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ミステリの祭典

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ふくろうの叫び

作家 パトリシア・ハイスミス
出版日1991年08月
平均点7.33点
書評数3人

No.3 7点
(2023/06/12 21:17登録)
クロード・シャブロル監督によって映画化されたこともある作品で、粗筋を読む限り原作に忠実な映画も、評価が高かったようです。
この事件は普通だとロバート、ジェニファー、グレッグの要するに三角関係だけで話が進んでいくものでしょうが、そこにロバートの前妻ニッキーが加わることによって、事態は異常さを増していくことになります。なにしろニッキーは他の3人をあわせたよりもまともじゃないのです。なお、否応なく事件に巻き込まれ迷惑顔のニッキーの現夫はごく常識的な人間として描かれています。衝撃のラスト・シーンもニッキーがいるからこそで、彼女抜きでは、いくらグレッグの気持ちがおさまらなくても、穏やかな結末にならざるを得なかったでしょう。
ただロバートを窮地に追い込むある出来事は、偶然が過ぎます。ルパンが有名短編で使った手は無理ですしね。この出来事はなくてもよかったのではないでしょうか。

No.2 8点 人並由真
(2020/09/07 14:35登録)
(ネタバレなし)
 悪妻ニッキーと別れ、ニューヨークからペンシルヴァニアに転居・転職してきた29歳の商業デザイナー、ロバート・フォレスター。精神的に疲れきっていたロバートは、通勤中に見掛ける住居に暮らす美しい若い娘を眺めるのが、日々の心の安らぎだった。だがある冬の日、思いが嵩じたロバートはその娘ジェニファー・ティーロルフの家の敷地に踏み込んでしまう。心の過ちを恥じて謝罪して退去しようとするロバートだが、ジェニファーもまた数年前のさる悲しい事情から心に傷を負っており、彼に何か似たものを感じた。ロバートに自ら接近していくジェニファー。しかし彼女の婚約者の青年グレッグ・ウィンターズはそんな二人の関係を許すわけもなく、やがてグレッグはニッキーとも結託。ジェニファーの求愛に慎重な状況のロバートを、半ば力づくで追い詰めていく。

 1962年の英国作品。
 メインキャラ4人の立ち位置の微妙な変遷が読みどころのサスペンスミステリで、この妙味はなかなかつたえにくい。それでもそれぞれの主要人物の基本軸は、最初から最後まで一貫してるのだが。
 とにかく溜息が出るくらいに鮮やかな技巧で、かつ作家なりの思弁がつまった一冊。特に大小の役割のキャラクターを無駄にしない作法が見事。数時間、ハイテンションで一気に読み切り、最後には読み手としての強い燃焼感に包まれる作品である。
 読後感の方向性すらある種のネタバレになるおそれがあるので、詳しくは言えないが、とにもかくにも一冊のよくできた心理・群像ドラマに付き合った疾走感は大きい。

 特に後半、主人公ロバートの苦境のシーンでとんでもなく(中略)なキャラクターが出てきて、ここまで主人公を(中略)したところで、<こんなタイプ>のサブキャラを出すなんて、ハイスミスおばさんずるいよ、と一瞬だけ思ったら、さらにまた(中略)。

 ハズレがまったくないとは言わないけれど、読むたびに唖然とさせられるハイスミス作品。本筋? のリップレー(リプリー)ものとあわせて、どんどん楽しんでいきましょう。

No.1 7点 kanamori
(2012/03/11 16:53登録)
”パラノイアの女王”と称されるハイスミス中期の心理サスペンス。短編のような研ぎ澄まされたキレ味は感じなかったが、その分思ったより読みやすい。
主人公のロバートをはじめ、いずれも精神状態が不安定な男女4人が織りなす恋愛トラブルが悲劇に発展していくという話ですが、読者の不安感を煽るように登場人物たちが徐々に壊れていく様の描き方が巧妙です。とくに離婚したばかりの元妻ニッキーのロバートに対する悪意・嫌がらせの連打は作者の真骨頂でしょう。
女性の家を覗き見するロバートという冒頭のシーンを読んだ時には、終盤になってこの人物に感情移入することになろうとは思わなかった。

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