尼僧のようにひそやかに ジマイア・ショアシリーズ |
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作家 | アントニア・フレイザー |
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出版日 | 1978年11月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | nukkam | |
(2021/06/02 21:06登録) (ネタバレなしです) 貴族出身の英国のアントニア・フレイザー(1932年生まれ)は歴史小説や伝記や歴史研究本の作家として有名ですが、1977年発表の本書を皮切りに1990年代までジマイマ・ショアシリーズのミステリーも書いています(長編8冊と短編集1冊)。ジマイマは人気テレビ番組の花形インタビュアーで、妻のある男性と不倫の関係にあることが紹介されます。何でそんな設定にしたのか不思議ですが、フレイザー自身が最初の夫と6人もの子供をもうけながら妻のいる男性とそういう関係(1975年頃かららしい)になっていたのが影響しているのかもしれません。修道院で起きた修道女の怪死、そして「ジマイマは知っている」と書かれた紙片からジマイマは事件に巻き込まれます。死んだ修道女が実は大富豪で修道院の地主でもあったこと、消えた遺言書など謎を盛り上げるネタは十分ですが、ジマイマが修道院長から依頼されたのは修道院の中で何が行われているのか探るという漠然とした謎解きで、犯人当てのような明確なゴールでないためか本格派推理小説としては散漫な印象のプロットです。いくつかの伏線の回収はあるもののジェマイマの名推理による解決を期待すると失望すると思います(特に犯人当ては)。ゴシック風の暗く重い雰囲気づくりには成功しています。なおタイトルの「尼僧のようにひそやかに」については第7章でワーズワースの詩の引用であることがわかりますが、その訳文は「尼僧のごとく静けく」となぜか統一されていません。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/02/17 15:32登録) (ネタバレなし) 「私」ことジマイア・ショアは、英国の放送局「メガリス・テレビ」の人気インタビュアー。ジマイアはその日の朝刊で、かつて少女時代を送った聖エレナー修道院の中で、学友だった修道尼シスター・ミリアムことロザベル・メアリー・パワーストックが変死したことを知る。ロザベルは元ロンドン市長だった大富豪の令嬢で、財政上の事情から運営困難になっていた聖エレナー修道院もパワーストック家の資産として買収し、所有する立場だった。もともとロザベル=シスター・ミリアムは、篤志から修道院関連の資産を修道院側に寄贈し、今後も修道院が存続するように取り計らう予定だったが、最近になって何故か心変わりし、その判断に迷いを見せていたという。そんな中、修道院の老院長でジマイアとも旧知のマザー・アンシラがジマイアに連絡を取り、生前のシスター・ミリアムが、自分の真意はジマイアが知っていると告げたという。ジマイアは長い年月を越えて懐かしの場に戻るが、そこで彼女を待っていたのは更なる思わぬ事件と、そして謎の顔のない怪人「黒衣の尼僧」の暗躍だった。 1977年作品。21世紀の日本ではほとんど忘れられた、キャリアウーマン探偵・ジマイア・ショアシリーズの第一弾。 当時はポケミスの帯に「エレガントな新本格派!」という惹句をつけて刊行されたが、今で言うならコージーミステリとでもいうことになるのか。(実は自分はオッサンのミステリファンなので、1990年代辺りから? よく使われるようになった「コージー派」というのは今ひとつよく分からないのだが。物語の舞台となる場の日常描写にも比重を置いた、ライトパズラーとかそんな感じ?) 主人公ジマイアは40歳前後の美人。真面目で温かい心根の女性だが、30歳の時に現在ではメガリス・テレビの社長になったサイ・フレデリックスの愛人となって出世のチャンスを掴み、その10年後の今は下院議員で同じく妻帯者のトム・エイミアスと恋愛関係にある自立した女性。21世紀の今ならハヤカワミステリ文庫をはじめとしてあちらこちらにいそうな海外ミステリ・ヒロインの設定だが、40年前ならそれなりに新鮮なキャラクターだったんだろうな。 ちなみに裏表紙の帯部分では「P・D・ジェイムズをはじめとして、数多くの人に新鮮な衝撃を与えて」とあるので「ホホウ」と思ったが、巻末の解説をよく読むと、ジェイムズは単に「修道院というのは、多様な登場人物を一箇所に集められる良質の舞台装置である」くらいのことをこの作品について語っただけのような……。例によってハヤカワのJARO案件だな(笑)。 とはいえ1970年代後半に、黄金時代のミステリ風の物語装置を設け、そこでゴシックロマンっぽい謎解きを展開する筋運びそのものはなかなか楽しい。多様なシスターたちのなかから、当初は地味に思えていたあの人がのちに意外な活躍を見せたり、意外な顔を見せたりする、その辺のキャラクター描写も小気味よい。 はたして謎解きミステリとしては水準作~佳作レベルだが(フーダニットとしては凡庸)、終盤のいくつかの意外性とこなれのよいストーリーのまとめ方は好印象。物語後半、クリスティの『ナイルに死す』の話題が(ネタバレはなしで)チラリと出てくるのも楽しい。修道院内でバザーが開かれ、修道尼が宗教本といっしょにクリスティーの古書を何冊か売る描写もある。当然ながら売れるのはクリスティーの方ばかりのようで、その辺も愉快。評点は0.5点くらいオマケ。 最後に、作者フレイザーは英国史の研究家として、日本でも著名。本作中にもそれっぽい蘊蓄が随所に登場する。 |