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ミステリの祭典

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バールの正しい使い方

作家 青本雪平
出版日2022年12月
平均点7.33点
書評数3人

No.3 8点 take5
(2024/02/18 13:39登録)
周りに擬態して生きる
礼恩の小学生からしばらくの物語
、、、の物語。

繊細な感性、
みずみずしい表現。
新聞の書評をきっかけに読みましたが
これは私には大当たりです。
心に残る力強い読後感。
ミステリの枠におさまらず
読書っていいなと思います。

No.2 8点 メルカトル
(2024/02/12 22:21登録)
転校を繰り返す小学生の礼恩が、行く先々で出会うクラスメイトは噓つきばかりだった。
なぜ彼らは噓をつくのか。

友達に嫌われてもかまわないと少女がつく噓。
海辺の町で一緒にタイムマシンを作った友達の噓。
五人のクラスメイトが集まってついた噓。
お母さんのことが大好きな少年がつかれた噓。
主人公になりたくない女の子がついた噓。

さらにはどの学校でもバールについての噂が出回っているのはなぜなのか。
やがて礼恩は、バールを手にとり――。
Amazon内容紹介より。

その本質が判る人には判る、判らない人には判らない、そんな連作短編集です。
だから、賛否が分かれるのだと思います。肝心なのはこの作品のどこかが琴線に触れるか否か、でしょうね。端的に言えば好みの問題となってしまうかも知れませんが。私のフィーリングにはぴったりとフィットしました。文章は淀みなく流れる様で、情景描写も心に響くものがあり、ミステリとしては意外性を持っていて、そんなトリックを?と驚かされる事があったり、人間が描けている、読み応え十分です。

最後の『ライオンとカメレオン』とエピローグだけは他と毛色が違います。少しだけ混乱したので、ここだけは二度読みました。それまでのストーリ性が見られず、ややぎこちない感じを受けました。読みやすさがなりをひそめ、やや読解力を要するものになっている気がします。もう少しストレートに攻めても良かったのではないか、驚きの一撃を読者に食らわせる事も出来ただろうに、ちょっと勿体なかったかなというのが正直な感想です。
それでも高評価は変わりません。帯にある書店員の絶賛の声を侮ってはいけませんよ。彼らは本を売るプロですからね、それを信用して読んでみるのも一興ではないですかね。

No.1 6点 ◇・・
(2023/10/25 21:13登録)
父の都合で転校を繰り返す小学生の要目礼恩。彼は新しい学校へ行くたびに「擬態」し、カメレオンのように自分を隠しながら、クラスメイト達を冷静に観察する。
六つの学校、少年少女たちの誇る六つの嘘の物語。その中にはなぜかいつも「バールのようなもの」の存在が見え隠れする。礼恩の推理は、みんなが隠した嘘と罪を静かに解きほぐしながら、彼は最後に残った「バール」の謎に辿り着く。礼恩の視点で描写される「バールのようなもの」とは、刑事において「凶器不明」というような意味で使われる表現だ。
「バール」という言葉には、確かに滑稽だがどこか不気味な、独特の雰囲気が漂っている。あまりにも武骨で、何にでも使えそうだからこそ、小説の中でそれは様々に解釈される。連作ミステリの最も美しい形式は、それぞれに解決していた事件が、最後のピースがはまることで別のかたちに見える、どんでん返しタイプだろう。だが本作は、それだけにとどまらない。大人になるにつれて忘れていった、小学生の無力さと切なさや絶望。そして何より純粋な愛情が宿っている。

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