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ミステリの祭典

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運命の証人

作家 D・M・ディヴァイン
出版日2021年05月
平均点6.00点
書評数6人

No.6 7点 ROM大臣
(2023/09/07 13:33登録)
全四部からなる物語の主人公は、事務弁護士のジョン・プレスコット。今、弁護士でありながら法廷の被告席に立っている彼は、自分が告発されている二件の殺人事件について回想していた。六年前、ジョンは友人の会計士ピーター・リースからノラ・ブラウンという美しい女性を紹介された。ジョンは一目で彼女の虜になったが、ノラはピーターと結婚してしまう。ところが、ある事件によってジョンを取り巻く事態は急転する。そして、忌まわしい第二の事件が。
裁判シーンから始まるので、作者には珍しい法廷ミステリかと思って読み進めると、物語の大半はジョンが殺人罪で逮捕されるまでの経緯の描写で占められている。主人公と恋人や友人や同僚、あるいはその家族たちを中心とする限定された人間関係の中で繰り広げられる濃密な心理劇はまさに作者の真骨頂。また、冒頭の法廷シーンで二件の殺人事件の被害者の名前が明記されていないため、誰が殺されたのかという興味を牽引し、サスペンスが盛り上がる。
しかし、法廷シーンも決して付け足しではなく、謎を解く上で重要な役割を担っている。すっかり投げやりな気分になっていて、自分の裁判さえもどこか他人事のように眺めていたジョンが、自身の無実を証明すべく奮起するきっかけとなる出来事の描写も印象に残る。

No.5 5点 ボナンザ
(2022/08/22 21:10登録)
法廷劇、時系列の遡り、犯人当てと色々な属性を盛り込んだごった煮感があるが、どの要素もしっかり面白いのは流石。

No.4 7点 人並由真
(2021/12/19 08:16登録)
(ネタバレなし)
 評者が読むディヴァイン作品の4冊目。個人的には当たりはずれの大きい印象の作家だが、これはとても面白かった。
 登場人物の描き分けや運用の狙いもそれぞれ明確で、謎解き&法廷ミステリとしての結構を誇る一方で、ややいびつなメロドラマの興味もあり、ソコが味の作品である。
 特にP181の2行目の描写には、喝采を上げつつ腹を抱えて笑った。怒る(中略)読者もいるかもしれんが、自分のような者には、実にスンバラシイ(笑・汗)。。

 内容は4部構成で<その全パートにサプライズがある>の謳い文句(裏表紙から)通りで、テンションが上がりぱなし。3~4時間でほぼ一気読みである。
 
 これって、懐かしの、昭和のミステリ連続テレビドラマ・アンソロジーシリーズ『火曜日の女』の原作(のひとつ)に選んだら、かなり面白そうなものが出来ただろうなあ。実際、原書は68年の作品だから、もしリアルタイムで翻訳されていたら、その『火曜日の女』のネタになった可能性もあったんだよね(笑)。

 まあ真相が割れてみれば、メイン登場人物の何人かが無駄にややこしいことをしていたおかげで、事態が悪化というかこんがらがった面もあるとも思うし、真犯人の思考も一部強引なところは感じたりする。

 それでも読んでいる間は十分に楽しめた。
 これはディヴァイン作品の中では、個人的にアタリ。

No.3 6点 文生
(2021/09/29 08:21登録)
若手弁護士が2件の殺人容疑で逮捕された事件についての裁判の行方が描かれる一方で、過去に何があったのかをカットバック方式で挿入していく構成が秀逸です。読者にとっては2件の殺人があったことは理解できるものの、誰が殺されたかは不明なので緊迫感のある展開を楽しむことができます。また、さりげなく伏線を張り巡らせて最後に回収する手管も見事です。

ただ、これといったトリックや仕掛け、あるいはびっくりするようなどんでん返しといったものは皆無なので、本格としてはいささか小粒に感じます。それから、奥手のくせに間の悪いタイミングで女性に手を出しては窮地に追い込まれる主人公には若干イライラ。

No.2 5点 レッドキング
(2021/09/22 15:20登録)
ディヴァイン第七作。殺人の罪で被告席に座る弁護士。不利な容疑状況らしいのに、何故か本人は裁判進行に投げやりな様子。5年前の第一の殺人と5年後の第二の殺人。気難し屋で激しやすい主人公と、彼を取り巻く弁護士、医師、会計士・・ひとかどの立場の男達・・とその妻、娘、愛人達。5年の歳月を隔てた物語が、裁判の進行に重ねて語られる。T・H・クックならばウェットな「文学」に仕上がって行きそうな展開だが、そこはディヴァイン、カー風トリックもクィーン風ロジックもなく、被害者Whomミステリから法廷サスペンスへと話が進み、クリスティー風人間パズルが、犯人Whoダニットへとシンプルに決まる。

No.1 6点 nukkam
(2021/05/30 22:34登録)
(ネタバレなしです) 全13作の長編を残したD・M・ディヴァイン(1920-1980)ですが1968年発表の第7作の本書からドミニク・ディヴァインというペンネームを使うようになります(理由はわかりません)。非常に構成に凝った本格派推理小説で、主人公が2件の殺人事件の犯人として告発されている場面で始まり、第一部では6年前の第1の事件に至る人間ドラマ、第二部では現在に起きる第2の事件に至る人間ドラマ、第三部では法廷シーンが描かれ、さらに第四部へと続きます。被害者が誰なのか明かすのを遅らせたり主人公が逮捕される経緯説明を最低限にしたりと実験的な試みが見られます。これが効果的かどうかは微妙な気がしますけど。謎解きと人間ドラマの両立はこの作者ならですが、主人公に不倫の道を歩ませているところは読者の好き嫌いが大きく分かれそう。あと創元推理文庫版の日本語タイトルも悪くはありませんが、英語原題の「The Sleeping Tiger」の方がよかったような気がします。

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