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ミステリの祭典

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拾った女

作家 チャールズ・ウィルフォード
出版日2016年07月
平均点5.25点
書評数4人

No.4 5点 E-BANKER
(2018/03/11 12:16登録)
1954年発表の長編。
作者は『マイアミ・ポリス』三部作などで知られる米クライムノベルの巨匠(とのこと)。
原題“Pick Up”

~サンフランシスコ、夜。小柄でブロンドの美しい女がカフェに入ってきた。コーヒーを飲んだあと、自分は文無しのうえハンドバックをどこかで失くしたという。店で働くハリーは、ヘレンと名乗る酔いどれの女を連れ出し、街のホテルに泊まらせてやる。翌日、金を返しにやって来たヘレンと再開したハリーは、衝動的に仕事を辞めヘレンと夜の街へ。そのまま同棲を始めたふたりだったが、彼らの胸中に常につきまとったのは死への抗いがたい誘いだった・・・~

杉江松恋氏が、巻末解説で本作を『ある男女のやりきれない恋愛物語』と評しているが、ひとことで表すならまぁそういうことかなという感じ。
偶然出会った男女がまるで運命の糸に導かれるように同棲生活をはじめ、先の見えない人生に悲観し、やがて死を望むようになる・・・
ひと昔も、ふた昔の前の映画のようなシナリオではないか。

ただし、これが単なる恋愛物語で終わらせないのが、ヘレンの死以降の展開。
徐々にハリーの歪んだ精神や頭の中が明らかになるにつれ、これはそういう方向のミステリーかな?って感じてくる。
そして、問題のラスト2行なのだが・・・
これは、「だから・・・何?」って最初は思った。
でもこれがいわゆる「技法」なんだね。物語の風景が一変する、とまではいかないけど、違う角度から読む必要が出てくる。
これこそが作者の腕前ということなんだろう。

とはいえ、二度読みするほどかなっていうのが実感。
サラサラと読めてしまうし、ケーブルカーの走るサンフランシスコの街並みという舞台設定も魅力的。
それなりに味わい深い読書も可能なのだが・・・
どうもね、個人的嗜好とは外れている感じだ。

No.3 6点 小原庄助
(2017/09/14 09:18登録)
ストーリーは極めて単純だが精緻な仕掛けによって、初読時と2回目以降とでは、全く異なる世界が見える。
男と女の運命的な出会いが、それぞれの人生を転落に導いてしまう。
そんな悲恋と破滅の物語を読み終えた瞬間、そこに隠されたもう一つの風景が現れる。
作中のちょっとした描写も、読み返せば新たな意味が加わる。
哀しみに彩られた物語を支える、洗練された技巧を堪能できる。

No.2 4点 蟷螂の斧
(2016/11/08 21:54登録)
ノワールに分類されるようですが、どこがノワール的なのかよく分かりません。解説者の杉江松恋氏は「これは、ある男女のやりきれない恋愛物語である。」としていますが、どこが恋愛?(単なる出会いでは?)この辺もよく理解できませんでした。後半の違和感が伏線になっているとのことですが、「ああ、そうなんですか」という程度のものです。ミステリー的な伏線とニュアンスが違う気がします。結局のところ、掴みどころのない小説ということになるのでしょうか。

No.1 6点 kanamori
(2016/08/12 20:16登録)
サンフランシスコ、夜。俺が働く安食堂にふらっと入ってきたブロンド女は、ハンドバックをなくし無一文だという。ホテルを世話した翌日、金を返しに来た女と再会した俺は、衝動的に仕事を投げ出し、その女ヘレンを連れ出して同棲を始める。だが、酒浸りの貧乏暮らしを続ける2人の胸中に、やがて死への抗いがたい誘いが---------。

いわゆる典型的なファム・ファタールものの恋愛小説です。主人公の”俺”ことハリーは、画家を目指すも挫折しその日暮らしをするダメ男で、”運命の女”ヘレンは、暴力的な夫から逃げてきた強度のアルコール依存症。八方塞がりの二人に未来はない。
はっきり言って先は読めるし、クライム・ノヴェル風の展開になるのもだいたい予想の範疇内ですが、本書のキモは「ラストの2行」で明らかになるある仕掛けです。たしかに、これは最後まで読むと、もう一度違和感があったところだけでも読み直したくなりますね。
ただ、”二度読み必至の恋愛小説”といっても、十年ぐらい前にベストセラーになった某国内ミステリのような、どんでん返しや構図の反転モノではなく、再読すると人物の言動・行為が別の意味を持ってくるという妙味です。解説の杉江松恋氏が書いているように、同じ50年代のアメリカの作品で同じアイデアの技法を使った有名作がありますが、伏線の置き方など、先行する本書の方が巧いかもしれませんね。

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