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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1924件

プロフィール| 書評

No.284 8点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2013/03/13 22:22登録)
随分前に読んだのに、なぜか強く印象に残っている一冊。
見立て殺人というものにあまり耐性がなかったせいなのか、衒学趣味にうまく惑わされたせいか、その辺り自分でもよく分からないが、とにかく当時としては面白かった。
ラストの、二人の教授の対決は見ものだったが、ファイロ・ヴァンスの行動でやや後味が悪くなってしまったのも事実。
ストーリーを盛り上げるためには、仕方なかったのかもしれないが、一探偵がそこまでして良いものかどうか、大層疑問に感じたものである。
が、それを差し引いても、ミステリ史に残る名作だと思う。


No.283 5点 ZOO
乙一
(2013/03/12 22:24登録)
再読です。
正直なところ、面白かったのは『SEVEN ROOMS』だけ、これは確かに訳の分からない設定ながら、緊迫感は只者ではなく、非常に緊張感をもって読むことができた。しかもまるで自分がその場にいるような臨場感をもって迫ってくるような迫力もあり、とても楽しめた、というか、手に汗握るような感覚を覚えた。
他の短編は、あまり感心しない。
どれもいまひとつ、或いは取るに足らないものばかりが並んでいて、読んでいてあまり気分が乗らなかった。
そんな中、『陽だまりの詩』はちょっと風変わりで、どことなく切ない佳作ではないかと思う。
まあ、全体としてはあまり高評価はできないね。そこそこ面白かった記憶があるだけに、読み直してみてちょっぴり残念だった。


No.282 6点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2013/03/11 22:19登録)
フェル博士による、かの有名な密室講義が披露される。もうこれだけで読む価値は十分だろう。
それにしても、本書はさすがの貫録の一冊となっている。
トリック的にはあまり感心しないが、よく考えられてはいると思う。
まあしかし、余程集中して読まないと、なんだかすぐに忘れてしまいそうな作品ではある。
ちょっと読みづらいしね。


No.281 8点 過ぎ行く風はみどり色
倉知淳
(2013/03/10 22:36登録)
再読です。
初読の際よりも一層楽しめた気がする。
それにしても、あの叙述トリックには参った。思わずえっと声に出してしまいそうになった。
この仕掛けはそうそう見破れまい。だが、伏線はところどころにしっかりと張ってあり、一概にアンフェアとは言えないだろう。
それでも、ほとんどの読者が作者の罠に嵌るのではないか。
そして、冒頭のエクトプラズムと言い、降霊会の最中での殺人と言い、まるでカーを思わせる雰囲気を纏っていて、とても読みごたえがある。
しかし、決して陰湿なムードではなく、どちらかというと爽やかささえ感じる。
あえて苦言を呈するなら、第一の殺人は動機が弱い、第二の殺人はいかにも無理がありすぎる、といったところだろうか。
それでも、最後に披露される猫丸先輩の謎解きはそんな些事を一掃させるくらいの勢いが感じられるし、それはまあ見事な推理ではある。
だが、この謎解きも苦渋の決断であり、猫丸先輩の苦しい胸の内が初めて明かされる貴重なシーンでもある。
後味もいいし、本作は倉知氏の最高傑作と言えるんじゃないだろうか。


No.280 6点 夜歩く
ジョン・ディクスン・カー
(2013/03/08 22:21登録)
カーはデビュー作から怪奇色溢れる密室ものを書いていたんだねえ。その心意気は見事なものであり、一貫して本格ミステリを書き続けた姿勢は素晴らしい。
本作は、ややあっさりしすぎている感もあるが、密室とアリバイを組み合わせたトリックはなかなかよく考えられていると思う。
探偵役のバンコランはアクの強さはないものの、それだけに逆に好感が持てる気がする。
処女作としては十分合格点じゃないのかな。


No.279 8点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2013/03/07 22:31登録)
カーの作品の中では最も読みやすい部類に入るので、未読の方にも入門書としてお薦めできる。
がしかし、珍しく物理トリックではなく、心理的トリックを用いており、カーとしては異色の存在なのかもしれない。
それでも、その一作のみにしか使えないであろうトリックが見事に決まっており、「これは凄い」と素直に感心させられたものだ。
数あるカーの作品の中でも、ひときわ異彩を放つ名作と言い切ってしまっても文句はあるまい。
素晴らしい出来だと思う。


No.278 7点 ダレカガナカニイル・・・
井上夢人
(2013/03/06 22:25登録)
再読です。
かなりの長尺だが、長さを感じさせない作者の筆力は素直に褒めたたえたいと思う。
とにかく読者をグイグイ引っ張っていて、いつの間にか物語の中に引き込まれているのに気付くだろう。
SFだが、監視カメラのトリックから真犯人を突き止める辺りは、ミステリの要素もふんだんに盛り込まれており、単なるSFとは一線を画する作品なのではないだろうか。
こうした作品は、いかに着地を決めるかが勝負だと思うのだが、その意味で若干分かりづらかった部分もあった。多分これは己の理解力が足りなかったせいだと思うけれども。
まあとにかく、いろんな意味で楽しめる逸品であるのは間違いないだろう。
さすがに井上氏はソロになっても、その力量を存分に発揮しているのは素晴らしいことである。
デビュー作とは思えない手練れだ。


No.277 8点 エジプト十字架の秘密
エラリイ・クイーン
(2013/03/04 22:22登録)
国名シリーズの中で出来はともかく、最も好きな作品。
派手な展開で最後まで読者を引きずり回して、結局最後には手掛かり一点で解決にもっていってしまうところが、いかにもクイーンらしい。
首なし死体という、オーソドックスかつ日本人好み?のテーマを、序盤のエジプト十字架に関する薀蓄などでうまく攪乱しながら、犯人の的を絞らせない工夫も心憎い演出となっている。
シリーズ中、ひときわ異彩を放っている異色作だと思う。


No.276 9点 Yの悲劇
エラリイ・クイーン
(2013/03/03 22:19登録)
クイーンの作品をすべて読んだわけではないので、偉そうなことは言えないが、個人的にはやはり本作がクイーンの最高傑作だと思う。
まるでクイーンが標榜する理想形を体現したかのような名作ではないか。
特に意外な犯人には驚かされた。
国名シリーズもいいけれど、私の一押しはこれで決まり。


No.275 9点 オリエント急行の殺人
アガサ・クリスティー
(2013/03/02 23:51登録)
この作品は、私が思うにクリスティーの代表作の一つではないだろうか。おそらく多くの読者がこの意見に賛同されると思う。それくらい意外性のある、クリスティーらしい大仕掛けの逸品であろう。
アリバイ崩しがメインかと思わせておいて、実は究極のフーダニットだったという、いかにもなアイディアには脱帽せざるを得ない。
それにしても、さすが灰色の脳細胞を誇るポアロだけのことはあり、これだけの事件を見事に解決に導いているのはさすがだ。
事件そのものは、考えてみれば単純なものだし、容疑者も完全に限定されているので、簡単に解けるかと言えば決してそうではない。
単純なトリックほど盲点になりやすいという、好例ではないかと。
余談だが、アルバート・フィニー主演の映画もDVDで観たが、こちらも面白かった。お薦めである。


No.274 6点 水中眼鏡の女
逢坂剛
(2013/03/01 22:16登録)
表題作他、併せて3編からなる短編集。
20数年前に書かれた作品だが、現在でも十分通用すると思われる、大胆な仕掛けが魅力の粒揃いと言って差し支えない短編というか、中編に近いものが並ぶ。
いずれも精神鑑定が何らかの形で関わってくるが、だからと言って小難しい要素は全然なく、むしろそれをエンターテインメントに昇華させる作者の腕は確かなものがあるようだ。
テンポも良く、とても読みやすい、すぐに物語にのめり込んでしまえる、なかなかのサスペンスぶりを示している。
それぞれ、結末には驚きが待っていて、一瞬「えっ」を心の中で叫んでしまうそうになる。
よって、どんでん返しや意外な結末が好きな読者にはお薦めとなっている。


No.273 9点 そして誰もいなくなった
アガサ・クリスティー
(2013/02/28 22:17登録)
今更私ごときが書評を書くのもおこがましい、世界的な名作。
今読んでみたら、もしかしたら古臭さを感じてしまうかもしれないが、やはり書かれた年代を考えると素晴らしいと言わざるを得ないだろう。
現在巷にあふれるミステリ小説とは、同じ土俵で語られるべきではない作品じゃないかな、というのが個人的に思うところ。
後世に大いなる影響を与えた稀有な名作として、低い評価は付けられない。
当時でこの全員が探偵で、全員が被害者、全員が容疑者というアイディアは凄いと思う。
孤島物というジャンルを確立した、記念すべき作品でもある。


No.272 7点 水車館の殺人
綾辻行人
(2013/02/27 22:18登録)
再読です。
私にとって、館シリーズ中最も印象が薄かった作品だった。
がしかし、改めて読み返してみると、意外と面白かった。確かに地味ではあるが、じっくり読んで自ら真相を追及してみたい読者には持って来いの一作なのではないだろうか。
取り敢えず、犯人はすぐに目星がついたし、おおよそのからくりにも気づいたが、残念ながら人間消失のトリックだけは分からなかったのが悔しい。
全体として、島田潔の推理が始まるまで、なんとなく淡々と進行していくので、その辺りやや物足りなかった気もするが、館シリーズらしい仕掛けも健在だし、伏線の張り方もなかなかうまいと感じた。
前作ほどの派手さはないが、じっくり腰を据えて物語に入り込める良作だと思う。雰囲気も館シリーズらしいしね。


No.271 8点 双頭の悪魔
有栖川有栖
(2013/02/24 22:33登録)
再読です。
川の氾濫により橋が崩壊し、陸の孤島と化した芸術家が集う小さな村で起きた奇妙な殺人事件。
そしてその川を隔てた隣村で起こる殺人、果たして二つの事件には関連性があるのか。更に起こる第三の殺人、しかもいずれの事件にも一々「読者への挑戦状」が挿入されているという徹底ぶり。
これは作家有栖川有栖畢生の大作であり、間違いなく代表作に挙げられる作品であろう。
トリックよりロジックに重きを置いた、クイーンの継承者としての肩書を背負って臨む、江神シリーズ第三弾の本格的な推理小説である。
こうした論理的に推理していけば、確実に犯人にたどり着けるという、フーダニット物を愛するミステリファンにとっては堪らないだろうと容易に想像できる。
しかし、私はどちらかというと派手なトリックやどんでん返しが好きなほうなので、この手の作品はあまり好みではない。
が、やはり高得点は付けざるを得ないであろう。
ただし、一点だけ第一の殺人で説明されていない部分があったように思われるのが、やや残念ではある。


No.270 5点 水底の殺意
折原一
(2013/02/19 21:50登録)
再読です。
てっきり読んでいないと思っていた、私の中で完全に忘れ去られた作品。
殺人リストに次々と名前が書き加えられていくというアイディアはなかなか面白いと思うが、いかんせん内容が伴っていない感は否めない。
この作品に関しては、折原氏得意の叙述トリックもなりを潜めているようだし、サスペンスもいまひとつ効いていない気がする。
従って、折原ファンの一人として高得点は付けられない。


No.269 7点
麻耶雄嵩
(2013/02/12 21:56登録)
再読です。
ネタバレしています。(初読の際の記憶は全くありませんので、再読とは言え、初読のようなものです)

麻耶作品にしては地味と言うか、大人しめなんだよね。
氏にはもっとこう突き抜けた、破天荒なものを書いてほしいと、私は思うんだけど。
しかしながら、決してつまらない訳ではなく、むしろ力作だと感じる。ジャンル的には典型的な嵐の山荘ものである。
三人称だか一人称だか判然としない文章は、いかにも怪しげで叙述トリックの匂いがプンプンする。これはどう考えても一人称の部分を記述している人物が真犯人だと確信するものの、作者の策略にまんまと嵌まり、見事に騙された。
まあ良い線はいっていたと思うけれど、ミスリードにやられました。
又もうひとつの叙述トリックは、読者には分かりきっている事実を、登場人物は知らなかったという、誠に珍しい仕掛けとなっている。
が、ちょっとした驚きはあるものの、あまり感心しないトリックだと思う。別に事件そのものに関わってくるわけでもないしね。
まあしかし、なんだかんだ言っても楽しめたのは間違いないので、ギリギリこの点数に落ち着いた。


No.268 7点 人体模型の夜
中島らも
(2013/02/09 21:31登録)
再読です。
人間の身体のパーツにまつわるちょっと怖い話をまとめた、連作短編集。と言っても、それぞれが独立した話であり、相互間系は全くない。
私が一番気に入っているのは第一話の『邪眼』。ラスト一行でやられます。
しかしながら、ほとんどがオチが予想できるものであり、ページ数が残り少なくなると、なんとなく想像出来てきて、大抵が想像通りに終わってしまうのが何とも・・・
多くの短編がブラック・ジョーク風味であり、まあいかにも中島らも氏らしい作品と言えるだろうか。
それでも、一風変わった、それぞれ趣の違うホラーが並んでおり、読み出したらすぐに引き込まれることは間違いない。
どことなく『世にも奇妙な物語』的なストーリーが多いような気もする。


No.267 7点 金雀枝荘の殺人
今邑彩
(2013/02/07 20:23登録)
再読です。
なるほど、あとがきを読んだ後には、もう一度序章を読みかえしてしまう。ネバー・エンディング・ストーリーは言い過ぎだが、これはなかなか面白い試みだと思う。
本格的な館ものであり、密室も必然性がありよく練られている。そして見立て殺人と、本格ミステリの美味しいところをこれでもかと詰め込まれており、これこそは隠れた名作と呼んでも差し支えないだろう。
今邑女史の作品の中でも、一、二を争う出来の良さかもしれない。
まあ、相変わらず警察がいかにも頼りないというか、ほとんど出番がないのは作品の性質上仕方ないのか。
霊感少女の存在は個人的には不要な気もするのだが、作者としては遊び心というか、雰囲気作りの一環として登場させたものとして解釈したいと思う。
とにかく全体的に重すぎず軽すぎず、丁度いい感じのさじ加減はさすがにプロの作家と言えるだろう。


No.266 5点 匣の中
乾くるみ
(2013/02/05 21:54登録)
再読です。
ネタバレするかも。

名作『匣の中の失楽』とは似て非なるもの。
構成は似たところがあるが、それだけ、比較するのも憚れるまがい物といった感じである。
道中の衒学趣味は果たして必要なのか、かなり疑問に思われるし、私にとってはただただ鬱陶しいだけであった。
そして何より、結局誰が誰を殺害したのか、全ては藪の中で判然としないのは、こういった作品ではやむを得ないのであろうか。
最後には作者まで登場し、メタ的展開を見せるのには辟易とさせられる。これでは何でもありで、アンチ・ミステリどころではなくなってしまう。
読後感はひたすらもやもやしていて、いかにもすっきりしない。かなり気分が沈みがちな後味の悪さを覚える結末。
一体「揚げ物、メシの残り食うかや」このセリフは何だったのだろうか。


No.265 8点 獄門島
横溝正史
(2013/02/01 21:40登録)
不朽の名作だね。
登場人物がそれぞれの役割を果たしている点や、第二次世界大戦が物語に大きな影響を与えている点、ある条件が揃ってしまい動機が生まれる点など、評価されるべき部分が多いところは見所の一つと言えるかもしれない。
私が面白いと感じたのは、あまり本筋とは関係ないが、釣鐘が動くという奇妙な出来事である。
無論、見立て殺人はそれぞれが際立っており、横溝氏の美意識を感じる。
また、例の名台詞はやはり物語の根幹を成すものとして、後世に語り継がれるだろう。
ただ、ストーリー自体は他の氏の名作に比較すると、私の好みとは若干ずれるのが少々残念ではある。
だから、9点でも良かったのだが、1点マイナスとした。

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