贋作展覧会 |
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作家 | トーマ・ナルスジャック |
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出版日 | 1983年05月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2025/01/20 17:33登録) 大体が「名探偵」というものは、マンガチックなものなのだが、それをそう思わせないように作者が共感可能なキャラ設定などを盛り込むことで、なんとか維持できているというあたりが相場なのだろう。もちろん作者自身は自身の理想などをキャラに盛り込むからこそ、その「思い」によって名探偵にも生彩が出るわけだ。 しかし、他人によるパステーシュの場合には、作者本人の秘めた思いの部分は捨象されるから、外面的な特徴をなぞって描かれることになる。そうなるとどうしてもマンガ的な要素が目立つことにもなる。しかし、そんなパステーシュの「他人事」の特質を通じて、そのキャラの本質めいたものが開かれることも絶無ではないのだろう。 なんてことを書きたくなるのは、やはり「ルパンの発狂」とか、稲葉明雄による保篠辰緒風翻訳の味わいが「ルパンらしさ」をしっかり引き出しているとも感じられることにある。のちにボア&ナルで盛大に贋作ルパンをシリーズ化するわけだしね。ファイロ・ヴァンスのパステーシュ「雄牛殺人事件」が、ヴァンス物の独特の大仰さとゴシック的な怪奇スリラー色が出ている。確かにヴァンス物の一番いいところというのは、実はパズラーであること以上にホラーだったりすると評者は見てたりする...この2本は出色のパステーシュだと思う。 それと比較すると「警視の捜査における指揮ぶりが、これほど支離滅裂なのははじめてだ。気管支炎が悪化しているのだろう」と書いてしまうメグレ物は「語るに落ちている」といったところがシラけるし、ウルフ物はそもそもマンガ的なネロ・ウルフというキャラを小説的にちゃんと成立させているスタウトの冷徹な剛腕といったものが、逆に目立つことにもなる。 いや、いろいろな意味で面白いことは確か。日本人がやるパステーシュだと、どうしても「名探偵って英米基準なキャラなんだよね」と白日に晒すかのような卑屈さが出てしまい情けなくも感じるのだが、フランス人によるパステーシュだと確かにノスタルジーといった色合いも出るんだろうなあ。 |
No.2 | 6点 | kanamori | |
(2013/09/02 18:39登録) ナルスジャックがピエール・ボアローとコンビを組む前に発表した贋作作品集から7編をセレクトしたパスティーシュ短編集。 収録作品は、アルセーヌ・ルパン、ファイロ・ヴァンス、エラリー・クイーン、メグレ警視、ネロ・ウルフなどの名探偵ものが中心になっていて、いずれの作品も文体の雰囲気のみならず、キャラクター造形や物語展開もいかにもな内容で、模倣のテクニックはお見事です。(フランス語の原書での模倣の出来は判断がつきませんが、翻訳者の功績は評価できます) なかでも、稲葉明雄が担当した「ルパンの発狂」は、堀口大學が翻訳したかのような古めかしい文体が凝っている上に、プロット自体も本物と遜色のない面白さで個人的に最も気に入っています。 本書収録作品以外にも、ホームズ、ブラウン神父、ポアロ、ピーター卿、チャーリー・チャンなどのパスティーシュもあるようなので、どこか第2弾を出してくれないものか。 |
No.1 | 6点 | 空 | |
(2013/08/07 22:42登録) これはなかなか楽しいパスティーシュ短編集です。原著者を茶化したパロディではなく、7編どれもプロットや文体をいかにも本物らしくまじめに(?)真似てあります。ただ、後に相棒になるボアローの単独作は読んだことがないので、どの程度そっくりなのかわかりませんが。 最初に収められたルブラン編『ルパンの発狂』は話自体もいかにもといった感じでおもしろいですが、戦前の文体を模倣した翻訳者稲葉明雄のノリにも拍手。ヴァン・ダイン編『雄牛殺人事件』は、今回久しぶりに再読してみると、語り手の台詞や内面描写がかなりありましたが、これは原作者にならって極力控えめにしてもらいたかったですね。スタウト編『赤い蘭』は、文章やウルフの性格などが非常に個性的なだけに真似しやすいとも言えるのかなとも思えました。 本書収録作の他にも、ミステリマガジンに掲載されたっきりの贋作がかなりあるので、また本にまとめてもらいたいですね。 |