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ミステリの祭典

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殺人の仮面
私立探偵マイケル・シェーン

作家 ブレット・ハリデイ
出版日1963年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 nukkam
(2021/05/10 00:16登録)
(ネタバレなしです) 米国のブレット・ハリディ(1904-1977)は1920年代後半から非ミステリーも含む様々なタイプの作品を書いていましたが出世作は赤毛の私立探偵マイケル・シェーンシリーズ第1作の「死の配当」(1939年)です。このシリーズ、大変な人気を誇りハリディ自身はシリーズ長編を29作発表して1958年に実質断筆したようですがその後もゴーストライターによる(ハリディ名義の)シリーズ続編が40作近くも書き続けられました。さて本書は1943年発表のシリーズ第7作ですがハヤカワポケットブック版の裏表紙では「タフ・ガイ探偵マイケル・シェーン!」とか「ハードボイルドの傑作!」とか紹介されていてこれだけだと本格派好きでハードボイルドやサスペンス苦手の私にとっては敬遠候補なのですが、本サイトで人並由真さんが謎解きミステリとして評価できるとのご講評なので試し読みしました。第6章や第8章の描写は紛れもなくハードボイルドだし、第14章でシェーンに「ぼくは犯人を知っていて、サスペンスをもりあげるためにわざと黙っている小説の探偵とは違う」と語らせたりと本格派とは一線を引いていますが、力ずくではなく謎解き伏線の回収に配慮しながら事件を解決しています。犯人の正体よりも大胆な犯行計画の方が印象的な作品でした。

No.1 7点 人並由真
(2019/01/07 01:51登録)
(ネタバレなし)
 その年の7月。マイアミの私立探偵マイケル・シェーンは愛する若妻フィリスとともに、ロッキー山脈周辺の鉱山街セントラル・シティを休暇旅行で訪ねる。街は年に一度のイベントである演劇祭の最中で、観光客で賑わっていた。そんな中、シェーンは偶然、旧友であるニューヨークの刑事パトリック(パット)・ケイシーや不仲の賭博師ブライアントなど、面識のある何人かと遭遇。一方で、シェーンの勇名を聞き及んでいた若き女優ノラ・カースンから、何やら相談事を持ちかけられかける。だがノラは本題に入る前に、10年前に生き別れた老父を目撃したとしてその場を退去。やがてくだんの老鉱山師「左巻きのピート」が惨殺された死体で見つかった。シェーンは成り行きからフィリスやパットとともに地元の捜査に協力するが、事態は思わぬ連続殺人事件へと発展し……。

 1943年のアメリカ作品で、マイケル・シェーンシリーズの長編第7作目。
 世代人のハードボイルド私立探偵小説ファンには周知の通り、シェーンシリーズは、作者ハリディが1939年の第1作『死の配当』を著したのち、1958年までに長編29本(と何作かの中短編)を執筆。そののち、別の作家たちが「ブレット・ハリディ」のハウスネームで40本以上の公式パスティーシュ的な長編その他を執筆したという。日本ではその正編といえる長編29作品のうち、17本分が訳出されている。
 それでポケミス801番にナンバリングされる本書『殺人の仮面』は、現在のところ一番最後に訳出されたシェーンものの作品。同時に実はこの長編は、シリーズ第1作でシェーンに窮地を救われた薄幸のお嬢様(キャラクター的にすごく可愛い)で、その後、彼の愛妻かつ相棒の秘書となったシリーズ初期からのレギュラーヒロイン、フィリスがまともに活躍した最後の作品でもあった(フィリスは、未訳の第8長編「Blood on the Black Market」の中で(あるいはその直後の時勢で)、シェーンの子供を出産する際、母子ともども死亡したらしい~涙~)。
 しかし英国のニコラス・ブレイクのナイジェル・ストレンジウェイズの愛妻ジョージアの戦死事実もそうだが、なんでこの時期(太平洋戦争の後半)に当時の人気中堅ミステリ作家漣はこういう悲劇設定をシリーズに持ち込んだのか。それこそ世界大戦という大量死の中で、自作フィクションの主人公のみが愛妻とともに安穏としていることに書き手としての引け目があったのか? 

 そもそも日本に紹介されたシェーンシリーズの長編17本は、新ヒロインの二代目秘書ルーシー・ハミルトン登場以降のものがなぜか大半で、フィリス登場編はわずか3長編のみ。
 いや、ルーシーも十分に魅力的なキャラなんだけど、フィリス編の方も第二長編の「The Private Practice of Michael Shayne」そして肝心の退場編? 「Blood on the Black Market(ちなみにこの作品、ポケミスでは「暗黒街の血痕」という仮題タイトルで紹介されたこともあり、その暫定的な邦題の響きもかっこいい)」などは、是非とも翻訳刊行してほしかったとつくづく思う…。
 21世紀の今からでも、どっかからか出ないかしら(と、論創社の方を見る)。

 ……というわけで大昔の一時期、『死の配当』ほかの諸作でシェーンシリーズに思い入れた自分のような読者(既約の作品でまだまだ読んでないのもいくつかあるが~汗~)にとっては、本作『殺人の仮面』は
①これでシェーンシリーズの翻訳が打ち止めになった
②数少ない貴重なフィリス登場編
③しかも原書の流れでも、たぶん最後のまともなフィリス活躍編
……などなどの事由から相応に特別感のある一編だったのだが、ここで思い立ってようやく読んでみた。
 
 しかし約160頁と短めの作品(シェーンシリーズは総じて短めだが)ながら、これがフーダニット(そして……)の謎解きミステリとしても存外に出来がいい(嬉)。シェーンが連続殺人事件の状況を整理し、容疑者それぞれの動機と犯行の機会の可能性を検証していく段取りの丁寧さもさながら、作品全体にかなり大きな(中略)トリックが用意されていて、プロットの練り込みの良さを実感する。終盤、関係者を一堂に集めての名探偵シェーンの謎解きも外連味十分で嬉しい。
 犯人側に(中略)や(中略)などの要素が組み込まれるのは抵抗がある人もいるかもしれないが、個人的にはそれを上回る得点要素として(中略)という面白い趣向があるので、本作はまずこの部分だけでも高い評価をしたくなる(細かい部分での誉めるポイントも結構多いハズ)。普通にパズラーとしての結晶度も高いのではないか。
 もちろん(今回は大きな活躍こそしないものの)内助の功としてシェーンを支えるフィリスの描写も魅力的(夫の旧友であるパットとの息のあった掛け合いなども微笑ましい)。
 こうなるとシェーンシリーズの既訳の未読作品も、また楽しめそうである。
 まあ実はこのシリーズ、意外に隠れたファンは多い感じだけどね。
(だから出しませんか。未訳の作品。)

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