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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1425 7点 帰ってこない女
M・R・ラインハート
(2023/03/19 21:29登録)
1938年発表、かなり後期の作品です。夏を島の別荘で過ごす若い女マーシャ・ロイドの一人称形式で語られますが、彼女の直接体験だけでなく、後で聞いたことだがとして、検事(これがいやな奴)や警察官による容疑者の尋問等も描かれます。
巻末解説ではHIBK(もし私が知ってさえいたら)派の創始者としてのラインハートについて、「この手法は実は多かれ少なかれ話の巧い作家なら誰でもやっている」ことだとして擁護しています。実際本作は一人称形式だからということもあって、たとえば「あの時それが物語っていたことに気づいていたら、落とさずに済んだ命や…」(p.97)といった表現がかなり出てきます。しかしこれは読者に期待を持たせるための「文章表現」であり、プロットのタイプではありません。
本作は様々な登場人物の思惑が絡み合って複雑化した事件に、うまく決着をつけていて、おもしろくできています。


No.1424 6点 ウサギ料理は殺しの味
P・シニアック
(2023/03/15 21:48登録)
ミステリの論理って、普通は桶屋がもうかったという既に起こった事実を前提とし、その原因を追究していったら意外にも風が吹いたからだったといったもので、偶然そうなることも確かにあり得ないことではないと納得できるのです。しかし本作では、それが毎週繰り返されることで、逆方向の風が吹けば(必ず)…というバカ論理になっているのです。で、連続殺人の決着が一応ついた後でのあることを「止める方法」模索展開が、さらに輪をかけたバカさ加減で、HORNETさんの評に書かれているとおり。特別会合で何週間もの討議の末提案された対策方法など、普通誰でも即座に思いつきます。
こんなプロットが危うく成立して、しかもおもしろいのは、登場人物たちが非現実的な変な奴らばかりだからで、これをリアルな設定でやったら、目も当てられません。
なお、原題の意味は「蒼白い女たち」で、邦題に比べると魅力に欠けます。


No.1423 5点 嗅覚異常
北川歩実
(2023/03/09 23:53登録)
祥伝社文庫の書下ろし中編小説の愉しみシリーズの1遍として書かれた作品です。
北川歩実はこれまで読んできた作品からすると、複雑なプロットとどんでん返し連続の作家のようですが、その点からすると、中編では持ち味を生かしきれないのではないかと思われます。実際のところ、メインの事件は実験用のウサギ殺しですし、真相は悪くはないのですが、シンプルなものです。そのわりに、脇役の谷本真千子教授に関する設定で、不要ではないかと思える部分もありました。真相解明部分、「専門的な知識が、逆に働いて、真実を見抜く妨げになったのだ」という説明は、さすがですが。
テーマはタイトルどおりのもので、作者お得意の医学・生理学系ですが、最後に添えられた作者注には、「この作品はフィクションです…(中略)…嗅覚に関する記述等にも虚構の部分があります」と書かれていて、SF的な設定と言えます。


No.1422 6点 マイ・フェア・レディーズ
トニー・ケンリック
(2023/03/07 00:10登録)
『スカイジャック』等、タイトルを知っている作品はいくつかありましたが、ケンリックを読むのは本作が初めてです。『スカイジャック』もそうですが、ケンリック作品の多くは原題と邦題がまるっきり異なっていて、本作の原題は "The Chicago Girl"。邦題の元ネタは当然あの映画ですが、女性二人の内一人はあっさり失敗しますし、もう一人はオードリーとは逆パターンです。
第5作ということで、訳者あとがきにも、「全体的には初期のナンセンス・ユーモアをかなり押さえた」作品になっていることが書かれていますが、危険な詐欺をたくらむ主役の二人がマルクス兄弟のことを語り合うシーンがあり、やはりこの作家のルーツはそんなところにあるんだろうなと思えます。
次々に予期せぬ出来事が積み重なり、おもしろいことはおもしろいのですが、個人的にはほとんどが想定内の飛び方に思えた点が少々不満でした。


No.1421 6点 異形の花嫁
ブリジット・オベール
(2023/03/03 23:12登録)
オベール第6作は、トランスセクシャルがテーマです。ただ、「あたし」こと主役のボー(ボードワン)は、同一性障害とか同性愛だけではなく、マゾでもあるところが、最初から居心地の悪さを感じさせます。「SMクラブでは、おまえが最高だとみんなに言われた。いちばん苦痛に強い、と。」(p.83) といった人物。彼(彼女)のジョニーに対する愛がまた、マゾヒズムゆえというだけでなく常軌を逸しているのです。ジョニーの方は、自分は女にしか興味がないと言ってボーを拒否するのですが。その一方で起こる娼婦連続殺人事件がまた、この作家らしいグロテスクさです。ボーが新たな殺人の死体に次々出くわす偶然は、映画的な感じがしました。
ボーが犯人に監禁されてというクライマックス部分で明らかにされる犯人の人物設定と生活については、いくらなんでも不自然ではないかと思ったのですが…
最後はもう一ひねりされています。


No.1420 6点 明治探偵冒険小説集(2)快楽亭ブラック集
快楽亭ブラック
(2023/02/22 23:56登録)
明治~大正時代のイギリス人落語家、本名ヘンリー・ジェームズ・ブラックの講談を口述筆記した中編4編です。まず語り口で読ませる(『幻燈』の冒頭部分に「お聴取り否お読取りを願います」と書かれています)作品群と言えるでしょう。実際どこを強調するかといった小説構成バランスはあまりいいと思えません。どれも黒岩涙香と同じく、ヨーロッパを舞台に、登場人物名は日本名にしています。
最初の『流の暁』は悪の道に堕ちる真面目男を描いた犯罪スリラーですが、他の3作には謎解き的要素があります。『車中の毒針』は解説では原作不明としていますが、2020年に原作のボアゴベ『乗合馬車の犯罪』完訳が出版されました。『幻燈』は指紋(掌紋)を扱ったごく初期(1892)の作品。『かる業武太郎』はイギリスが舞台で冒頭「実際有りました出来事でございます。」と書かれていますが、実はこれもボアゴベ原作で、原題は "Le pouce crochu"(曲った親指)です。


No.1419 5点 列のなかの男―グラント警部最初の事件
ジョセフィン・テイ
(2023/02/18 15:06登録)
テイが最初別名義で発表したこのグラント警部シリーズ第1作は、最後にどんでん返しのある作品になっています。それまではnukkamさん、人並由真さんも評されているように、クロフツを思わせるような捜査小説ですが、文章が淡白なクロフツに比べると、グラント警部の日常や内面、捜査上の悩みなどがじっくり描き込まれています。ただクロフツほどの試行錯誤はなく、容疑者が特定されると、後はその容疑者の隠れ場所を突き止め、どうやって逮捕にこぎつけるかというストレートな展開です。
それでいて、最後にもう一ひねりあるだろうなということは、容疑者逮捕の時点でもう明らかです。そのひっくり返し方がグラント警部の推理によるものでない点、真相は意外であるにもかかわらず、釈然としませんでした。
なお、翻訳にはこの人犯罪捜査について知らなさすぎじゃないかと思える点が散見されました(特にp.43「有罪の評決」)。


No.1418 5点 灰色の魔法
ハーマン・ランドン
(2023/02/12 12:00登録)
スウェーデンに生まれ、子どもの頃両親と共にアメリカに移住したハーマン・ランドンのグレイ・ファントム・シリーズ長編は、フランス語版Wikiによると(英語版はない!)5冊あるようで、本作はその最終作です。並行して書かれていた作者のもう一つのピカルーン・シリーズは短編が多いようです。
グレイ・ファントムは本作中で宿敵マーカス・ルードに「現代によみがえった豪華版ロビン・フッド」と評されています。本作を読むかぎり、探偵役を演じるルパンをより通俗的にしたようなとも言えるでしょう。ルードは宿敵とされていると言うことは、以前の作品にも登場していたのでしょうか。
未知の毒物による殺人は、同じ物を全員食べたのに一人だけ死ぬといった状況ならともかく、本作の方法では全く無意味だとか、声の出所は現実には不可能だとか、いいかげんなところはありますが、とりあえず楽しめました。


No.1417 7点 胡蝶殺し
近藤史恵
(2023/02/09 22:44登録)
タイトルの「胡蝶」とは、歌舞伎の演目である「鏡獅子」の中で通常は、子役二人により踊られるらしい胡蝶の舞のことで、歌舞伎の世界が舞台となっています。実は和妻(日本手品)にも「胡蝶の舞」と呼ばれる手品があるのですが。ではその胡蝶の役を演じる役者が殺されるのかと思っていたら、全然そんな話にはなりません。
半分近くなってやっと不穏なことが起こりますが、それも伝染性の病気であり、犯罪めいたことはありません。最後まで読んでも結局、タイトルの「殺し」の普通の意味、「殺人」は起こらないのです。確かに一応ミステリ的な構造を持ってはいて、最後にはある謎が解き明かされることになるのですが、犯罪とは無関係なのです。作中に悪意のある登場人物も全く出てきません。
そんなわけで、ジャンルとしては「その他」に入れざるを得ないのですが、ラストは感動的で、広義のミステリとしてはこの点数で。


No.1416 6点 銀の墓碑銘(エピタフ)
メアリー・スチュアート
(2023/02/03 23:41登録)
70年台からはアーサー王伝説を題材にしたマーリン・シリーズを5冊発表し、また『メアリと魔女の花』に始まる子ども向けファンタジーも何冊か書き、さらに詩集まであるというメアリー・スチュアート。しかし最も多いのは、デビュー作以来の「ロマンティック・サスペンス」で、英語版Wikipediaを見ると15冊あります。
論創社からの第2弾である本作は、その第5作です。『霧の島のかがり火』と違い、原題は邦題との共通点が全くない、"My Brother Michael"。内容に合っているのは原題の方で、邦題は意味不明です。主役コンビの一人サイモンの兄マイケルは第二次大戦中にギリシャのデルフィ近くの山中で死んでいて、その死にまつわる経緯を探っていくというのがプロットの中心になるのですが、彼の墓碑とも関係なさそうです。
サスペンスと言うよりゆったりしたスリラー、冒険系の作品として楽しめました。


No.1415 7点 レモン色の戦慄
ジョン・D・マクドナルド
(2023/01/31 22:30登録)
原題 "The Dreadful Lemon Sky" という言葉は、ほとんど最後になって、「恐ろしげなレモン色の空」と翻訳されて出てきます。本作の後、トラヴィス・マッギー・シリーズはさらに5冊発表されていますが、そのうち邦訳があるのは『赤く灼けた死の海』だけ。
読んだ範囲では、シリーズの中でも最も複雑なプロットを持った作品です。最初のうちはそれほどおもしろいとも思えなかったのですが、事件が積み重なり、冒頭の謎の原因となる過去の出来事もマッギーと友人メイヤーとの検討によって明らかになってくる後半は盛り上がります。運が悪ければマッギーやメイヤーも死んでいたかもしれない爆破事件、ファイア・アント、原題の現れる衝撃的な殺人シーンなど、見せ場もふんだんにあります。
真相にさほど意外性があるわけではありませんが、ある発想を推し進めて全体としてバランスをとったという点で、謎解き的にもうまくまとまっていると思います。


No.1414 6点 毒殺倶楽部
松下麻理緒
(2023/01/25 23:47登録)
2006年度鮎川哲也賞の佳作に選ばれた(受賞作は麻見和史の『ヴェサリウスの柩』)にもかかわらず、出版されないままの「13年の時を経て発売!!」された「幻の傑作ミステリ」(出版社からのコメント)です。出版に当っては、大幅に加筆修正されたそうですが、どんなふうに改稿されたものやら。
3重の入れ子構造になった作品です。さらに作中作にマリオというハンドルネームの男が登場するのですから、性別は違えど(叙述トリックではありません)、その人物と現実の作者自身とも重なってくることは、狙ってきたなという感じです。
現実(作中の)と虚構とを錯綜させ、ある思い込みを登場人物や読者に与える手際は、なかなかのものです。ただ、意外な真相の明かし方が、今一つ盛り上がらないように思いました。ラスト・シーンで残されていたある秘密を開示するところはよかったですね。


No.1413 5点 子供たちの夜
トマス・チャステイン
(2023/01/22 18:21登録)
カウフマン警視シリーズやその番外編を書いてきた作家ですが、1982年に発表された本作は、失踪した9歳の女の子の事件を、その母親リリアの視点から描いたサスペンス作品です。レドリン警部補を始めとして警察官も何人か登場しますが、だいたい皆ものわかりのよい人ばかりで、そのあたりが警察小説を得意としたチャステインらしいところかなと思えます。ただ、児童失踪事件の捜査に、ニューヨークの警察がそんなに手間をかけるかなという気はします。
原題 "Nightscape"(夜景)からも窺えるように、ニューヨーク、特にセントラル・パークとその周辺の夜が、リリアを通してじっくり描かれているのが見どころと言えるでしょう。
ただ、テーマ的には某SF作家の中編と共通すると考えられますが、本作はこういう書き方がふさわしいかどうか疑問です。特に「彼女」の最後のセリフは、テーマを安っぽくしているだけではないかと思えました。


No.1412 5点 Légitime défense: Quai des Orfèvres
S=A・ステーマン
(2023/01/16 22:45登録)
1942年に発表されたノン・シリーズの未訳作品です。
"Légitime défense" は「正当防衛」の意味で、全20章中の第3章終りにこの言葉が出てきます。その時はそんなわけないと思ったのですが、読み終えてみると、納得できました。サブタイトルの方は「オルフェーブル河岸」、本作は1947年に『悪魔のような女』等のクルーゾー監督によって映画化され、その原題がこの司法警察がある河岸なのです。映画邦題は『犯罪河岸』とされていました。映画は未見ですが、粗筋を読む限り、登場人物設定や展開等ずいぶん変更されています。
映画はともかくこの原作は、三人称形式ではあるものの基本的に事件関係者の一人、嫉妬深い画家ノエル・マルタンの視点から描かれた心理サスペンスになっていて、巨体の警視は時たま姿を見せますが、司法警察の場面はありません。
この作者なら最後にもう一ひねりあるかと期待していたら、あっさり終わってしまいました。


No.1411 6点 探偵は眠らない
都筑道夫
(2023/01/12 23:41登録)
光文社文庫から2003年に出た都筑道夫コレクション《ハードボイルド篇》で読みました。この本には、作者のハードボイルド系としては、まず挙げられるであろう西連寺剛シリーズの『ダウンタウンの通り雨』等も収録されています。本作は、3冊あるホテル・ディック―ホテル専属探偵(警備員)を主役としたものの内のひとつで、唯一の長編です。
ホテル専属探偵というと、ハードボイルド系の小説には時々脇役で登場しますが、それを主役にしたのはめったに見かけないのではないでしょうか。浅草の高層ホテル「ハイライズ下町」が舞台です。夜間の警備責任者田辺素直が受けたのは、宿泊客を殺すという電話。午後6時5分に始まり、翌日の午後11時20分までの出来事です。しかしタイトルにもかかわらず、田辺たちは全く眠らないわけではありません。
浅草についての蘊蓄が豊富な、あまりハードボイルドという感じのしない作品でした。


No.1410 6点 犯罪コーポレーションの冒険
エラリイ・クイーン
(2023/01/06 22:25登録)
このクイーンのラジオドラマ・シナリオ集第3作は前の2冊と違い、日本で独自に編集されたものだそうです。『死せる案山子の冒険』は読んでいないのですが、『ナポレオンの剃刀の冒険』に比べると全体的に軽い感じがしました。ただシナリオ集と言っても、11編中最後の『殺されることを望んだ男の冒険』だけはノベライゼーションです。巻末解説によればダネイ、リー以外の人によるダイジェスト版だそうで、最もつまらないと思ったのは、アイディアの問題だけでなくそのせいもあるでしょうか。
表題作は非常に意外な真相ですが、家の間取りが明確にされていないせいもあるでしょうか、矛盾点があると言わざるを得ません。どの作品もそれなりに見どころはあり、なんとなく予想できたものもありますが、完全にエラリーの推理と一致したのは『善きサマリア人の冒険』だけでした。タイトルどおりのなかなか気持ちのいい話になっています。


No.1409 8点 七つの裏切り
ポール・ケイン
(2023/01/03 22:46登録)
収録7編中、謎解き要素がきっちりまとまっていると思ったのが『鳩の血』『パイナップル爆弾』の2編でしょうか。一方、『名前はブラック』は偶然が過ぎますし、『〝71〟クラブ』や『ワン、ツー、スリー』は長さの割には話を複雑にし過ぎています。そのように欠点をあげつらうことはできるのですが、禁酒法時代のアウトローな世界を描き出す正にハードボイルドという感じの客観的で簡潔な文章の前には、ストーリー的な不満もどうでもよくなり、高得点をつけざるを得ません。
なお、ケインの長篇『裏切りの街』紹介文にはチャンドラーが「超ハードボイルド」と評したと書かれていましたが、ハードボイルドを超越しているわけではありません。本作巻末解説で訳者でもある木村仁良は原文そのままに「ウルトラ・ハードボイルド」としています。"ultra" は「極端な」の意味ですので、これは納得。


No.1408 5点 琵琶湖殺人事件
津村秀介
(2022/12/28 22:45登録)
1991年に発表されたルポライター浦上伸介シリーズの作品。大学4年で浦上の取材アシスタントのような存在の前野美保も活躍します。美穂は前年の『浜名湖殺人事件』では事件関係者だったそうで、読んだことがあるのに全く記憶にありません。ともあれ、写真アリバイ・トリックを崩すきっかけの事実に気づいたのは彼女です。
この、容疑者が最後に提出してきた写真によるトリックは、ちょっとおもしろい事実を基にしているのですが、文章で読めば何となく可能そうでも、実際の写真の構図としては無理があるのではないかとも思えます。また、それより前の鉄道や飛行機を利用したアリバイの方は、浦上が見破るのですが、これは警察がそれ以前に気づかなかったのがおかしいという程度のもの。アリバイ・トリックよりもむしろ、前半のミッシングリンク的な興味と、犯人設定の珍しさの方が、うまくできた作品だと思います。


No.1407 6点 剣闘士に薔薇を
ダニーラ・コマストリ=モンタナーリ
(2022/12/25 11:06登録)
訳者あとがきによれば元教員だったというイタリア人女性作家による、古代ローマを舞台とした元老院議員プブリウス・アウレリウス・スタティウスが探偵として活躍するシリーズの第4作です。1994年の発表ですが、2000年の映画『グラディエーター』によって、さらに売り上げを伸ばしたとか。原題 "Morituri Te Salutant" は『グラディエーター』にも出て来るラテン語で、本書では「死なんとする者どもがお別れを申し上げます」と訳されています。
一番人気の剣闘士が闘技場で暗殺され(毒殺と思われる)、それに政治的陰謀が絡まってくるという筋立ては派手で、だからこそ本作が最初に翻訳されたようですが、そんな大げさなプロットばかりのシリーズでもなさそうです。謎解き的には、悪徳法廷演説家に対する証拠の扱い部分が不満でした。
併録されている中編『イシス女神の謎』の方がすっきりしたパズラー構成になっています。


No.1406 7点 納骨堂の奥に
シャーロット・マクラウド
(2022/12/22 23:26登録)
たぶんシャンティ教授シリーズ開始以降は、コージーの代表的作家として知られるマクラウドですが、このセーラ・ケリングもの第1作に限ってはむしろサスペンス系だと思えます。一族の納骨堂の奥から発見される30年も前に殺された女の死体。納骨堂の奥を塞いでいたブロックから生じる夫と義母への疑惑。中盤不安をぬぐえないセーラを見舞うショッキングな出来事。クライマックスではセーラは相対する犯人に殺されそうになります。それがセーラの視点から描かれていくのですから、謎解き要素も持ったサスペンス作家が得意とするプロットでしょう。
miniさんご指摘のとおり、文書の隠し場所(隠し方と言うべきか?)アイディアは見事ですが、セーラがその文書に気づく段取りがまたサスペンス系っぽく、わくわくさせられるのです。
後の本シリーズ設定の大元になる事件でもありますので、やはり最初に読むべき作品でしょう。

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