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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1675 5点 空を切り裂いた
飴村行
(2023/09/04 22:35登録)
徴兵されながらも戦争を生き抜き、
戦後、文壇の寵児としてもてはやされた孤高の作家堀永彩雲。
しかしその後半生は、絶望と狂気に彩られていた。
50で自害した作家の作品は、世間からは忘れ去られたが、
一部熱狂的な読者を生み、育んだ。

世紀末日本を舞台に、
彩雲に魂を奪われた五つの嬰児(みどりご)が、
真の目覚めを迎える!
Amazon内容紹介より。

感想と言っても何をどう書いて良いのか、私にはその手立てが見つかりません。兎に角掴み所がなく、一読しただけでは所々の断片が思い出されるくらいで、全容が見えてきません。だからと言って、令和の『ドグラ・マグラ』と謳って読者を煽る様な事は許されないと思います。この惹句に釣られて思わず読んでしまう読者もいるでしょうし。まあしかし、訳の分からない小説であることは間違いないですね。二度三度と読めば味わいが出て来るのかも知れませんが。

これは堀永彩雲という作家に魅入られて、人生が狂ってしまった者達の物語で、一応連作短編という形を取られています。しかしどれも「それで?」という終わり方をしていて、続きがどうなるのかが判然としない、未完成の体を成しています。結末で辛うじて納得できたのは最後の短編だけですね。
色々起こりますが、ストーリー性はほとんどなく、その起こった出来事を漫然と描いている印象を受けます。又散文的でもあります。ただこの作者得意のグロ要素は少なめながら健在で、そこだけは特徴が出ているなと思いました。


No.1674 7点 ケイゾク/小説 完全版
西荻弓絵
(2023/09/01 22:22登録)
本篇では解き明かされなかった数々の謎が今、ひとつになり真実が姿を現す。迷宮入り事件のみを扱う警視庁捜査一課弐係。IQ199東大卒の警部補・柴田純、元特殊捜査班の真山徹を中心に風化した難事件を呼び起こしていく。「特別篇」と未発表の「断片化された無数の想い」を加え新たに書き下ろした1冊。深まる謎の数々。秘められた過去は少しづつ彼らの人生を浸食していく。
『BOOK』データベースより。

ドラマ『ケイゾク』のノベライズ作品。二段組みで398ページ、その世界観にどっぷり浸る事が出来ました。何よりも素晴らしいのが、主要キャストの人物造形が十分確立されている事でしょう。柴田純と真山徹の主役二人の他にも魅力的なキャラが多数おり、誰に感情移入するかは読者次第です。出番は少ないですが、泉谷しげる演じる右足の不自由で破天荒な壺坂がいい味出していましたね。まるで彼をモデルにした様なキャラです。
前半はトリッキーな本格ミステリで、主にフーダニットに重点を置いています。全てが解き明かされていない欠点は見られるものの、それぞれ違ったテイストの短編が並びます。その中で、真山に関係した過去の事件の真犯人が見え隠れしており、それが後半に繋がります。

後半はそれまでと雰囲気がガラッと変わって、ユーモアが混じっていた前半に比べて一気にシリアスになり、ストーリーが二転三転します。もう誰が味方で誰が敵なのか分からなくなりそうなほどヒートアップしていきます。ミステリと言うよりサスペンスですね。その臨場感は半端なく本当にドラマを観ている様な感覚に陥りました。
24年前の作品ですか、しかし全く色褪せていませんね。


No.1673 6点 時空旅行者の砂時計
方丈貴恵
(2023/08/28 22:30登録)
瀕死の妻のために謎の声に従い、二〇一八年から一九六〇年にタイムトラベルした主人公・加茂。妻の先祖・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族のほとんどが亡くなった「死野の惨劇」の真相の解明が、彼女の命を救うことに繋がるという。タイムリミットは、土砂崩れがすべてを呑み込むまでの四日間。閉ざされた館の中で起こる不可能犯罪の真犯人を暴き、加茂は二〇一八年に戻ることができるのか!?“令和のアルフレッド・ベスター”による、SF設定を本格ミステリに盛り込んだ、第二十九回鮎川哲也賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

序盤は期待しかありませんでした。これは何かやってくれるんじゃないかと思いましたね。しかし、次第に本格ミステリをSFが上回ってしまい、余り望んでいた方向へ進んで行っていない気がしてきます。
これがデビュー作であった為とは思いませんが、どこか文章がこなれていない印象を受けました。そして、特に第一の殺人の詳細な説明が成されていない様に思いました。やたら不可能犯罪と連呼していますが、余りに囃し立てても逆効果で、こちらとしては冷めてしまう面もあります。それに加えて、見立て殺人に仕立てる必然性があるとは思えません。

好みの問題もあるでしょうが、私的にはどうもややこしくてSF要素が邪魔になって、読者への挑戦状が挿まれても、どうせタイムスリップが絡んでるんだろうとしか思われません。犯人に関しては最初の方で見当は付きました。まあ当てずっぽうでこいつしかいないだろう位でしたけどね。
余談ですが、鮎川哲也賞の論評で辻真先が、後に刊行される事になる紺野天龍の『神薙虚無最後の事件』のネタバレをしていますので注意してください。


No.1672 6点 二歩前を歩く
石持浅海
(2023/08/25 22:24登録)
ある日、僕は前から歩いてくる人に避けられるようになった。まるで目の前の“気配”に急に気がついたかのように、彼らは驚き避けていく…。(表題作)とある企業の研究者「小泉」が同僚たちから相談を持ちかけられ、不可思議な出来事の謎に挑む。超常現象の法則が判明したとき、その奥にある「なぜ?」が解き明かされる!チャレンジ精神溢れる六編のミステリー短編集。
『BOOK』データベースより。

面白いんだけど、何か物足りなさも覚えます。それぞれの超常現象は不可思議で、一体何が起きているんだろうと興味を惹かれます。謎を解く小泉はなかなか魅力的な人物で好感が持てますし、悩みを持ちかける同僚や会社の先輩、後輩はそれなりに真摯にそれらに向き合おうとします。でもどこか脱力した様な感覚が拭えません。




【ネタバレ】




超常現象自体が起こるシステムは残念ながら明かされません。唯一表題作だけは何となく、その絡繰りが解明されますが。しかし、それも十分に納得の行くものとは言えません。
では何が真相として明かされるのか?それは相談者自身の後ろめたい過去です。その因果として超常現象が何故起こるのかが、明らかにされます。言ってみれば、悩みを抱えた人達自身が加害者であり、被害に遭った人の「意志」により様々な不可解な謎が呼び起こされるという仕組みです。だからまあ、自業自得なのですね。これでハウまで解決されたら、超傑作だったと思いますよ。無理ですけど。


No.1671 7点 藍坂素敵な症候群
水瀬葉月
(2023/08/24 22:36登録)
私立千歳井高校。那霧浩介が転校初日に連れていかれたのは医術部というちょっと奇妙な部活だった。部長・藍坂素敵。ちっちゃくて白衣を纏いメスを持ち、やたらと元気な女子。部員その1、宵闇ヶ原陰子。傘を異常に溺愛するお嬢様。部員その2、黒崎空。いつもご機嫌斜めな金髪ヘッドホン女。三人ともかわいいのはいいのだけど、藍坂はなぜか手術をさせろと迫ってくる。一方、街では“耽溺症候群”なるものが蔓延していて、その影には“おはなしやさん”の存在があり―。『C3‐シーキューブ‐』の水瀬葉月が贈るフェチ系美少女学園ストーリー。
『BOOK』データベースより。

ラノベの見本の様な佳作。最初にボーイミーツガールがあり。バトルあり。萌え要素あり。コメディ&シリアスなタッチ。キャラ立ちは勿論、それぞれ個性的で描き分けがキッチリ出来ている。そして色んな出来事がテンポよく起こり、しかしそれがゴチャゴチャせずに非常に上手く纏まっているのもポイントが高い。これだけ読ませる要素が揃っていたら面白くない訳がありません。

別に重要な場面ではなくオマケの様なシーンですが、最も印象深いのが、ある事情でドミノ倒しの駒を地道に立てる合間のワンカット。差し入れの、吉野家の牛丼(特盛、つゆだく)を女子高生たちが姉さん座りで頬張るのを描いたシーン。このミスマッチ感が堪りません。
主役の素敵やお嬢様なのに言動が過激な陰子(かげるこ)、金髪ヘッドフォン装着で言葉の悪い空(くう)、優等生で美少女の伊万里ら、誰を推すもあなた次第。いやー、こんな高校生活もありですねえ、一つの憧れとして私の目には映りました。
全3巻なので全て読むつもりなのは言うまでもありません。


No.1670 8点 十戒
夕木春央
(2023/08/21 22:03登録)
浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。
Amazon内容紹介より。

誘拐物や立て籠もりは別として、孤島ミステリで犯人にある程度自由は約束されているものの、犯人の指示に従って行動しなければならないという発想は面白いし新しいと思います。『方舟』と比べるとどうしてもワンランク落ちる感は否めませんが、個人的に8点より下は色々考え併せて付ける事が出来ませんでした。

重厚さなどはありません。しかし、これくらい軽めの雰囲気の作品の方が受ける時代なのかも知れません。各所で高評価を受けているのも納得の出来でしょう。何だかんだ言っても、結局今年の各ランキングレースを賑わすのは間違いないと思いますね。ロジックも確りしていますし、成程の結末にも納得です。


No.1669 7点 星の牢獄
谺健二
(2023/08/19 22:58登録)
海上に建てられた私設天文台“星林館”。流星群の観賞会がひらかれた夜、死が相次いで降り注いできた。隕石に撃たれて焼死した男、顔を赤く染め上げて墜死する老人、大時計の針に貫かれて磔にされた男…。この異様な死は何を意味するのか。そして誰の意志によるものなのか。あらゆる謎が解き明かされたとき、すべての事実が反転する奇想と衝撃の本格ミステリー大作。
『BOOK』データベースより。

遠い惑星から来た蟹に似た雌雄同体の宇宙人イレムが、人間の男に変身し探偵役と主人公を一手に引き受ける異色のミステリ。所謂孤島物で、外部から断絶されたクローズドサークルで不可解な連続殺人が起こり・・・。
やや文章が硬い感じがするとか、登場人物の半数位が無個性でややこしいとか、トリックが使い古されたものであったり、外連味が無さ過ぎて盛り上がりに欠けると云った瑕疵は見られますが、それらを差し引いても良作であることは間違いないと思います。

特に第一の事件はこのストーリーの特異性をはっきり表しており、仕掛けが明かされた後では成程と感じ入らずにはいられません。やや長すぎる気もしますが、読んで損はないですね。世間に知られていない、隠れた珍品ってところですか。


No.1668 6点 未来の記憶
エーリッヒ・フォン・デニケン
(2023/08/15 22:53登録)
18世紀に描かれた正確な南極の地図、ピラミッド、南米のケツアコル伝説等の謎に対し、太古の神々=宇宙人という大胆な仮説で挑み、G・ハンコックなど数々の追従者を生んだ伝説の書。74年刊角川文庫の単行本化。
『BOOK』データベースより。

これは小説ではありません。敢えて言えば学術書や小論文に近い内容となっており、よくあるトンデモ本とは全く違います。
ピラミッドと円周率の関係やピラミッドの高さによる太陽と地球との距離の数式(こじつけっぽいが)、何故あのような巨大で精密なな建造物が太古の昔に造る事が出来たのか。各地に残る宇宙飛行士の壁画。イースター島のモアイ像の謎。ナスカ平原の巨大直線は何を意味するのか。等々、多岐に亘る世界中の不思議な痕跡を写真を記載した上で、著者は明確に地球外生命体の存在を示すことなく暗喩しているのです。

正直本書は高尚過ぎて私などには半分ほども理解の及ばない代物であり、もっと知性のある、例えば博士や教授などの肩書を持つ人が読むべきなのかも知れません。逆に、そうした人達の協力がなければこの本は書かれなかったに違いない訳で、その意味でも評価に値する書物だと言えましょう。
最後に訳者の仕事は素晴らしいものがあったと思います。知らずに読んだら翻訳物だとは判らなかったはずです。                                                   


No.1667 1点 走馬灯交差点
西澤保彦
(2023/08/13 22:13登録)
殺人事件を捜査中の刑事が、何者かによって橋から突き落とされてしまう……。気が付くと目の前には“自分の幽霊”が――!?
怒濤のどんでん返しがラッシュする“特殊設定ミステリ”!
Amazon内容紹介より。

はっきり言って駄作だと思います。1ミリも面白くないし、読みどころも一つもない、オチもなければ捻りもない。褒めるところが皆無です。そもそも設定が自身の『人格転移の殺人』の焼き直しでしかなく、それ以上でもそれ以下でもないという全く進歩が見られない救いのなさ。更に登場人物が多い上に血縁関係のややこしい事、それに加えて同じ事柄を何度も違う表現で繰り返す文章のくどさに辟易します。全体にとっ散らかっていて、一体何がやりたいのか、作者の意図がが理解できませんね。

帯には大森望の賛辞の言葉が躍っていますが、そもそも私は彼の事を信用していません。それに加えて安っぽい装丁。Amazonの評価が高かったのだけを信じて読んでみましたが、後から考えれば上記の理由だけで回避する事は可能なはずでした。悪いけど、時間の無駄でした。ああ、それと、どんでん返しなどどこにも存在しませんから。


No.1666 8点 私のすべては一人の男
ボアロー&ナルスジャック
(2023/08/10 22:49登録)
これは面白い、これは笑える、まさにバカミスの一級品だ。とは私の心の声であります。何故この傑作が今まで文庫化されなかったのか不思議でなりません。この作者の作品は三冊目ですが、未読も含めておそらくこれが最高傑作だと思います。
早々にこの実験的なミステリの概要は語られるので、ネタバレにはならないでしょうが、一応未読で今後読むかも知れない方の為、以下ネタバレ注意としておきます。




【ネタバレ】注意





本作は頑健な男の死刑囚を四肢、頭部、胸部、腹部の七つのパーツに分け、それぞれの部位を事故で無くしたり、切断せざるを得ない状態の男性六人、女性一人に移植するという現実的にあり得ない物語。そして手術後のそれぞれの人物をルポの様に追っていくというもの。章立てはしていないので、少し表現が違うかも知れませんが、最終章では正直感動しました。そしてエピローグでその皮肉なエンディングに唖然とさせられ、読後暫く何も手に付きませんでした。SFと本格の融合と言うべきでしょうか・・・。
ただ、誰がどの部位を移植されたのかが途中で判らなくなったりしたので、主な登場人物一覧が欲しかったです。それだけが残念でした。


No.1665 7点 有限と微小のパン
森博嗣
(2023/08/08 22:43登録)
日本最大のソフトメーカが経営するテーマパークを訪れた西之園萌絵と友人・牧野洋子、反町愛。パークでは過去に「シードラゴン事件」と呼ばれる死体消失事件があったという。萌絵たちを待ち受ける新たな事件、そして謎。核心に存在する、偉大な知性の正体は…。S&Mシリーズの金字塔となる傑作長編。
『BOOK』データベースより。

そもそもこのシリーズを過去3作しか読んでいない私が語れる作品ではないでしょう。でもまあ楽しめましたよ。長かったけど、それなりの内容なので冗長とは思いません。取り敢えず、惜しみなくキャラを出してくるサービス精神は良しとすべきでしょう。
それにしても、相変わらず森博嗣の文体は無機質ですねえ。いくら理系ミステリと言っても少しくらい情緒というものを見せてもいいんじゃないですかね。ただ終盤のあるシーンは、確かに情景が浮かんできて美しいとさえ思えましたが。

第一第二の事件はなかなか興味を惹かれました。しかし、それに比して真相はかなり貧弱な気はしました。まあ天才が多すぎて、彼らの考える事に付いて行けなかったのも情けないですが、この無難な評点を付けてしまう己の凡才ぶりに嫌気が差します。


No.1664 7点 小酒井不木集 くらしっくミステリーワールド 第6巻
小酒井不木
(2023/08/03 22:49登録)
普通の単行本より一回り大きく、文字がデカい。しかも全ての漢字にルビが打たれており、親切過ぎて逆に読み難かったりします。最早短編集を読んだ気がしません。もっと大作を読んだ後の様な充足感があります。
収録作は『闘争』『恋愛曲線』『愚人の毒』『安死術』『人工心臓』の5作。一番面白かったのは最初の『闘争』ですね。これが最も本格度が高く、意外性という点でも高評価に値するでしょう。古臭さを感じさせない筆致と言い、全ての短編で医学者でもある作者の知識を駆使し、医療ミステリとして完成度の高さを誇示している異色の作品集だと思います。

また、『恋愛曲線』と『人工心臓』は姉妹作との位置付けと考えても良いでしょう。後者の実験的な作風を前者で昇華させたと云った関係性が見られます。どちらも医学に詳しくなければ書けないもので、心臓に対する作者の並々ならぬ思いがギュッと詰まった佳作にして怪作と言えそうです。


No.1663 6点 老人のための残酷童話
倉橋由美子
(2023/08/02 22:33登録)
鬼に変貌していく老婆を捨てた息子と、その嫁の意外な末路とは…。「姥捨山」や、織女と牽牛の「天の川」といった、有名な昔話をベースにしながらも、独特の解釈で綴られた10の物語。大ベストセラー『大人のための残酷童話』の著者が、性欲や物欲、羞恥心といった、人間の奥底にひそむ感情を見事に描きだす。
『BOOK』データベースより。

なかなかの奇想を発揮し、ブラックユーモアを含んだ寓意小説と云った趣が強い短編集。老人や老いをテーマにした作品ばかりで、それぞれが違った味を出していると思います。ただ、捻りやオチが全体的に弱いのが残念。最も印象に残るのは最後の『地獄めぐり』ですかね。しかし、時間と共に次第に色褪せ、記憶が薄れていくのは仕方ないのかなという気がします。

ややエロ要素強め、グロはほぼ無きに等しいので、誰が読んで問題ないと思います。リーダビリティに優れており、表現力が豊かで読んでいて飽きが来ません。それは良いのですが、タイトルにあるような残酷さはあまり感じません。私はその辺りに物足りなさを覚えました。ホラーではなくファンタジーだと思います。


No.1662 5点 仮面
山田正紀
(2023/07/31 22:10登録)
「最初の殺人事件が起こったときに、すぐに警察に連絡していたら、第二、第三の事件は防ぐことができたかもしれない、そうおっしゃるのですか?(中略)私が犯人なのです、刑事さん」―その晩、経営難に陥ったクラブのお別れの仮装パーティに、男四人、女三人が集まり、完全密室の店内で惨劇は起こった。冒頭で早くも犯人が確定?本書全体に仕掛けられた大どんでん返し!読者を欺く名(?)探偵・風水火那子シリーズ第二弾。
『BOOK』データベースより。

うーん、何だかモヤモヤした読後感ですね。その原因の一つは複雑な構成にあると思います。自転車と自動車の追跡劇は一体何だったのかとか、ある人物に対する叙述とか、地の文、手記、回想の展開の速さ等ですかね。これらが混然一体となって、ややこしさが先に立ってしまって、纏まりに欠ける印象が凄く強いです。

手記の仕掛けは目新しさを覚えますが、それも小手先のトリックとしてしか見られない感もあります。まあ、一般受けはしないでしょう。最初にミステリを読んだのがこれだったら、ミステリをもう読みたくないと云う人が多いんじゃないですかね。余程の作者のファンならともかく、あまりお薦めは出来ない作品です。


No.1661 6点 狼と香辛料
支倉凍砂
(2023/07/29 22:41登録)
行商人ロレンスは、麦の束に埋もれ馬車の荷台で眠る少女を見つける。少女は狼の耳と尻尾を有した美しい娘で、自らを豊作を司る神ホロと名乗った。「わっちは神と呼ばれていたがよ。わっちゃあホロ以外の何者でもない」老獪な話術を巧みに操るホロに翻弄されるロレンス。しかし彼女が本当に豊穣の狼神なのか半信半疑ながらも、ホロと共に旅をすることを了承した。そんな二人旅に思いがけない儲け話が舞い込んでくる。近い将来、ある銀貨が値上がりするという噂。疑いながらもロレンスはその儲け話に乗るのだが―。第12回電撃小説大賞"銀賞"受賞作。
Amazon内容紹介より。

ラノベファンでこの作品を知らぬ者などいない程の超有名作。確かに良作だと思います。ファンタジー要素はあまりなく、凡百のラノベとは比較出来ないレベルの作品。物語自体は地味でバトルシーンも少なく、経済や商業取引といった要素を取り入れた異色のライトノベルと言えると思います。行商人であるロレンスの商いの相手との駆け引きや、銀貨の価値変動を見据えた先物取引の様なやり取りは、それだけでもなかなか面白いです。

が、何と言っても本作の魅力を支えている8割がホロのツンデレぶりで、残りの2割がロレンスのリアクションと言えましょう。何故か花魁もどきの言葉遣いのホロがたまに本音を吐いて、心中を見せるシーンなどは心に刺さるものがあり、ついつい感情移入してしまいます。ロレンスがホロの言動に振り回されながらも、次第に惹かれていく心理描写も上手く、この二人の微笑ましい交流を読むだけで、心癒されるものがあります。
流石に24巻まで続いたシリーズだけのことはあったと思いますね。まあ作者もこれだけ永く続くとは思っていなかったでしょうけど。


No.1660 7点 はるか
宿野かほる
(2023/07/27 22:35登録)
賢人は小さな頃から海岸で、水入りメノウを探していた。ある時、何年も見つからなかったそれを、初めて会った少女が見つける。彼女の名は、はるか。一瞬で鮮烈な印象を残した彼女を、賢人はいつしか好きになっていた。
Amazon内容紹介より。

冒頭、典型的なボーイミーツガールで、純愛小説なのかと思いました。しかしそんな筈もなく、物語は予想もしていなかった方向に展開していきます。そしてある程度筋が読めてきても、どう転がるか分からない、先を読ませない作者の目論見に、見事に嵌っていく一読者としての私がいました。
もう後戻りできない愛の先に待つものは、果たして桃源郷なのか、それとも・・・。

何とも言えない読後感で、それが返って複雑な余韻を残します。終盤で衝撃を与えておいて、ラストでそれを超える残酷とも言える皮肉なエピローグが待っています。ストーリーはとにかく読んで下さいと言うしかありません。
結構好き嫌いが分かれる作品だと思います、私はかなり楽しませてもらいましたけどね。


No.1659 5点 スコーピオン
諸口正巳
(2023/07/25 22:32登録)
高校3年生の相馬圭一はスケボーとスノボー、そして格闘ゲームが趣味のどこにでもいるような少年。そんな圭一が大学入試の帰り道、受験生ばかりを狙う殺人鬼が出没するといういわく付きの地下道で遭遇したのは―まさにその『伝説』の殺人鬼だった。間一髪のところを、突然現れた黒いコートを着た謎の男に救われるが、そのことをきっかけに平凡で退屈な日々を送っていた圭一の運命は大きく変わっていく。「口裂け女」や「人面犬」のような都市伝説が、人間の恐怖や怯えといった負のエネルギーを糧に実体化したなら…!?危険な存在となった『伝説』を密かに抹殺する黒衣の男たちがいた。その名は―スコーピオン。
『BOOK』データベースより。

様々な都市伝説は噂が噂を呼んで密かに広まり、実物の怪異に変化し、それらを消滅させる為に雇われた男達が闇の死刑執行人、スコーピオンであるという設定は面白い。しかしそもそも誰が主人公かもはっきりしないし、誰目線という訳でもなく(敢えて言えばソーマだが)、一話一話が短すぎてバトルが今一つ盛り上がらなかったり、人物造形が出来ていない、ケモノとは一体何者なのか分からない等、結構な瑕疵が見られます。

中には『チェーン』のような佳作もある訳で、何か凄く勿体ない気がしました。結局どこを取っても平板で奥行きがないのが致命的であると判断しました。しかし、だからと言って発想の良さまで切り捨てるのはやや酷だなと思い、5点にしました。何も考えずにサラッと読めるので暇潰しには良いかも知れません。


No.1658 7点 回転寿司殺人事件
吉村達也
(2023/07/23 22:42登録)
和久井刑事の忘れえぬ初恋の人は、小学五年生のとき北陸の糸魚川市から転校してきた美少女・蓮台寺翠。十六年後、その彼女が「他人の心を読める超能力者」として世間に登場。志垣警部の忠告を振り切って彼女と対面した和久井は、実際に心を透視され愕然となる。それが回転寿司にヒントを得たトリックとも知らずに驚く和久井へ事件発生の追い討ち。旧親不知トンネルで発生した殺人に、初恋の人は関与しているのか。
『BOOK』データベースより。

巻末にある、恒例の作品紹介に「志垣警部シリーズ」とあったので、こちらにもそのように表記しましたが、今回の探偵役は部下の和久井刑事。しかも、本件には彼の因縁浅からぬ初恋の相手が絡んでおり、完全に主役です。
とにかく最初に披露される超能力のトリックが、余りにも不思議で全く理解不能です。いきなりのカウンターパンチに、その後も頭の中にチラチラその事が過ぎり、事件そっちのけで脳細胞を駆使出来れば良かったんですがね・・・。結果的には当然そのタネを見破る事は叶わず、驚かされることになりました。これは元ネタは手品にあったそうですが、成程よく考えられているなと感心しました。もうこれだけで高得点の価値は十分あったと思いますよ。

実在した「びっくり寿司」を舞台に、志垣警部と和久井が事件について、論戦を交わしますが、別にタイトルを『回転寿司殺人事件』にする必然性はないじゃないかと思ってもみました。しかし、読み終わって考え直しました。寿司ネタの蘊蓄ばかりでなく、事件そのものが回転寿司チェーン店を新たに開店させようとする中で起こるものだし、謎を解くきっかけも回転寿司にあったりして、結局タイトルに偽りなしと判断しました。
勿論、お腹が空いていない時でも楽しめます。


No.1657 6点 死者の中から
ボアロー&ナルスジャック
(2023/07/21 22:18登録)
高所恐怖症のために警察を辞めた男のもとへ、かつての友人から不可解な依頼が持ち込まれる。自殺願望のある自分の妻を監視してくれと…ヒッチコックを魅了したサスペンス小説の傑作。
『BOOK』データベースより。

パロル舎版で読みました。映画を観ていないので、この場面はこうしたカメラワークで撮っているのかなとか想像しながらの読書でしたが、訳者あとがきによると舞台がフランスからアメリカに変えられているので、おそらく映画とは別物なのだろうと思いました。映画は知りませんが、原作は個人的にはそこまでの傑作だとは・・・。謎自体はなかなか魅力的ではあるものの、それ一つで物語を引っ張るにはやや荷が重かった気がします。それにしても、フランスのサスペンスってこんなのばっかりなのですかね。そんな訳ないか、偏見はいけませんね。

残りページ僅かになってからの真相の提示には、ハラハラさせられましたが、納得でした。簡潔過ぎるきらいはありますが、ミステリ的解決というか、その整合性には成程と思わずにはいられません。よく練られていてそこに不満はありませんが、その道中がやや凡庸ではないかと感じました。


No.1656 6点 怪奇幻想ミステリ150選 ロジカル・ナイトメア
事典・ガイド
(2023/07/19 22:36登録)
「週刊文春」「ジャーロ」「ダ・ヴィンチ」「このミステリーがすごい!」等でおなじみ気鋭の評論家がこだわりぬいて厳選。ビデオ化など映像情報も充実した“読むだけじゃない”ニュータイプ・ガイド。
『BOOK』データベースより。

まずこのガイドブックで語られる怪奇幻想とは、2002年時点でのホラー、オカルト、幻想などの要素を内包したミステリの事で、その中には国内の所謂変格と呼ばれる作品も含まれます。著者がその最たるものとして何度か例に挙げているのが、カーの『火刑法廷』の様に合理的解決を終えても、尚オカルト的な謎めいたラストが残される、みたいな作品です。

構成は年代別にまず国内のミステリを挙げています。そして笠井潔と山田正紀の対談が挿まれて、海外のミステリを紹介しています。最後に評論として、選に漏れた数々の作品や作家について触れています。海外の作家については初見の人ばかりでよくこれだけ調べ上げたものだと感心しました。又国内作家についてはほぼ全て網羅されていると言っても過言ではないと思います。聞いたこともない作家も少しばかり目に付きますが、ほとんどが知った名前であったのには、自分も少しはやるじゃんと思わずにはいられませんでした。内心ほっとしたのは言うまでもありません。
150篇の内、未読作品が当然多かったのですが、そのうち幾つかは読んでみたいと思わせるもので、取り敢えずメモして今後の参考にさせてもらうつもりです。

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