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ミステリの祭典

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沼地の記憶

作家 トマス・H・クック
出版日2010年04月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 6点 レッドキング
(2023/03/13 20:56登録)
南部の朽ち果てた屋敷に一人暮らす名家の孤独な老人。半世紀前の、若き高校教師として「悪について」をテーマにしたゼミでの追想記述に、謎の裁判描写をカット挿入しながら、「何起きたの?」で読者を釣り、師と弟子・父と子・米国階級・スクールカーストロマン・血の宿命・「様々なる悪」・・のドラマが綴られて行く。
カズオ・イシグロがSF的に描いた英国同様に、自由でありながら、どうしようもなく非平等な階級社会米国を生きる若者たちの宿命の切なさが胸を打つ。※ミステリとしては3点、ブンガクとしては8点。で、間とってオマケ付けて。

No.4 6点 YMY
(2022/01/17 22:45登録)
苛めを受けていたひとりの目立たない教え子の中に、才能の片鱗を見出した高校教師の物語。少年の力を引き出そうと殺人事件の調査を手伝わせるが、彼の思惑は思わぬ形で裏切られていく。幕切れ間近の鮮やかな反転は、読者をまたもや悲痛な思いへと突き落とす。

No.3 5点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2021/08/06 16:35登録)
過去と現在を曖昧にするような描写が顕著。回想から現実にさりげなくて滑り込ませている。かなり読みづらい。
モザイクのように描いて、情報を小出しにして、最後に一つの絵を見せるという手法は美しいし、本格の手法ではあるのだが…

No.2 6点 猫サーカス
(2018/01/08 15:07登録)
語り手ジャックは、教師時代に起きたある事件を回想する形で、物語は進んでいく。やがて、なぜ過去を振り返るジャックの口調に悔恨と悲しみが滲んでいるのかを、知ることになる。この作品にも、クックお得意の父と息子の葛藤のモチーフが登場する。さらに、人間の善意と傲慢さについても深く考えさせられた。教え子エディに対するジャックの親身な指導は、どこから道をそれていったのか。あるいは、事件はただの不運だったのか。登場人物全員の思うようにならない人生が重く胸を打つ。

No.1 6点
(2013/09/22 20:27登録)
評判のいいクックですが、これまで縁がなく本作が初めてです。
この作者にはよく文学的という言葉が使われるようですが、どうなんでしょうかね。確かに緻密な文章で描かれた世界は読みごたえがありますし、悲劇的なテーマもわかります。しかし個人的には少なくとも本作については、あざといというか、思わせぶり過ぎると思えるのです。元教師の若い時代の苦い思い出が一人称で語られますが、途中に裁判のシーンを少しずつ意味ありげに入れたりして、読者の気を引くようにしています。そのような技巧派ぶりが、結局何が起こったのかという部分、哀しみの結末を最も鮮明に表現する文学的手法であったとは思えないのです。むしろ、プロローグで主人公の老年を描いた後は普通に過去の出来事を時系列順に語っていった方が、深い感動を与えてくれるのではないかという気がしました。
ラスト・シーンで遠ざかっていく人物は意外でしたが。

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