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ミステリの祭典

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007/カジノ・ロワイヤル
007

作家 イアン・フレミング
出版日1963年06月
平均点5.60点
書評数5人

No.5 6点 クリスティ再読
(2019/08/25 15:22登録)
創元の新訳の流れの中で、「カジノ・ロワイヤル」も新訳されてしまった。評者も珍しく新刊新本も買って「カジノ」祭りとシャレこもうか。原作旧訳/新訳、映画1967/2006と総まくりである。
まずは新訳。結構直訳風で日本語がこなれてない。まあ井上一夫の旧訳だと、007のウリであるスノッブなグッズが翻訳時点で馴染みがないこともあって、今読むとトンチンカンな紹介になってることも多くて(苦笑)しながら読んでたこともあるが...まあそういうあたりは当然直る。しかしね、比較して読むと旧訳がいかに「読み物としてマトモに楽しめるものを」と工夫しているのがよくわかるよ。

ルーレットのひとまわり、カードのひとくばりごとに、一パーセントというささやかなお宝を積み上げていく。数字に目のない太った猫のような鼓動だ。

ルーレットがまわるたび、カードがめくられるたびにカジノにもたらされる一パーセントの金というささやかな財宝の累計を計算している音だ。心臓があるべき場所にゼロしかないのに脈を搏ちつづける肥えた猫—それがカジノだ。

フレミングは教養あるから、凝って捻った言い回しのキメ台詞を決めるわけだが、そのヒネりぐあいにヒネられて、文脈があっちの方向に行方不明な訳みたいだ。旧訳にはまったく及ばないようである。
小説自体はまだ007のキャラが確立していない部分があるんだけども、スノッブなヨーロッパの上流のお楽しみ描写、ボンドのギャンブル哲学もちゃんと「らしく」あって、また文体はホントに完成している。額を撃たれて...

つかのま三つの目すべてが部屋の反対側を見つめているようだった。つづいて顔全体が、一気に片膝のほうへ滑り落ちていくように見えた。最初からある左右の目がぐるりとまわって天井のほうをむく。重い頭部が横へ倒れていき、さらに右肩が、最後には上半身全体が椅子の肘掛けから外側に倒れこんだ。まるで椅子の横に反吐をぶちまけようとしているようだった。

スローモーション、とはこのことだね。凄いな。ここは直訳な新訳がいいあたり。フレミングはスノッブで洒落ているだけじゃなくて、この尖った映像的なセンスの良さがあるから、昔からチャンドラーも褒めれば、タダのスリラー作家じゃない「インテリ御用達」娯楽作家だったわけである。
あとね、実のところこのル・シッフルをバカラでハメる作戦はフィージビリティがある。有名な話だが、純粋なギャンブルであるバカラならではの「必勝法」があるのだ。この007の作戦はいわゆる「倍プッシュ必勝法(マーチンゲール法)」で、資金が無限に続き、勝っているところで一方的に勝負を終わらせられるなら、確実に勝てるんである。国家がバックに付いたスパイ小説だから、アリなのである。これが小説のキモのアイデアなのだ。
そうしてみると2006年の映画で、運頼みのバカラじゃなくて、競技性が強いポーカーに変更になったのは、作品の軸を崩す改悪だと思うんだ。バカラは純粋なギャンブルで競技性がないからこそ、カジノで他のゲームと違う大金が動くんだと思うんだよ。腕がモノ言うポーカーだったら、「名人」のガチ勝負に対抗しようとするカモなんているもんか。まあ2006年の映画はキマジメで、原作と昔の映画が持っていたスノッブでキッチュな遊び心が全然なくなっているんだね。イマドキはこういうの、ハヤらないのかねえ。007ってマジメじゃあなくて、遊びに魅力があるものなんだけども、この「アソび」の余裕が今はなくなってるのかしらん。
逆に1967年の映画は「アソび」がすべてである。素晴らしい!!遊びのセンスとキッチュな想像力、細部のおシャレさ加減、スター出まくりの無意味なゴージャス感など、ホントに見どころの連続の名作である。映画って話のツジツマがどうこう、なもんであるもんか。確かにパロディだが、原作のスノッブさ・キッチュさ・遊び心はちゃんと再現している。お金かかりまくりでB級どころか豪奢な大作だし、昔は地上波TVでフツーに日曜夕方にでも流れてた作品で誰でも知ってて「カルト」じゃないし...と、かつての日常には浮世離れの「ちょっとした贅沢」が溢れてたんだけど、今はこういうの許されないんだろうかね。
スノッブでゴージャスな007は、21世紀は暮らしにくいとは残念なことだ。

No.4 4点 E-BANKER
(2018/01/03 11:10登録)
言わずと知れた007=ジェームズ・ボンド。
フレミングが発表した小説第一作目が本作なのは知らなかった・・・
1953年の発表。

~英国が誇る秘密情報部。なかでもダブル零(ゼロ)のコードを持つのは、どんな状況をも冷静に切り抜ける腕利きばかり。党の資金を使い込んだソ連の大物工作員がカジノの勝負で一挙に穴埋めを図るつもりらしい。それを阻止すべく、カジノ・ロワイヤルに送り込まれたジェームズ・ボンド。華麗なカジノを舞台に、息詰まる勝負の裏で、密かにめぐらされる陰謀。007ジェームズ・ボンド登場!~

ファンの方には申し訳ないけど、個人的には全く思い入れのない“007”シリーズ。
小説として読んだらこんな感じだったんだねぇ・・・
なる程。正直、趣味には合わなかった。

もちろん時代性もあるし、シリーズ一作目でこなれてないということもあるんだろうけど、全般的に陳腐さが目立った印象。
唯一、敵(ル・シッフル)とのバカラ勝負のシーンだけはやや興奮したけど、ボンドが窮地を脱したあとのヴェスパーとの“ラブゲーム”(?)
ありゃないだろう。
もう展開が見え見えではないか?

ジェームズ・ボンドのキャラも今ひとつ確立されてない感じがして、勝手な思い込みよりも、かなり軟派な印象だった。
序盤は「女なんて邪魔なだけだ・・・」とかなんとか言ってたくせに、大怪我を負った後は、ひたすらヴェスパーを追いかけ、求婚までする始末!
ホロ苦い結末となるラストが救いかも知れない。
というわけで、うーん、高い評価は無理かな。
地上波でさんざん流された過去の映画も見たことないんけど、これからも多分見ないな・・・

No.3 7点 蟷螂の斧
(2016/03/08 11:54登録)
(再読)裏表紙より~『秘密情報部員00七号、ジェームズ・ボンド、彼の新しい任務はソ連の工作員でフランス共産党の大立物、ル・シッフルの資金源を断つことであった。党の資金を使い込み、カジノの賭博場で一挙に挽回をはかろうとするル・シッフル、そうはさせじと英米仏三国共同作戦のもとにバカラ賭博場に挑戦するボンド。賭金は50万フランから始まって、100万」、200万と幾何級数的に上昇し、ついに3200万フランの巨額に達した。興奮と緊張の極に達した人いきれ。そのとき、ボンドの背後にそっと死の影が歩みよった・・・・・・。 』~

「007ドクター・ノオ」(1962年)の映画化以来、半世紀を超えシリーズ(映画)が継続中であることは、驚異的なことです。その記念すべきシリーズ第1作目が「カジノ・ロワイヤル」です。本作は、権利の関係で現シリーズの番外編として映画化(1967)されていますが、コメディ(パロディ)タッチで内容もかけ離れており、拍子抜けした記憶があります。2006年版は原点に戻るということで、かなり原作に忠実だったようですね(未観)。さて、内容は前半はカジノでのバカラ対決を中心に、後半は恋愛小説風となります。「悪漢が最後には殲滅されて、英雄が勲章をもらって美女と結婚するようなロマンチックな冒険小説とは違うんだ。」と適役に言わしめています。思わずニヤッとしてしまいました。著者としては、ハード・ボイルドタッチを取り入れたことや、ラストへの伏線らしきものに言及したのかもしれません。ボンドも苦悩するんだ・・・。

No.2 5点 mini
(2012/11/30 09:56登録)
明日12月1日に007新作映画「スカイフォール」が日本公開となる、ダニエル・クレイグがボンド役となっての3作目である
今回は今まで上司としての意味合いしか持たなかったMに関する話なのだそうだ、M役は前2作同様に今回もおばさん女優ジュディ・デンチ、次回作ではM役が男性に交代するのかなぁ
内容が発表される前は、新007シリーズを書いたジェフリー・ディーヴァーの原作なのでは?との憶測も有ったらしいが、どうやら純粋なオリジナル脚本との事だ
クレイグ主演の1作目「カジノロワイヤル」と2作目「慰めの報酬」はこの順に観ないと駄目よ、先に「慰めの報酬」を観ると序盤の意味が訳分からんと思うよ
しかし新作「スカイフォール」では連作になってはいないらしいので独立して観ても大丈夫だろう

さてクレイグ主演第1作同様に小説でもシリーズ第1作目が「カジノ・ロワイヤル」なのである
だからなのか何となくシリーズの方向性みたいなものがまだ固まっていないような印象を受ける
敵役ル・シッフルを暗殺するのが目的ではなく、プロパガンダ的に評判を失墜させる為にポーカー勝負をやるってのが冷戦時代らしい特色だ
映画版では流石にル・シッフルをソ連の工作員とするのは時代錯誤なので現代風に設定を変えている
でもソ連を犯罪組織に設定変更した以外は、私が知る限りこれほど原作に忠実な映画化は最近ではあまり例が無いのではないだろうか
いくつかの原作を場面を繋ぎ合わせた例は過去の映画化にも有るんだけどね、1作丸ごと忠実な映画化は珍しいと思う

No.1 6点
(2012/06/20 13:03登録)
悲恋物語風・ハードボイルド・スパイ小説。
前半は賭博シーンやカーチェイス、ボンドの拷問シーンなど見せ場は十分にあります。後半は一転、サスペンスタッチの静かな恋愛ドラマへ。ラストにはミステリー的な仰天の真相が開示されますが、なんとなくわかりやすい作りだし、引っ張りすぎのようにも思います。
まあでも、いい雰囲気の佳品でした。

007は本では初めてで、しかも本作品は新旧ともに映画を観ていません。
アクション・シーンがたっぷりの他の映画作品とくらべると、ずいぶんと雰囲気がちがいます。秘密兵器も出てきませんし、「ゴールド・フィンガー」や「死ぬのは奴らだ」、「トゥモロー・ネバー・ダイ」などの派手な風味はいっさい入っていません。しいて言うなら、「ロシアより愛をこめて」と「女王陛下の007」の両方の味付けをまぜこぜにしたような感じです。
2006年の映画化作品は原作に忠実につくられたそうですが、あのダニエル・クレイグの面差しからすれば作風に似合っていそうですし、うまく仕上がっているのではと想像できます。

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