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ミステリの祭典

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維納の殺人容疑者

作家 佐藤春夫
出版日2005年12月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 SU
(2025/10/12 19:12登録)
一九二八年七月、ウィーンの郊外で女性の射殺死体が発見された。遺体は固形アルコールで焼かれており、身元の特定まで一年以上要することになる。やがて被害者がカタリナ・フェルナーという婦人であることが判明、不仲だった夫のアンドレアス・フェルナーが逮捕されるが、彼にはアリバイがあった。アンドレアスの供述から、カタリナと不倫関係にあったグスタフ・バウアーが浮上し、彼についての裁判が始まった。
検事と弁護士の火花を散らす駆け引きを中心に審理は圧倒的なサスペンスを伴って進行していく。ほとんど全編が法廷シーンで構成されており、法廷ミステリの先駆的作品と言える。次々と登場する証人たちのあやふやな証言、人種問題に関係してくる陪審員の構成、頑固に否認を続けるバウアーの特異なキャラクター。こうした要素が渾然となって事実を淡々と並べているだけの構成にもかかわらず、異様なスリルが生まれている。

No.1 7点
(2013/08/24 21:35登録)
佐藤春夫と言えば純文学系の小説家、また詩人として有名な人ですが、『田園の憂鬱』も長年積読状態だったのを最近やっと読んだだけで、ミステリも書いていることは本サイトに作家登録されているのを見て初めて知ったのでした。
1933年に出版された時は「佐藤春夫 纂述」とされていたそうで、珍しい言葉ですが、編纂の「纂」ですから、要するに編纂的な作品だということになります。1928年にウィーンで起こった殺人事件の裁判記録・記事を組み合わせて構成し、当時の新聞記事写真や証人スケッチなども入れているという、裁判ドキュメンタリーです。したがって、鮮やかな収束感なんてものはありません。しかしこれがおもしろいのです。文章表現も結局作者自身のものでしょう、古めかしいところがまた味があるのです。
「拳銃」(レヴォルヴァー)と「掌銃」(オートマチック)についての勘違いだけは気になりましたが。

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