| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2900件 |
| No.2360 | 6点 | <羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件 アメリア・レイノルズ・ロング |
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(2021/04/19 22:03登録) (ネタバレなしです) 米国のアメリア・レイノルズ・ロング(1904?-1978)は1930年代後半から1950年代前半にかけて約30作のミステリーを書いた女性作家です。本書は1940年発表の犯罪心理学者トリローニーシリーズの本格派推理小説で、キャサリン・パイパー(女性なのにピーターと呼ばれる理由が本書で紹介されています)と初めて出会います。というかピーターを語り手役にして彼女の視点で描かれる物語のため、トリローニーの出番はかなり抑えられています。作品のほとんどが貸本出版社からの出版ということからか日本では「B級アメリカン・ミステリの女王」というレッテルを貼られてしまったようですが、派手な展開と雑な仕上げの安手のスリラー作家とは違うように思います(別名義も含めれば30作近く書いたので、中にはB級臭い作品があるのかもしれませんが)。本書で事件が起きるのは中盤近く、それまでは何かが起きそうな雰囲気をじっくりと醸成する地味な展開でB級らしくありません。16章のようにスリラー要素が強烈な場面もあるとはいえ、推理による謎解きにしっかり取り組んでいて伏線も結構豊富です。作者はピーターを気に入ったのかトリローニーとの共演作を本書を含めて4作書き、更にはピーターが単独で活躍する作品もあるそうです。 |
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| No.2359 | 5点 | ファイナル・オペラ 山田正紀 |
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(2021/04/19 08:27登録) (ネタバレなしです) 2010年から2011年にかけて雑誌連載されて2012年に単行本化されたオペラ三部作の最終作である本格派推理小説ですが、過去2作が回想されることもなく探偵役の黙忌一郎もいつのまにか登場していつのまにか退場するところも変わらず最終作的な演出は感じられません(第4作が書かれてもおかしくない)。タイトルにオペラを使っていますが西欧的な要素は皆無で、むしろ本書では能の世界が濃厚に描かれて和風テイストが非常に強いです。謎や怪現象が沢山提出されているところはいいのですが語り手の証言がとらえどころがなくて幻覚ではないかと思わせており、その幻想性も作者らしいのではありますがミステリーとしては勘違い系の腰砕け真相の可能性を残して物語が進むのは賛否が分かれそうな気もします。登場人物の名前が非常に覚えにくいのも辛いところです。それでも合理的な推理で謎が次々に解けていきますが最後は幻想の彼方にという幕切れです。私の理解力ではハードルが高過ぎる作品でした。 |
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| No.2358 | 3点 | ゆがんだ光輪 クリスチアナ・ブランド |
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(2021/04/14 19:10登録) (ネタバレなしです) コックリル警部シリーズ第6作の「はなれわざ」(1955年)は地中海に浮かぶ架空の島国サン・ホアン・エル・ピラータを舞台にしていましたが本格派推理小説としての謎を全面に押し出していて島社会の描写はほとんど目立ってませんでした。しかし1957年発表の続編的な本書(但しコックリル警部は登場しません)はサン・ホアンの社会問題を巡って様々な思惑が交差します。とはいえハヤカワポケットブック版は半世紀以上も前の古い翻訳だし、そもそも架空の国ですから読者は何の予備知識もないし、肝心の社会問題が宗教問題なのでとっつきにくく、何よりもミステリーらしくないプロット展開なのが私には苦痛でした。ようやく第8章で大公が大司教につきつけたとんでもない難題と徐々に準備される陰謀計画で少しずつ盛り上がり、最後の宗教劇的な締め括りも印象的ではありますがもやもやした謎ともやもやした推理の謎解きですっきり感がありません(そもそも私は十分に理解できませんでした)。雪さんのように真価を見出せる読者がうらやましいです。 |
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| No.2357 | 3点 | 女子高生探偵シャーロット・ホームズ最後の挨拶 ブリタニー・カヴァッラーロ |
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(2021/04/07 21:59登録) (ネタバレなしです) 2018年発表のシャーロット・ホームズ三部作の最終作のスリラー小説です(もっともシリーズ第4作(番外編?)が発表されたそうですが)。シリーズ前作の「女子高生探偵シャーロット・ホームズの帰還<消えた八月>事件」(2017年)のネタバレが作中にあって問題と言えば問題ですが、仮に本書を先に読むとなるとこのネタバレがないと物語についていけないことになってしまうと思います(後日談的設定のジレンマですね)。過去2作と違うのは語り手をシャーロットとジェイミー・ワトソンの2人体制にして1章ごとに語り手を交代させる構成にしていることです(最後の2章のみは例外的にシャーロットが続けて語り手)。どちらが語り手になってもドライな語り口ながら何ともうじうじした心理描写が続くのにうんざりさせられます。仇敵モリアーティーとの決着編のはずなのになかなか事件が起きないし、ようやく起きた事件もジェイミーに対する嫌がらせとかせいぜいが盗難の濡れ衣といった程度でこれではなかなか盛り上がりません。最後は劇的と言えば劇的ですが意外とあっさりした決着です。いくら作中時代が離れているとはいえコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの世界とはあまりにもかけ離れた雰囲気、人物描写、そして何よりも探偵らしさの希薄さが私の好みには全く合いませんでした。 |
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| No.2356 | 6点 | 眠れる森の惨劇 竹本健治 |
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(2021/04/03 22:20登録) (ネタバレなしです) 後年に「緑衣の牙」に改題された1993年発表の牧場智久シリーズ第7作で、類子&智久シリーズとしては第3作となる本格派推理小説です。深い森に囲まれた女子高で起こった悲劇の謎解きを扱っており、建物配置図と三姉妹館の見取り図があるのが読者サービスになっていますがそこまでやってくれるなら森の地図も欲しかったですね。死体の発見された鐙沼と女子高の位置関係が私にはよくわかりませんでした(文章から読み取れるのかもしれませんが)。作者が「最も透明度の高い作品に仕上がった」と自己評価しているように、人物の心理描写が時に幻想的になりますがこの作者の作品としてはわかりやすく、トリックの使い方の巧さが印象的でした。とはいえ最後に類子が発した「本当にそれでいいの」という質問に対する智久の答えは個人的には納得できるものではなく、後味はよくなかったです。 |
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| No.2355 | 5点 | レディーズ・メイドと悩める花嫁 マライア・フレデリクス |
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(2021/03/31 07:09登録) (ネタバレなしです) 2019年発表のジェイン・プレスコットシリーズ第2作の本格派推理小説です。作中時代(本書では1911年)の社会問題としてタイタニック号の悲劇、女性参政権問題、そして移民問題がきめ細かく描かれています。結婚目前の2人とその家族間の人間関係も決して順風満帆状態ではありませんけど、英語原題が「Death of a New American」であることからも推測できるでしょうがイタリア系移民にろくな人物がいないと見据えている当時の米国社会の偏見が作品を重苦しいものにしています。人間関係は複雑で登場人物リストに載っていない人物も多くて少々読みにくいですが、容疑者数はそれほど多くありません。犯人当てとしては推理説明が十分でありませんが、犯行に至る経緯の悲劇性が印象に残る作品でした。 |
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| No.2354 | 6点 | 改訂・受験殺人事件 辻真先 |
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(2021/03/24 21:52登録) (ネタバレなしです) 1977年発表のスーパー&ポテトシリーズの青春三部作の最期を飾る本格派推理小説です。創元推理文庫版で300ページに満たないですが仕掛けは一杯です。今回はキリコ(スーパー)の視点と薩次(ポテト)の視点で交互に物語を語らせる構成を採用し、両者が何を考えているかも読者に明示しながら真相は最後まで伏せる芸当をやってのけています。この青春三部作は実験的手法を取り入れていることでも有名ですが、最後に紹介されている海外古典ミステリーの引用で何を狙っていたかをきちんと説明しています。とはいえ引用が抜粋形式ということもあってこの古典ミステリー(ややマニアックな作品です)を読んでいないと何が実験的なのかわかりくいと感じる読者がいるかもしれませんが。 |
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| No.2353 | 5点 | 紀ノ国殺人迷路 草野唯雄 |
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(2021/03/24 21:19登録) (ネタバレなしです) 草野唯雄(そうのただお)(1915-2008?)のおそらく最後の作品と思われる、1995年発表の尾高一幸シリーズ第12作の本格派推理小説です。非常にシンプルな謎解きで、犬を轢き殺してしまったという運転者の証言と人を轢き殺したという目撃者の証言が真っ向対立です。どちらかを真とすればもう一方が犯人であろうことは明々白々で、意外性を生み出しようがありません。推理要素も少なく、捜査による証拠・証言探しが主体となっています。読みやすい作品ですし、トラベルミステリー要素もありますが読み終えた後に記憶に残るとしたら尾高の激怒シーンが珍しいことぐらいでしょう。 |
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| No.2352 | 4点 | 令嬢探偵ミス・フィッシャー 華麗なる最初の事件 ケリー・グリーンウッド |
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(2021/03/24 21:10登録) (ネタバレなしです) オーストラリアの女性作家ケリー・グリーンウッド(1954年生まれ)が1920年代のオーストラリアを舞台にしたフライニー・フィッシャーシリーズはテレビドラマ化され、さらには映画化されるほどの大ヒット作です。1989年発表の本書がシリーズ第1作ですがハヤカワ文庫版の日本語タイトルから連想されるような華麗さは感じられません。英語原題が「Cocaine Blues」とあるように麻薬組織との対決を描いたスリラー小説で、サイドストーリーでは違法中絶手術をする医者とその被害者が描かれるなどハードボイルドの暗黒世界の雰囲気が漂います。フライニー自身も武器を忍ばせて時にアクションヒロインになったり男性とベッドインしたりしています。メリハリあるプロットで読みやすいし、やや誇張気味ながらも人物の描きわけもしっかりしていますが個人的には好みの作風ではありませんでした。 |
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| No.2351 | 5点 | 退職刑事3 都筑道夫 |
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(2021/03/24 20:55登録) (ネタバレなしです) 1978年から1982年にかけて発表された退職刑事シリーズの7作の本格派推理小説を収めて1982年に出版された第3短編集です。前半の4作品が楽しめました。現代では珍しくなったガラス張りの電話ボックスの中でガラスに傷も穴もないのに射殺された死体、人形に殺されたかのような死体、殺人犯人は自白して事件は解決したはずなのに被害者の顔に仮面をかぶせたのは誰、死後に歩き回ったとしか思えない死体と、トリックはそれほどのインパクトはありませんが魅力的な謎と論理的推理による解決を堪能できました。しかし後半の3作品は論理的推理とは相性の悪そうなダイイング・メッセージ系です。「乾いた死体」で「ひとつの解釈をしてみただけなんだ」と言い訳させてますが、唯一の真相だという説得力がありません。しかし作者はこの種の謎解きに挑戦意欲が湧いたのでしょうか、第4短編集の「退職刑事4」(別題「退職刑事健在なり」)(1986年)ではメッセージの謎解き路線を更に推し進めることになります。 |
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| No.2350 | 6点 | 憐れみをなす者 ピーター・トレメイン |
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(2021/03/11 21:48登録) (ネタバレなしです) 1999年発表の修道女フィデルマシリーズ第8作の本格派推理小説で、創元推理文庫版で上下巻合わせて550ページを超します。このシリーズはフィデルマがアイルランド国外で活躍することも珍しくないのでトラベル・ミステリーでもあるのですが本書は船上ミステリーということもあって一層旅行の雰囲気は濃厚です。冷静沈着なキャラクターのイメージが強いフィデルマですが作者もマンネリ打破を狙ったのか本書ではかなり意外な一面が見られます。何とかつての恋人が登場するのです。軽薄なプレイボーイタイプですが、フィデルマの方が熱を上げていて挙句の果てに捨てられたというのですからこれは結構イメージ変わりますね。捜査に私情が挟まって苦労しています。また容疑者の大半が巡礼中の修道士や修道女なのですが彼らから修道女としての資質を批判されてフィデルマが反論できない場面もあるなど弱みを見せているのが新鮮です。謎解き伏線はちゃんと用意されていますが証拠としての決定力は少し弱いように思います。しかし海洋冒険小説要素を織り込むなど起伏のある展開で厚さを気にせず一気に読み通しました。 |
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| No.2349 | 6点 | 三色の家 陳舜臣 |
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(2021/03/11 21:29登録) (ネタバレなしです) デビュー作の「枯草の根」(1961年)で手応えを感じたのでしょう。1962年の陳舜臣の創作意欲は燃え上がり、陶展文シリーズ第2作の本書、非シリーズの「弓の部屋」、陶展文シリーズ第3作の「割れる」、非シリーズの「怒りの菩薩」、そして短編集「方壺園」が矢継ぎ早に発表されました。本書の作中時代は1933年、留学生だった陶展文は大学を卒業して帰国の準備中という設定です。青春小説要素はあまりありませんが陶展文が自分のことを「ぼく」と呼んだりして若さは十分に感じられます。殺人現場から誰にも目撃されずに消えた犯人という不可能犯罪要素はありますがプロット展開は非常に地味です。日本人や中国人が多数入り乱れますので登場人物リストを作って整理することを勧めます。トリックは小手先感が強いですが陶展文の推理はなかなか理詰めです。 |
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| No.2348 | 6点 | ロンドン謎解き結婚相談所 アリソン・モントクレア |
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(2021/03/11 21:15登録) (ネタバレなしです) 米国の男性作家アラン・ゴードン(1969年生まれ)がアリソン・モントクレア名義で2014年に発表した本格派推理小説で、アイリス・スパークスとグウェンドリン(グウェン)・ベイブリッジシリーズ第1作です。1946年のロンドンを舞台にして2人が共同経営しているライト・ソート結婚相談所に登録した女性客の殺人事件の謎解きに乗り出すプロットです。ちなみに英語原題は「The Right Sort of Man」です。主役の2人はどちらも20歳代の女性ですがそれぞれに重い過去を持っています。アイリスはスパイ組織の一員だったと思わせる描写があり、手荒な手段をとることも厭わず、男性経歴も豊富なご様子。グウェンは名門貴族に嫁ぎますが愛する夫は戦死、義理の両親に息子の監護権を握られています。デビュー作ということもあってか対照的な2人の描写には力が入っており、それぞれの個性を活かしての捜査はぐいぐいと読ませます。テンポが良すぎて推理はもっとじっくり説明してほしいと思いましたが、シリーズ第1作としては上々の出来栄えでしょう。 |
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| No.2347 | 5点 | 探偵の冬あるいはシャーロック・ホームズの絶望 岩崎正吾 |
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(2021/03/02 22:22登録) (ネタバレなしです) 金田一耕助シリーズのパロディ、ドルリー・レーンシリーズのパロディと続いた「探偵の四季」シリーズの2000年発表の第3作となる本格派推理小説です。今度はシャーロック・ホームズシリーズのパロディーとなっています。日本人なのに記憶を失った上に自分をシャーロック・ホームズと思い込んでいる男と、やはり日本人なのに「ホームズ」に合わせてワトソン博士を演じる精神科医の「わたし」を中心に物語が進みます。長編というより連作短編的であり、「光頭倶楽部」「イヌの事件」そして「まだらのひもの」と物語が進むにつれ、ある悪の存在(実は探偵コンビとはプライヴェートの関りがある)が全ての事件の背後にいるのではと疑惑は膨れ上がります。「まだらのひもの」では馬鹿トリックに近い密室トリックに驚きましたが、謎解き以上に印象に残ったのは人間ドラマの行く末のような気がします。なるほどこれはタイトルに「絶望」を使っただけのことはありますね。ところで「作者あとがき」で「残りは春」と意識はしていたみたいですがその後20年以上経ってもシリーズ第4作が発表されていないのが心残りです。 |
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| No.2346 | 5点 | 怒りっぽい女 E・S・ガードナー |
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(2021/03/02 21:28登録) (ネタバレなしです) 1933年発表のペリー・メイスンシリーズ第2作の本格派推理小説で初めて法廷場面が描かれた作品でもあります(シリーズ前作の「ビロードの爪」(1933年)には法廷場面はありません)。メイスンは全82作品を通じて年をとらないキャラクターとして認識されていますが、本書では説得の通じない相手に怒りを隠せないなど若さを感じさせますね。単に真相を見破るだけでは成功とは言えず、いかに法廷で証明できるかがこのシリーズでのハイライトですが本書では実に深遠な法廷戦略をとっていて印象的でした。もっともそれはメイスンが説明して初めて私はわかったのであって、それまでは実に地味に立ち回っており盛り上がりに欠ける展開という気もします。なお「ビロードの爪」の締め括りで次回作(つまり本書)を予告した演出がありましたがそれは本書でも採用されており、シリーズ第3作の「幸運の脚の娘」(1934年)へ続くようになっています。しかしそれが読めるのは創元推理文庫版のみで、角川文庫版とハヤカワ・ミステリ文庫版では(本筋には影響ないとはいえ)この演出部分が削除されているのは残念です。 |
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| No.2345 | 5点 | 飛車角歩殺人事件 本岡類 |
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(2021/03/02 21:11登録) (ネタバレなしです) トリック重視の本格派推理小説の書き手として登場し、後には社会派推理小説や非ミステリー作品へと幅を広げましたが2007年を最後に小説を長期間断筆して2023年に復活した本岡類(1951年生まれ)のデビュー作が1984年発表のプロ棋士・神永英介七段シリーズ第1作の本格派推理小説である本書です。作中で神永を1943年生まれで、1969年には26歳の若さで七段に昇段する才覚を見せながらその後は足踏みして将棋タイトルにも縁がないと紹介しています。「どこまで冗談でどこから本気かわからない」と評される飄々とした性格が災いしているのでしょうね。将棋界のビッグ・タイトルである名王戦の第一局の最中に舞台の近くで轢き逃げ殺人があり、次の悲劇を予告するような脅迫状が送られてくるプロットです。「棋士ほど探偵に向いている人種はいない」と豪語する神永が結構早い段階で容疑者を絞り込みますが、思わぬ展開でアリバイ崩しの謎解きに移行します。そのアリバイ崩しに意外な人物が貢献して驚かされ、さらにどんでん返しも用意されていますが神永の説明はもしやと思いついた仮説が当たったにすぎず、謎解き伏線が十分でないように思えます。まずトリック(失火、爆殺、アリバイなど色々)ありきで、プロットはつぎはぎだらけの印象です。 |
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| No.2344 | 4点 | やみつきチョコレートはアーモンドの香り キャシー・アーロン |
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(2021/03/02 20:54登録) (ネタバレなしです) 米国のキャシー・アーロンが2014年に発表したデビュー作となるコージー派ミステリーで、1つの建物をチョコレート・ショップと書店でシェアしているミシェル・セラーノとエリカ・ラッセルの親友同士が、ミシェルのチョコレートを食べて死亡する事件の解決に取り組むプロットです。コージー派におけるコンビ探偵というとシャーロット・マクラウドのケリング夫妻やジル・ジャーチルのブルースター兄妹ぐらいしか私は知らないのですが、2人が互いを評するところによればミシェルは意思が強く、エリカは頭がいいとなっています。ただ本書におけるミシェルは涙ぐむシーンが結構あって、事件の悪影響がいかに深刻だったかがよく伝わっています。ミシェルの1人称形式にしたのでやむを得ないのですがエリカの出番は控えめに感じました。あまり探偵らしい活躍を披露することもなく、推理によらない解決になってしまったし真相自体も魅力あるものとは言えずで本格派推理小説好きの読者には受けにくいと思います。 |
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| No.2343 | 8点 | 蒼海館の殺人 阿津川辰海 |
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(2021/02/25 21:27登録) (ネタバレなしです) 2021年発表の館四重奏第2作となる本格派推理小説です。「紅蓮館の殺人」(2019年)の続編というべき作品で、葛城輝義は心に傷を負った状態で登場します。名探偵どころか一般人としても無気力になっており、事件が起きてもやる気を見せず一体いつになったらどうすれば復活するのか読者をやきもきさせます。「紅蓮館の殺人」では迫りくる山火事がサスペンスを盛り上げましたが本書では台風が引き起こした濁流が迫ります。それ以上に緊張感を演出するのが容疑者の大半が曲者揃いの葛城一族であることで、異様な家族ドラマが待ち受けます。古今のミステリーを意識した仕掛けは前作以上で、第一部の4章では「アガサ・クリスティーかよっ!」、第五部の3章では「レックス・スタウトかよっ!」、第六部の2章では「エラリー・クイーンかよっ!」と何度内心で突っ込んだことか。私よりもミステリー通である多くの読者ならもっと突っ込みネタを見つけられたでしょう。怒涛の推理に柄刀一の「密室キングダム」(2007年)に匹敵するような犯人の深遠謀慮が凄い。講談社タイガ版で600ページを超す大作ですがこの厚さは必然だったと思います。 |
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| No.2342 | 5点 | ロンリーハート・4122 コリン・ワトスン |
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(2021/02/25 21:04登録) (ネタバレなしです)1967年発表のパーブライト警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。2人の女性の失踪事件を手掛けることになり、調べていくと2人の共通点が同じ結婚相談所の登録メンバーであることがわかり「青ひげ」の犠牲になったのではと疑います。一方でティータイムなる不思議な名前の女性が登場して新たな登録メンバーになり、次の犠牲者になるのではと心配することになるのですがここからの展開が変わっています。登録ナンバー4122を名乗る男が彼女の前に現れ、もちろん十分に容疑者なのですが彼女の挙動も結構怪しいのです。どこかアントニー・ギルバートの「薪小屋の秘密」(1942年)を私は連想しました。謎めいた男、謎めいた女、そして警察の三つ巴的な展開は派手ではないけど退屈しません。しかし結末があっけないのが残念で、推理説明をきちんとしてくれないのは大いに不満でした。 |
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| No.2341 | 6点 | 船中の殺人 林熊生 |
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(2021/02/25 20:50登録) (ネタバレなしです) 林熊生(りんゆうせい)は人類学者の金関丈夫(かなせきたけお)(1897-1983)が日本の植民地時代の台湾でミステリーを発表した時のペンネームです。第二次世界大戦後は日本に戻りますが二度とミステリーの筆を執ることはありませんでした。本書は1943年発表の本格派推理小説で、日本では2001年出版の「日本植民地文学精選集」で復刻されました。台湾の基隆から神戸へと向かう船中を舞台にしたためか(台湾人は何人か登場しますが)台湾の異国情緒は感じられません。次々に増える容疑者のアリバイを丹念にチェックするプロットはやや単調で、文章の古さもあいまってちょっと読みにくいです。しかしながらどんでん返しが連続する終盤の謎解き推理は圧巻で、戦前戦中の本格派推理小説としては立派な出来栄えではないでしょうか。 |
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