フランケンシュタインの工場 コンピューター検察局 |
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作家 | エドワード・D・ホック |
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出版日 | 2023年05月 |
平均点 | 6.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | メルカトル | |
(2024/03/11 22:27登録) メキシコのバハ・カリフォルニア沖に浮かぶホースシューアイランド、この島に設立された国際低温工学研究所(ICI)の代表ローレンス・ホッブズ博士は、極秘裏にある実験計画を進めていた。長期間冷凍保存していた複数の体から外科手術によって脳や臓器を取り出して殻(シェル)となる体に移植し、人間を蘇らそうというのだ。 コンピュータやテクノロジーに関するあらゆる犯罪を捜査するコンピュータ検察局(CIB)は、ICIの活動に疑念を抱き、捜査員アール・ジャジーンをこの手術の記録撮影技師として島に送り込む。潜入捜査を開始したジャジーンだったが、やがて思わぬ事態に直面する。手術によって「彼」が心拍と脈拍を取り戻した翌朝、ICIの後援者エミリー・ワトソンが行方不明となり、その後何者かによって外部との連絡手段を絶たれたこの孤島で、手術のために集められた医師たちが一人、また一人と遺体となって発見される。 現代ミステリの旗手ホックが特異な舞台設定で描くSFミステリ〈コンピュータ検察局シリーズ〉最終作。本邦初訳。 Amazon内容紹介より。 これは面白い。著者の他の作品の事は全く知りませんが、タイトルだけで選び読みました。敢えて苦言を呈するなら、移植手術の様子がほとんど描かれていないので、その後の展開がやや絵空事に思えてしまった事くらいでしょうか。そのせいか、あまり生々しさが感じられません。折角の素材なのにね。それでも、その後の殺人がテンポ良く起こり、フランクを含めて一体誰が何の為にという、サスペンスを盛り上げる要素は十分です。 衝撃は終盤にやって来ます。真相が明かされる前に意外過ぎる事実が浮き彫りになった段階で、これはやられたと思いましたよ。成程確かに言われてみればそこここに伏線は張られているし、これは紛う事なき外連味に満ちたミステリの真骨頂ではないかと。動機も問題ないと感じました。 SFとサスペンスと本格ミステリが融合した、異色の秀作と言って良いと思います。 |
No.2 | 5点 | ボナンザ | |
(2023/09/24 20:30登録) 傑作!というほどではないが、訳されないのが不思議なくらいには面白い。結末もそれなりに凝っている。 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | |
(2023/06/30 17:33登録) (ネタバレなし) 時は21世紀の前半。メキシコ沖の孤島「ホースシューアイランド」には民間科学機関「国際低温工学研究所(ICI)」の施設が存在。そこでは代表ローレンス・ホッブズ博士が精鋭の医学者や科学者を選抜し、彼らとともに、長期冷凍保存された複数の肉体を接合して一人の人間を甦らせる実験をしていた。実験の記録役という立場を騙って施設内に潜入した、科学捜査機関「コンピュータ検察局(CIB)」の青年捜査官アール・ジャジーンは、不審なICIの内偵を進める。だが閉ざされた島の中で、ICIの関係者がひとりまたひとりと何者かに殺されていく。 1975年のアメリカ作品。 SFミステリシリーズ「コンピュータ検察局シリーズ」の長編・第三弾にして最終作。 思い起こせば1970年代の半ば、木村二郎さんがミステリマガジンの連載エッセイで、リアルタイムで当時の新刊だった本作(もちろん未訳の原書)を 「作中で登場人物が語る通り、SFミステリ版『そして誰もいなくなった』である」 と紹介。 その一文に触れた評者はどれだけ「日本語で読みてぇぇぇぇ~~!」と願い、その後もウン十年、何回あちこちの場で、本作の邦訳を願う一ミステリファンとしての叫びを上げ続けてきたものか。いや感無量、感無量。 もともと「コンピュータ検察局シリーズ」は当時、スキだったしね。 とはいえさすがに待ち続けてウン十年、抱えすぎた思い入れが悪い方の反動となって、実際に読んでみたら「ナンダツマラナイ」となる可能性もさすがに経験上、予期していたので、そういう意味では、なるべく冷静に読んだつもり。 で、まあ、普通に十分に面白かった。 まあ、SFミステリとしての未来感や科学観はともかく、大設定であるコンピュータ検察局の文芸がほとんど活用されていないとかの弱点はあるけど、素直なクローズドサークルもののフーダニットパズラー、プラス、ちょっとクライトン的な医学サイエンススリラーとして期待以上に楽しめた。 ここが良かった、のポイントは、たぶん誰でも同じところに目が向きそうな意味でわかりやすいんだけど、ふたつあり、個人的には後者の人を喰った趣向が好き(先に出る方も悪くない)。犯人の見せ方も結構、意外ではなかろうか。 良い意味で一流半の、謎解きサスペンスパズラーである。 ということで、評点はこっちの過剰な思い入れに一応以上に応えてくれた、という意味でこの点数。 特に本作にもともと心の傾斜などない、白紙の状態で読むヒトはもっと低い評価になるだろうが、それはまあ、仕方がない。ただ素で読んでも佳作以上、だとは思うよ。 つーわけで、私にとって叢書「(新生)奇想天外の本棚」はこの時点で5割くらい、役目をすでに果たしました(笑)。 次の大きな楽しみは、原型版『ミス・ブランディッシュの蘭』の翻訳刊行あたりかしらね。いや、他にもまだまだ……。 |