nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2811件 |
No.2271 | 5点 | すばらしいペテン E・S・ガードナー |
(2020/07/09 22:11登録) (ネタバレなしです) 1969年発表のペリー・メイスンシリーズ第80作の本書がE・S・ガードナー(1889-1970)が生前に発表したシリーズ最後の作品です(死後に更に2作が出版されますけど)。残念ですが出来栄えは良くないです。あの証拠が犯人特定に結びつくのが法廷場面も大詰めの17章でようやくでは、本格派推理小説のプロットとしてはいただけません。しかもこの証拠にしたっていくらでも他の人を替わりの犯人に仕立てられる程度のものなのです。中盤でメイスンが入手したメモも何の目的で書かれたのかはっきりしませんし。作者の持ち味であるテンポのよさと読みやすさは最後まで健在ですが。 |
No.2270 | 6点 | 死者の微笑 尾崎諒馬 |
(2020/07/09 21:59登録) (ネタバレなしです) デビュー作の「思案せりわが暗号」(1998年)を読んだ時に色々と凝った仕掛けの本格派推理小説を書く作者だなあと思いましたが、2000年発表のお先凌駕シリーズ第2作である本書の凝り方もよくもまあここまでといった感じです。まず冒頭に「読者への挑戦状」が置かれています。これにはJ・J・コニントンの「或る豪邸主の死」(1926年)という前例がありますが、コニントンの挑戦状は普通です。しかし本書の挑戦状は「すべてを読み終えた君がすべきことは、この小説を床に叩きつけることではなく、この不可思議な出来事を見破ることである」です。床に叩きつけかねない内容なのかよと一抹の不安が...(笑)。おまけに「そもそもこれが推理小説であると認められるかかどうか?」という不安を助長するようなコメントまで。後半になると「名探偵尾崎凌駕への挑戦状」とか「作者への挑戦状」が飛び交う独創的なプロットでした。確かに好き嫌いが分かれそうなメタミステリーですが、複雑な内容をわかりやすく読ませようとする気配りも感じられる作品でした(でもちょっと長過ぎか)。 |
No.2269 | 5点 | パーフェクト・マッチ ジル・マゴーン |
(2020/07/01 20:25登録) (ネタバレなしです) 本書の創元推理文庫版の巻末解説でグェンダリン・バトラー、P・C・ドハティーと共に「新作が待ちきれない作家」として紹介された英国のジル・マゴーン(1947-2007)ですが1992年発表の本書でデビューしてからの短い作家期間に残された作品は20作にも満たないのが残念です。本格派推理小説を得意としており、解説で紹介されている数作はどれも読んでみたいです。本書は全13作のロイド警部&ジュディ・ヒル部長刑事シリーズ第1作でもありますが、ロイドのファースト・ネームが対外的には「デイヴィッド」で通していますがこれは本名ではないことが語られてます。ジュディは気になって仕方ないようですが私にはどうでもいいです(笑)。驚いたのはこの2人(ジュディは夫あり)が不倫の関係を結ぶこと。それもどうでもいいことなのかもしれませんけど、経緯が詳細に語られないので結構唐突感ありました。そして本筋の謎解きの方ですが、容疑者たちの男女関係もかなりややこしいことになっています。文章がドライなのでそれほどべたべたした描写になってませんが書き方によってはかなりどろどろしたドラマになったでしょうね。謎解き伏線をしっかり張っていて、トリックも古典的ながら使い方も巧みです。しかし創元推理文庫版の登場人物リストで事件の鍵を握る人物が漏れているのは残念です。作者でなく出版社の落ち度かもしれませんが、丁寧に書かれた内容だけにこのキズは目立ちます。これは減点評価せざるを得ません。 |
No.2268 | 6点 | 殺しも鯖もMで始まる 浅暮三文 |
(2020/07/01 19:53登録) (ネタバレなしです) 朝暮三文(あさぐれみつふみ)(1962年生まれ)は奇想の作家として知られる一方で普通の作品も書いているそうですが、2002年発表の本書は後者に属する本格派推理小説です。といっても探偵役はかなりエキセントリックで、自作なのか引用なのかわからないことわざのようなせりふを連発して登場人物(と読者)を煙に巻いています。しかしユーモア本格派ながら謎解きはまっとうです。手掛かりがダイイング・メッセージに依存し過ぎていて犯人当てとしては感心できませんが、その弱点を補って余りあるのが2つの密室の謎の魅力です。1つは地中の穴から発見された死体、しかしその穴を誰かが掘って造った形跡が見つからないという前代未聞の地中密室です。もう1つの密室もロープで封印された密室というこれまたユニークな密室です。図解も丁寧で、これは一読の価値がある本格派だと思います。 |
No.2267 | 4点 | 絶品スフレは眠りの味 チェルシー・フィールド |
(2020/07/01 19:29登録) (ネタバレなしです) 2016年発表は珍しくもオーストラリア人作家のチェルシー・フィールドによるコージー派ミステリーのデビュー作です。主人公のイソベル・エイヴェリーもオーストラリア人ですが、舞台はアメリカなのはある意味残念。イソベルはオージー英語が混じるのを気にしているようですが日本語訳ではわかりませんし。イソベルが別れた夫の投資の失敗のつけで多額の借金を背負い、返済のために「毒見役」という高報酬だが危険な職業に就こうというのがコージー派らしからぬ設定です。闇金業者やストーカーに迫られたりしてますがイソベルはどこか能天気で、まだ見習い扱いなのに試験官をからかったりしていて悲壮感が感じられません(まあコージー派ですからね)。毒を盛られて重態に陥った仲間を救うため早く犯人を捕まえて毒の正体を突き止めなくてはという風変わりなタイムリミットのプロットはユニークです。しかし毒殺手段として殺し屋を雇うのもありという設定は本格派好きの私にはどうも合いません(真相はそうではありませんけど)。過激ではありませんが作風がやや下品なのも好みではなかったです。 |
No.2266 | 5点 | 海峡に死す 阿部智 |
(2020/07/01 19:07登録) (ネタバレなしです) 私にとって初の阿部智(あべさとし)(1962年生まれ)の作品が1993年発表の本書で、旧題は「慟哭の錨」でした。個人的には旧題の方が良いと思います。作者は「もちろん本格」とこだわりを見せていますが、意外にも前半はシージャックされた旅客船の事件を扱ったサスペンス小説のプロットです。この事件に一応の決着がついてからの後半が本格派推理小説となる構成ですが本格といっても読者が犯人宛てにチャレンジするようなタイプではなく、大掛かりなトリックの謎解きを軸にしたハウダニット型でした。講談社ノベルス版では作者のことを「海を舞台にした本格派を得意とする大型新人」と紹介しており、確かに本書の海の雰囲気はなかなかだと思います。しかしミステリー4作目となる本書以降は新作が発表されていないみたいです。1994年には勤務先の海上保安庁も退職したらしく、今はどうしているんでしょうか(余計なお世話)。 |
No.2265 | 5点 | 運命のチェスボード ルース・レンデル |
(2020/06/22 22:02登録) (ネタバレなしです) 1967年発表のウェクスフォードシリーズ第3作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「死が二人を別つまで」(1969年)ではアマチュア探偵の方がウェクスフォードよりも描写が目立ってましたが、本書ではバーデン警部とドレイトン刑事が目立ったように感じます。特にドレイトンの公私混同捜査はどうなるんだろうかとやきもきさせます。但し謎解きプロットはかなりとらえどころがありません。手掛かりは殺人を示唆する警察署宛ての匿名の手紙のみという死体なき殺人を扱っており、被害者かもしれない失踪者と容疑者たちの接点も曖昧なまま進む物語は結構だらだら感があります。とてもシリアスな作品なのですが、それでいて真相の一部にはどこか人を食ったようなところがあります。 |
No.2264 | 5点 | 「六大都市」Kの殺人 矢島誠 |
(2020/06/22 21:42登録) (ネタバレなしです) 1988年発表の上原恭平シリーズ第2作の本格派推理小説で、恭平は「霊南坂殺人事件」(1988年)での活躍を評価されて警部補に出世しています。六つの大都市にバラバラにされた身体の一部が送られるという派手な猟奇殺人が起きますがその後の展開はとても地味です。地味なのは必ずしも弱点ではありませんが本書の場合、不自然感が強かったです。死体と一緒に送られたメッセージですが、警察関係者以外に公表されない(伝えたい相手にメッセージが伝わらない)可能性を犯人は考えなかったのでしょうか?また4年前の自殺事件の関連づけも弱いと思います。作者はトリックと人間模様の両方に力を入れたと自負していますが、トリックはかなりご都合主義的に成立させているし被害者の姉以外は人物描写がぱっとしません。 |
No.2263 | 4点 | 寄宿学校の天才探偵 モーリーン・ジョンソン |
(2020/06/22 21:29登録) (ネタバレなしです) アメリカのモーリーン・ジョンソン(1973年生まれ)が2018年に発表したヤングアダルトミステリー三部作の第1作となる本格派推理小説です。1936年に設立され、「特別な」少年少女が集められて自分のやり方で学ぶことができるエリンガム・アカデミーで1人の女生徒を悲劇的運命が待ち受けていることが示唆され、さらに学校創設者である大富豪の妻と3歳の娘が誘拐されます。それから約80年が経過し(2013年の雑誌記事が挿入されてます)、アカデミーに入学した16歳の少女ステイヴィがこの事件の解決を目指すというプロットです。多くの少年少女を登場させていますが、(少なくとも凡人読者の私には)その「天才」ぶりが発揮されているように感じません。ステイヴィについても然りで、古い手法ですけど推理に感心するワトソン役がほしかったですね。しかもステイヴィの探偵活動がなかなか描かれない展開のため、物語の間延び感は相当のものです。終盤になってようやく巻き返して本格派らしくなりますが、「続く......」で締め括られる結末の消化不良なことといったら! |
No.2262 | 6点 | 娯楽としての殺人 評論・エッセイ |
(2020/06/19 21:26登録) (ネタバレなしです) 米国のハワード・ヘイクラフト(1905-1991)は20世紀を代表するミステリー評論家として有名で、「探偵小説・成長とその時代」という副題を持つ本書は代表作とされています。本書が出版されたのは1941年、ミステリーの始祖とされるエドガー・アラン・ポーのミステリー第1作である「モルグ街の殺人」(1841年)が世に出て丁度100年目をねらっていたのでしょうね。第1章から第10章までがポーの時代から現代(1930年代)に至るまでのミステリー史ですが、序文で「真正な『純粋』探偵小説とその作家に限定して」と断り書きしてあるように紹介されているのはほとんどが名探偵の活躍する本格派推理小説とその作家です。ハードボイルドの始祖の1人であるダシール・ハメットは敬意をもって高く評価されていますがこれは例外、HIBK派のサスペンス小説で名高いM・R・ラインハート(当時まだ現役で人気もあった)は手厳しく扱われてます。第11章から第18章は多彩な内容で、本格派好きの私としては第11章の探偵小説の「戒律」については結構共感しました。第12章でミステリー作家はもうかるのかについて論じているのがユニークだし、第15章での民主主義とミステリーの関連づけも(いい意味で)時代性を感じさせます。第17章のクイズでは「このトリックを使った作品は」とか「この犯人の登場する作品は」とかネタバレしている問題がありますので注意下さい(私は海外本格派大好きなのに半分も正解できませんでした)。今となっては時代の古さを感じるところが多々ありますが本格派黄金時代の評論として権威があったというのも納得です。 |
No.2261 | 5点 | 塗仏の宴 京極夏彦 |
(2020/06/12 22:33登録) (ネタバレなしです) 「宴の支度編」と「宴の始末編」の2巻(分冊文庫版では6巻)から成る1998年発表の百鬼夜行シリーズ第6作です。講談社文庫版で950ページを超す「宴の支度編」は6つの短編(といってもどれも100ページ超、中には200ページ近いものも)で構成された連作短編集スタイルです。ばらばらな物語ですがどれも最後を拘留中の関口巽の描写で締め括って連作としての統一感を出しています。全く解決されずに終わってしまう作品もあってこれだけ読んでもすっきり感はありませんが。「宴の始末編」の方は普通に長編です(1050ページもあるところは普通とは言えませんが)。謎の占い師、謎の薬売り、謎の風水師、謎の霊感少年と怪しげな登場人物だけでもおなか一杯ですが、さらには謎の研究団体、謎の宗教団体、謎の武道集団など怪しげな組織も多数、おまけに催眠術か薬の影響かシリーズキャラクターたちまで謎めいた行動をとるのですからもう混沌の極みです。ただこれまでのシリーズ作品は異色ながらも本格派推理小説要素を残していましたが、いいちこさんのご指摘のように京極堂の説明は読者が知りようもない知識に立脚しており、つじつまは合わせてますがとても推理説明とは言えないと思います。本格派というよりものすごく回り道をしている巻き込まれ型サスペンスではないでしょうか。 |
No.2260 | 5点 | 震えない男 ジョン・ディクスン・カー |
(2020/06/12 21:56登録) (ネタバレなしです) オカルト演出を織り込んだ本格派推理小説を得意とした作者のことですから幽霊屋敷を舞台にした作品もあるだろうと思ってましたが、1941年発表のフェル博士シリーズ第12作の本書がそれでした。ちなみに作中時代は1937年で第二次世界大戦の少し前ですがプロットの中で上手く時代性を活用しています。いくつもの謎が提示されますが大きなのは2つ。1つは17年前の1920年に老人がシャンデリアの下敷きになって死んだ事件ですが、状況証拠から判断すると彼が椅子を置いてその上からシャンデリアに飛びつき、ぶら下がりながらぶらんこのように身体をゆすっていたのではというシュールな推理が披露されます(真実ならなぜそんなことを?)。もう1つの(メインの)謎は壁にかかっていたピストルが誰も触れていないのに空中に浮かび上がって被害者を射殺したというものです。ハヤカワポケットブック版が半世紀以上前の古い翻訳というのも問題ですが、ちぐはぐな会話や質問に質問を返してはぐらかしたりと物語のテンポがよくありません。肝心の射殺トリックはユニークではありますがあのトリックで銃を空中に浮かせる、弾丸を発射させる、相手に命中させるを全て実現可能と計画するのはあまりにも無理筋ではと頭の中で疑惑の渦がぐるぐる...(笑)。とはいえ最後にとんでもない秘密が明かされるなどなかなか凝った謎解きの作品ではあります。しかしこのタイトルは何とかならなかったのでしょうか。「震えない男」とは被害者を指していますがほとんど印象に残りません。「絶対に偶然を当てにしない男」の方がよほど個性的です。 |
No.2259 | 7点 | 片翼の折鶴 浅ノ宮遼 |
(2020/06/09 21:23登録) (ネタバレなしです) 医師である浅ノ宮遼(1978年生まれ)が2006年に発表したミステリーデビュー作の短編集(当初は「片翼の折鶴」というタイトルでした)で、診断の天才と呼ばれる西丸豊を探偵役にした5作が収まってます。大好きな本格派推理小説であっても難解な医療知識が満載なのは辛いので普通なら敬遠するところでしたが、創元推理文庫版で米澤穂信が「解決への手順も極めて論理的で、注意深く、かつフェアに構築されている」と絶賛しているのでついふらふらと読みましたが、いやこれいい、米澤さんありがとうと言いたいぐらいよかったです(何を偉そうに)。殺人の謎解きもありますが大半は患者や他の医師がわからない謎(病気の正体や病気の原因など)を西丸がどうやって解くかです。医学界の日常の謎解きですかね。でも普通の日常の謎と違い、それが解けないと患者は正しい治療を受けられずに死んでしまうかもしれないという緊張感があります。専門用語が多いですが語り口は滑らかで、一般教養さえ低レベルの私でも読みやすかったです。現場見取り図まであって最も本格派として充実している「幻覚パズル」と病変が消えたという風変わりな謎解きの「消えた脳病変」が私のお気に入りです。「私は探偵などではありませんよ。ただの医師です」のせりふで西丸が締めくくる「幻覚パズル」はこの短編集の最後に配置してほしかったですね。 |
No.2258 | 6点 | ある醜聞(スキャンダル) ベルトン・コッブ |
(2020/06/09 20:45登録) (ネタバレなしです) ベルトン・コッブ(1892-1971)のシリーズ探偵と言えば40作以上の長編で活躍するチェビオット・バーマンですが、晩年の1965年から1971年にかけてその番外編として5作のブライアン・アーミテージシリーズが書かれました。1969年発表のシリーズ第4作である本書ではアーミテージは警部補で、かつてはバーマンの部下として充実した警官生活をおくっていましたがバーマンは警視正にまで昇りつめて今では直属の上司ではなく、現上司であるバグショー警視との関係は良好ではありません。しかも本書ではバグショーの秘書である女性巡査が墜落死する事件が起き、アーミテージは疑惑の上司を追及するのか忖度(そんたく)して捜査に手心を加えるのか、揺れ動くアーミテージの心情が独特のサスペンスを生み出します。一つ誤ると自分のキャリア台無しですからね。サラリーマン読者の私には大いに共感できる場面がいくつもありました(笑)。脇役ながらバーマンはアーミテージをフォローしてくれます。但しバグショーが無罪だった場合も想定して慎重です。そこがアーミテージは理解できずにちょっとすねているのもよくわかるぞ(笑)。そんなこんなで捜査は難航しますが、犯人を特定するには証拠が十分でない推理に感じられましたが終盤のちょっとしたどんでん返しが効果的で、幕切れも印象的です。本格派推理小説要素のある警察小説としてなかなかの出来栄えだと思います。 |
No.2257 | 7点 | 龍の寺の晒し首 小島正樹 |
(2020/06/04 21:35登録) (ネタバレなしです) これでもかと言わんばかりに謎とトリックを詰め込む小島の本格派推理小説が「やり過ぎミステリー」という評価が固まったのは「武家屋敷の殺人」(2009年)あたりと思われます。「四月の橋」(2010年)が(この作者としては)おとなしい部類だったのでさすがに「やり過ぎ」もそうは続かないかと少し残念な気になりましたが、2011年発表の海老原浩一シリーズ第3作(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)もカウントすれば第4作)の本書でまたまた「やり過ぎ」をやってくれました。連続首切り殺人事件の謎解きがメインですが、切られた首があちこちで目撃されたり首のない死体がボートを漕いだり、挙句の果てには造り物の龍が空に舞い上がります。トリックは強引だったり偶然だったりと問題点もありますが複雑な真相に上手くはまっています。犯人当てとしては第5章の最後の説明が肩透かしモノですがどんでん返しの謎解きは十分に面白かったです。ユーモアを意識した場面を挿入するなど作者にも余裕ができたのかもしれません。エピローグのドラマは「やり過ぎ」というより「出来過ぎ」の感がありますが(笑)。 |
No.2256 | 5点 | 降霊会の怪事件 ピーター・ラヴゼイ |
(2020/06/04 21:15登録) (ネタバレなしです) 1975年発表のクリッブ&サッカレイシリーズ第6作です。作中時代は1885年、自宅に電灯があるのが珍しいという描写がありますがそんな時代に感電死事件の謎をもってきています。ハヤカワ文庫版の巻末解説では親切にもシリーズ全長編の特徴を紹介していますが、本書はその中で最も本格派推理小説らしさを発揮しており緻密な謎解きを楽しめると紹介しています。しかし残念ながらプロットも推理説明もわかりにくい作品でした。事件のきっかけとなる盗難の真相説明はさらりとし過ぎて読み落としかけたし、降霊会で電気仕掛けの椅子に座らせる目的もよくわからず感電死トリックも説明が上手くありません(私の理解力不足もありますが)。色々と伏線があったことは何とかわかたものの、それがどのように真相に結びつくのかがやっぱりわかりにくかったです。もう少し推理の切れ味がほしいです。 |
No.2255 | 6点 | Vの密室 井原まなみ |
(2020/06/04 20:46登録) (ネタバレなしです) 石井竜生(1940年生まれ)との夫婦コンビ作家で知られる井原まなみ(1938年生まれ)が初めて単独執筆した1990年発表の本格派推理小説です。発表当時は「シーラカンスの海」というタイトルでした。300人以上が集まった名門校の同窓会で1人の女性が毒死します。会場の同窓生たちが容疑者になりますがその1人が今度は密室内でガス中毒死します。ところが部屋のガス栓は事故防止のため針金でぐるぐる巻きにしてありました。この風変わりな密室の謎解きも十分に面白いし、終盤での犯人との対決はドラマチックに盛り上がりますが本書の1番の読みどころは女性ドラマだと思います。第8章での主人公の「主婦をやるしかない女か、仕事をやるしかない女」の二択しかないような思考は現代の読者からすると「頭が硬過ぎない?」と映るかもしれません。しかしバブル経済が崩壊して夫婦共稼ぎが当たり前になる時代の直前に書かれた作品と割り切れば、結構共感できるところも多いのではと思います。 |
No.2254 | 5点 | 追憶のローズマリー ジューン・トムスン |
(2020/06/04 20:29登録) (ネタバレなしです) 英国のジューン・トムスン(1930年生まれ)はシャーロック・ホームズのパスティーシュ短編が高く評価されていますがそれらが広く知られるようになったのは1990年代になってから。ミステリー作家としての活動は1970年代から書き続けられているフィンチ警部シリーズの本格派推理小説があり、個人的にはオリジナル探偵のこちらに興味がありました。トリッキーな作品もあるそうですが1988年発表のシリーズ第14作の本書はトリックはあまり凝ってません。創元推理文庫版の巻末解説の「人の微妙な心持を描くのがとてもうまい」特徴を押し出した作品です。心理描写もさることながら舞台描写もかなり控え目です。第一の事件は嵐が迫り来る夜の出来事なのですが全く迫力を感じません。むしろ19章での荒廃した建物が並ぶ運河とか20章の穏やかな夜に登場人物たちが織り成す小さく静かなドラマの方が印象に残りました。謎解きとしては被害者の周辺にローズマリーが散りばめられた秘密が注目に値しますが推理でなく捜査によって場当たり的にわかるのは本格派として物足りません。真相がほぼ明らかになったところで新たな謎が生じる展開が意外でしたが、蛇足のような気もしました。余談になりますが巻末解説で「時のかたみ」(1989年)の誤訳を謝罪して本書で訂正した姿勢は素晴らしいと思います。レジナルド・ヒルの探偵をダルジールと紹介して、後でディーエルと発音するのが正しいとわかってからもその後の翻訳でもダルジールで押し通し続けた出版社に爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいです。 |
No.2253 | 5点 | 翳ある墓標 鮎川哲也 |
(2020/06/02 22:12登録) (ネタバレなしです) 鮎川哲也が残した長編ミステリーは22作(知名度の割には意外と少ないですね)、ほとんどが鬼貫警部シリーズで17作、天才型の星影龍三シリーズが3作、非シリーズが2作です。1962年発表の本書は非シリーズ作品です。「動機に社会性はあるが、これはあくまで純粋本格推理小説である」とは作者の弁ですが、そこまで主張するからには星影龍三シリーズみたいな王道路線を追求してほしかったですね。地道な捜査の末にやっと犯人の目星がついて終わりかと思ったらとんでもない、そこからの証拠固めにページを費やしており、星影シリーズよりは鬼貫シリーズの方に近いと思います。最後は(やや唐突に)哀愁を帯びた締め括りを意図するなど、決して「純粋」ではありません(そこがいいという読者もいるでしょうけど)。 |
No.2252 | 5点 | ふさわしき復讐 エリザベス・ジョージ |
(2020/06/02 21:44登録) (ネタバレなしです) ハヤカワ文庫版で600ページを超す1991年発表のトーマス・リンリー警部シリーズ第4作の本格派推理小説ですが過去の3作を読んだ読者は違和感を感じるのではないでしょうか。何とリンリーとセント・ジェイムズの妻デボラが婚約関係なのです。巻末解説によるとデビュー作の「大いなる救い」(1987年)よりも前にセント・ジェイムスを主人公にした作品を2作も書いていて、その未発表作を改訂して出版したのが本書とのことです。そのためか本書はリンリーとセント・ジェイムスのダブル主人公体制で、しかも謎解きへの貢献度はセント・ジェイムスの方が高いというシリーズ異色作です。しかし「大いなる救い」よりも作中時代が昔であることは冒頭で断り書きしてほしかったですね。トーマスの母、弟やセント・ジェイムスの妹などが登場しますが良好な家族関係とは言えない上に殺人事件にまで巻き込まれます。探偵役の家族が容疑者になるミステリーならドロシー・L・セイヤーズの「雲なす証言」(1926年)が先駆的作品ですが、比較にならないほどの重苦しいサスペンスです。リンリーの婚約がどうなるかはシリーズファン読者なら結果は丸わかりですが、どのように収まるのかという興味で読ませます。 |