はあるけど、そこら辺はまぁー目をつぶってということで・・・
(これは・・・叙述トリックということだよね?)

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