空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1505件 |
No.625 | 6点 | 首切り坂 相原大輔 |
(2013/06/25 22:12登録) トリックがバカミス系だとか、若竹七海によればお茶目だとか言われていますが、首無し地蔵の呪いの正体にはかなりまともに感心しました。まあ現実にはそんな極端なのは存在し得ませんが。それよりも、その後に加えられたひねりの方に、犯人が事前に知っておかなければならないはずのことについてちょっと無理があるように思われます。少なくとも作中ではその点については、憶測すら書かれていません。 明治44年の事件のはずが、第1章が江戸時代の怪談話なので、少々驚かされました。この冒頭部分もうまく本筋にからめてくれています。明治末の雰囲気もなかなかよく出ていて、新橋あたりの情景など事件とは関係ない部分で楽しめました。現場の道が街中でもないのに珍しく「アスハルト」舗装されているとか、言葉にも気を使っています。 読み終えた後で見なおすと、このカバーイラスト、なかなかいいですね。 |
No.624 | 5点 | シカゴの事件記者 ジョナサン・ラティマー |
(2013/06/21 22:43登録) 訳者によるノートには、ラティマーはハードボイルドに分類するのをためらわせるということが書かれていますが、それどころか本作はドタバタコメディ・ミステリと言った方がいい内容です。主人公がちょっと間抜けすぎたり、登場人物の整理が悪いところはありますが、なかなか楽しめました。特にエレベーター・ボーイが新聞社に来て証言しようとする部分の嘘っぽさなど、作者は映画脚本にも携わっていたためか、コメディ映画を見ているような感覚でした。 しかし、ラストにはがっかりさせられました。ラティマーは謎解き面がすぐれている作家という認識を持っていたのですが、明らかな論理的欠陥があるのです。問題は決め手となる証拠で、その証拠が存在し得るためにはある日常的な行為が必要なのですが、その行為を誰がなぜやったのか、また犯人がなぜそれに気づかなかったのか、全く説明されていないのです。 |
No.623 | 6点 | メグレと老婦人の謎 ジョルジュ・シムノン |
(2013/06/17 22:40登録) 何らかの事件でメグレに会いたいと司法警察にやってくる人は時々いますが、本作ではそれが表題にもなっている老婦人(原題を直訳すれば「狂女」でしょうが、フランス語の”folle”は熱烈なファンといった意味にもとれます)です。最初にたまたま老婦人の話を聞くことになったラポワントが、その後も主としてメグレに付き従うことになります。 その老婦人が殺されますが、犯人は老婦人の家で何を探し回っていたのか、というのがメインの謎です。しかしこういう解答はシムノンにしては珍しいですね。それが老婦人の棲んでいた、19世紀さえも思わせるような古いアパートの内装と対照的です。後で考えてみると、確かにそれで登場人物たちの行動理由が無理なく説明できるという真相になっています。 メグレが奥さんと一緒に散歩したり、公園のベンチに座ったり、といったシーンが多いのも、本作の特徴の一つでしょうか。 |
No.622 | 6点 | 虚妄の残影 大谷羊太郎 |
(2013/06/13 22:30登録) 森村誠一『高層の死角』と同年の乱歩賞応募作で、作者が翌年同賞を受賞した後に出版された作品です。出版に際して改稿されたとしても部分的でしょうし、『高層の死角』がなかったら乱歩賞を獲っていたかもしれないと思わせられました。 初期の大谷羊太郎は密室にこだわっていたようですが、本作では一応密室ではあるもののあまり不可能性は強調されていません。それよりも現在の毒殺事件と、その後に浮上してくる過去の2つの迷宮入り事件とがどうつながってくるかというところが見どころになっています。この全体構造が、偶然の使い方にも意外性があり、なかなかよくできているのです。本筋からはずれる部分で、筆跡発見に関する偶然は確率が低すぎるという意見もあるかとは思いますが、犯人または探偵にとって都合の良い偶然が続くというわけではないので、これはこれでいいでしょう。 |
No.621 | 7点 | ラスコの死角 リチャード・ノース・パタースン |
(2013/06/09 18:25登録) 訳者あとがきでは、チャンドラーやロス・マクの伝統を受け継ぐという評価が載せられていますが、共通点は主人公の一人称形式ということぐらいのもので、内容的には全然違うでしょう。タイプとしてはいかにもベスト・セラー系のポリティカル・スリラーです。 主人公のクリス・パジェットの性格設定もクールなマーロウやアーチャーとは正反対にあまりに直情的で、勤めている経済犯罪対策委員会の中で人に噛みついてばかりいます。事件が大変なことになってきて慎重さを要求されるに至って、さすがに自制してきていますが、前半は少々うんざりするぐらいです。だからと言って作品そのものを批判しているわけではありません。この主人公の性格も、読み終えてみるとストーリーにうまく利用されていたことがわかります。最終章で一気に事件全体に鮮やかな決着をつけてくれて、爽快感もなかなかのものでした。 |
No.620 | 6点 | 学校の殺人 ジェームズ・ヒルトン |
(2013/06/06 22:36登録) ジェイムズ・ヒルトンが『失われた地平線』(1933)でブレイクする前年に、グレン・トレヴァー名義で発表したミステリです。子供向け翻訳も複数出ていたりして、非専門作家が例外的に書いた古典作品としては、少なくとも日本ではミルンの『赤い館の秘密』に次ぐ人気作と言えるでしょう。 これも久しぶりの再読で、学生の2つの「事故死」状況についてだけは何となく記憶に残っている程度だなと思いながら読み進んでいったのです。ところが犯人が不用意に漏らす一言(英語では1語のみ)については、その部分で記憶がよみがえりました。犯人を示す根拠がそれだけというのはちょっと弱いかなとも思えますが、その時犯人の語る内容全体も重要なことなので、まあいいでしょう。おおよその真相は非常にわかりやすいですが、犯人の性格設定はさすがですし、最終章の意外なおまけもあり、全体的にはかなり楽しめました。 |
No.619 | 5点 | 肺魚楼の夜 谺健二 |
(2013/06/01 11:27登録) 谺健二を読むのは初めてですが、阪神淡路大震災が人々に残した心理的傷跡をテーマにしながらも、いかにも「本格」的な怪奇な謎を提示して見せる作家だそうで。本作も、完全にホラーな出来事が起こったという殺人未遂事件で幕を開けます。犯人逮捕直前シーンのホラーぶりはなかなかのものでした。それ以前の、探偵役の有希が肺魚の怪物に襲われる悪夢めいたシーンも含め、偶然だらけのご都合主義ですが、こんな現象を起こして見せるには、偶然に頼らないと無理です。 犯人の計画や行動の面から見れば、不満も多いでしょう。たとえば犯人による写真トリックは、有希が解説する方法では実際には不可能です(実現可能にする別法あり)。 事件解決後にあるサプライズは、読者にとっては事件最大の謎に対する解答にもなっていると思いますが、やはり心理的偶然の積み重ねが理由の説得力を減じている気がして、すっきり感動とまではいきませんでした。 |
No.618 | 6点 | 薄灰色に汚れた罪 ジョン・D・マクドナルド |
(2013/05/27 23:14登録) ジョン・Dのトラヴィス・マッギー・シリーズはハードボイルドに分類されることも多いようですが、本作を読んだ限りでは、いわゆる正統派だけでなくスピレイン等にもあったそれらしい香りはどうも感じられません。 殺された親友を経済的に追い詰めた連中をペテンにかけて痛い目に合わせるという筋立てですが、ひとつは完全に詐欺罪が成立する策略なので、だまされた悪役が泣き寝入りしたままとは限らないと思われるところが気になります。訳者あとがきなどで褒められているパスの最終的扱いも、スカッとする結末とは相容れない感じを与えていて、そういったミクスチャーな感覚がこの作家の特質なのかもしれませんが、気持ちよくきれいにまとめていないのも、日本では今一つ人気が出ない理由になっているのかもしれません。 それでも、個人的には同じマクドナルドでもフィリップよりは未訳作出版や絶版の再刊を望む作家です。 |
No.617 | 7点 | フランチャイズ事件 ジョセフィン・テイ |
(2013/05/24 23:53登録) ずいぶん前に1度読んだことのある作品ですが、内容はすっかり忘れていました。覚えていたのは、なんとなくよかったなという印象のみ。 事件そのものは誘拐暴行事件、それもその嫌疑をかけられた人間の無罪を証明しようと事務弁護士が奮闘するというだけの話ですから、地味にならざるを得ませんし、意外性のある真相が明かされるというわけでもありません。途中に、誘拐されたという娘の証言の一部に矛盾点があることが指摘されるところだけは謎解き的な興味がありますが、それもフェアプレイが守られているわけではありません。この作家のレギュラー、グラント警部も今回は敵役で、出番もごくわずか。それにもかかわらず、読んでいてやはり、「なんとなく」おもしろいのです。 古風な訳文表現はそれほどひどいとまでは思いませんでしたが、「調らべる」「難ずかしい」等の妙な送り仮名だけは、ちょっとねえ… |
No.616 | 7点 | 凍った太陽 高城高 |
(2013/05/19 09:05登録) 11の短編の後にエッセイを3編加えた構成になっています。このエッセイの1つ『われらの時代に』を読むと、高城高の考えるハードボイルドとは、ハメット以来のミステリと限らず、まずヘミングウェイであることがわかります。ロスマクに対する評価も、チャンドラーよりもヘミングウェイとの関係で語られています。 そんな作者ですから、ヘミングウェイが重要な意味を持つ作品もありますし、またミステリではない『火焔』、『廃坑』も収録されています。『ラ・クカラチャ』(スペイン語でゴキブリの意味だそうで)や『賭ける』も、最後にミステリ的なオチを用意してはいるものの、むしろそれ以外の要素が読みどころと言えるでしょう。『淋しい草原に』は作者の代表作の1つとされているそうですが、謎解き的な意味では本短編集の作品中でもむしろ平凡です。表題作は恐喝犯の設定に若干不自然さも感じますが、ラストの急展開にはなかなか驚かされました。 |
No.615 | 6点 | メグレの退職旅行 ジョルジュ・シムノン |
(2013/05/15 22:44登録) 『メグレ夫人の恋人』に続き『メグレの新捜査録』からの6編を収録した短編集です。その上巻とは逆に、かなり長い作品が4編あり、その前に短い2編が置かれています。 短い『月曜日の男』と『ピガール通り』は、たいしたことはないかな、といったところ。次の『バイユーの老婦人』はメグレものには珍しいハウダニットの佳作になっています。後の3編は本のタイトルにもあるメグレの退職がらみで、まず『ホテル”北極星”』は退職2日前の事件です。ホテルで起こった殺人事件で、司法警察に連行された若い女セリーヌがなかなか印象的。『マドモワゼル・ベルトとその恋人』は退職後田舎で暮らしているメグレに宛てられた手紙から始まります。なんとこの作品では、常連リュカ部長刑事が殉職したという設定になっています。最後が『メグレの退職旅行』で、英仏海峡に臨む港町で嵐の夜という、シムノンお得意の雰囲気がたっぷり楽しめる作品でした。 |
No.614 | 8点 | グリーン・サークル事件 エリック・アンブラー |
(2013/05/12 14:30登録) スパイ小説の巨匠の手になる1972年英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作ですが、翻訳が創元社から出たのはなぜか2008年になってからです。 スパイというより中東を舞台にした国際謀略小説という感じです。ある意味、主人公の同族企業社長がスパイ的な役割を担うことにはなるのですが。複数の登場人物の一人称形式を章ごとに組み合わせた形式をとっていて、全8章のうち4章がこの社長の視点です。 現在まで続くパレスチナ紛争を扱っているわけですが、パレスチナ過激派ゲリラが自社で密かに爆弾を作っていることに気づいた社長と過激派リーダーの心理的かけひきが興味の中心で、過激派がどんなテロ行為を目論んでいるのかを少しずつ明らかにしていく知的興味もじわじわとサスペンスを盛り上げていきます。決して派手な展開に持ち込まず、リアリティがあるからこその緊迫感に徹しているのは、さすがでした。 |
No.613 | 7点 | 石の下の記録 大下宇陀児 |
(2013/05/08 23:09登録) 昭和23~25年に雑誌に連載され、昭和26年の探偵作家クラブ賞を受賞した作品です。戦後の時代状況を捉えた風俗小説として評価が高く、木々髙太郎が絶賛したというのも納得できます。高木彬光『白昼の死角』のモデルにもなった光クラブ事件もいち早く取り入れられています。しかし今回久しぶりに読み直してみて、ただ当時の風俗というよりむしろ社会派の先駆的作品であるとの印象を強く持ちました。 謎解き的な興味から言えば、確かに弱いでしょう。トリックのための言い訳はやはり苦しく、誰でも怪しいと気づいてしまいます。またトリックと今書きましたが、実はそう呼べるほどのものでもありません。動機にもなった犯人のある誤解については、そのことが語られる場面での人物出入りを工夫すれば誤解に説得力が増したのに、とも思いました。そういった不満もありますが、全体的には楽しめました。 |
No.612 | 7点 | 探偵になりたい パーネル・ホール |
(2013/05/05 16:26登録) 民事専門弁護士の下で働いている気弱で平和主義者の私立探偵が主人公のお話第1作です。邦題では「なりたい」ですが、原題はシンプルにただ “Detective”。実際のところ、「わたし」ことスタンリー・ヘイスティングズは探偵になりたいわけではありません。むしろ「探偵」ってなんだろう、というところが、ある意味本作のテーマですから、やはり原題の方が意味が通ります。ここで言う探偵とは、ポアロみたいなのではなく、作中にも名前が出てくるサム・スペードやマイク・ハマーで、内容的にも実際ハードボイルドに近いところがあります。 この主人公のキャラクターがなんとも微笑ましいのが魅力で、1ページ目の初めての依頼人とのやり取りからして、すっとぼけていて笑わせてくれます。謎解きミステリ度はハメットやスピレインと比べるとずいぶん低いのですが、悪役をやっつける手立ては、なかなか工夫されています。 |
No.611 | 7点 | 海の秘密 F・W・クロフツ |
(2013/05/01 22:19登録) クロフツというとアリバイ崩しかと思われるかもしれませんが、それはこの作者から影響を受けた鮎川哲也の鬼貫警部シリーズがそうだからということからの思い込みにすぎないのではないでしょうか。意外に様々な事件のパターンを試みている作家だと思います。それでも変わらないのはフレンチ警部(とは限りませんが)の地道な捜査ぶりです。 本作では海中から発見された木箱に死体が入っていたということで、フレンチ警部は似た状況として、友人のバーンリー警部が扱った『樽』詰め死体事件のことを語っていますが、その後の展開は全く異なります。木箱がどこで海に捨てられたのかをフレンチ警部が検討していく初期捜査の段階からして、クロフツらしい緻密さですが、タイトルにもかかわらず、海に関係あるのはこの最初部分だけ。被害者の見当がついてからも二転三転する仮説を克明に検証していく構成は、充分楽しめました。 |
No.610 | 5点 | 空洞星雲 森村誠一 |
(2013/04/29 23:57登録) 長編3部作の第2作だそうで、第1作の『太陽黒点』は読んでいないのですが、本作の巻頭には、その前作と共通する登場人物の簡単な紹介が置かれています。ただし独立して読める作品にはなっています 角川文庫版の解説には、第1作が社会派でこの第2作はトリックを駆使した本格ものとしながらも、「単なる本格ものの推理作品という以上の文学的価値がある」と書かれていますが、実際のところ、本格ものとしては「単なる」と言いたい内容です。事件全体の流れの中に密室とアリバイがはめ込まれているのですが、そのはめ込み方がまず不満なのです。森村誠一は同じ偶然パターンを以前に少なくとも2度使っていますが、今回は特に不自然に思えます。また電話のアリバイ・トリックも同じことができるもっと単純な方法があるのです。暴走族リーダーの人物造形と活躍で、かろうじてこの点数といったところでしょうか。 |
No.609 | 7点 | メグレ夫人の恋人 ジョルジュ・シムノン |
(2013/04/23 23:24登録) 原書では『メグレの新捜査録』として出版された短編集の中から半分ぐらい選んで翻訳されたものです。なお、残り半分は『メグレの退職旅行』に収録されています。 全体としては、どちらも60ページ近くある表題作と『殺し屋スタン』の間に、短い作品7編をはさんだ構成になっています。読みごたえのあるのはやはり長い2編で、特に翻訳者長島良三氏のお気に入り『殺し屋スタン』は評判に違わずおもしろくできています。この2編もそうなのですが、メグレものの長編よりも結末の意外性に気を配った作品が多いというのが、妙なところかもしれません。徹底的な尾行サスペンスの『死刑』でも、容疑者の法律を盾にとった行動とその裏をかくメグレの策略が意外性を出しています。考えてみると、シムノンにはメグレものでないパズラー系の短編集がいくつもありますが、短編向きの謎解きアイディアが得意なのかもしれません。 |
No.608 | 7点 | 本番台本 ギャビン・ライアル |
(2013/04/15 22:35登録) 民間のパイロットが政治的な事件に巻き込まれるという点では、以前に読んだ『もっとも危険なゲーム』と同一ですが、プロットは本作の方がはるかに単純です。実在の中米各国の中に架空の国がひとつ出てくるるのですから、大筋がどうなるかは最初から明らかで、いかにも冒険・アクション小説といった感じです。アクション自体、主人公の設定にふさわしく飛行機利用がメインなのですが、そのシンプルな構造の中に、主人公が巻き込まれることになった原因とか、途中で起こる殺人事件の真相とかいった謎解き的要素も盛り込まれています。この殺人の動機はいくらなんでもという気がしますが、意外性は確かにあります。また、最終的な攻撃方法のアイディアもなかなかのもので、細かい点への工夫が感じられます。 タイトルどおり映画がらみであるところもおもしろいですし、二人の俳優もいいキャラクターを発揮しています。 |
No.607 | 6点 | 津和野殺人事件 内田康夫 |
(2013/04/02 23:43登録) 2時間ドラマ定番の内田康夫ですが、読んだのは今回が初めてです。特に食わず嫌いというわけでもなかったのですが(テレビ・ドラマは食わず嫌いと言えるかも)、作品数が多くてどの作品から手をつけたらいいか迷っていたということもあります。 さて、そんなわけで他の作品を全く知らないのですが、本作は横溝正史をも思わせるような中国地方の旧家をめぐる事件です。トラベル・ミステリーという言葉もこの作家に対してはよく使われますが、タイトルどおり津和野を主要舞台としているとは言え、「旅」の印象はあまりありません。地方色豊かな作品という感じで、それだったら金田一耕助の岡山ものもそうでしょう。 そして犯人の意外性もまた、横溝正史の某有名作を連想させるところがあります。ただし本作では偶然が多用されていますが。最初の殺人の動機が、なかなかうまく決まっていると思います。 |
No.606 | 8点 | 過去の傷口 スティーヴン・グリーンリーフ |
(2013/03/23 14:07登録) ハードボイルドに対しても謎解きを期待する人は、絶対に『偽りの契り』より前に本作を読んではいけません。完全に、前々作の衝撃的な(感動的なと言った方がいいでしょうか)結末のネタばらしをしているからです。しかもそのネタばらしが、最後になって胸にしみてくる構成になっているのです。 以前に読んだジョン・タナーのシリーズ作品は非常に渋めの感じだったのですが、今回のクライマックスはかなり派手になっています。いや、ただ銃撃戦などの表面的な派手さだけでなく、タナーの感情も大きく揺れ動き、ラスト・シーンにおける選択の苦痛は相当なものです。 タナーが感情的になるのも当然。最初に起こるのは、タナーの親友であり、シリーズ常連だった刑事チャーリー・スリートが裁判所の中で被告を突然射殺したという、衝撃的な事件なのですから。Who、Howの謎は一切なく、ただひたすらにWhyを追及する作品です。 |