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ミステリの祭典

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メグレとひとりぼっちの男
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1978年06月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 クリスティ再読
(2024/03/11 12:26登録)
メグレ物というと、戦前の作品から「もうすぐ停年」と言い続けて最終的には1972年まで勤め上げたことになる。戦中戦後のメグレ物には引退後のメグレを描いた作品もいくつかあるが、要するに「サザエさん時空」に突入してしまい、メグレ周辺の人間関係はずっとそのままで、世相風俗だけ時代に沿って動いていくことになる。本作は1971年作品で晩期の作品になるが、珍しくも事件が起きた年が1965年と明言されている。そして、メグレが戦後すぐに地方に左遷されていて、パリで起きていた事件について知識がないことが、話のキーになっている。

過去の事件と、その事件の影響で人生を捨ててルンペンになった男の話。徹底的に人間関係を捨てて、誰ともロクな会話をせずに、あばら家に一人住む男が殺された。この男の過去をメグレが追っていく。そういう大枠だから、やはり年代を明記する必要もあるわけだ。そして、訳者の野中雁氏があとがきで「メグレも老いた」と書くように、「サザエさん時空」であってもメグレの人格には、相応にシムノンの老いも反映していく。そういう意味で「枯れた」作品には違いない。

逆に言えば、プロット的にはややアラが目立つのも否定できない。いうほどにこのルンペンの人格と過去の事件が深堀りされるわけではないし、過去の事件とはいえ20年前で、メグレと同世代の刑事なら何となく過去の事件に気がついた可能性も高くて、やや捜査が雑、という印象もある(バカンス中の事件という設定はその言い訳?)。そして密告がきっかけで局面が簡単に打開するのは、ご都合が見えて芳しくはないなあ。

全体的に「粘り」みたいなものが失せてきているようにも感じる。我が身に引き換えても、これが「老い」というものか。

No.1 6点
(2013/07/22 22:17登録)
ぼろぼろの空家で暮らしていた殺された浮浪者は、なぜか髪や爪をきれいに手入れしていた。このなかなか魅力的な謎は、しかしすぐにあっさりと解き明かされてしまいます。当時のパリではそんなこともあったのかと、妙なところにびっくりしました。二人の匿名女から似たような問い合わせの電話がかかってくるという展開も興味をそそられます。
終盤になって明らかになる、被害者がメグレも驚くほど徹底して「ひとりぼっち」になった理由、被害者と犯人との関係、その犯人が最後にメグレの部屋で電話をかける場面など、ミステリ的というより文学的なと言いたいような意外性もあり、全体的にはかなり感心させられました。
ただし犯人を突き止める直接的なきっかけが安易な点は不満でした。そんなきっかけがなくても、メグレが一度犯人と会った後に行う調査をしてみたらどうかと思いつけば、それで解決できたはずだからです。

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