| 空さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.12点 | 書評数:1536件 |
| No.836 | 7点 | シュガータウン ローレン・D・エスルマン |
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(2015/11/25 22:25登録) 1985年のシェイマス賞を受賞した作品です。 以前に読んだコメディ・タッチの『私立探偵』とは全然違い、この私立探偵エイモス・ウォーカーが活躍するシリーズは正統派ハードボイルドらしさにこだわっているようです。ウォーカーは、2日分の報酬をとりあえず受け取ったものの、調査が1日で終わったため、半額+必要経費を差し引いた金額を依頼人に返却する真面目ぶり。無関係に見える2つの事件の絡ませ方には、なかなか感心させられましたし、さらに意外な殺人犯も用意してあるという、謎解きにも趣向を凝らした作品になっていました。ただ、最後が駆け足になってしまった感じなのが、多少不満と言えるでしょうか。 舞台となるデトロイトの雰囲気もじっくり描かれていますが、長い文が多く、関係代名詞を使った英語の語順ではすんなり読めるのではないかとも思うのですが、この翻訳は意味が取りづらいです。 |
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| No.835 | 6点 | オランダ水牛の謎 松尾由美 |
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(2015/11/22 23:14登録) 「安楽椅子探偵」アーチ―というアイディアは、やはり意味の曲解だけから思いつかれたのでしょうか。探偵役設定だけなら気楽なファンタジーで、したがってこの設定には当然必要なワトソン役も子どもにして、雰囲気を統一したということでしょう。 そのシリーズ2冊目は、「国名シリーズ」になっていて、5編が収められていますが、本家と違い、推理の厳密さにこだわったとかいうことは全くなさそうです。特に表題作は推理合戦までやっていますが、どれも単なる想像に過ぎず、それらの想像とは全く異なる真相は、関係者本人の口から語られます。また『アメリカ珈琲の謎』は、作者があとがきで「ハードボイルド風にしようと思った」と書いている、やくざがらみの失踪事件で、他の日常の謎系作品とは趣が異なります。アーチーも探偵ではなく、衛の相談役として登場するだけ。一方『イギリス雨傘の謎』は、ひねり過ぎと思えるくらいでした。 |
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| No.834 | 6点 | 鍵のない家 E・D・ビガーズ |
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(2015/11/16 22:50登録) おっさんと同じく、ずいぶん前に「別冊宝石」の小山内徹訳で読んで以来の、新訳による再読です。かなり印象的なトリックでさえ思い出せないままに読み始めたのですが、早い段階で、確かこんな手を使っていたはずだとあいまいな記憶が甦ってきて、そこから犯人が誰かも必然的にわかってしまったのでした。それでも次々に容疑者が浮かんできては、犯人でなさそうだ(無罪が証明されるのではなく)ということになっていく展開は、読んでいる間は退屈しません。 チャーリー・チャンたちハワイ警察の捜査を手助けしようとするボストン育ちの青年の視点で、話は進んでいきます。人物描写や語りのテンポは、さすがに古めかしい感じですが、ラスト・シーンでは苦笑してしまうほどのロマンスや冒険小説的な味付け、さらに青年も最後には真相に気づく展開など、ほとんど後年のカーを思わせるところもあり、楽しめました。 |
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| No.833 | 5点 | タフガイなんて柄じゃない ジョン・ラッツ |
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(2015/11/13 23:38登録) すでに10冊以上書かれているものの、邦訳はたぶん3冊だけのアロー・ナジャー・シリーズの第1作です。邦題は、ハードボイルド史上おそらく最も臆病な探偵であるナジャーにちなんで勝手に付けられたもので、原題は全く異なり、"Buyer Beware"。これについては、巻頭に「何をつかまされるかわからないから買い手は御用心」というラテン語が引用されています。また、作中にも「“買手は損しないように気をつけろ”という格言は、時代遅れだ」(p.63)という記述があります。この言葉と事件解決後のラストを考え合わせると、なるほどという感じです。 事件そのものは、ナジャーが得意としている親権のある親から依頼されての子どもの「合法的誘拐」のはずが、殺人事件に発展していく、いかにも私立探偵小説的な展開で、最後はかなり大がかりな捕り物になります。しかし。最初の依頼の件は、結局どうなるんだろうと、ちょっと疑問も感じました。 |
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| No.832 | 6点 | 第四の闇 香納諒一 |
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(2015/11/10 23:15登録) 香納諒一は『心に雹の降りしきる』しか読んでいませんし、『幻の女』も似たタイプらしいので、本作もハードボイルドだろうと思っていたのですが…それらしい暴力シーンで幕を開けるものの、その後はサイコ・サスペンスっぽい展開で、驚かされました。何しろ、第1章タイトルどおり胴のない死体が発見され、さらに同じような殺人が以前に2件起こっていることがわかる、というのです。 胴のない理由は、『刺青殺人事件』的なアイディアとは全く違いますが、それなりに感心しました。また、事件の本筋とは無関係なある登場人物の異常な行動が明かされた時には唖然としてしまいました。その直後の派手な殺人アクション・シーンまでは、かなりおもしろく読めたのですが。 「私」と行動を共にするジローの最終的な扱いには、そんな必要があったのか少々疑問でしたし、ラスト・シーンはさすがに言い訳に過ぎないんじゃないかと思ってしまいました。 |
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| No.831 | 6点 | タロットは死の匂い マーシャ・マラー |
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(2015/11/04 22:25登録) ビル・プロンジーニ夫人で、夫婦合作もあるこの作者の名前(Muller)は、マラーともミュラーとも表記されますが、どっちが正しいんでしょう。Wikipediaを参照してもミュラーらしいとは思われるのですが、明確には書かれていません。 そんな作者のこの第2作が出版されたのは、第1作の5年後の1982年です。女私立探偵が活躍する小説は、80年台にならないと評価されなかったということなのかどうか、ともかく、シャロン・マコーン・シリーズは本作の後はコンスタントに発表されていきます。シャロンはチョコレート好きなのはともかく、鳥恐怖症というのは妙な設定だなあと思ったのですが、本作でも烏におびえて殺人をくいとめられないというシーンがありました。 誰が殺人犯人でもかまわないように思えてくる事件なのは、少々不満とも言えますが、最後はハードボイルドらしい手堅いまとめ方をしてくれていました。 |
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| No.830 | 6点 | 闇からの声 イーデン・フィルポッツ |
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(2015/11/01 12:48登録) 再読ですが、そんなに凡作でも複雑すぎるわけでもないのに、ほとんど記憶に残っていませんでした。 冒頭の闇からの声については、探偵役のリングローズが、第4章で幽霊について詳細に分析しているので、予測は簡単につくでしょう。作者も、読者に悟らせるためにあえて丁寧に説明しているのではないかと思えます。 全体の1/3ぐらいまでは、子ども殺害の実行犯を追いつめる話ですが、リングローズの採った手段は、冒頭の幽霊の声を継承するホラーっぽいものです。しかしいくら醜悪な悪魔の首でも、雰囲気のない最初の2回の状況では、うまくいくとは思えません。 その後は黒幕の男爵をいかにして逮捕にまでこぎつけるかで、舞台となるスイス、イタリアの国境あたりの風景描写はさすがです。ほぼリングローズの視点で語られる中に、時たま男爵の視点を入れているのは、当然こうなるだろうなと納得しながらの読書でした。 |
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| No.829 | 5点 | 天の前庭 ほしおさなえ |
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(2015/10/26 21:53登録) 半分ぐらい読んだところで、これはカーの有名作のSF版的なものを狙っているのかなと思いました。 ただし、カーが最後の数ページで愕然とさせてくれるのに対し、こっちはクライマックス突入部分あたりで狙いが明らかに見えてしまいます。それでもかまわないとは思うのですが、どう解釈しても辻褄が合わなくなってしまっているのは問題です。タイムスリップをミステリ的に使った小説は、矛盾をいかに解消するかがポイントのはずですが、結局何が何だかわかりません。そのタイムスリップが作中で初めて言及される部分は、人物認識の問題として、クリスティーの某オリエント舞台作品以上にあり得ないでしょう。最後の爆発事件も、どういう経緯で起こったのか全く説明されていませんし、論理的な詰めが甘すぎると言わざるを得ません。 それでも全体の雰囲気、文章の感じはかなり好きなので、この点数にしました。 |
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| No.828 | 7点 | フェアウェルの殺人 ハメット短編全集1 ダシール・ハメット |
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(2015/10/23 21:47登録) 表題作、『黒づくめの女』、『うろつくシャム人』、『放火罪および…』『夜の銃声』と、謎解き要素がしっかりできている作品が多いのは、ハメットなら当然でしょうね。特に『デイン家の呪い』なんてプロットだけ見れば現代の新本格派に近いような作品まで書いている人です。 『新任保安官』は、最初に登場人物が一気に紹介され過ぎて頭の整理がつかなくなるのはともかく、なかなか楽しい西部劇ハードボイルドでした。本作でも最初の殺人の手がかりは明快。『赤い収穫』の原型と言っても、主人公の戦術が同じというだけで、ストーリーは違います。ただし、30ページちょっと読んだところで、これはこの巻には入れてもらいたくなかったかなと思った作品でした。 最も長い『王様稼業』には、ハメットってこんなバルカン半島の架空の小国を舞台にした冒険小説までコンチネンタル・オプを主役にして書いているのかとびっくりさせられました。 |
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| No.827 | 6点 | 人形とキャレラ エド・マクベイン |
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(2015/10/20 00:01登録) 87分署シリーズなのでモジュラー型かと思いきや、今回はマンションで起こったファッション・モデルの殺害事件1本のみで押し通してくれます。 原題はただ “Doll” といたってシンプルで、さらに邦題でも使われているので、何らかの意味があることは間違いないと当然推察できるのですが、最後にいたって納得できるようになっています。ただしフェアプレイというわけではありませんし、あまりにご都合主義という気もしますが。 それにしても、意表外な展開を引き起こすことになるキャレラ刑事の行動は、いくら何でもあまりに無茶と思えました。重要な証拠品を、ほとんど放り出したままにして、何をやらかすんだか。その証拠品が無事だったのも奇跡的とさえ言えます。また被害者の宣伝用写真を4枚も挿入していながら、それに意味がないなど、いろいろ不満もありますが、全体的にはかなり楽しめました。 |
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| No.826 | 5点 | 海の碑 斎藤栄 |
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(2015/10/14 22:13登録) 随分前に読んだ時、かなりおもしろいと思った作品です。講談社文庫版解説で、権田萬治氏も、「この系列の氏の作品の中では…最も優れたものの一つ」と書いていますが、確かに再読してみると、2/3ぐらいまでは謎の提出の仕方、公害問題との絡め方など、なかなか感心させられる構成になっていることを確認できました。しかしその後にある「誘拐」の章はどう見ても不要に思われます。犯人側からしても全く無意味で、かえって馬脚をあらわす危険性があるだけです。また犯人側がどうやってその人物の行動を知ったのか、誘拐手順をどう計画したのかも疑問です。 環境破壊テーマの追及も、社会派作家に比べると最終的には今ひとつ手ぬるい感じでしたし、中心となるアリバイ・トリックの中で死体移動の方法が(十分可能ではあるとは言え)明確に示されていないので、誘拐部分は切り捨て、そのあたりを書き込んでもらいたかった作品でした。 |
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| No.825 | 6点 | 死角 ビル・プロンジーニ |
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(2015/10/11 11:55登録) 原題は”Labyrinth”ですが、プロンジーニにはこの言葉の直訳である「迷路」と邦題を付けた別作品(そちらの原題は”Scattershot”)もあるというのが、ややこしい話です。本作では「まるで迷宮の中にさまよいこんだようなものだった」というように、事件をラビリンスに例えています。 名無しのオプは、このシリーズ第6作(合作含む)では、すでに禁煙してかなりになるようです。一方のパルプ・マガジン・コレクションはさらに注文して、総額は1980年当時の値段で3万ドル以上の価値があるとか。本作では探偵事務所が徹底的に荒らされたため、自宅にあるコレクションが心配になり、隣人に時々自宅をチェックしてもらえるよう、依頼しているのですが、これが結末部分にうまく結びついています。その他にも名前に関する手がかりなど、謎解きの伏線が非常にきっちりできていて、一方ハードボイルドらしいアクションも充分にあり、楽しめました。 |
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| No.824 | 5点 | 兇悪の浜 ロス・マクドナルド |
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(2015/10/05 21:41登録) ロス・マクの中でも、発表当時から一般的にあまり評判のよくなかった作品のようです。 確かに、『運命』以後の作品だけでなく、以前の『人の死に行く道』等と比べてみても、全体的な構成にこの作家らしさがあまり感じられないとは言えるでしょう。基本的には明快な犯罪計画に、悪党たちが余計な手を加えることによって事件をわけのわからないものにしているという構成になっています。その悪党たちの行動がリュウ・アーチャーの捜査と交錯することによって、アクションはいつもより豊富になります。発砲となると1発だけですが。 かなり以前に読んだ時には、かなりおもしろく感じたのですが、ロス・マクをまだあまり読んでいなくて、期待するものが固まっていなかったからかもしれません。再読でもかなり派手な展開は悪くないと思いましたが、この作者にしては論理的整合性に疑問があるのに気づきました。 |
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| No.823 | 4点 | 金糸雀が啼く夜 高里椎奈 |
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(2015/10/02 21:42登録) 薬屋探偵妖綺談シリーズ第4作。この作家は初めて読んだのですが、本作に関する限り、予想とは違うタイプでした。深山木 秋、座木(くらき)、リベザルの3人が妖怪だか妖精だかではあるにしても、謎解きミステリの構造だと思っていたのです。しかし今回中心となる事件は、リベザルと座木が由緒あるサファイアを盗み出す計画に加担することになるといいうものです。つまり犯罪小説なわけで、さらにその後に、サファイアにまつわる何十年も前の出来事が語られます。 その中心物語はまあよかったのですが、途中に強引に挿入したシャンデリア墜落による3人の人間の死亡というやたらに派手な事件が、入手した手がかりを示していないという意味でフェアでもなく、たいした真相でもなく、減点対象でしかありません。 なお、ラノベらしいキャラは、「はにゃ?」とか「ほえー」とか言う御(おき)葉山刑事がほとんど一人で引き受けている感じでした。 |
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| No.822 | 5点 | 誘拐 ロバート・B・パーカー |
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(2015/09/28 22:23登録) このパーカーの第2作の原題は “God Save The Child” であり、「誘拐」にあたる言葉は使われていません。実際のところ、同じ邦題のプロンジーニや高木彬光作品と比べると、「誘拐」ものらしさに欠けるところがあります。まずスペンサーが依頼を受けるのは、失踪した息子の捜索です。で、いくらか情報を得て2回目に依頼人を訪問すると、脅迫状が届いているのですが、その脅迫状の奇妙さについては、スペンサーや警察もその場で議論しているのです。この時点で、誰でもある仮説を思いつくでしょう。さらに事件は変な方向に捩れていき、中盤では予想外の人物が殺されますが、その殺人も妙にあっさりした扱いです。 結局、作者が描きたかったのはある崩壊しかけた家庭の再構築の物語だったのだなと、誘拐事件解決シーンでは納得できるようになっています。その後の別犯罪の真相解明は、どうでもいいかなという気もしますが。 |
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| No.821 | 8点 | 天を映す早瀬 S・J・ローザン |
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(2015/09/23 21:47登録) 2002年度のシェイマス賞を受賞したこのシーラ・ジュディス・ローザンによるリディア・チンとビル・スミスのコンビ探偵シリーズ第7作の舞台は香港です。今回リディア(中国名のリン・ワンジュがよく使われます)の一人称形式なのは、順番だけでなく舞台からしても当然といったところでしょうか。原題は “Reflecting The Sky”、最初の方で、占い師の「早瀬は天を映さない」という言葉が出てきます。 この作家を読むのは初めてなのですが、これは気に入りました。1ページ目から、二人のかけ合いには微笑を誘われます。事件そのものも、誘拐に対する別の人間からの全く異なる身代金請求という、なかなか魅力的な謎をはらんでいます。 リディア視点の作品だからでしょうか、さほどハードボイルドな感じはしませんが、私立探偵免許が無意味な外国での話であっても、私立探偵小説というジャンルならばあてはまります。 |
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| No.820 | 4点 | 山峡の章 松本清張 |
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(2015/09/20 23:05登録) 『主婦の友』に連載された作品で、内容的にもそれらしい感じがします。全編通して官僚と結婚した女性の視点から描かれ、前半は少しずつ怪しげな事件が起こっていくだけの緩やかなサスペンス系の味わいです。中心事件の発端である2人の人物の失踪が起こるのが1/3を過ぎてからで、さらにその死体発見となると、1/2を過ぎてからです。その後やっと真相解明の調査が始まります。 強引な引っ越しの理由など多少整合性に欠けるところはあるものの、全体的なバランスは悪くないと思います。しかし社会派ミステリとしては、事件の裏は一方で状況が特殊すぎていながら、発想的には平凡であるという、どうにも冴えないもので、官僚機構の暗部に対する追及も手ぬるい感じがしました。 なお雑誌連載時のタイトルは『氷の灯火』という、意味のわからないものでしたが、現在のタイトルは内容に直結しています。 |
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| No.819 | 7点 | パンドラの匣 トマス・チャステイン |
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(2015/09/13 12:02登録) 訳者あとがきによれば、この作家についてディクスン・カーが「ストーリーの語り口にかけては達人、人物の特徴描写にかけては抜群」と言ったそうですが、このカウフマン警視シリーズ第1作を読んでみると、確かにカーが気に入りそうな作品です。 一応警察小説に分類はしましたし、実際カウフマン警視が署長を務める16分署を中心とした警察の活躍が描かれているのですが、一方で犯罪者(窃盗犯)グループ側からの部分もあり、ストーリーは銭形警部対ルパンⅢ世的とも思えるほどはったりのきいたアイディア溢れる展開でした。何しろ盗みの対象は、メトロポリタン美術館所蔵のレンブラント、ピカソなど古今の名画5点で、大胆な計画を見せてくれます。 カウフマン警視の私生活がしつこく説明されているのは、第1作だからだとしても、さすがにくどすぎると思いましたし、結末がちょっと後味の悪いのは、どんなものかなあという気もしましたが。 |
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| No.818 | 4点 | グレイシー・アレン殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
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(2015/09/10 22:35登録) 映画化されたミステリはずいぶんありますが、実在の女優の名前を、その女優の出演を念頭においてタイトルに入れた小説なんて、めったにないでしょう。前作までだけでなく、次作『ウィンター殺人事件』でも踏襲している6文字単語のタイトル・パターンを唯一崩しているのが、作者自身の本作に対する態度を示しているようにも思えます。「[登場人物名]殺人事件」で、その登場人物が犯人でも被害者でもないのもまた、珍しいでしょう。 悪党の脱獄に始まる第1章でのヴァンスのセリフには、お前はマイク・ハマーかと言いたくなります。謎解き的には、ある勘違いが真相の意外性を支えていますが、その勘違いが起こる顛末は冗談みたいなものです。その真相も含め軽いタッチは、本サイトでジャンルをコージーにしている人がいるのも、なるほどと思える内容でした。ヴァン・ダインって、なんとコージー最初期の作家でもあったんですね。 |
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| No.817 | 6点 | ありふれた死因 芦川澄子 |
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(2015/09/07 21:49登録) 鮎川哲也夫人のミステリ集大成で、2~3ページほどのショートショート4編を含め、全17編の小説に、エッセイなども収録しています。 17編中『女に強くなる法』と『廃墟の死体』は問題編と回答編に分かれていますが、パズル性が変に強調されて不自然さが目立ち、好きになれません。真相もやたら複雑化しているだけという感じです。もう1編謎解き要素充分な『目は口ほどに』は、小説としてきれいにまとまっていました。 昭和34年の週刊朝日・宝石共催の探偵小説懸賞で一位になった最初の『愛と死を見つめて』は一人称形式でOLの疑心暗鬼が描かれて、確かによくできています。ただ巻末の資料集で、作者が結末に明快な答を出しているのは、むしろお好きに解釈してくださいと言った方がいいとも思えます。『マリ子の秘密』『村一番の女房』『ありふれた死因』等、アイディアはどうということもないのですが、さりげないタッチが味わいを出していました。 |
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