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ミステリの祭典

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呪い

作家 ボアロー&ナルスジャック
出版日1963年04月
平均点6.71点
書評数7人

No.7 6点 メルカトル
(2023/07/02 22:16登録)
獣医ローシェルが知り合ったアフリカ帰りの女ミリアンには、どこか謎めいたところがあった。ふと見せる残酷な性格、事故死した夫にまつわる無気味な噂。女の虜になるにつれて、ローシェルの生活は暗い影に包まれてゆく。やがて妻の身に、恐ろしい災厄が……! 明晰な悲哀と詐術に心うたれ、魔術師たちの手腕を堪能する名作。
Amazon内容紹介より。

いや、名作って、そうなんですかねえ。それ程でもなかった気がします。
文章は問題ありません、訳も悪くない。しかし雰囲気が陰気でただでさえ眠いのに益々拍車がかかり寝そうになりました。ストーリー性は皆無でほぼ主人公の獣医の一人称で語られ、妻と愛人の間を行ったり来たり、ああでもないこうでもないと心情が詳らかになります。つまり、そうした心理サスペンスなのでしょう。劇的な展開がある訳でもないし、細かい字で改行無しにびっしり書かれていて、読み進める推進力に欠けるというのか・・・。どうにも面白味がありません。

そもそも私はこの作者の『私のすべては一人の男』が読みたくて、しかし簡単には入手出来そうにもないので、取り敢えず本作を先に読んでみようと思ったに過ぎません。少しは期待していたのですが、まあ期待通りとは行かなかったようでして。ただ、読み終わってみれば悪くはなかったと思わせてはくれました。特にラストは良かったです。この作品の肝とも言える記述に救われました。

No.6 7点
(2023/04/22 18:17登録)
大部分がパリの弁護士に当てて書かれた、フランス西部大西洋岸近くの街に住む獣医の手記という体裁をとった作品です。そのことを意識して読むと、後半なるほどと思えます。
この獣医が惹かれる女流画家の住む島と本土とをつなぐ「長さ四キロの、満潮のたびに海水に蔽われる隄道」(Le Gois)(巻頭の地図からはわかりませんが、本土と最も近い部分にあるのではありません)は、皆さんご指摘のとおり全編を通し、さらに特にクライマックスで効果的に使われています。
獣医の「優柔不断さの方が目立ち」(蟷螂の斧さん)というご意見ももっともですが、最後は彼がそのような性格だからこその悪夢的展開です。『悪魔のような女』や『死者の中から』では、そんなに都合よくいくかなと疑問に思うところもあったのですが、本作では最後に明かされる真相は衝撃的(意外性とは違う)であると同時に説得力を持った形にしてありました。

No.5 7点 人並由真
(2022/10/26 10:00登録)
(ネタバレなし)
 フランスのヴァンデ地方。愛妻エリアーヌを説得して地方の町に転居し、獣医を営む「私」こと30歳のフランソワ・ローシェルはそれなりに仕事が波に乗り、安定した生活を送っていた。そんなある日、外科医フィリップ・ヴィアルなる中年が来訪。彼の知人で未亡人ミリアン・エレールの飼う牝豹の治療を願いたいという。ローシェルはミリアンの自宅を訪問するが、そこは潮の満ち干によって一日のうち、ある時間だけ島への通路が開通する、特殊な島のような半島のような場所にあった。やがてローシェルは40歳前後の貴婦人めいたミリアンに惹かれていくが。

 1961年のフランス作品。
 評判のいい作品なのでそれなりに期待を込めていたが、なるほど面白かった。
 何といっても最大の賞味ポイントは、この物語の舞台装置である、干潮満潮によって孤島にも半島になるロケーションの妙味だろう。
 海水のイメージで水が満ち引きする、可動式の模型ジオラマとか誰か作ってほしい。

 愛妻エリアーヌ側の日常と不倫相手ミリアンの世界を器用に? 二分していたはずが、次第にその境界線がブレ始めていく、ザワザワした描写の積み重ねが緊張感を誘う。
 ことさらミステリにしなくっても、薄闇色のダークな男女関係のドラマとして、この部分だけで面白い。しかし後半ではちゃんとミステリの枠内に物語が流れ込み、そしてその上できちんと成果を出している。

 ラストの意外性の大枠は読めないこともないが、それをこういうひねった形で出してくるのはなかなか。
 作者コンビの諸作の中でも、かなり結晶感と完成度の高い一編ではあろう。一筋縄ではいかなかった反転の構図が決まっている。
 シンプルなアイデアとストーリーを、作者たちの達者な話術で読ませた側面もあるが、秀作といっていいとは思う。

No.4 8点 斎藤警部
(2019/10/07 21:20登録)
“そしてすべてを一緒にひとつの封筒に入れたのです”

あからさまに太すぎる、物語の前提そのものであろう隠喩群の縺れ合い。ふんだんな情景描写が冗漫でないのも、そこに隠喩が充分に染み込んでいるから、のみならず映画の美しい風景シーンそのものの心地よさがあるから。 ダークスウィート抒情詩の解説散文のようなもので満たされているのは前半。後半は、先に進むにつれ胸を締め付ける心のサスペンスの坩堝に墜ちて行くための地図。。。 あまりにプレシャスな、限りある沈黙のシーンが心に残る。

“けれども私はこの偽りない深い愛情のあらわれをここに書けるのがうれしいのです”

獣医を営む夫が、ある日現れた胡散臭い医者の男に紹介され、患者である”或る獣”を飼うアフリカ帰りの画家の女と情を交わす。女は獣医の妻をアフリカ仕込みの(?)呪いの力で葬り去ろうとしている、、、としか思えない超自然犯罪現象(?)と、或る特殊な自然現象 。。。。のぶつかり合いなのか、そこは?!

最後は優しく哀しい反転で見つめられるように終わる物語。沁みます。

“人間は自分自身の心からはずっと離れた所で動いているのだから”

No.3 7点 クリスティ再読
(2017/01/04 16:11登録)
実家の本棚を眺めると、まだほとんど評を書いてない作家だと、アンブラーとかロスマクとかシムノンとか、結構沢山並んでる。2017年はここらも順次消化していきたいな。で、ボアロー&ナルスジャックである。この人の作品も結構、ある。昔結構好きで読んでたな。
「死者の中から」とか「悪魔のような女」は映画が超名作なので有名だけど、本作だって地味な心理劇のわりに道具立てがユニークで面白い。枠組みは「悪魔のような女」に近い悪女物で、主人公の獣医が、依頼を受けてチーターの診察のため往診に行くが、その飼い主であるアフリカ生れの女流画家と不倫の恋に陥る。で、どうやらその女、アフリカ由来の呪術を使うようなのだ。主人公の妻の身の上に不可解な事故が立て続けに起きて、主人公は心理的にアフリカ生まれの女に呪縛されて...という話。
主人公は獣医が天職のような、動物を肉体として共感的に理解する能力のある男。なので、そういう動物の「肉体」の視点から自分の恋を理解するあたりにクールな良さがある。その獣医のクランケであるチーターとの交流などいろいろ引っかかりのいいネタが多い。
女流画家が住むノワルムゥチエ島に、本土の主人公が通うのだが、この島と本土とは日に2度の干潮によってできる砂嘴を通る「海の中の道」を通る必要がある。なので、逢引きには時間制限があるのだが、最後にこの海の中の道(ル・ゴア)が二人の運命を引き裂くことになる...もし評者がフランスの映画監督だったら、絶対映画にしたいと願うくらいにこの「海の中の道」が絵的に気に入っている。
まあ、ボアロー&ナルスジャックなので、ちょっとした仕掛けもある。濃密な小説世界に洒落た仕掛けがうまく埋め込まれているのを楽しむタイプの小説だ。だからそう意外な真相でもないが、それが気になるわけではない。小品、って感じはあるけど、イイ映画を見たような情感がある。

No.2 6点 蟷螂の斧
(2015/08/30 21:07登録)
商品説明より~『獣医ローシェルが知り合ったアフリカ帰りの女ミリアンには、どこか謎めいたところがあった。ふと見せる残酷な性格、事故死した夫にまつわる無気味な噂。女の虜になるにつれて、ローシェルの生活は暗い影に包まれてゆく。やがて妻の身に、恐ろしい災厄が……!』~

海外ミステリ・ハンドブック(2015版)のエッセイの中で、皆川博子氏が本作に惹かれたと書いてあったので手にしてみました。ほぼ全編、浮気男の手記です。妻と浮気相手の間で揺れ動く葛藤や苦悩を描いています。しかし、男の優柔不断さの方が目立ち、感情移入が出来なかった点が残念ですね。少ない登場人物で物語を構成する手腕は見事だと思いますが、題名の「呪い」は効果的とは言い難い?(苦笑)。

No.1 6点 kanamori
(2010/09/12 14:58登録)
主要登場人物は、獣医夫婦と近くの島に住むアフリカ帰りの女の3人だけですので、ミステリ的な仕掛けは予想の範囲内ですが、二人の女性の間で揺れ動く獣医の心情描写とアフリカの呪術への恐怖心理でサスペンスを盛り上げていて面白く読めました。
満潮時には島へ渡る道が水没する趣向など、フランス映画を見るような目に浮かぶ舞台設定も秀逸です。

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