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ミステリの祭典

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裁きの鱗
ロデリック・アレンシリーズ 別邦題『オールド・アンの囁き』

作家 ナイオ・マーシュ
出版日2021年04月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2022/01/14 07:48登録)
(ネタバレなし)
  1950年代の半ば。英国の田舎町スウェヴニングスで、屋敷「ナンズバードン館」の老主人サー・ハロルド・ラックランダーが75歳で逝去する。かつて外交官で英国の代理大使まで務めたハロルド老は、死ぬ前に回顧録の原稿を遺していたが、そこにはある秘密が書かれていた。そしてスウェヴニングスで、この回顧録に関係する一人の人物が殺害される。その死体のそばには、近隣の川の主のごとく、土地の人々にその存在を知られていた大型の鱒「オールド・アン」が横たわっていた。

 1955年の英国作品。
 主題のひとつがあまりにも直球すぎるので、あーこれは(中略)だろうな、と思っていたら、まんまその通りであった。
 主要な登場人物たちがひとりひとり丁寧に描き分けられている反面、あまりにも容疑者の頭数が少なく、これではどうやっても真相発覚時にサプライスは獲得できないだろ、と思った。この枷を破るには、ほとんど反則の大技を使うしかないと考え、ある手を思いついたが、ただしソレは、叙述の客観性を信じるかぎり、ありえないものであったり。
 でまあ、結局フーダニットパズラーとしては、わかりやすく納得できる解決だけど、きわめて地味な決着となった。

 ただし本書の解説で横井司氏が語る「マーシュは自分が創造した登場人物たちひとりひとりに思い入れしすぎて、それがフーダニットミズテリに必要なある種の冷徹さを築きにくいのだ(大意)」という意見は、わかるような気がする。
 色んな意味で、評者が大好きな『病院殺人事件』の新訳が出ないかな、と思うが(ネタバレにはなってないハズ)。

 マーシュ(&ロデリック・アレン)が猫好きなのはよくわかって、ソレは嬉しい。これが本作の一番の収穫ポイントか(一匹だけ、悲惨な目にあうのがいたのが、可哀そうであったが)。

 かたや技巧的な謎解きパズラーとしては、ホメるべき突出した長所はほとんどないんだけれど、それでも英国の地方の町を舞台にしたシリーズ名探偵もののパズラー、そのお手本みたいな一冊であり、とても楽しかった。

 論創の『オールド・アン』版で読んだけど、しかし『裁きの鱗』と翻訳がダブったのは本当に片方の翻訳家の労力のムダであった。同じ原書を二冊訳すんなら、その手間暇を同じ作者の未訳のものに振り分けてほしい。まあこーゆーのは早い者勝ちだったり、いちいち競合する版元同士で談合や相談したりはしなかったり、でなかなか難しいんだろうけどね。それでも今回の件やヘキストの『コマドリ』の時の新訳のダブりみたいに、とにかくムダ? になるクラシック翻訳紹介の労力がとてもモッタイナイ。

No.2 5点 虫暮部
(2021/06/16 10:03登録)
 ミステリのフィールドの一部に、こういうアガサ・クリスティ的なスタイルがあり、私はそれなりに嗜むけれど全面的支持と言うわけではない。封建的な舞台で思惑があちこち絡み合う群像劇。よく読むと各人は微妙に変かも。しかしいかんせん地味。鱒や猫の使い方もぱっとしない。

 “アーチェリーの矢にご注意”なんて掲示されても、歩行者にどうしろって言うんだ。

No.1 6点 nukkam
(2021/06/13 22:34登録)
(ネタバレなしです) 1955年発表のアレン主任警部シリーズ第18作です。複雑な人間関係に加えて犬猫そして魚まで動員され、動機、アリバイ(地図はほしかったですね)、凶器、ダイイングメッセージと謎解きは多岐に渡り、多くの証拠と多くの証言が揃います。派手な展開こそありませんがじわじわと容疑が絞られる終盤はそれなりに劇的です。論創社版の巻末解説によれば作中の記載に矛盾があるそうですが、私は気づかぬまま王道の本格派推理小説の雰囲気を存分に楽しめました。

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