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ミステリの祭典

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枯れゆく孤島の殺意

作家 神郷智也
出版日2009年05月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 nukkam
(2021/05/23 22:42登録)
(ネタバレなしです) 神郷智也(かんざとともや)(1986年生まれ)の2009年発表のデビュー作である本格派推理小説です。孤島と館の組み合わせは国内本格派推理小説においてはもはや珍しくないですが(中には食傷気味と感じる読者もいるかも)、早々と自白する犯人という設定がなかなか目新しいです(もちろんこれで解決というわけではありません)。タイトルにも使われている、島の植物が次々に枯れていくのはなぜかという謎解きもユニークで、専門用語が色々と使われますが説明は(時々回りくどくなりますが)わかりやすいです。殺人の謎解きにも凝ったどんでん返しが用意されています。島の地図や館の見取り図は付けてほしかったですね。強引で雑然としているように感じるところもありますがなかなかの力作だと思います。

No.1 6点 人並由真
(2020/03/09 03:01登録)
(ネタバレなし)
 26歳の植物生態学の研究家・相川優真は、引退した富裕な実業家・田中平蔵からある依頼を受ける。それは本土からかなり離れた、田中家の邸宅がある孤島で、草木が異常な枯れ方をしているので調査を願うというものだった。案件に関心を抱き、さらに数日間で30万円という高額の報酬に背中を押された相川は、アパートの大家で同年齢の若者・美堂棟未人(むどうむねみと)を伴って島に向かうが、そこで二人が遭遇したのは密室ともいえる状況での殺人事件、そして予想を超えた草木の異常な枯れぶりであった。

 講談社が2008年から2011年にかけて新人作家、新人作画アーティストの登竜門として門戸を開いていた「講談社Birth」レーベルの一冊。お恥ずかしながら数年前までこんな企画&叢書があること自体知らなかった。

 本書はミステリファンサークル「SRの会」の正会誌「SRマンスリー」の誌上で数年前に「新本格誕生から現在まで約30年のうちに書かれた、あまり評判にならなかったちょっと面白い? 一冊」という趣旨の特集をした際に、紹介されたものの一冊。その特集のお題目からわかるように基本的にやや~相応にマイナー系の作品が語られたが、本書の作者も少なくともこれ一冊しか著作がないようである?

 内容は120%完全なクローズドサークルもので館もの、広義の密室といえる不可能犯罪っぽい殺人事件を扱うが、その一方で本作の特色として急激に枯れゆく草木の謎という興味が加わる。まあ評者は後者の方は、どうせ専門外の知識から正解が出てくるのだろうと思い、当初から思考放棄したが(そうしたら半分その読みは当たって、半分は意外によく耳にする話題にからんできたような……これ以上はもちろんナイショ)。

 一方、パズラーとして本願となる殺人事件の展開は、登場人物の絶対数もギリギリまで絞られ(物語に出てくるまともな人物だけでひとけたしかいない)、これでどうやってミステリ的なサプライズを見せるつもりだ、少なくとも犯人の意外性だけは(どんな人物を犯人にしたところで頭数が少ない分、疑惑の濃度は高くなるだろという意味で)犠牲になるだろうと考えた。そうしたら……おや、結構、面白いところを突いてきた。小ぶりな仕掛けといえば小ぶりだが、私見ではけっこうセンスのいいアイデアで作者が勝負を仕掛けてきている。
 まあそれこそどこかの新本格作品とかのなかに類似の手が絶対にないとは言えないが、少なくとも自分は今回のギミックとまんま同じものは知らない。ちょっと海外作家(中略)のような感触もある。

 かたや小説の弱点としては文章が全般的に大味なことで、クライマックスの真犯人判明のくだりなど作者がそれっぽく書こうとしている感じだけはわかるものの、効果が上がっていない。いや、なんかかえって、不器用な叙述ゆえの迫力みたいなものは醸し出されたかもしれないが。
 いずれにしろ凡百の館もの、クローズドサークルもののパターンに倣ったとしても、もうちょっとゾクゾク感は出たのではないか、とさえ思った。

 総体としては、まだまだ書き慣れてない(熟成までに至らずに終った)新人作家の習作感は強く抱くが、それでも奇妙な魅力と味わいは認められる一冊。大きな期待をかけない程度に、機会と興味があれば読まれてみてもいいかもしれない……? とも思う。

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